吹き抜け一軒家のお店

初めて小説書いてみました(^^;)
すこし短めですが楽しんでいただけると嬉しいです!

昔々、寒い冬の日におじいさんが山へ出かけた時のこと、一羽の(つる)に出会いました。
その鶴はけがをしていたためおじいさんが助けてあげました。
ある晩のこと、とんとん、と戸をたたく音が。
不審に思いつつも戸を開けると美しい女の人が「一晩泊めてくださいな」。
おじいさん夫婦は親切心で女を泊めてあげることにしました。何日も。。。
ーと余談はここまで。これは鶴の恩返しのお話、最後は女に覗くなと言われた戸を開けてしまい、まだ織りきれていない布をおいて女は家を出て行ってしまう話だ。
 私が何故このような話をするのかというと、出会ってしまったのだ。鶴と。
鶴といっても本物ではなく、もちろん人間だ
しかしその姿はあまりにも美しく、机に向かって何かをするその男性は鶴の恩返しのあの女のようだ、と思った。
 私の視線の先にいる彼は、古びた新聞屋と小さい倉庫のような会社の間に建つ三階立ての細長い一軒家だ。
この家に気づいたのは二年前、高校一年生の冬の時期だった。 いつものように学校から自転車で帰宅していた。
家から学校までの距離は学年で5位に入るほどの短さだ。その短い距離の終盤でふとその建物の存在が目に入った。
思わず自転車を止めた。 
こんなの建ってたっけ
よく見ると何かの店らしい。半世紀前のアメリカ(がどんなところかは知らないが)を思わせ、やけに縦長い外観。これをヴィンテージとでも言うのだろうか、と少し皮肉っぽく心の中で言った。
しかし、どれだけよく見ても何の店かわからない。中に人もいない。
ドアノブに「open」と書かれた板がぶら下がっているだけで店名も書いていない。
ここで周りの目が気になり私は少し顔を隠しながら帰った。
それから二年間、そこを通るときは必ず中を覗いた。住所をインターネットで調べたりもしたが店らしきことは何も書いていない。
私は、あれは私にだけ見えてる店ではないだろうか と考えてしまうほどお手上げだった。
そして今日、その無人の家に人がいるのを初めて見た。板には「close」もあったので誰かがいるには違いないが、二年間見たことがなかった。
私は自転車を止めることができなかった。驚きのあまり…というかもっと年寄りのおじいさんがいるものだと思っていて私の脳みそでは一瞬で処理できなかった。
 季節は夏、高校三年になった私は家が近いにも関わらず毎日のように遅刻をしていたので
今日遅刻すれば千字の反省文を書けと脅されていてどうしても遅刻するわけにはいかなかったのだ。
なんとか間に合い呼吸を正しながらあの店のことを考える。
意外と朝早くから店を開けていたな いつも開いてたっけ 何歳だろう
二十五歳ぐらいの見た目の彼が頭から離れない。帰り道のときも見れるか見れないか、何通りもの彼の生活パターンを考える。
結局会えた、というか見たのは朝のあの時だけだった。
 それからしばらく彼の姿を見ることはなかった。

『ORIGINAL VINTAGE』

梅の花弁が舞っている五月。私は地元の短大に通う大学一回生になっていた。
その頃には毎日店を覗いていたので前よりかは彼の姿を目にすることが増えた。
と言っても四月になるまで一度も見ていなかったのだが。

