■即興小説集■
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毒蜘蛛ガールの戦争
「糸が吐ける」
毒蜘蛛に姿を変えてから、ようやく落ち着いてはじめて漏らした言葉がそんなつぶやきだった。気品あふれる名家の私はもういない。私は毒蜘蛛に姿を変えられてしまった。
「あの蠱毒の勝者になれば、君は人に戻れるだろう。戻れたからと言って、前と全く同じ自分になれるかは別の話なのだけどね」博識なイモムシが、泣きながら縋り付いた末に教えてくれた。そのイモムシも、前は弁護士をめざしていたようだけれど、もうすっかり人に戻るのはあきらめてしまったようだった。
「僕はまず毒虫ではないからね、あの蠱毒で勝てる気がしないんだよ。いや良いんだ、まだ絶対に勝てないだけ、僕は幸せ者さ。キミみたいに勝てる見込みが少しでもあると、あの地獄のような戦争に身を投じることを考えてしまうだろう? 僕は、最初からあきらめがつくのだけれどね。キミは不幸だよ、だから教えたくなかったんだ」
そのイモムシはそう言って、木の陰に八本足で静かにたたずむ私を見上げながら小さく首を振った。
「私は、人に戻りたい」
意を決するようにして、私は嗚咽するように声を絞り出した。「まだやり残したことがたくさんある。私はずっと人でいられると思っていたから、将来のために勉強ばかりで、全然遊んでいないの。せっかく人間に生まれたのに、そんなのってあんまりよ」
イモムシは「そう。なら、こっちだよ」といって、体をうねらせながら森の奥へと体を運んで行った。
「キミが人に戻れたら、覚えておいてくれ」そのゆっくりとした動きを続けたまま、不器用に彼に合わせて歩く私に声をかけてくる。「なにを?」
「地球上にいる虫はみんな、もしかするともとは人間だったのかもしれない。という事をだ」
それに対しては、特に驚きもしなかった。私が「糸が吐ける」とつぶやいたあの時から、何匹ものしゃべる虫に出会っているから、もしかするとそうなのかもしれないと思っていたからだ。「きっと忘れないわ、こんなこと、おいそれと忘れられるはずないじゃないの」
「それでもきっと、みんな忘れてしまうんだ」イモムシの声は、かすかに震えているようだった。「蠱毒の中で、気がおかしくなってしまうのさ。そのせいで、自分が虫であったことなんて、人間に戻ったら忘れてしまう。記憶の奥底にしまいこんでしまうんだ。おぞましい、思い出してはいけない記憶として、ね」
私は、妙に納得してしまった。そして、それほどまでの体験をしなければならないかと思うと、まだ慣れない八本足がもつれて転びそうになってしまう。
「それでも、私にそのことを忘れてほしくないのはどうして? 人間として、忘れてしまうという事はその方がいいってことなんじゃないかしら。普通なら、そのはずよね」そうやって自分で話しているうちに、それがどうしてなのかなんとなくわかってきてしまった。
もぞもぞと木の葉をかき分けながら進むイモムシが不意に立ち止まって、その頭だけをこちらにゆっくりと向ける。やけになめらかなその動きをみて、彼はもう人ではないのだと改めて認識してしまい、なぜだか少しだけ悲しくなった。
「キミがそのことを忘れてしまったら、人に戻った君は僕を殺してしまうかもしれないじゃないか。人間のキミは害虫が嫌いだろう? 特にイモムシは大嫌いなはずだ」表情の読み取れないイモムシの頭、それでもその声の不安定さから、彼が泣いているのかもしれないという憶測が頭をよぎる。
「わかったわ、忘れないでいる。そう意識すればきっと忘れないでいられるはずよ、今まで忘れてしまった人たちは、そのこと知らなかったから、忘れてしまったのよ」転びそうになるのをごまかしながら立ち止まって、私もこの複眼で、こちらを見上げるイモムシと目をあわせてそう答える。
