放っておけないっ!!

世界一の " 幸せもの " になりたいあなたへ――――

時刻は真夜中を回る頃、私は暗闇の中で一人、我を忘れるかのごとく、目の前に映る光景に心を奪われていた。
蒸し暑いこの季節にパソコンの熱気が加わり、冷房もかけていない劣悪な環境。
唯一の光の発生源であるパソコンの光が、闇をかき消そうと激しく主張する。
そんな環境にも目を暮れず、目までかかる自分の黒い前髪を定期的に払いよけながら、私は画面を見つめている。
「死にたい……」
私は、目の前に映る主人公とヒロインのキスを見つめながら、そう呟く。
「長かったな……」
物語が終了し、画面が暗転すると、スタッフロールが流れ始める。
ゲームの終了を認識した私は、目の疲れを癒やそうと、なんとなく見慣れた自分の部屋の周りを見渡す。
そこにはいつも通り、絵で書かれた美少女たちの姿が、暗闇の中にうっすらと映っているのが確認できた。
たった今終えたそのゲームは、世間では"美少女ゲーム"と言われている、パソコンでプレイできるゲームの一種である。
(以外と面白かったな)
頭の中で素直な感想を述べながら、私はいつもの様にゲームの批評サイトへ飛ぶ。
美少女ゲームをプレイし終える度に決まってやっていることだ。
「……これでいいかな」
感想を書き終えると、私はその自分の文に間違いがないか確認する。


【85点】
新規メーカー・新規ライターということで、それほど期待はしてなかったのだが、それを上回る出来であると、私は思った。
まず、テキスト面。読みやすいと感じた。主人公の心情・目的が読んでいてスラスラ脳内に入っていくのが気持ち良い。
シナリオ面は、平和を愛する主人公が、ヒロインの一人に誘われ、ある部活に(ほぼ無理やり)入部してから、平凡な日常が刺激ある生活に変わっていくという様な、至って普通なテンプレ物だが、やっていて苦痛に感じなかった。
これはやはりこのシナリオライターの文面力の違いなのだろう。
今までだいたい300本くらい程度しか美少女ゲームをやってこなかった私だが、自信を持って人に勧められる作品であると思う。描写もそこまできついと感じるような場面はないし。
私はこの作品のライター・このメーカーの今後に期待して、この点数を付けさせてもらいたいと思う。


「まぁ、大丈夫かな……」
自分で書いたその文面をニ度読み返すと、画面の『送信』ボタンをクリックする。
これが、今年で二十歳を迎える私、高槻 氷里の、普段の生活風景である。
無論、彼女はいない。
「ふぅ……」
達成感を感じた私は、それと同時に、激しい絶望に襲われる。
「今日は八月三十一日……じゃなくて、九月一日か……」
九月一日。それは、長いようで短かった、引きこもることが許される期間の終わり。
長かった長期休暇期間は、今終わりを告げようとしていた。
「こらぁ!! 」
瞬間、突然後ろから声が聞こえる。
「うわぁ?! 」
「うっわ何この部屋? すっごいムンムンしてる……よくこんなとこで生活できるわねー……」
声の主は、唯一同じ家に暮らしている、私の母親のものだった。
「まったこんな時間まで起きて、変なゲームやってるのかい? 」
「こんな時間にデカい声出す母さんもどうかと思うがな……近所迷惑だろ」
ちなみに今は午前三時である。
「別に田舎だし、人も少ないとこだから大丈夫よ」
母は適当にそう言い放つ。
私が住むこの地域は、"平和町" という、知名度の低い、人がほとんどいない田舎街である。
ここ数年はこれといった事件も起きておらず、まさに "平和" な町だ。
「あのさぁ……一応目の前に悠香ン家あるんだし……」
悠香というのは、ここの家の目の前の一軒家に住む幼なじみのことである。
「へぇ~、アンタが人の心配をするなんて珍しいね」
「用が済んだなら帰ってくれませんかね……私は忙しいんですよ」
特に忙しい訳でもないが、鬱陶しいのでそう言っておく。
「アンタさぁ、自分のこと『私』って言うのなんとかならないの? 気持ち悪いんだけど」
「は? 私の勝手だろ」
「普通男なら『俺』とか『僕』って言うものだと思うんだけど」
「そんな一般論なんて、私の知ったことじゃない」
「はぁ……そんなんだから彼女できないのよ……」
「うるせぇ」
「年齢(二十歳)イコール彼女いない歴で、童貞でオタクなアンタに期待する私もおかしいんだろうけどね……」
一言で三つ分くらいの罵倒の言葉をもらう私。
「オタクは関係ないだろ」
「画面の女の子見てニヤニヤしてるような人に、女の子が寄ってくる訳ないでしょ。普通に考えたら」
「くっ……」
激しく正論である。
正直、私は焦っていた。
母は知っているか分からないが、私は彼女どころか、友人すら、いるかどうかと聞かれると危ういところである。
「アニメの彼女なんか何の生産にもならないから、リアルで彼女作りなさい」
「面倒くさい」
「面倒くさいって、何もやってもないくせに、よくそんなことが言えるわね……」
「……」
呆れるように言う母に、私は何も言えなくなる。
「私に興味がある子が身近にいるとも思えないし、無理ゲーだろ……」
「そんなの分からないでしょうが」
「いや、いない」
私は断言した。自分のことが好きな異性など、いるはずがないと。
自分で言ってて虚しくなった。
「アンタの身近にいるじゃないの、アンタに興味がある子」
「は? 誰? 」
「悠香ちゃん。たぶんあの子、アンタに気があるよ。私が保証する。」
「冗談はよせ」
先程も出た、悠香の名前。
天奈 悠香。彼女は、唯一話ができる仲である、私のただ一人の幼なじみである。
「あいつは私をからかって楽しんでるだけで、私に気があるとか、そういう意図はない」
「そう? 」
「第一、私は悠香の存在に迷惑しているのだ。そんな奴と付き合うなんて考えたくもない」
「嘘だね~。なんだかんだ言って、アンタたちすっごい息ぴったりに見えるもの」
「そう見えるだけだろ」
「アンタのことだし、どうせ学校でもまともに人と話せてないんでしょ? 」
「なっ……」
突然の母の名推理に、私は困惑した。
「図星だね」
「うるさいなぁ......」
「困ったらすぐうるさいって、まるで子供みたい。成長しないね~......」
「......うるさい」
「オタクで気持ち悪いアンタにあんなに喋りかけてくれてるんだよ?しかも嬉しそうに」
「ハイハイ分かった、分かったからもう出てけ、寝る」
「ツッキーなんてアダ名で呼ばれちゃって、ほんと仲の良いこと......」
「出てけ」
「あぁあぁスネちゃって、はいはい、また明日ね」
「スネてない」
「おやすみ、明日遅刻しないように」
「心配するな」
「そうだね、悠香ちゃんがいつも起こしに来てくれるもんね~」
「......」
その母の言葉を最後に、私は眠りに落ちる。


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あれは今から約十四年前。小学生の入学式だっただろうか。
『高槻くん!おはよう! 』
この女は、天奈 悠香という最近引っ越してきた、俺の幼なじみ。
この女が来てから、俺の生活はどんどんおかしくなっていた。
『......』
『チンコモミモミ~~~~~』
『ちょっと悠香...?! 』
『やっと起きた~』
『そりゃそんなとこモミモミされたら起きるよ!! 』
下半身の一部を抑えながら、私は体を起こす。
『おはよ! 高槻くん! 』
『......おはよう』
『今日から小学生だよ! 』
『そうだな~......』
『元気ない? 』
『元気ない。』
『もっかいモミモミする? 』
右手をモミモミと動かしながら、そう言ってくる悠香。
『いや、それはいい』
『あらあら二人共、朝から元気ね~』
母がそう言って部屋に入ってくる。
『あ、高槻くんのママおはよう! 」
『おはよ! ご飯できてるから早く支度してきなさい』
『は~い! 』
『いや悠香は一回家帰れよ』
『高槻くんと一緒にいたいの! 』
『そんなこと言ってもなぁ......』

『結局ウチで食べちゃったな』
ご飯を食べ終えて、家を出て学校に向かう私と悠香。
『いつものことじゃん? 』
『悠香の母ちゃんのメシ、まずいの?』
『えっ?』
『だっていつも俺のとこで食べるから』
『いや、そういうことじゃないんだけど...』
『そうなの?...まぁいいけど』
『......ねぇ高槻くん? 』
『ん? 』
『これ!!』
そう言って渡してきたのは、ウサギのキーホルダー。
『あげる!!』
『どうしたんだ急に......? 』
『高槻くん、さっき元気なかったから』
『あ、あぁ、別にもう元気だぞ? 』
『え、そうなの? まぁいいや! あげる!! 』
『あ、ありがとう。』
『それ、私とのお揃いだからっ! 』
そう言って自分のランドセルに付いているウサギのキーホルダーを見せる悠香。
『あ、ホントだ』
『ちゃんと使ってね! 毎日! 私も使うから!! 』
『えー俺男だし、合わないよ......』
『だぁめ! そんなこと言ったら朝起こしに来てあげないよ! 』
『わ、分かりました......』
『ぜっっったいになくさないでね!! 』
『ぜっっったいになくしません!! 』
『そう、それでいいのっ! ふふふふ』
楽しそうに笑う悠香。それを見て、なんだかこっちまでおかしくなる。

『......ねぇ、高槻くん? 』
「え、何...? 」
また急に話を振られ、私は反応する。
『高槻くん!......ツッキー!おいっ! 』
『......ん? 』
何やら様子がおかしい。会話に違和感がある。
ふと、自分の下半身が何者かに握られたような感触を覚える。

