笛の呼ぶ声

哀しき恋の結末は、涙と共に…………

青ざた顔で、涙一つ浮かべずに、立っていた。
「清重さま………………」
(こんな寂しい所で、貴方は一人、お亡くなりになったのですね)
ただじっと、まだ血の跡が残っている岩を見つめている。
真子の侍女は、黙って彼女を見守っていた。
真子の哀しみは、言葉で語れない程に深い。
それだけに、藤と平の戦いでひっそりと死んでしまった清重を思うと、ひたすら哀しくて、たまらなかった──────。
「この曲を、貴方に捧げます」
真子は、笛を取り出して、そっと吹きはじめた。
(………………貴方様のお好きだった曲。我らの思い出の……………。覚えていますか?)
それは、美しくも哀しい音だった。
(兼成さま、お恨みいたします。わたくしの愛する方を奪ったあなたを)
知らず知らずのうちに流れていた涙は、頬を伝って、地へと落ちていく。
流れるような音色も、夫となるはずだった人が死んだ哀しみを癒すことはできなかった。

涙の果てに

──────ふいにピタリと音がやみ、真子は笛を手にしたまま、立っていた。
「お菊、ありがとうね……………」
隣にいる侍女に、声をかける。
「はい」
柔らかく笑って礼を言うと、少しの間真子は目を閉じた。
目を開き、着物の帯から取り出したのは、小刀だった。
その小刀を首へと当て、一直線に動かす。
首から血しぶきがほとばしる。
それでも彼女は、一生懸命微笑んでいた。
(清重さま、わたくしは貴方を一人には致しませぬ)
「真子さま……………」
動かなくなった真子は、主人が息を引き取ると涙を流し、彼女を思った。
真子の手から小刀を取り、動かない真子をもう一度見て、自ら首を切った。

笛の呼ぶ声

武士同士の戦いで、遺された人の哀しみを書きました。

笛の呼ぶ声

武士の戦いで、愛する人を失った哀しみ────。 どんなに愛されていたか、死んでしまった者には分からない。

  • 小説
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  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-22

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  1. 哀しき恋の結末は、涙と共に…………
  2. 涙の果てに