「そうか、それはありがたい。辛い思いをさせてしまうかもしれないな」
すぐに目をそらして、イモムシはまた体をうねらせ始めた。
「ねえ……ひとつだけ、いいかしら」
動かないまま、私はそのイモムシの後ろ姿に声を投げかけた。木々の隙間から木漏れ日が差し込んで、それが人だったころよりも鮮明に大きく見えて、やけに綺麗だと感じた。イモムシはこちらを見ないまま立ち止まる。「なんだい」
「どうして、私がイモムシが大嫌いだなんてこと、あなたが知っているの?」
「さあ、なんとなくそんな気がしただけさ」彼はそれだけ言って、また先へと進もうと体をうねらせた。
「まって」
シャカシャカと八本足を動かして、彼の前に回り込む。まるで最初からそうであったみたいにスムーズに足が動いたけれど、それを不思議にも思う余裕はなかった。イモムシは、私の方を見ようとせず、頭をもたげて湿った土を見つめていた。
「あなた、私の知っている人なの?」
「それはキミの思い違いさ、そんなことはない、僕はキミの事なんか知らないし、キミもきっと僕の事なんか知らないはずだ。さあ、早くいかないと遅れてしまうよ、遅れてしまったら、また一年キミはその姿のまま生きなければならない。そんなのは耐えられないだろう?」
嘘だと、すぐにわかった。彼は私を知っている。それを、彼は意図的に隠しているのだ。そして、彼が誰なのか、私は気づいてしまいそうになって、思い出してしまいそうになって、頭を振る。でも、それを確かめずにはいられなかった。
「私がイモムシを嫌いだと言ったのは、もうずいぶんと前の事よ。あのとき以外で、私は何かを嫌いだと口にしたことなんてないはずだもの。私に、苦手なモノなんてあってはいけないと、お父様が言ったから」
言葉を選ぶようにしながら、それでも少しばかり早口に私は言葉を紡いだ。
「人間の私がそんな弱みを吐けるような人、思い返しても一人しか思いつかないわ。彼は弁護士の父と同じ道を進むんだって、自分の夢を語っていた。ああ、なんで、忘れてしまっていたのかしら。彼は、ある日を境に姿を見せなくなったのに、どうして誰も気が付かなかったのかしら。もしかして、やっぱり、あなたは――」
「虫になってしまった人のことは、忘れてしまうんだよ」
言葉をこぼすように、彼は続けた。「きっと、キミのことも、みんな忘れてしまっている。キミが人に戻らなければ、キミは最初から虫なのと変わらないんだ。だれも、人間のキミを知らない。僕が、そうだったように」
「じゃあ、やっぱり、そうなのね」哀しそうな声とは対照的に、私は声を弾ませていた。
「ああ、そうだ」それでも、彼の声は沈んだままだった。いっそのこと、思い出してほしくなかったのかもしれない。彼は、私を人間に戻らせたいのだろう。
「ずっと虫でいることは、蠱毒という地獄で争うよりもはるかに地獄だ。僕はそれを知っている」
私が何か言うよりもはやく、彼はそういった。私の考えていることなんて、お見通しとは言わんばかりのその話し方は、人間だったころと何にも変わってはいなかった。「私はうれしい。またあなたに会えた。そのことが何よりもうれしいの。あなたとこうして話していられることが、あなたを思い出せたことが」
私はもうずいぶんと慣れた足さばきで軽くステップを踏んで「人間に戻るのはやめにしましょう」と、簡単にそういった。
「キミは、人に戻るべきだ。やるべきことがあるんだろう?」
「人にもどってまた勉強漬けの毎日よりも、この姿でもあなたと遊んでいられた方が何倍も素敵だわ。それに、あなたが虫のままなのに、私だけ人間に戻るだなんて、そんな辛いことはしたくはないもの。人間に一緒に戻る方法を、二人で探しましょうよ」