「起きろ童貞、お前のちっちぇチンポ握り潰すぞ? 」
「うわぁああああああ?! 」


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目を覚ますと、成長した悠香の素顔が見える。
オレンジ色の短い前髪が、サラサラと揺れているのが目に取れた。
「おはようツッキー!ほらさっさと顔洗ってこい! 」
「......おはようございます」
「うん、おはよ! いいから顔洗って早く支度しよう! 」
「おい、なんでちっちゃいこと知ってんだ、気にしてたのに」
「あ、本当にちっちゃかったんだ......ごめんごめん! 」
「......」
カレンダーを見ると、西暦二千十六年、今日は九月一日であることが分かった。
時刻は、朝七時半。
さっき見ていたはずの、ランドセルはどこにも見当たらない。
鏡を見る。二十歳の自分の顔が映る。
ここは間違いなく、私が平和学園に通って三回目の、九月一日という絶望の日で間違いなかった。


「いっただきまーすっ!」
「当然のようにウチで食べやがって......」
十四年前と何ら変わらない光景が、そこにはあった。
「私がいいって言ってんだから、アンタは文句言わなくていいんだよ! 」
自分と対称的な位置に座ってご飯を食べる母がそう言う。
「はいはい......」
ちなみに悠香は、"いつも通り"、私の隣で食べている。
「ツッキーとツッキーママ、仲良いよね~」
「は? 」
「そうかい? まぁ、アンタたちほどではないけどね」
「いや否定しろよ母さん」
さりげなく仲が良いことを認める母に、私は突っ込む。
「何? 恥ずかしいのかい? 」
「ちげーよ」
「ハハハ、やっぱ仲が良いや! 」
私と母の会話を聞きながら、笑う悠香。
「私は仲が良いとは思わないがな」
「ごめんねぇこの子、いい歳こいて素直じゃないから......」
「いえいえ、そういうところが私も気に入ってるので! 」
(この二人嫌いだ......)
私はさりげなくそう思った。
「じゃあそろそろ行くから、ほら行くぞ悠香......」
この二人の傍にいたくないと思った私は、さっさとこの場を離れたくてそう言った。
「珍しい......」
「は? 」
「珍しいわね」
(なんだこいつら......)
勝手に同じ感想を呟く二人に、私は困惑する。
「ツッキーの方から私に指図するなんて......」
「はぁ? 」
「ほんとに、いっつも悠香ちゃんに引っ張られてるイメージだったわ、むっかしからそうだったし」
「はぁ、そうですか......」
(誰が言われっぱなしだ。クソ)
俺は心の中でそう思いながら、逃げるように家を出た。


平和学園は四年制の公立の学園で、田舎の学園と云えど、一応色々な学部が存在する。
まぁこの町にある学園が平和学園くらいしかないので、平和町付近に住んでいる学園生は、だいたいこの学校に通うことが多い。
特に行きたいと思う場所もなかったので、私もこの学園を選んだ。
彼女――悠香も、同じ理由でここの学園に通っている。
就職率はまぁまぁ高いらしく、教師も悪名高い印象の人は今のところ聞かないので、それなりに安心できる。
私もまともに調べていないので、そこまで詳しくはないのだが。
「ツッキーのお母さんってさ、良い人だよね」
九月になっても衰えることのない日差しを受け入れて、熱がたくさんこもってそうな道路の上を、二人で歩く。
俺の左隣にいる彼女の会話を聞きながら、うっすらと汗をかく悠香の顔が確認できた。
「え? そう見えるか? 」
「うん! 」
暑さを物ともしない、清々しい程の元気さが感じられる幼なじみの返事が、私の耳元へ返ってくる。


母は、昔に自分を産んでから父親に逃げられ、それから一人で私を育ててきたという。
詳しい事情は教えてくれないが、相当な苦労を強いられてきたに違いない。
私は、本当は母に感謝しないといけないのではないかと思う時がある。
まぁ、何も出来ないまま二十歳になってしまった訳だが......。


「そっか......」
そんな会話をしながら、私たち二人はいつもの通学路を歩く。
私の家からだと、だいたい十五分歩くくらいで学園についてしまう距離だ。
「あの人も昔から変わらないよね~」
私の母のことを指しながら、悠香が言う。
「お前も変わらないよな」
「それってどういう意味かなぁ? 」
「誰もそういう意味で言ってないが......」
「ん? そういう意味って何? どういう意味かな? 」
「......知らん」
「知らんって何よ?! 」
とぼける私に、そう突っ込む彼女。
母も悠香も、昔から変わらない印象だった。
それは性格のことや、その他いろいろなところが。
「悠香はどう思うんだよ、私のこと」
ふと気になった私は、出来るだけ自然を装いながら、彼女にそう聞いた。
「チンコの大きさのこと? 」
「ブッ......そういうこと外で言うな!! 」
突拍子もないそのセリフに、つい吹き出してしまう。
「大丈夫大丈夫、誰も聞いてないよ」
「はぁ......そうだな」
そんな頭の悪い会話をしながら、私たちは会話を続ける。
結局、肝心なところは聞き出せなかったが......。
ふと、悠香のカバンに目をやった。
「お前まだそれ持ってたのか」
「ん? あぁこれ? 」
それは例のウサギのキーホルダーだった。
もう、十四年も前のものをよく持っているな......。
まぁ、私も引き出しにしまってあるのだが。
「大切なもの、だからね」
「そう......か」
「結局ツッキー、あのキーホルダー一回も使ってくれなかったよね! 」
「え、そうだっけ......? 」
私はとぼける。
「ちゃんと覚えてるよ! 」
「私は、覚えてないからなぁ......」
当時、貰った当日のうちに大切に引き出しの中にしまってから、十四年間もの間、そのままの状態にしてある。
「ツッキーは、まだ持ってる? 」
「......」
そう聞かれて、私はちょっと考える。
「ツッキー? 」
「いや、どっか行っちゃったかな......」
まだ持ってるというのが何か恥ずかしく感じて、私は嘘をついた。
「えぇえ?! 」
思ってたより大きくリアクションする私の幼なじみ。
「なくさないでって約束したじゃん?! 」
「いつの話だと思ってんだ?! 」
「小学生の、入学式だよっ?! 」
「十四年前だぞ......」
「バカっ! いつかなんて関係ないよっ! 」
「えぇ......」
想像以上に落ち込んでいる様子の悠香。
「嘘だよウソ! 持ってる持ってる! 」
そんな彼女を見て申し訳ない気分になった私は、慌てて、そう正直に伝えた。
「今更そんなこと言われても信用できるわけないでしょ......。持ってる訳ないよね、十四年も前のなんて......」
どこか諦めるような表情でそう言う悠香。
彼女は信じてくれなかった。
(持ってるんだけどなぁ......)
嘘をついたことを、今更になって後悔する。
こうなってしまったらもう信じてくれないだろう、私はそう思って諦めた。
「ほら、学校着いたぞ」
話を変えようと、私はそう言った。
「そだね......」
「......おう」
さっきまでのテンションが嘘のように、彼女は落胆していた。
(コロコロ性格が変わるやつだな......)
私は心のなかで、そう思った。
「あっ」
「どうした? 」
元気がなくなった彼女を心配してか否か、つい、敏感に反応してしまう私。


「いや、綺麗な人だなって」
「あぁ、生徒会長か」
「うん」
悠香の見ている方向に映るのは、長くて黒い後ろ髪が印象的な、この学校の生徒会長の姿だった。


「えー、今日は始業式ということで、時間になったら体育館に移動お願いします。」
一ヶ月ぶりの、担任の声。
いや、全くうれしくないけど。
「はぁ......」
私は、周りが一斉に席を立って移動していくのを嫌そうに眺めながら、溜息をつく。
前に座っていた筈の悠香は、私には目もくれずに、他の女子と楽しそうに喋りながら教室から退出していく。
(あいつには友達いるんだよな......まぁ当たり前か)
私は友達がいない。彼女とは違って。
彼女が友達と話しているところを見ると、置いて行かれたような、寂しい気分になる。
私は、この気分が嫌いだった。
「はぁ......」
私はもう一度溜息をつき、重い体を起こして、他の人達に付いて行くように歩いた。


体育館につくと、各先生の長い話を淡々と聞かされる苦行が始まる。
休み明けだからか、貧血等で倒れる人がちょこちょこ現れるのも、もはや恒例である。
(眠い......)
私に至っては、休みの感覚が取れてないのは勿論、先日に三時まで起きてしまっているため、この時間は辛いものがあった。
自分の隣にいる悠香の様子をチラっと覗く。
彼女も少し辛そうにしている様子が伺えた。
ちょっと安心する。
無意識に、私は悠香の様子が気になってしまっていた。
そんなこと、別にどうだっていいことなのに。
とにかく、私はこの時間が早く終わってくれることを望んでいた。
「では次、生徒会長からの挨拶です。」
(まだあるのか......)
目を押さえ、眠気に耐えながら、私はそう思った。
「ねぇ......? 」
隣から小声で悠香の声が聞こえてきたので、反応する。
「......え? 」
「さっきのこと、許してあげる代わりにさ、答えて欲しいんだけど......」
「さっきのこと? 」
「キーホルダー」
「あぁ......」
(まだ怒ってたのか......)
「生徒会長さんのこと、どう思う? 」
「別になんとも」
「そっか」
「......」
(どういうことだ......? )
そもそも私はまともに生徒会長と話したことすらない、縁のない存在だ。
前を見ると、凛々しく話している会長の姿が見える。
再び隣を見ると、まるで何事もなかったかのように前を向く私の幼なじみ。
「......? 」
結局キーホルダーの件は許してくれたのだろうか。
私の頭には、無数のハテナマークが浮かぶばかりだった。


