夢想

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 思えば遠くに来たものだ。7つの海を渡ってきた行き着いた先が、ここなのは、皮肉なことだ。ここでは、巨大なロボットが、人間の命を日々狙っている。住んでいる人間たちは、皆怯えている。戦力差は、圧倒的だ。この謎のロボットに人間たちは、為す術がない。昨日も、夫婦が連れ去られた。人々によると、連れ去られたが最後、二度と帰ってくることはないという。だから、皆は、ロボットに捕まった人については葬式をする。取り返すつもりなどないらしい。昔、多くの戦士たちが、ロボットと戦っていた時代もあったという。けれども、彼らは、滅びて何もできない人々が残った。彼らは、何故逃げないのか?そう思ったが、彼らは、彼らなりに、大きな信仰があって、宗教的情熱と土地が結びついているものだから、日々、祈りながら、今もここで生きている。最初、よそ者には、なじまない土地だと思った。すぐに通り過ぎるはずだった。ただ、ロボットは、決して私を攻撃してこない。このことに気づいた人々は、私を救世主として、長く土地にとどまってくれと頼んできた。人助けならば、と引き受けて一ヶ月が過ぎた。私は、もっぱら宗教指導者の住んでいる地域に住まわされて、一般人に私の持つ力の恩恵は行き渡らない。私は、24時間365日、ここに軟禁されているようだ。人の顔を模写したような文字が、部屋の隅々まで、描いてある。天井はなくて、巨大な月が見えている。今、ロボットの大群が、人々を連れ去りに来た、と仲良くなった地元の人間から聞いた。それでも、私は、この宮殿にいなければならない。そうしていれば、安心なのだ。そうしていれば、食事に困ることもない。だが、今回は、かってが違った。角のようなものを生やした赤いロボットが、ひょいと事も無げに、つまみ上げて、私の体は狭い暗闇に入れられた。そして、しばらく時間が経ったろうか。いよいよ私の命も終わりだな。私の覚悟とは、裏腹に、なかなか私は、死なない。しばらくして、振動が止まると、私は、ロボットの中から放り出された。そこは、黄金でできた部屋だった。とてつもなく広い。椅子が一つだけポツンとあり、巨大な石像が置いてある。ロボットは、もう動かない。「イキテイルカ」石像から声が聞こえてくる。何度も、何度も同じ言葉を発する石像。「生きているぞ」答えると、石像の目がギョロリと動いた。私を見つめる。石像の目は不思議と哀しみを含んでいる。「私を殺さないのか?」私が尋ねると、石像はぎこちない笑みを出す。「ココハキケンダ」石像は、今度は、この言葉を繰り返す。「私を元の場所に戻してくれ」石像は沈黙して、椅子から立ち上がる。立つと5mはある。石像は、歩いて私の目の前まで来た。石像の目が光った。次の瞬間、私は、生まれ故郷にいた。何もかも嫌いで、何もかも捨ててきた故郷だ。石像も、もうどこにもいない。「そうか。ここは……」私の夢は終わったのだ。ポケットには、子供の頃にもらった小さな像が入っている。「おはよう」父が言う。「おはよう。ずっと夢を見ていたよ」私は言った。「ずいぶん深く眠っていたようだね。朝ごはんだよ」「ありがとう。でも、何だか、欲しくないよ」父は心配そうな顔をする。「どこか具合でも悪いのか?」「時差ボケさ」答えると、私は再び、羽毛布団をかぶり、旅に出発した。

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物語作家七夕ハル。 略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。 受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。 初代新世界文章協会会長。 世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。 twitter:tanabataharu4 ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」 URL:http://tanabataharu.net/wp/

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  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-23

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