ENDLESS MYTH第3話ープロローグ4

プロローグ4

 星々が消えゆく様を彼ら“8人"はいったいどれだけの数、見たことだろうか?
 緑豊かな惑星が瞬間的に蒸発する瞬間、100兆もの人口を保持する恒星系が超新星爆発に巻き込まれて、粉々になる瞬間、無数の星系をまたいだ星間国家が争いの最終段階で最終兵器を使用して消滅する瞬間。
 幾億、幾兆もの瞬間を、世界が滅びる刹那を、宇宙が際を迎える時を見届けてきた。
 しかしまた今、1つの宇宙が消滅しようとしていた。自然現象ではない。この世界の、次元の禍々しい者がその力で勝利をキバの加えるところとしたからであった。
「いったい僕たちは何度、消滅と敗北を目の当たりにしなければならない。なあ、聴いているんだろ【オルト】」
 黒いエナメル質の裾の長い衣服をたなびかせ、ザトムが周囲を見回した。
 彼を含めた"8人"は彼らがその定めを全うするまで許されることのない死から免れるべく、物理遮蔽壁の球体の中に身を置いていた。
 元医師のザトムは何度となく周囲を見回すが、【オルト】の返答は返ってくることはない。
「我々の目的はあくまでも傍観なのですから、仕方がないでしょう。今更、何をいいだすのですか?」
 小さい、まるで体毛のない猫の如き生命体は、小柄の専用円盤に腰掛け、浮遊しながらザトムを見つめる。
 アフタイは元は建築家であり投資家としての手腕も発揮していただけに、物事を客観的、合理的に見るのが得意なせいか、ザトムの発言を少し、冷ややかな独特の猫のような眼で見据えたのだった。
 元医師のザトムもまた人間とはほど遠い。人型であるのは間違いのない事実だが、鼻はつぶれたように突起してなく、顔もノッペリとして頭に髪の毛はない。耳は2つあり、首の左右にはエラ呼吸するための穴が複数、開閉を繰り返している。
 声帯はあるザトムが声を荒げた。
「僕たちは死から少しでも人を救うためにここに集っている。少なくとも僕自身はそういう考えでここに立っているんだ」
 物理遮蔽壁の内側にザトムの声が反響する。
 これを古さそうに耳を押さえたのは、ランドール・ベイスだ。元は科学者として活躍していた経歴を持つ人物である。
 彼の肉体もまた、人間とは異なっていた。まるまると太った緑色の肉体をフォースフィールドで包み、まさしく肉体を丸めて球体となって浮遊していたのである。唯一、大きな顔に小さな口とそれに似合わない巨大な3つに目玉だけが、他者へ自らの意思を伝える方法として、常に正面を向いていた。
 人間ではまず無理な体勢である。
「そう感情的にならないで。もっと冷静に物事にアプローチしましょう。アフタイのいうように、我々の目的は観察なのです。これまでの救世主の行く末を見届けるのが役割なのですから」
「そうよ。難しく考えすぎなのよ」
 と、紫色の髪の毛を方の後ろへ払いのけると瞬く間にその色が緑色に変化した女性は、自らの肌の色までも緑色から淡い青へと変化させた。
 ヴァクニー・イェンは元歴史かである。あらゆる文明の崩壊を目の当たりにしてきた彼女には、それが興奮材料のなにものでもなく、ザトムとは感情的に真逆の作用が働いていた。
「いやいや。ザトムの意見、我は理解できるぞ。文明の崩壊、生物の消滅。幾度経験しようとも慣れるものではあるまい」
 カ・トロが独特のボサボサに破裂した針金と同じ性質の髪の毛と髭をなで上げつつ、獣のような筋肉質の腕を大きく伸ばし、元々が舞台監督だっただけに感情表現を豊かにして、ザトムの心情を理解した。
 けれどもその伸ばした腕もまた、人間とはことなり、肘と手首の間にもう1つ、関節があり腕が自在に波打っていた。
「人の死なんぞは所詮、この程度ということだ。いちいち気にしてたらきりがないぜ。そうして俺たちはここまで来たじゃないか。今更、なにをいってやがるんだ」
 口悪く言ったのは、3メートルはある巨体が全身、金属に覆われたサイボーグの元兵士、ニック・マーであった。彼の大きな頭部の半分は金属に覆われ、片方の眼は自在に動くレンズになっていた。
 けれども他の種族から見た時、彼の肉体は非情に古風な技術であった。
「秩序ある世界が崩壊するのよ。やっぱり良い気分じゃないわ」
 見た目は最も人間に近い。が、その全身を覆ったウェットスーツのような特殊素材の下は、ニック・マーと同じ機械の身体、つまりアンドロイドなのである。
 彼女は元電脳警察、つまり脳の中も機械化されたサイバネティック技術の集合体なのである。
 7人はそれぞれの意見を口にしたその瞬間であった。最後の構成が黒い煙に呑み込まれるかのように、彼らの下方で消滅した。最後の灯火が消えたかのように周囲は真っ暗になる。
「これでこの世界はメサイタ(終末)したというわけです。我々は最期をしっかりとこの眼で見届けました。それで良いのです。始まりは終わりへの道。いずれまた始まるのですから」
 そう言い、全員の口を閉じさせたのは尖った耳が印象的なポルビ・ライトである。
 彼は彼の失われた世界の独自の言葉を使用していた。 
「今はただ、静かに終わりをニーモ(悲しみ)するだけです」
 そういうと彼は瞼を下ろし、まるで祈るかのように暗闇に意識を集中させた。
 と、その刹那である。瞳の奥に目映い輝きを見た。
 慌て瞼を開け、背後の7人を見ると、全員が同様の感覚に包まれたのだろう、ハッとした様子で違いに、独特の風貌を見合っていた。
「ついに始まりましたね。最期の救世主の覚醒が・・・・・・」
 ポツネンとポルビ・ライトは囁いた。しかしその胸中にはさっきの言葉が幾度もこだました。
 始まりは終わりへの道。

ENDLESS MYTH第3話ープロローグ5へ続く

ENDLESS MYTH第3話ープロローグ4

ENDLESS MYTH第3話ープロローグ4

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-23

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