でもまだ店に入る勇気はない。
洒落たカフェやらバーならまだ入れたものの、そこは、
『ORIGINAL VINTAGE』という、オーダー制、いわゆる特注のヴィンテージアイテムを作っている店だったのだ。
ネットで調べても出てこないこの店は私にとって 入ってもいい場所 なのか ダメな場所 なのかすら見当もつかないのだ。
値段によっては恥ずかしいエピソードにしかならない場合がある。(値段が高くて何も買えない ということ)
慎重に行くべきだ そう思ってもう二か月経っている。
なかなか踏み出せない,,,と店の前で待ち合わせしているという’’いつもの’’設定で立ち尽くしていると―
 ギィ―
彼は煙草の煙とともに出てきた、いや、出てきてしまったのだ。
一瞬何が起こったかわからなくて、その一瞬は一分程に感じられて、でも十秒、三秒だった。
ずっと目が合っている。彼がにやっと煙草を銜えたまま右頬を少し上げた。
 「彼氏と待ち合わせか?」
いたずらっぽく聞く彼は私がずっとガラス越しに見ていた彼で、思ってたよりだいぶ声が低い。
 「,,,え?」
思わず聞き返してしまった。
 「いつもここで待ち合わせしてんだろ。誰かは見たことないけど。」
待ち合わせに見えてたことに少し安心した。
 「あ、友達を少々,,,待っていて,,へへ。」
戸惑いを隠せないし へへ とか言ってる自分がキモイし頭の中がぐるぐるして何も考えられない。
 「こんな誰も知らないような店の前で待ち合わせしてくれるの、君ぐらいだよ。ある意味助かる。」
 「確かに皆知らないって言うけど、私にはちゃんと見えていますよ。」
 「皆には見えてないのか。」
私の頭はもう冷えていて、なのによくわからないことを言ってしまったな と冷静に反省した。
 「見えていないというか、私はここが特別だと思っています。不思議な空間なんですよ、店の前から既に。」
反省した。したけど言葉止まらない。 ’’誰も知らないような店’’ にムキになっているんだ。
 「誰も知らないんじゃない。見えないんだ。この店はこんなに素敵なのに、あいつらの目は節穴だから。」
 「そうかな~。確かにこの店は俺の自慢の店だしなぁ。」
少し怒ったような私の口調をなだめるように優しく、そして便乗して彼は言った。
そして 友達遅いな とぽそっと彼は呟いた。
 「いつも遅れてくるの。家近いから迎えに行こうかな。」
 「おぅ、そうしてやれ。気をつけろよ。」
 「うん。これからもこのお店の前で待ち合わせしていい?」
 「許可する!」
彼は煙草を持った左手を軽く上げて笑った。 私も笑って手を振る。
変な別れ方のような気がするけど、これからは少しくらいお話しできるかな と少しうれしかった。

木の香り

 もう七月になった。
彼とは、あれから少し話すようになったがそれ以上の仲ではなかった。
無事待ち合わせをする友達も確保できたし、彼の作業をしている横顔をのぞけることだけで満足だった。

ある日、その友達とランチを食べていた時だった。
「あんたはさ、あの店の人のこと好きなの?」
少し眉間にしわを寄せながら友達は聞いてきた。
「好きだよ?かっこいいし。急だね。」
「それは恋愛的にってこと?」
「まさか。そうじゃなくてアイドルを見てる感じかな。」
「そっか、なんだてっきり彼氏にしたいのかと思ってたわ。」
まぁ一時期この感情は恋愛てきな感情かどうか分からなかったけれど、それは結構前に解決していた。
 そして友人と別れ、週末にあの店の前で待ち合わせすることにした。

 帰り、ふいにあの店を見たくなった。
いつも夕方には閉まってしまうので通りすぎるついでに見ようと思ったのだ。
吹き抜けていて、閉店しても家の明かりがついていることからその店に住んでいるのがわかる。
そして店の前まで来て驚いた。明かりが天井だけでなくドアからも漏れていた。
もう夜の六時なのに今日はやっている。 と考えていたら彼が私に気付いた。
「ランチ、楽しかった?」
店のドアを開けながら聞いてきた。そして顎で 中にどうぞ そう言った。(気がした)
「楽しかったですよ。すごく美味しかったし。」 そう言いながら初めて店内へ入る。

木の香りがした。上を見ると妙な形の二階がある。そして天井のオレンジ色の電気。

「今日は遅くまでやってるんですね」半分無意識に聞いていた。
「今日はお客さんからオーダー入ったからね、そろそろ閉めようと思ってたんだ。何か飲む?お茶でいい?」
「あ、はい。ありがとうございます。 何のオーダーですか?」
「ジーンズとカバンで二人のお客さんからでね、最近やっと軌道に乗った感じ。安心はできないけど。」
そう言って私のそばにある机にお茶を置いてくれた。小さい椅子に腰を掛けて飲む。