イモムシは、そのよくわからない表情を持った頭で私を見上げる。「全部僕のミスだ、キミは人に戻るべきなのに。みんなに忘れられたまま、虫として生きていくなんて、こんなつらい思いを、キミには味わってほしくはなかったのに」
「きっと違うわ、虫の姿になったから辛かったんじゃない。みんなに忘れられてしまって、あなたはずっと孤独だったから、つらかったのよ。私は運がいいわ、だって、虫になってまでまたあなたに出会えたんだもの。私は孤独じゃない、そして、あなたももう孤独なんかじゃないわ。だから辛くなんてなるはずないのよ、そうじゃない?」毒蜘蛛の姿で笑うのは、これが初めてだった。
彼は黙り込んで、しばらく私をじっと見つめていた。ケラケラと私は笑いながら、そんな彼を見つめる。相変わらず表情はわからないけれど、それでもさっきよりはましな顔つきのような気がしたのだ。
「ああ……まったく、キミは人の頃から変わらないんだな」
ほっとしたような声で、彼は私の方をまっすぐに見て。
「わかった、でも、約束してくれ。きっと、人に戻るんだ。僕も、キミも」
あきらめたようにそう言って、少しだけ――たしかに笑った。
ブラッディ―ガール・オン・ザ・デスク
真っ赤になったのは、私自身の身体だったのか。それともただの私の視界だけだったのか。わかんないまま私は確かに死んで、あまりに激しい損傷だったのか、私の身体はびっくりするほどに原型がどこかに行っていて。
それで、血液だけの身体になった。
「わかりやすく話すとね、あなたのせいで私は死んだわけ」
彼は未だに自身のベッドの上に丸くなり、その柔らかそうな羽毛布団にくるまって隠れていた。そりゃあそうもなるのはわかるけど、話を聞いてくれなきゃ話にならない。
「あなたが私をひき殺したの、それで私はこんな体になって。ねえ、聞いてるの?」
「そんなことわかってるよ! 僕のトラックがキミを轢いて、キミはきっと確かに死んで、でも死体はどこにも見つからないし、だからって誰も見てないのに警察に通報なんて怖くてできないし、なのになんでここに来るんだ! 自分の意志があるならいいじゃないか! 轢き殺したのは悪かったから、僕にはかかわらないでくれよ! 僕がキミを殺したなんてことは、キミにしかわからないけど、キミはそんな体じゃ警察になんていけないだろ! 死体が自分から自分を殺した人間を伝えるだって? そんなことできっこないんだ! 誰も知らなきゃ、僕は悪くなんてない!」
泣き叫ぶようにわめき散らす彼を、液状の私はテーブルの上でうららかにたゆたいながら見つめていた。あの羽毛布団の中では、きっと狂気に陥った顔の彼が泣きじゃくっているのだろうと思うと、憎らしさより別の感情が浮かんでは消える。
「別に私は、警察に行こうだなんて思ってないのよ」
自分でも、どこから声が出ているのかわからない。
「まさか、自分が恋する人に殺されて、しかもその人がこんなクズだったなんてね」
それでも、一応伝えたいことだけは伝える。
「……は?」
彼は、涙で晴らしたその顔を、まるでかたつむりみたいに羽毛布団から出して、テーブルの上でたゆたう私を見る。
「あなたのことが、好きだったの。生きている時は」
どう感情を表現していいのかはわからなかった。それでも、言わなきゃいけないことがたくさんある。こんな体になってまで、きっとこの気持ちをどうにかしなければいけないんだ。きっとそういう訳なのだと思うことにした。
「ど、どういうことだ? キミは誰なんだ。僕はキミの事なんか知らない。キミの声も、キミのしゃべり方も記憶にない。轢いてしまう直前の、キミの姿にも……」
そこまでいって、私を轢いたときのことを思い出したのか面白いほどに顔色を悪くする。そんなに惨たらしい死に方だったのだろうか。痛みの記憶もぐちゃぐちゃになった記憶も私にはなかった。私の記憶にあったのは、私を轢き殺す直前の彼の顔。あの坂道で、私は彼を見ていた。