始業式を終え、私たちは教室に戻る。
担任から、この後の動きの説明を聞かされると、チャイムが鳴り、休憩時間になった。
私はかばんから一冊のライトノベルを取り出し、一人で読む。
休憩時間は、いつもこうしていた。
「......」
横目で、悠香の様子を確認してしまう。
彼女はいつも通り、友人と楽しそうに会話している。
それが異性ではなく、女性であることに、私は何故か安心していた。
(読書に集中しよう......)
私は彼女から目を離し、文字に視点を戻した。
「ツッキー! 」
さっき友人と話していたはずの悠香が、私を呼ぶ。
「うわぁあ?! 」
急に呼ばれて驚いた私は、変なリアクションを取ってしまう。
「本読むの好きだね」
「あぁ」
「何の本読んでるのかな? 」
そう言って中身を覗こうとしてくる悠香。
「ちょっ......?! 」
結果的に、悠香の顔と私の顔が接近する。
「は、離れろ?! 」
目の前にある、幼なじみの顔に耐え切れなかった私は、ついそう叫んでしまう。
すると、彼女は慌てて私との距離を開ける。
「あ、ごめんね......」
どこか困ったような表情をして謝る悠香。
「あぁ......いや、違うんだ、私の方こそすまん」
私は慌てて謝る。つい言ってしまったとはいえ、離れろは言い過ぎた。
「いやいいんだよ、邪魔しちゃってごめんね」
「いや悪いのは私だから」
私は、少し食い気味にそう言い切る。
その時の私は、なんだかちょっとムキになっていた。
「そだね、悪いのはツッキーだね! 」
「そうだよ! ......え? 」
「だから、この話は終わりっ! 」
そう言って、無理やりなかったことにする悠香。
「いやあのね、なんか寂しそうだったから」
「別に寂しくないよ」
「嘘だよ、さっきからずっとこっちチラチラ見てたでしょ? 」
「え......」
どうやらバレていたらしい。
「まるで、私に助けを求めるように見えたよ」
「なんでそんなことする必要があるんだよ」
「......ツッキー」
彼女が、私の背後にまわる。
そして、いきなり後ろから優しく私を抱きしめた。
「ちょっ......悠香?! 」
「私にできることあったら、もっと頼って欲しいな、ツッキーは特別な、人だから......」
「とりあえず離れよう、皆が見てる」
「大丈夫だって、私たち幼なじみじゃない」
「あのなぁ......」
こうやって悠香が私の身体に触れてからかうことは、少なくなかった。
しかし、今日のそれは、いつものそれとは違う、どこか特別な雰囲気があるように感じた。
「私不器用だからさ、こうやってしか、思いつかんかった、ごめん」
私から離れて、自分の前の席である、彼女自身の席に座る。
「公共の場では、気をつけてほしいかな」
「じゃあ、公共じゃないところではいいんだね」
「いや、その......」
そんな幼なじみとの会話は、慣れているようで、慣れない。
私と悠香の距離感は、まるで、噛み合いそうで噛み合わない、歯車のようだった。


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『アンタの身近にいるじゃないの、アンタに興味がある子』
『は? 誰? 』
『悠香ちゃん。たぶんあの子、アンタに気があるよ。私が保証する。』
私は、昨日の母の言葉を思い出していた。
『あいつは私をからかって楽しんでるだけで、私に気があるとか、そういう意図はない』
『そう? 』
『第一私は悠香の存在に迷惑しているのだ。そんな奴と付き合うなんて考えたくもない』
本当に迷惑だ。彼女がいるだけで、私は気になってしょうがない。落ち着いても本も読めない。
『嘘だね~。なんだかんだ言って、アンタたちすっごい息ぴったりに見えるもの』
『そう見えるだけだろ』
息ぴったり? そう見えるだけで、実際は噛み合ってない、相性最悪のコンビだよ。
もう十年以上もそばにいるのに、私と悠香の心の波長は、いつまで経っても合ってくれない。
『オタクで気持ち悪いアンタにあんなに喋りかけてくれてるんだよ? しかも嬉しそうに』
......悠香は悠香なりに、私との関係を良好なモノにしようと考えてくれているのだろうか――――


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次のホームルーム。私は担任にバレないように、携帯を開く。
普段はまず使うことのないメールアドレスを記入し、送信する文章を打ち込む。

『私、悠香に告白してみようと思うんだけど、大丈夫かな? 』

私はその文字を打ち込み終えると、少し躊躇いながらも、送信ボタンを押した。

――――それから五分くらいだろうか、返信は思ってたよりも早く帰ってきた。

『まず私にメールしてくる時点でアウト!! 』
『とりあえず「私」じゃなくて、「俺」に変えてみな。大丈夫、アンタたちは今も昔も、ずっと両思いだから』

優しさを感じる、母のその言葉。
私は、その言葉を胸に、覚悟を決める。
(今日の放課後だ。やるなら、早いほうが良い。すでに遅れてるようなものなのだから)
私は、目の前の彼女の後ろ姿を見ながら、そう決断した。


「悠香!ちょっといいか? 」
「えっ?! 」
ホームルームを終えてすぐ、私は目の前に居る彼女にそう言った。
「ど、どうしたの? いつも話しかけたりしてこないのに、珍しい」
「今日の放課後、空いてるか? 」
「えっ?! 空いてないよ......」
「そ、そっか......」
(さて、どうするか。今日がダメなら明日か。それとも悠香の用事が終わるのを待つか......)
(出来るだけ早いほうがいい。出来れば、人がいないところで......)
俺は、すぐさま頭の中で計画を立て直そうとする。
「......って言ったら、どうする? 」
「......え?」
そんな彼女の言葉に、私はつい力が抜けそうになった。
「そんなに大事なことなの? 」
「うん」
「今は、言えないことなんだ」
「そうだね......」
「そっか......」
何かを察する悠香。
彼女は、どこか楽しそうだけど、不安そうともとれる表情を浮かべていた。
「ごめん、今日部活があるんだよね」
「始業式からあるのか......」
そういえば、悠香は部活をしているんだったっけ。
「あるところはあるみたいだね」
「そうか......じゃあ今日は無理だな」
「あぁでも、部活に行くまで三十分くらい余裕あるから、その時に話してくれれば大丈夫だよ!! 」
「お、おう......分かった」
ちょっと食い気味にそう言ってくる悠香に、私は動揺する。
「じゃ......じゃあ、授業終わったら、またここで話そっか」
「できれば、人が減ってきてからがいいかも」
「ここのクラスの人は皆すぐ帰っちゃうから、大丈夫でしょ」
「だな」
そうして、一生に一度とも言える大事な約束が、一つできた。


それから、時間が凄く長く感じた。
なんとなく放課後なんて言ったが、幸いか不幸か、今日は始業式なので、午前中で授業が終わってしまう。
次のホームルームの授業を終えると、その時はやってきてしまうのだ。
もう、覚悟するしか無い。私は、そう思うのが精一杯だった。


ホームルームの時間。私はまともに授業を聞く余裕など残されていなかった。
「おい高槻、ちゃんと聞いてるのか? 」
「あっ、はい聞いてます。」
「何やらボーッとしてるみたいだが、お前は成績も良くないんだから、話くらいはちゃんと聞こうな」
「はい......」
やばい、周りからも見ても分かるくらいに、完全に動揺していた。
私は、この後の告白の件で頭がいっぱいだった。
「おい天奈、お前もなんかボーッとしてるように見えるぞ? ちゃんと話を聞いてるか? 」
「......あっ! すみません聞いてます聞いてます!! 」
「今明日について大事な話をしてるんだから、ちゃんと聞け」
「はい......」
(悠香も俺と同じ心境なのか......? )
先生にそう言われる彼女は、何やら動揺しているようだった。
(まさか告白することが察せられてる...? )
何かと察しがいい彼女のことだ。放課後何を言われるか気づいていてもおかしくない。
というか気づいているんだろう。私は長年の勘で、そう感じた。
(まぁ、バレてたとしても、関係はない。私は思いを伝えるだけだ......)
自分の鼓動の加速を感じながら、必死に先生の話を聞くフリをした。


「ホームルーム、終わっちゃったね」
ホームルームが終わるや否や、悠香はこっちを向いてそう言ってくる
「あ、あぁ......」
放課後になり、周りの人が、次第に減っていく。
自分のだんだん早くなっていく鼓動の音が、嫌というほど耳に聞こえてくる。
さっき先生に注意されたこともあり、周りから今変な目で見られてないだろうか。
そんな状況を確認する余裕すら、今の私にはなかった。
もしかしたら、彼女も、今同じ心境なのだろうか。
何もその根拠など無かったが、そう思うことで、少し楽になれる気がしていた。
「さっきのホームルームの時間、大変だったね~」
気を紛らそうとしてるのか、悠香がそう言ってくる。
「そ、そうだな~」
「二人して同じこと注意されるとか、ほんと面白い」
そう言って笑う悠香。どこか、ぎこちないようにも見えた。
ホームルームが終わってから、だいたい三分後、クラスから人が完全にいなくなるまで、そんなに時間はかからなかった。
「人、いなくなったから、言うな......」
「うん」
いよいよ、その時がやって来た。
人がいなくなり、一気に静まり返る教室。
これから私が言う言葉を遮るものは、どこにもない。
二人だけの空間だった。