突然

 特に長居するつもりではないけど、お茶も出してもらったし少しだけここにいることにした。
他愛のない会話をしながら彼は店を片付けている。
三十分くらい経ち片付き終えたみたいで私の正面にある椅子に座った。
「突然なんだけど、というか今日言うつもりでもなかったんだけど,,,」
突然口ごもりながら彼は言い始めた。
「好きなんだ。君のことが,,,それだけなんだけど。」 後頭部を手で擦る 耳がすごく赤くなっていた。
「あ、でも付き合うとかそう言うのは考えないで。ただでさえこんなおっさんに好かれて迷惑だろうし」
すかさずこう添えた。 私はなんとなくわかっていた が、答えを準備していなかった。
「あの、私は」
「あ、大丈夫。そんな高望みなんてしてないから。もうこんな時間だしそろそろ帰るだろ?」
と私の言葉を遮った。 そして言われるがまま私はドアの方へ向かった。
「待ち合わせには遠慮なく使っていいから。」
と別れ際に笑顔で言われた。
 家の前についてもまだ半信半疑だ。そして状況を理解すればするほど混乱してしまう。
なかなか寝付けれず、考えるのをやめようとした時に思い出してしまった。
 週末にあそこで待ち合わせをしていたことを
こんな夜中にメールするようなことではないし、まだ週末まで時間はある。
その間に解決策が浮かぶはず と決めて寝ることにした。

タイムリミット

次の日例の友人に話した。告白されたこと。付き合うわけではないこと。待ち合わせには今まで通りで良いこと。
「んで、どうすんの?土曜まであと三日あるけど」
「待ち合わせ,,,したら気まずいけど、しなくても気まずい,,,」
だろうな とため息をつく友人。
「とりあえず場所は当日の気分にしよう。何にせよ返事はしといた方がいいんじゃない?」
「話、聞いてくれなかったのに?」
「次は聞いてくれるでしょ。はっきり断らないとこれからに影響するかもだよ?」
「う~ん」
断る,,,かぁ,,, 正直一番悩んでいたのはこのことだった。
確かに恋愛対象ではなかった。だがいざ告白されると揺らぐものなのだ。
タイムリミットはあと三日。そのとき自分が何を話せばいいのか。
授業に集中することもできないまま放課後になった。
寝ても覚めても考えるのは彼のこと、待ち合わせの場所。 あっという間に三日経ってしまった。
待ち合わせ時間は午後一時。いつもの、あの店のベンチになった。
もうその時思ったことを率直に言おう そう決めて店へ向かった。
徒歩五分はあっという間についた。
ドアには open と書いた板が掛かけられ半開きになっていた。
少し覗いてみたが気づかない。作業台の上にはジーンズが出来上がっていた。
私が悩んでいた三日間、彼はお客様からの注文の品を作っていたのだろう。
「あの」
「はぃ,,,えっ?!あ、待ち合わせ?」
彼はすごく驚いていた。もう来ないと思っていたのだそう。
「今日は待ち合わせもあるんですけど、言いたいことがあって来ました」
今まで止まっていた心臓が突然動き出したような感じがした。そしてこの直前まで私は告白の返事を決めていなかった。
「この前はお茶、ありがとうございます。おいしかったです。 それから私のことを好きだと言ってくれてとても嬉しかったです。
あなたは付き合うつもりはないみたいなので、次は私から告白させてください。 私も好きです。なので付き合ってください。」
うるさい心臓とは反比例して落ち着いたトーンで喋りだす私。
頭のなかは真っ白だった。
彼の顔をまっすぐ見つめているはずなのに彼の表情が見えない。
気を緩めれば気絶でもしてしまいそうだった。

定休日の月曜日

その後どうなったかというと、彼の返事を聞き 友人が来て 一緒にランチへ行った。
彼の返事はもちろんYES。 友人に伝えるとしばらく固まってしまっていた。
ほんの四日前まで恋愛対象ではないと言っていたのだから無理はない。
四日前と言っても当時の話なのだけれど。
今はあれから八年経っている。始まりが高校生なので現在私は二六歳。
趣味程度に小説を書いている。
八年経ったあの店も今では注文を受けるだけでなく、オリジナルの物を作って販売している若い子に人気の雑貨屋だ。

そして私はその店の妙な形をした二階に今住んでいる。
今日は定休日の月曜日。彼は私の横で昼寝をしている。

吹き抜け一軒家のお店

最後まで読んでいただきありがとうございます!
何とか終わらせることができて一安心です。誤字脱字やこの表現おかしい などあったかもしれません,,,
温かい目で読んでくださりありがとうございます‼

吹き抜け一軒家のお店

ずっと気になっていた吹き抜けの一軒家のお店。 家の主もなんのお店かもわからずただ日が過ぎていった,,, 純粋で長く短いラブストーリー

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-20

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 『ORIGINAL VINTAGE』
  2. 木の香り
  3. 突然
  4. タイムリミット
  5. 定休日の月曜日