「私はあなたのストーカーよ。もう、取り繕う事もなくなったわ、あなたは私を殺したんだもの」
私は彼のことが好きだった。ただひたすらに愛していた、その表情が歪むまでの過程も、再び毛布の中に入り込むまでの所作も、そのすべてが愛おしかった。
そして今は、そのすべてが憎らしくもあった。
「ねえ、あなたは私を殺した。そして私は血液だけの身体になって、あなたのテーブルの上でこうして零れた赤ワインみたいになっているの。あなたは私を殺したんだから、私もあなたを殺すことだってできる。そうよね?」
血液の姿でも笑えるんだという事が簡単にわかった。「あはは」と、今度は声に出して笑ってみた。
きっと、彼は布団の中で青くなっているんだろう。その表情も見てみたいから、私は布団の中に潜り込もうと思い、唇から滴り落ちる唾液のような要領でテーブルからゆっくりと降りようとした。
「わ、悪かった!」
そんなとき、彼は突然布団を投げ捨てて、ベッドの上で土下座した。あまりにその流れるような動きが整っていて、洗練された美しさすらそこにはあった。
私は滴り落ちるのをやめ、またテーブルの上に戻り、うねり、と、彼の方にと向き直る。
「僕が悪かった! まだ死にたくない、死ぬ以外の事なら何でもするから、どうか許してくれ、頼む!」
私は、その言葉を待っていたと言わんばかりにテーブルから飛び上がり、空中で形を生きていたころの私に整えて、そのまま彼に飛びついた。赤黒い粘性の私は、シルエットだけならただの女の子としかわからないくらいの精密さで“私”になって、生暖かい体で、驚き怯える彼を抱きしめながら、そのすぐ耳元に唇を寄せて、ただただ小さく囁いた。
「――クズで卑怯なあなたが好き。ねえ、私と、付き合って」
トマト系女子とパスタ系男子
茹ですぎたパスタみたいな体になってしまった。
「キミは、まるでトマトみたいな人だね」
ふにゃふにゃになってしまった身体をベッドの上でグニャンと体を異様に折りたたみ。出かける準備をしている彼女におもむろに声をかけた。彼女はその麗しい黒髪を翻してこちらを鋭くにらみつける。
「それは褒めてるの? それともけなしてる? 実はそのどちらでもなくて私の興味をひこうとしているだけなのかしら。脳みそまでゆであがってふにゃふにゃになっちゃった?」
まあ、いつもこの調子なので気にはしないけど、そんなに睨みつけられちゃうとカエルみたいに動けなくなっちゃう。まあもともと動ける気配なんかしないんだけどさ。
「いいや違うさ、トマトってすごいんだよ」
「おいしいもんね、私トマトって好き」
「キミがトマトが好きかどうかはこの際どうでもいいんだけど」
「この際とかどの際よ、そっちから話しかけてきたのに横暴ね」
むすっとした彼女は可愛いけれど、あまり引き止めすぎると後で怒られる可能性もあるから慎重にしなければ。もうそろそろ出かける準備も整うみたいだし。
「トマトの木って、害虫がその葉を食べるとね、木全体から毒を出して害虫を殺しちゃうんだ」
「へえ、面白い雑学ね」
「それだけじゃなくて、その周りに生えてるトマトの木も同じように毒を出すんだよ、仲間に危険があるのをフェロモンで伝えて、害虫を一斉に駆除するんだよ」
「それで、そのトマトと私が似てるって?」
寝起きのだらしない女が、外行きの綺麗な女性に変わった。化粧とか服装とか髪形のセットとか、本当に女の子のそれってすごいよなとつくづく思ったけど、それとトマトは関係ない。
「ああ、キミはトマトそのものだよ」
「どうして?」
時間を気にしながら、彼女はふにゃふにゃの僕に近づいてしゃがみこみ、つまんだ。
「乱暴につままないでくれ、すぐにちぎれちゃうから」
「早く教えてくれないとこのまま食べちゃうわよ?」