―――俺と、恋人同士になってくれ


私――俺は一言も噛むことなく、間違いなくそう言った。


それから、二人の間に沈黙の時間が流れる。
十秒くらいだっただろうか。今の自分には、それがとても長く感じた。
「俺......って、言ったね。昔の高槻くんみたいだな」
「あ、あぁ......」
小学生くらいだっただろうか。まだ "高槻くん" と俺を呼んでいた頃。
特に思い当たる記憶はなかったが、悠香との記憶は、たくさん残ってた。
「......ねぇ、高槻くん」
「な......なんだ? 」
「朝も話してたと思うけど、キーホルダーの話、覚えてる? 」
「あぁ、覚えてる」
ウサギのキーホルダー。
小学生の入学式の時、悠香から貰った、大切な思い出の品。
さすがに使ってはいないが、今でも大切に保管している。
「私ね、あの時から高槻くんのこと好きだったんだ。」
「......うん」
「で、今も好き」
「......うん」
「でも、告白には答えられないな......」
「......え?」
......ダメだったか。
告白なんてしなければ、普通の親友として、関係を続けられたのかもしれないのに。
今回の件で、間違いなくヒビが入っただろうな。
ほら、母の言うことなど、まともに信用するべきではなかったのだ。
一瞬にして、そんな消極的な思いが込み上がってくる。
でも、どうしてだ?
悠香は、今でも俺のことが好きと、確かに言った。
なら、なぜ告白を断ったのだろうか?
「一つ、条件があります」
俺が理由を聞こうとすると、それを遮るようにそんなことを言い出す悠香。
「......え? 」
「キーホルダー、見つけてきて」
それは、とても分かりやすい内容だった。
「じゃあ、そろそろ部活始まっちゃうから!」
そう言って、私から逃げるように走りだしてしまう彼女。
「あ、おいっ?! 」
「じゃあね! 」
その顔は、先程までの真面目な顔とは異なった、嬉しそうな表情をしていた。


(だから、キーホルダー持ってるって......)
俺がそう言う隙も与えず、 悠香は走り去った。
「捨てるわけ、ないだろ......」
俺だって、あの時からお前のことが好きだったんだから――――
「仕方ない、帰るか......」
行ってしまたんだから、仕方がない。
今更追いかけても、もう遅いだろう。
そもそも、キーホルダーなら持っている、と口で言ったところで、彼女は信じない。
「あ、そういえば今日ゲームの特典の配布日だったっけ」
昨日の夜にやっていたゲームの発売記念に、ゲーム購入時のレシートを持ってショップに行けばサイン色紙が貰えたはずだ。
(部活が終わるのは、いつだったっけ)
そんなことを思いながら、都合よく財布に入れたままだったレシートを確認し、幼なじみを待つ時間つぶしにショップへ寄っていくことにした。


「着いた着いた」
ショップに着いた俺は、特典を回収しに美少女ゲームコーナーを目指す。
「やっぱ、落ち着くな~ここは......」
美少女ゲーム好きにとって、美少女ゲームコーナーは宝の山でもある。
有名な作品から、マニアックなもの、プレミアがついたものなど、見回っているだけで楽しい。
「ついでになんか買っていこうかな~」
つい先ほどまでの緊張が浄化されてくような、そんな気分。
俺は、自分でもはっきり分かるほど上機嫌だった。


つい手に取ってしまった商品を持ちながら列に並んでいると、美少女ゲームコーナーに女性客が入ってきた。
(おぉ、珍しいな)
恥ずかしいのか、厳重にもマスクとサングラスをかけているのが分かった。
(余計目立つんだよなぁ......)
その人は、女性にしては高身長で、長い黒髪をしているのが分かった。
(あれ......? )
どこかで見たことがあるような気がした。
俺は、今日あったことを一から思い出す。
そうすると、一人の人物像が頭に浮かんだ。
「......会長?! 」
俺は、その名前をうっかり口に出してしまう。
「えっ?! 」
そんな俺の声が聞こえたのか、例の女性がその言葉に反応した。
その声は、今朝にも聞いた、透き通った声と同じものだった......。


「言うなよ? 絶対に言うなよ?! 」
これでこのセリフを聞くのは何回目だろう。
確か、六回目だった筈。非常にしつこい。
しかし、そんなことよりも、今は大きな問題があった。
「分かってますって......それよりも会長...... "ここ" から出ましょう? 」
その問題というのは、今僕らが、店内の男子トイレにいることだった。
彼女――会長は、ひとます人目のつかないところに移動するというのだが、流石にここはますいですって。
ましてやマスクとサングラスという格好で。
「とりあえず、違う場所に移動しましょう......ね、会長? 」
「じゃあ女子トイレにするか? 」
「トイレから頭を離してくれ!! 」
自分の中の会長のイメージが、一気に崩れ去っていくのが分かった。


「ふぅ......恥ずかしいところを見せてしまい、申し訳ない......」
「いや、別に......」
ひとまず俺と会長は、近くのファミレスに移動した。
今回の例におごってあげると言われたが、初対面にそんなことを頼む勇気はなく、断った。
「本当に良いのか?」
「何がですか?」
「おごってやると言っている」
「大丈夫ですって......」
「じゃあ誰にも言わないと、絶対に約束して欲しい! 」
これで九回目になる。もう聞き飽きた。
「誰にも言いませんよ。それよりも、僕は会長がまさか美少女ゲームに興味あったなんて驚きですよ」
「君も興味があるみたいだな」
「ありますねぇ! 」
俺は食い気味にそう言った。
ただでさえそういうことに関心がない人ばかりの学園に退屈していたところに、同じような人がいたというだけで、とても嬉しいことである。
「今日は色紙を回収しに来たんだ。最近発売したばかりのあれ」
「あぁ、僕もそうなんですよ、やったけど面白かったですよ」
「おぉ!私もやったんだが、すごく感動した!!特にあのシーンの......――


時刻は、気づけば十九時半を回っていた。
学校を出たのは、確か十三時くらいだったはず。
あれから会長と色んな店を回っていたら、気づけばこんな時間である。
やはり、同じ趣味を持った人間と過ごす時間は、面白い。
「いやぁ、今日はとっても楽しかったよ、ありがとう。」
「こちらこそ楽しかったです。ありがとうございます。」
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」
「あぁ、そうでしたね......」
「私は早瀬 ソウという名だ。よろしく」
そう言って、会長に名刺を差し出される。
「高槻 氷里と言います。僕は名刺持ってないんで、申し訳ないですが、覚えてもらえれば幸いです......」
会長が差し出してくれた名刺を受け取りながら、そう謝った。
「高槻 氷里くんか......覚えた」
「ありがとうございます。」
(なんだか暑苦しい人だ......)
「なんて呼べばいい?」
「なんでもいいです。会長は会長のままでいいですよね? 」
「私もなんでもいいかな。とりあえず氷里くんと呼ばせてもらうよ」
いきなり会ったばかりの人に下の名前で呼んでしまうところも、非常に暑苦しい。
「氷里くん、今日から君も、私の友達だ」
「嬉しいです」
「ところで彼女とかいるのか? 」
「ブッ?! 」
突然聞いてくる会長に、私は分かりやすく驚いた。
「あぁ、ごめん、いないならいいんだ......」
「まだ何も言ってないです。」
「あ、そうそう、連絡先だけ交換しといてもいいかな? 」
「あぁ、大丈夫ですよ......」
突然彼女の有無を聞いたり、連絡先を聞いてきたりと、コロコロと話を変える人だ。
ただでさえコミュ力が低い俺は、その話についていけなくなりつつある。
俺は会長に限らず、昔からよく人に振り回されることが多かった。だから、こういうことにも慣れている。
「じゃあ私は帰るので、また連絡すると思うんで」
「あ、はい、お疲れ様です」
「あと、絶対に言わないように」
「分かりましたからっ!! 」
もう、何回目だったか覚えていないその言葉を最後に、会長は帰っていった。

「あ......悠香......」
いけない、会長とのショップ探索に夢中になりすぎた。
もう、家に帰ってるかもしれない。
慌てて携帯をチェックする。
電話一件と、メール一件。どちらも悠香から。
(やってしまった......)
マナーモードにしとくんじゃなかったと、激しく後悔した。
幼なじみのメールを、無駄に慎重になりながら開く。

――氷里、キーホルダーは今日の夜二十時までだかんね!!――
「え......? 」
今は、時刻十九時四十分を過ぎたところだ。
ここからは、家まで大体三十分かかる。
「クッソオオオオオオ!!! 」
"ツッキー" ではなく、さりげなく下の名前で呼び捨てにされてることに感激しながら、俺はキーホルダー目指して駆け出した。


時刻は、二十時三分。
(とりあえずキーホルダーを回収しなきゃ......)
少し過ぎてしまったと後悔しつつ、自宅の部屋を開ける。
「ただいま」
声は聞こえてこない。出かけているのだろうか。
靴を確認する。
「......ん?」
そこには、母の物とは思えない可愛らしい靴が置いてあった。
ちなみに、母自身の靴はどこにも見当たらない。
(この靴......今日悠香が履いてた靴のような......)
「氷里っ......氷里っ......」
「?! 」
今、確かに、悠香の声が聞こえた。
何やら、色っぽい声だった。
それは、俺の部屋の方からだった。
(なんで悠香が俺の部屋に......? )
俺は何が起きているかをこの目で確かめるために、自分の部屋へ向かう。


現場に近づくにつれ、何者か(悠香)の声が大きくなっていくのが分かった。
部屋にたどり着くと、俺は扉を思い切り開けて叫ぶ。
「悠香?! 」


「はぁ......はぁ......イクウウウウウウウウウウウウウウウ!!」


扉を開けたその先には、何かを終えて、満足そうな顔をしている悠香の姿があった。
「ゆ、悠香......」
「...こ、氷里......?! 」
「......」
俺は、無言で携帯を取り出す。
「いちいちきゅーっと......」
「ちょ......ちょっと待ってぇえええええええええええええ」
自分の愛用している、女の子が描かれた抱き枕を抱きしめながら、勝手に出したであろう俺のパンツを鼻にこすりつけて、盛大にオナニーしている未来の恋人の姿が、そこにはあった。