だらんと情けなくぶら下がって、少しだけ身もだえしてみる。つままれたミミズがそうやって体をよじるみたいにして、彼女につままれた体をうねうね動かしてみた。
「うごくパスタってのも、なかなかに気持ち悪いわね」
「でもトマトとパスタってのは存外相性がいいもんだよ?」
「存外でもなんでもなく相性はいいでしょうね、トマトクリームパスタとか絶品。ああ、なんだか食べたくなっちゃった。今日のお昼はイタリアンにしようかな」
そういって彼女は僕をゆっくりとまたベッドにおいて「帰って来たら元に戻してあげるから、もう私にちょっかいかけようなんて思わないことね」と、儚さを感じるくらいのささやき声でそう告げた。
「キミにちょっかいをかけるとみんなこうなる」
「パスタだったりえのきだったりはるさめだったりするけどね」
「だからトマト見たいって言ったのさ」
「へたくそな比喩ねー。でも、パスタになった自分と相性がいいって伝える方法としてそうたとえたんなら、なかなか面白いと思うけど」
玄関にまで歩いた彼女は振り向いて、にっこりとわらった。
「おもしろい人は嫌いじゃないわ。帰ったら戻すのはやめて、今度はえのきにしてあげる。そしたら私を何とたとえるのかしらね」
大変なことになってしまったけど、また彼女と話せるならえのきだってかまわなかった。
――不意打ちのはるさめで、考えていた案は全ておしゃかになったのだけれど。
キミが語る100の呪い
自分の受験票をみて露骨に肩を落とした。中途半端な数字よりはよっぽどいいが、それでもこうも切りがいいとこの数字を手に入れるために運をもうすでに使ってしまったんじゃないかと思ってしまう。受験番号に運も何もないだろうけれど、こういうちょっとした事にも少し不安を覚えたりするのは、同じようにちょっとしたことに幸せを感じたりできる人間だという証拠なんだとポジティブに考えてみようとしたけれど、この段階で「運がいい、いける!」と思わない時点でちょっとした幸せをかみしめられる、ひどく幸福な人間ではなさそうだった。
「なあなあ、涼は番号何番だった?」
まだ人の少ない閑散とした待合室で、親しげに黒髪ロングの女が声をかけてきた。見た目だけならかわいいのに中身ですべてが台無しな美少女だ。
僕はひとつ小さくため息をついて「あーっと、77だった」と、振り返ることなく声を漏らす。これだけ幸運な数字を言っておけば彼女も少しは驚きの反応を見せるかなと思ったのだけれど、そんな思いとは裏腹に彼女は全く別の話題に対して嬉々として話してきた。
「おお! そっかよかったじゃん。ここの受験場、ちょっとした噂があるらしくってね」
「噂? なんだいきなりだな」
「受験番号100番の呪いっての、知らない?」
僕は少しばかり驚いて、そのまま軽く首を振りながら「し、知らないけど、なんなんだそれ」と返してみた。できるだけ平静を装って、別段驚いた様子もないみたいな雰囲気で、言葉を紡ぐ。
「やあーっぱ知らないか、あのねあのね、ここの受験票で番号が100番だと、絶対に合格しないんだって」
完全に他人事だと思っているらしく、彼女は手を小さくパタパタと振りながら続ける。
「もう何十年と、100番だった人が合格したことないらしいよ、いやほんと、気の毒だよねえ」
ああ、きっと素直に「僕の番号は100番だったよ」と言っていたら、彼女はその話を僕にはしなかっただろう。そっと、受験票を彼女に見せてみる。
「え、なにこれ100番じゃん! なーんだ、本当は77番の呪いだったのを、気を使って100番にしてたのに……あ」
僕はあきらめきった顔から精気を取り戻し、こぶしを握りしめ
「まだ……行けるっ!」
と、自分を奮い立たせるために声を絞り出す。
わかり易く端的に結論だけを述べるとするならば、大方の予想通り僕は落ちた。
■即興小説集■
読んでいただきありがとうございました。