「氷里がいつまでたっても帰ってこないから、ちょっと部屋覗いてみようかな......と思ったのよ!!」
まるで俺が悪いように言う悠香。
「で、なんでそんなビショビショになってんだよ......」
ビショ濡れになった部屋のシーツを拭いている悠香を見て、俺はそう聞く。
本当は理由は分かってるのだけど。
「それは......」
顔を真っ赤にする悠香。
可愛い。
「まぁ、それは後でいいや。とりあえず、なんで悠香がここにいるんだ? 」
「......」
シーツを拭くのを一旦やめた悠香が、ちょっと困ったような表情で黙っていた。
「黙ってちゃ分かんないだろ」
「私、ここにお世話になることにしました。」
「へ? 」
「氷里のお母さんには、もう許可取ってあるんだ」
「えっ......悠香の両親にも? 」
「もちろん」
「そうか......」
なんとなく状況が掴めてきた。
俺のいないところで、勝手に話が進んでたのだ。
そんなにまでして俺と悠香をくっつけたいのか......
「......いつ頃からその話は決まってたんだ? 」
「昨日の夜」
「......」
なるほど、だから昨日の夜中母はあんなこと言ってきたのか。


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『アンタの身近にいるじゃないの、アンタに興味がある子』
『は? 誰? 』
『悠香ちゃん。たぶんあの子、アンタに気があるよ。私が保証する。』
わざわざ悠香の名前を出していたのはそういうことだったのか。


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「はぁ......」
自分の頭の中で、分からなかったピースがはめこまれていく。
理解するのと同時に、疲れで溜め息が出た。
「とりあえず母さんに電話してみるわ」
「あぁ、しばらく帰ってこないんだって、氷里の母さん」
「えっ?! なんで?! ちょっと出掛けてるだけじゃないの?! 」
「二人の邪魔はできないって、お金だけは出してあげるからって」
「またそんな勝手なことを......」
さっきから知らなかった事実が連続で明らかになって、頭がついていけなくなる。
「ちょっと電話する」
俺はおもむろに携帯を取り出し、母の番号に繋ぐ。
「......」
氷里は、そんな俺を黙って見つめていた。
「......もっと素直になればいいのに」
そう小声で言う氷里を片目に、電話の電子音を聞きながら母の反応を待った。
無機質な電子音が消え、母の電話と繋がったのを確認すると、私は話を切り出そうとする。
「もしもし? 」
「あぁ~氷里? どうだった? サプライズ? 」
「勝手なことしないでくれ......」
簡単にしばらく家を出る、なんて言われても、こっちは困るのだ。
「え? だって告白は成功したんでしょ? 悠香ちゃんから聞いたけど」
悠香から聞いたってことは、悠香は俺が帰ってくる前に母と会ってたってことか。
「いやまぁそうだが......」
「アンタ、もっと素直に行きたほうが、幸せなこともあるのよ? 」
「......悠香からも同じこと言われたわ」
皮肉をこめて、俺はそう言った。
「やっぱり? 」
「あぁ」
「でも、私がいなくなったところで困らないでしょ? 二人の邪魔になるだけだし? あ、もしかして寂しかった? 」
「もういい、切る」
「あぁ待って、最後に言っとくと、これ全部悠香ちゃんに頼まれてやったんだよ」
「え? 」
「あぁ~言っちゃった、悠香ちゃんには言わないでって言われてたんだけどな~」
悠香と俺をくっつけるために母が仕込んだことではないのか。
「昨日の夜、鈍感なアンタに私の想いを気づかせてやって欲しい!って、悠香ちゃんが。そこから始まったの。私は恋のキューピットになったって訳」
「......全部母さんが仕込んだことかと思った」
「なんで私がそんなことする必要があんのよ? まぁアンタたちのラブラブっぷりを見てれば、もう付き合っているようなもんだったし、未だに恋人になってなかったことに驚いたくらい」
「そうですか......」
「あぁ、一応悠香ちゃんの中では、自分から頼んだってことはアンタには秘密になってるから、そこら辺よろしくね」
「明かしちゃって良かったんですかね」
「馬鹿ね~その方がアンタもやりやすいでしょ? じゃあ、切るから」
「......あ、ちょっと待って! 」
俺は、言わなければいけないことを思いついて、慌ててそう叫ぶ。
「ん? 何? 」
「あ......」
「あ......? 」
「......いや、なんでもない」
俺は、結局その言葉を口にすることはできなかった。
「そう......じゃあね。定期的には帰ってくるようにするから、あと結婚式の日が決まったら真っ先に私に報告するように! 」
「あぁ、ありがとう」
俺はさりげなく、言えなかったその言葉を口に出す。
「じゃ、また」
そんな母の言葉を最後に、電話の通信が切れた。
(......気が早いな)
母の聞こえないところで、俺はそう頭の中で母に突っ込んだ。
「終わった?」
母との電話を終え、携帯をしまうと、シーツを吹き終えた幼なじみがそう言ってくる。
「あぁ」
「あのさ? 」
「......え? 」
「私もさ、ツッキーに聞きたいことがあるんだけど」
「な、何? 」
「私が部活に行ってから、ツッキーが家に帰ってくるまでの時間、ツッキー何してたの? 」
「えっ? 」
俺は、戸惑った。
「言ってよ」
「会長と、遊んでた。」
俺は会長と"友達"になっただけだ。
変な誤解をされないように、俺は正直に伝える。
「変なことは、何もしてない」
俺はきっぱりとそう言った。
「高槻くんに友達なんて、できる訳ない!! なんて思ってたけど......」
さりげなく毒を吐く、俺の幼なじみ。
「ましてや生徒会長さんとなんて......私でもロクに喋ったことないのに!! 」
「ハ、ハハハ......」
(その理由はアレだけど......)
「......どうやって仲良くなったのか知らないけど、良かったじゃん」
「あ、あぁ......」
「いつも一人だからさ、友達作って欲しかったんだよね~氷里には」
「クラスには全然いないけどな」
そういって俺は苦笑する。
「私がいるでしょ? 」
怒った顔でそういう悠香。
「悠香は恋人だから数えてない」
「あっ......なるほど......」
照れ隠しか、小さい声になる悠香が、たまらなく愛おしくなる。
「私、実はね、氷里が今日女の人といるところを、たまたま見ちゃったんだよね......」
「会長か......」
「それからずっとあなたの部屋で泣いて、いっぱい泣いて、約束の時間になっても来なくて、辛くてあんなこともして......」
「会長は......ただの友達だ」
「ほんと? 」
「あぁ」
「嘘だったら、覚えておいてね」
「本当だって......悠香こそ浮気したら許さないからな」
「私が氷里以外の人、好きになる訳ないもん」
「そ、そうか......」
そう言われて、俺はついニヤけそうになるのを堪えた。
「で、さっきの話。」
「えっ? 」
「私が勝手に、ここに住むって話だけど」
「うん」
正直、さっきの母との電話もあり、一緒に住むという話に関しては、もう許した気分だった。
「氷里に内緒で勝手を言ってるのは、悪いと思ってるよ」
「うん」
「氷里は、嬉しくない? 」
「え? 」
「嬉しくないなら、私は今すぐ家に戻るよ」
真面目な顔でそう言ってくる彼女。
だから俺も、真面目な顔でそれに答える。
「俺の机の、上からニ番目の引き出し。」
「......え? 」
「......それが、俺の答えだ。」
どんなプロポーズだよ、と突っ込みたくなるようなセリフを自分で言いながら、少し恥ずかしくなる。
もっと自然に言うつもりだったのだが......他に言葉が思いつかなかったのだから、仕方がない。
悠香が立ち上がり、俺が言ったところの引き出しを開ける。
「鍵......? 」
「それを使って、今度はあっちの引き出しの三段目だ。」
俺のその言葉に従い、鍵を開ける悠香。
「あの......また鍵なんですけど......」
「じゃあ、それを使って、今度はあっちの......――


「はぁ、やっと鍵以外の物が出てきた......」
合計で十箇所の引き出しを開けた彼女は、四桁の南京錠が掛かった小さな箱を取り出す。
「なにこれ? 」
「サンサンゴーイチ」
「え? 」
「これで南京錠が開く筈......」
悠香は言われた通り、南京錠の数値を「3351」にすると、もう何年も開かれることのなかったであろう、鍵が解除される。
そこには十四年ぶりに見る、ウサギのキーホルダーが入っていた。
「私のウサギのキーホルダー......持ってないんじゃ......」
「持ってるって言ったんだけど、悠香が信じてくれないから」
「こんな厳重に? 」
「そうだよ......悪いか? 」
追求してくる悠香に、少し照れてしまう。
「な~んにも悪くないっ!」
「うわぁ?!」
そう言うと、悠香は俺に飛びつき、抱きしめる。
「好きいいいいいいい」
「痛い痛い......」
悠香に体全身で抱きしめられ、俺は密かにニヤけていた。
「ちなみに、なんでサンサンゴーイチなの?」
身体を離すと、悠香がそう聞いてくる。
「サンサンはウサギのミミ、で、ゴーイチが......」
「うん......」
「......いや、適当に決めた!ハハハ......」
「恋? とか」
「察しがいいな......」
「えっ、この南京錠かけたのって、確か......」
「十四年前。」
「ってことは......? 」
「あの頃から好きだった。」
俺は小声で、そう言った。
「......もう一回抱きしめてもいい? 」
「ダメ」
そんな俺の忠告など最初から聞く気も無かったかのように、彼女に再び抱きしめられる。
しかし、今度は先ほどとは違う、優しいものだった。
「ねぇ......氷里? 」
「ん? 」
「好き」
「あ、あぁ......」
俺は抱きしめられながらそう言われ、凄く恥ずかしくなる。
「もう、条件はないよな? 」
俺はキーホルダーの件を思い出しながら、そう聞いた。
「うん」
「じゃあ、俺も抱きしめていいか? 」
「うん......むしろ、早く抱きしめてほしいかも」
「わ、分かった......」
彼女にそう言われ、自分の手を彼女の背中に回す。
互いに抱きしめあう形になった。
「好きだ。」
俺は、彼女に言い返すように、そう口に出した。
「うん......!! 」
「......そういえば、さ」
「うん? 」
俺はそのままの体制で、思い出したように、口を開く。
「母さんに頼んだのって、悠香らしいな」
「えっ?! なんでそれを......」
「母さんに、さっき電話で聞かされたよ」
「そっか......」
母に聞いておいた"秘密"を、ここで使う。
「待たせて、悪かったな」
「ほんとだよ......!! 」
彼女の目から、うっすら涙が流れてるのが分かった。
「ずっと、待ってたよ......!! 」
「あぁ」
俺は、自分の正式な恋人の頭を撫でながら、そう言った。
「もっと撫でて......」
「あ、あぁ......いくらでも撫でてやる! 」
「ウフフ......! 」
俺が頭を優しく撫でてやると、とても嬉しそうに笑う幼なじみの姿に、俺はいろいろと変な気分にさせられる。
「抱きしめるだけじゃ、足りない......」
俺に撫でられて顔を真っ赤に染め上げた悠香は、何か物欲しそうなトローンとした顔で、こちらを下から見上げてくる。
「え......」
童貞の俺は、それだけでイチコロだった。
その彼女の表情を見ただけで、俺の下半身は反応してしまう。
「あっ氷里......それ......」
氷里が俺の下半身を見つめながら、そう言ってきた。
俺のまずい状況に、悠香も気づいてしまったらしい。
「あの......」
「......」
互いに何も言えなくなり、周りが静かな空気に包まれる。
(俺、悠香と一つになりたい)
これが美少女ゲームの世界なら、それが言えたかもしれない。
しかし現実になると、そうはいかない。
「氷里......」
先に沈黙を破ったのは、彼女の方だった。
「今日、どこまで、やる? 」
悠香が覚悟を決めるかのように、そう聞いてきた。
「えっそれは......」
「私たち、恋人になったばっかりだけど、実際は十年以上も待ってたようなもんじゃん? 」
「あ、あぁ」
「だから、さ......」
「あっ」
そう言いながら、突然俺の立ち上がったそれを、スボンの上から手で掴む悠香に、俺の鼓動は一気に加速する。
「我慢しなくても、よくない......? 」
「お、俺も我慢したくない」
心を決めてくれた彼女に、俺が答えないわけにはいかない。
そう思った俺は、出来る限り男らしく振る舞おうと思った。
「じゃあ、もう一回、聞くね? 」
「うん」
「今日、どこまで、やる? 」
「最後まで」
「......エッチ」
間を開けてから、悠香は小さくそう言った。


と言っても、互いに何も分からない状態だ。
何から始めたらいいのかも分からず、二人は戸惑う。
「氷里から攻めてきてよ......」
「え? 」
「いや、氷里の方がそういう知識詳しいかな~と思ってさ、エッチなゲームとかやってるし! 」
「ああいうのは嘘の方が多いからな」
「とにかく!最後までやるんでしょ! 」
「やりたい」
「とりあえず、なんでもいいからやってみよ......! 」
「悠香と、キスしたい」
「うん、私も、したい......」
「じゃあ、しようか」
「......はい」


「んっ......」
最初は、歯が当たったりして、なかなかうまくいかなかった。
「これだから童貞は......」
なかなかうまくいかない俺に対して、悠香がそんなことを言ってくる。
「お前も処女だろう」
「一緒に練習していこ......今日もいっぱい......」
「あぁ......」
それだけ言い終えると、俺たちは無言で、ひたすらキスを繰り返す。愛し合うために。
何回か繰り返していくうちに、なんとなくキスの感覚を掴んでいった。
「んっ......んん......っ」
自分よりちょっと背の低い彼女を少し見下ろすような形で、彼女を少し見上げるような形で。
顔を傾けてみたり、口を動かしたりしながら、一番気持ちのいいポイントを探っていく。二人で。
「んっ......んんっ?!」
少し舌を入れてみると、彼女がビクッと反応したが、次第に受け入れるようになり、向こうからも舌を入れようとしてくるのが分かった。
クチャクチャとなんだか嫌らしい音が室内に響く。
自分の部屋に好きな人を連れて、ディープキスの練習をしているという事実に、俺は興奮を覚えていた。
キスをしながら、自部屋の周りに飾られている美少女たちを見る。なんだか悪いことをした気分だ。
これからこの部屋で彼女とすごすことが多くなると思うと、これらも片付けなければならない。
俺は、そんなものを忘れるくらい、ひたすらに彼女の唇を求めた。
「んんっ、はぁっ!んんっっ!」
呼吸するために一度唇を離すと、その時間が恋しくて耐えられず、またすぐに唇を元に戻す。
次第に悠香の顔がトローンとしていくのが分かった。
互いにキスをしながら、手を自分の方へ回してくる悠香。
自分も彼女の背中に手を回し、抱擁する。唇は決して離さずに。
それから三十分くらい続けただろうか。
唇を離すと、互いに見つめ合いながら、また軽く口付けをした。
「ハァ......ハァ......」
ずっとキスをし続けたせいで、二人とも呼吸が荒い。


「ちょっと休憩するか? 」
悠香を心配して、俺はそう聞く。
「......嫌、このまま、続きしたい......」
「......分かった」
完全に女の顔になってしまった悠香の顔を見て、俺も休憩などしている気分にはなれなかった。
「氷里のそれも、限界みたいだし......」
先ほどの三十分のキスで、俺の下半身もすでに限界が来ていた。
「ベッドに移動しよう」
「うん......」
キスでフラフラになってる悠香を支えながら、二人でベッドへ歩いて行く。
「キスする前にベッドにいれば良かったな」
「ほんとだよ~」
ベッドがそんなに遠くにある訳ではないが、今の二人には、その時間すら無駄なものだった。
(早く、繋がりたい)
たぶん、彼女もそう思ってるだろう。
俺は、一秒でも早く彼女と愛し合いたかった。


「次......どうする? 」
ベッドに座り、悠香がもの欲しそうにこちらを見つめながらそう言う。
もう今すぐにでも挿れたいと思わせるその表情に、俺は呼吸が荒くなる。
「と、とりあえず舐めてもらおうかな......」
俺は、慣れない口調でそう言う。
「......う、うん」
それでも、悠香は優しく受け入れてくれる。
俺は、ズボンのベルトを外し、ズボンを膝の位置まで下ろす。
彼女はその間、絶対に見逃さないと言わんばかりの目で、俺の下半身の一部を捉えていた。
パンツも膝の部分まで下ろすと、いきり勃ったモノを彼女に見せつける。


「......」
大きさは計ったことがあり、普通の人の平均よりも少し大きかったため、多少なりとも自信はあった。
だが、実際に見られるととても恥ずかしいものがある。
俺は、モノを見つめる彼女の顔をしっかりと見ることができなかった。
「おっきい......」
素直な感想を述べる彼女。それが俺にとって、とても恥ずかしい。
「こんなのが、これから私のアソコに入るんだよね」
不思議な生物でも見るかのように、ピクピクしてるそれを近くに来て見つめる悠香。
「なんかピクピクしてるね」
「き、緊張してるんだよ」
俺はとりあえず適当なことを言っておいた。
「そうなの? 」
彼女は、俺の棒を優しく撫で始める。
「うっ......」
「あっ撫でて大丈夫だった?」
「......大丈夫、気持よくて声が出ちゃっただけだから気にしない続けて」
「分かりました......! 」
そういうと、彼女は再びそれを撫で始める。
「撫でるの好きだな......」
「さっきの撫で返しだよ~」
撫でられるたびに、俺の棒はピクピクそれ以上の快感を求めてしまう。
「撫でてるのに緊張が収まらないなぁ......」
「そ、そろそろ舐めて欲しいかな......」
そう言うと、棒の先っちょに顔を近づけた悠香が、上目遣いでこっちを見てくる。
「我慢出来ない? 」
「出来ないかも」
「フゥ......フゥ......」
先っちょ目掛けて息を吹きかける悠香。
「クッ......」
堪らず声が出てしまう。
「今からいっぱい気持ちよくしてくれるんだから、その為にいっぱい元気になってもらうからね~」
そう言って、舌を出して先の方をペロペロしてくる。
初めてのその快感に、最初は違和感を覚えたが、彼女が舐めてくれる度に、次第に慣れてくる。
悠香も、自分でオナニーしてたくらいだから、ある程度の知識はあるのだろうか。
軽く舐め終えると、次は肉棒を口に入れて、前後に往復する。
「これでいいのかな...? 」
「舌も動かして欲しい......あと手でもしごきながら」
「うん......」
言われたとおりに実行してくれる悠香。
初めてなりに頑張って自分を気持ちよくしてくれようとする悠香の姿がたまらなく恋しくて、頭が蕩けそうになる。
「どう......気持ちいい......かな? 」
心配そうにそう聞いてくる彼女。
「あ、あぁ......それはもう堪らなく」
「良かった......、して欲しいことなんでも言っていいからね」
「じゃ、じゃあもっと激しくしごいて欲しい」
「うん」
言われたとおり、手と口の前後運動が早くなる。
「これで...どう......!! 」
「ハァ...気持ちいいよ......ハァ......ハァ......」
「ンッ! ンッ! ンッ! 」
邪魔になる髪を持ち上げながら、懸命になって奉仕してくれる悠香が、とても愛おしい。
「はぁ......ヤバイ......イキそう......! 」
「えっ...? 」
チンコへの刺激と、頑張ってくれる彼女を眺めてるだけで、すぐにでも絶頂しそうになる。
「ま、まだイっちゃダメっ!! 」
「えっ......」


そう言って途中でやめてしまう彼女。
「だってまだ私の身体、何も弄ってもらえてないもん......」
黒いニーソックス同士を擦れ合わせながら、足をウジウジさせる悠香。
「今度は私の身体、弄って欲しいな......」
「わ、分かった......」
我慢するのが辛い自分の下半身に喝を入れつつ、俺は彼女の上の服を脱がせていく。


「あっ......」
ピンクのブラジャーが、自分の目に映る。
「恥ずかしい......」
「外すよ? 」
「はい......」
俺は背中のホックに手を掛けてみるが、なかなかうまく行かない。
俺はそれを誤魔化すように、悠香の唇を奪う。
「んんっっ?! 」
油断していたのか、驚く表情を見せる彼女。
しかしすぐに受け入れ、舌を絡めてくれる。
先ほどのキスの感触をまた思い出し、また頭が蕩けそうだ。
なんとかホックを取ることに成功した俺は、少し安堵しながら取れたブラジャーを邪魔にならない場所へ置く。
あらわになったそれは、外から見てたよりも少し大きく感じた。
「結構大きいな」
「結構って何? 」
ちょっと怒り気味に言う悠香。
「いや、なんでもない......」
俺はそう謝ると、まぁまぁ豊富な乳房の中心にある乳首の周りを、親指でグルグルと撫で回す。
「ハァァ...嫌らしいよぉ......」
「ごめん、俺変態なんだ」
「わ、私もエッチだからおあいこ...ひゃあっ?! 」
乳首周りを触ることで、早く弄って欲しいと言わんばかりに固く立っている乳首の中心を、思い切りしゃぶってやる。
「ああっ、だめぇっ......!! 気持ち良すぎて......ハァ......ああんっ......」
もう片方の乳首も親指と人差指でこねくり回すと、何かを求めるように、膝と膝をこすりつける悠香の足の姿が目に入った。


乳首から一旦口を離すと、彼女に覆いかぶさるように横になる。
俺が何をしようとしたか分かった悠香は、素直に俺の下に横になってくれる。
「もう、我慢できないかも......」
「うん、私も......」
俺は彼女の短いスカートの中に手を伸ばした。
「んっ......」
彼女の反応を伺いながら、太ももを撫で回す。
それだけで、トロけた表情を作ってくる彼女の頬をもう片方の手で触る。
「好きだ」
「私も、大好き......」
そう言ってから軽くキスをして、俺は慣れない手つきで、パンツの上から膣の部分を上下に撫でる。
「んっ、氷里ぃ......」
ベッドのシーツを掴む悠香。
彼女の顔は、どこか不安を煽っているようだった。
「......やめとくか? 」
「えっ......? 」
「何か、不安そうな顔してる」
「嫌......」
中断しようとする俺に、悠香はそう訴えてくる。
「最後までやるって、約束だからっ......! 」
そう言って俺の手を強く掴む悠香。
「今日は中出ししてくれるまで、逃がさないからっ......!! 」
「分かった」
ここまで言わせておいて、俺ももう引くに引けなくなった。
「初めてだから......ちゃんと嫌でも忘れられない日にしてね......? 」
「おう、任せとけ」
彼女に心配をかけさせたくなくて、俺はそう強がってみせた。
俺は、再び体制を作りなおした。
悠香に覆いかぶさる形。いわゆる正常位の形を作る。
「じゃあ、触るぞ......」
「うん......」
彼女の了承を得たのを聞き、自分の手をもう一度スカートの中へ。
先ほどと同じように、まずはパンツの上から、膣の形に沿って指を上下になぞる
「んっ......」
彼女の表情をしっかり見守りながら、俺は慎重になりながら指を上下に動かし続けた。
「はぁ......はぁ......」
膣が徐々に湿ってくるのを確認すると同時に、彼女の息も荒くなっていくのが分かった。
「スカート、邪魔だから脱がすな」
「オッケー......」
まだ緊張してるのか、余裕なさそうにそう答える悠香。
俺がリードしなければ。
スカートのファスナーを開けながら、自分の呼吸を整える。
全部脱げるように腰を上げてくれる彼女に合わせながら、俺はスカートを下ろしていく。


脱ぎきったスカートを地面に置き、パンツとニーソックス以外何も身に着けているものがなくなり、寝そべっている悠香を、足側から改めて眺める。
「興奮、する? 私の身体」
「チンコがこうなってしまうくらいには、興奮してる」
愛おしくて、初めての生身である悠香の身体に反応しすぎてさっきから辛くなってる肉棒を見せながら、俺はそう答える。
「あぁ......」
俺のそれを見た途端、悠香の脚がもぞもぞと動く。
「悠香は興奮してるか? 」
「うん、早く氷里と一つになりたくてしょうがないよぉ......」
「俺もだ......」
十年以上思い続けてた彼女と初めての体験ができることに、俺は胸の昂ぶりを抑えきれないでいた。
「氷里も、服完全に脱いで欲しいな」
「分かった」
「一糸まとわぬ状態で、愛し合いたい」
「俺もそう思うよ」
悠香に言われた様に、俺は上半身のTシャツと、脱ぎかけだったズボンとパンツを完全に脱ぎ捨てる。
俺は彼女のいうことを素直に聞く。
彼女も、俺の言うことを素直に聞いてくれる。
俺たちは、それを自然に行っていた。
それが、初めて同士の、精一杯のできることだった。


服を脱ぎ終えると、再び、先程と同じ体勢を作り直す。
「キス、して」
「キスするの、すきなの? 」
「うん、好きって思いが一番ダイレクトに伝わる気がするから......」
「俺も、好きだっ、ずっとしていたくなるくらいにっ......!! 」
最初から舌を思い切り突っ込みながら、欲望のままに彼女の唇を貪る。
それに、彼女も答えてくれる。
さっき三十分もやったことなので、今ではもうスムーズにできた。
俺はキスを続けたまま、彼女の肉壷を激しく指で擦る。
「んんっ?! はぁ、んっ! あぁっ! んん......っ......! 」
彼女は反応しつつも、唇を動かすことをやめない。
一分くらい続けていると、彼女のパンツは、愛液でグチョグチョになってしまう。
「パンツも脱がすよ」
「いいよ......早く、もっと気持ちよくして欲しい......氷里にもっとイジメられたい......!! 」
早く脱がして欲しいと言わんばかりに脚を曲げる悠香。
もう、ほとんど理性を失っているみたいだった。
俺はパンツを脱がすと、トロトロになった蜜壺に中指を恐る恐る突っ込んでみる。
「あっ......んっ......」
初めての膣内の感触に、想像とはかけ離れた違和感を覚える。
「大丈夫......だから、氷里のしたいようにかき回して」
「本当に大丈夫か? 」
経験のない俺は、少し不安になってしまう。
「気持ちいいとこに当たったら、反応するから大丈夫っ......!! 」
「分かった......」
俺は初めてのその感触を、身体で覚えていく。
「んっ......んんっ! んんぁっ、あんっ......はぁんっ......!! 」
彼女の様子を伺いながらするその行為は、想像以上に堪らないものだった。
「はぁ、んっ......あんっ......! そこっ......そこぉっ!! 気持ちいいのぉ!! 」
反応の良いところを探し、そこを集中的に突くと、面白いくらいに喘ぐ悠香の姿に、頭が真っ白になる。
「悠香っ......!! 」
「はぁんっ......んっ......!! 」
可愛らしい反応を見せる悠香が我慢できず、俺はキスをする。
「んんぅ......はぁっ! ......んんんっ! ジュルジュル......ハァ......ハァ......スキィ......きすすきぃ!! 」
上の口と下の口を同時にかき回す。
ほぼ理性を保てなくなってきた。
「すきらよ......すき......ジュルジュル......はぁんっ!! あぁっ! ハァ......こおりぃ......すきぃ......! 」
キスしながらでも、彼女がなんて言ってるのかが感覚で理解できた。
散々出し入れした指を膣から出し、唇を離す。その動作ですら辛く感じる。早く愛し合いたくて仕方がない。
頭のなかで正常位の形を思い浮かべながら、俺はいよいよ本番の体制を取る。
「はぁ......はぁ......氷里ぃ......」
今から繋がる。それを察した彼女は、俺の手を握ろうとする。
「恋人繋ぎ......して......」
「悠香......」
俺は両手を彼女の両手と合わせて、強く握る。悠香も強く握り返してくれる。
そうすると、嬉しそうに笑顔を見せる悠香。
その笑顔を見て、俺はついニヤけてしまう。
「私を、女にして......」
「あぁ......! 」
出来る限り自信満々にそう答え、生涯で一番なんじゃないかと思えるくらいに勃起した肉棒を、彼女の膣にあてようとする。
「くっ......うまくいかないな......」
理性を一度取り戻して、棒と膣の位置調整に集中する。
悠香の方も。腰を動かして協力してくれるのが分かった。
「お、落ち着いて......よく見れば分かるから......」
「あ、あぁ......」
せっかく握った片方の手を一度離し、自分のそれを掴んで調整し、ようやく入りそうなポイントを発見する。
「うん、当たってる......大丈夫だよ氷里......」
「一つになれそうか? 」
「一つになっちゃう......ね」
俺は、もう一度両手で恋人繋ぎし直す。
「準備完了、だね」
「あぁ......すごく嬉しいよ」
「私も......ずっとこうなりたかったから」
今、何時くらいだろうか。
俺がここに帰ってきてから、もう随分立ってる気がする。
こうやって悠香と愛し合ってる時間が、もう終わってしまいそうになると、ちょっと寂しくなる。
「挿れる前に、一回キスして欲しいな」
俺と、同じような感情に思い立ったのだろうか。
「分かった」
キスを求める彼女の唇に、もう何度目か分からない口づけをする。
「んっ......ジュルジュル......んんっ......」
軽く舌を舐め合い、キスを終える。
「氷里」
「ん? まだ何かして欲しいことあるか?」
「愛してる」
もう一度確認するかのように、悠香が言う。
「あぁ......俺も愛してる」
初めての経験を目の前にして、俺達は愛を誓い合う。
「嬉しい......嬉しすぎるよぉ......」
そう言った彼女の目には、うっすらと涙が見えた。
目の前に映る彼女の嬉しそうな顔を見て、俺はなんて幸せものなんだと心の底から思った。
「じゃあ......」
「うん、来て......」
悠香の合図と一緒に、俺はゆっくりと、腰を前に倒していった。
「んっ......くっ......! 」
「痛かったら言えよ? 」
「痛いっ?! 」
「す、すまんっ?! 」
慌てて腰の動きを止める。
「キ、キスして」
俺は彼女に従う。
「んっ......ジュルルゥ......んん......はぁ......」
「落ち着いた? 」
「うん、ちょっと」
「一回抜くか? 」
「それはダメ......効率が悪い」
「そういうものなのか......」
「続けて......」
「あぁ」
俺はもう一度、腰を前へと深めていく。
「はぁ......はぁ......んっ......! 」
今度は、順調そうだ。
俺の手を握る彼女の手が強くなる。
俺はそれに答えるように、キスを交わす。
「んん......んっ......ジュルル......はぁんんっ......はぁ......んっ......」
キスをしてやると、膣内が前より柔らかく、入りやすくなってるように感じた。
「あっ......クル......氷里のがクル......くるううううううう!! 」
「うおっ......?! 」
すると、急にズルゥンと落ちるような感覚を覚えた。
そして、一気に、膣内が俺のモノの形にあっていくように感じた。
「うわっ......?! 」
途端に、心地の良い締りが俺の陰茎を襲う。
「氷里......大丈夫? 」
「だ、大丈夫......悠香は? 」
「問題なさそう......私たち、一つになれたよ......! 」
「あ、あぁ......! 」
一つになれた事実に感激を覚えながら、イキそうになるのを堪える。
「も、もう動いていいかな? 我慢できそうになくて......」
「イキそうなの? 」
「うん......すまん」
「いつでもイっていいよ...その代わり、私も満足させてね......!! 」
挑発するように、悠香が言う。
「じゃ、じゃあ動くから」
悠香を満足させられるか、正直不安だったが、出来る限りのことをやってみるしかなかった。
何より、そんなことを考えてる理性が持ちそうにない。
「うん、私のオマンコに射精することだけ考えて動いて欲しい......っ! 」
その言葉を合図に、俺は欲望のままに腰を振る。
「はぁ......はぁ......理性なんて忘れていいから......っ! あぁぁ......はぁはぁ......いっぱい動いてぇ......」
「もっと......もっと激しくぅあおぉぉ......は、激しいぃ!! はぁああぁっ、はぁ......はぁ......もういっちゃう!! もういっちゃうよおおおおお」
激しく喘ぐ悠香の姿に、俺は早々に堪えなれなくなる。
「はう......あぁ......だめっ......こおり......こおりぃ......だめ......だめぇ......はぁはぁ......はぅぅ......あぁっ! 先にイく......キスして......思いっきりキス......キスしてっ」
言われるがままに、唇を奪う
「ジュプっ......ふぅんっ......んんっ! ジュルルルゥ......はぁはぁはぁ......うぅんっ......はぁんんっ......き......すき......こおり......すきなのぉお」
「お、俺も好きだっ!悠香っ......! 」
好きという言葉と同時に、悠香の握る手が強くなる。
「もうダメぇ......好き......好き......好き......はぁ......うっ! ......はぁはぁああぁ......大好き......いっちゃう......一緒に行こ......氷里ぃ......一緒に......一緒に気持ちよくなろ......!! 」
「好きだから......大好きだから一緒に......はぁはぁ......あぁっ!? 」
「あぁ、中に出る......中に出すぞ......悠香の中に、俺の想いをいっぱい......っ!! 」
最後の追い打ちに、足を俺の腰に巻きつけてくる悠香。
「きて......私もイくから......はぁはぁ......あぁっ!イ、イきそうだから......一緒にイって......好き、好きぃ!......イく......イく......イくうううううううううううううう!! 」
瞬間、思いっきり膣の締まりがきつくなるのを感じた。
それに耐え切れず、我慢の限界を迎えた俺は、出来る限り腰を悠香の奥の奥へと何度も打ち付けてから、思いっきり射精した。
俺の腰に巻き付いてた足も、より強く締められ、さらに奥へと精子が飛ぶ。
「ああああああああああああああああああああああああああああっっ......!!! 」
ドクンッ、ビュルルビュルビュルビュルビュルビュルビュルビュルビュルビュルッ、ドプッ!
「出てりゅぅぅぅ!! 今出てるのが分かるよぉぉぉ、私の中に、子宮にいっぱい来てりゅぅぅぅ!! 」
互いに思い切り手を握りあいながら、悠香への愛情の種を大量に彼女の中へと送りつけた。
「はぁ......はぁ......」
そのまま力が抜けてしまった俺は、身体を支える肘を曲げて、悠香の上に身体を預けるようにうつぶせに倒れる。
「はぁ......お疲れ様......」
そんな俺に、悠香が優しくそう言ってくれる。
「悠香こそ、お疲れ......」
まだ握り合っている手は、互いの汗で湿っていた。
「じ、じゃあ抜くぞ? 」
大きさと硬さを失ったそれを、悠香の中から出そうとする。
「あ、ダメっ! 」
しかし、それを許さないとばかりに、再び彼女の足が俺の腰に巻き付いて離さない。
「しばらく、このままでいさせて......」
「悠香......」
「二人の時間をもっと感じてたい......の......」
「うん」
生涯で一番と思えるくらい、優しくて温かな時間が流れてるように感じた。
「ねぇ......氷里」
「ん? 」
「キス......して? 」
「あぁ、何度でもしてやる、これからもずっと......」
「んっ......チュッ......」
愛を込めながら、優しく口をつける。
「氷里、大好き」
「俺も大好き」
「今日、このまま寝よ......? 」
「えっ...風邪引くぞ? 」
「あなたと、このまま離れたくない......」
困ったようにそう言ってくれる悠香が、たまらなく愛おしい。
「明日も、明後日もこれからも、毎日しよ」
「あぁ」
「そうして、もっと色んなこと覚えて、もっと気持ちよくなろ、二人で」
「あぁ......」
「氷里......」
「ん? 」


「......スゥ......スゥ......」
「......え? 悠香? 」
それだけ言い残すと、悠香は安心しきったように眠ってしまった。
「......お疲れ様。」
寝ている悠香にそう一言言うと、俺達二人の繋がりを抜かないようにしながら、後ろにある掛け布団を掴み、二人の上にかける。
「これで、風引かないな」
互いに引っ付き合い、布団の中で身体を温めあいながら、俺もそのまま眠りについた。


翌日の朝。
「ん......? 」
俺は下半身に変な違和感を覚えながら、目が覚める。
「なんだか変な感じだな......」
ベッドの上で目を覚ますと、ボーッとしている脳を働かせて、今の状況を思い出した。
「あぁ、あのまま寝たんだった......」
俺は昨日の夜の出来事を思い出す。
結局風呂にも入らないまま、事に至ってそのまま落ちてしまった。
俺はそれを思い出すと、風呂に行こうと身体を起こす
「あっ......起きた? 」
「......?! 」
その時、掛け布団の中からそんな声が聞こえた気がした。
「まさか......」
俺は自分の身体にかかっている毛布がやけに大きく膨らんでいることに気づいた。
「悠香何してる?! 」


俺はその毛布を引剥し、中にいる人に向かってそう言った。
「あぁ......おはよ~」
俺の朝勃ちしたそれを口に加えて奉仕している、制服に着替えた悠香の姿が、そこにはあった。
「何やってんだ?! 」
「先に起きて、ご飯作ってこっちに戻って来たら、氷里のこれが元気になってたから」
「男のこれは普通朝こうなるんだよ......」
「そうなの? 」
新たな知識を知って、関心したように俺のそれを見ながらそういう彼女
「でも、昨日の朝はこうなってなかったよ? 」
「あ、やっぱりお前あの時触ってたのか......」


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『起きろ童貞、お前のちっちぇチンポ握り潰すぞ』
『うわぁああああああ?!』


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「あぁやって言えば、起きるかなと思って」
「ガチでシャレにならないからやめてくれ......」
トラウマになりかねない。
「これ、また硬くなったんだけど」
目が冷めて感度が上がったそれは、悠香が喋る度に息が吹きかかり、大きくなってしまう。
「それいい加減離そうか」
いつまでも俺のそれを握っていた彼女に、俺はそう言う。
「レロレロ......」
「お、おいっ......?! 」
俺の言うことを聞かず、いきなり舐めだす悠香。
「せっかくだし、処理しといてあげようか? 」
「ご、ご飯冷めちゃうから......」
「じゃあ、食べながらでいいよ、私舐めてるから」
「こんな状態で食えるわけないだろ!! 」
母のものとは違う、机の上に置いてあるご飯を見ながら、俺はそう言った。
「じゃあ、早く済ませちゃおっか」
「あっ...ちょっ......?! 」
髪を片手でかきあげながら、いきなり思い切りしごき始める悠香。
昨日の夜に一度経験してるからか、今日は手際が良かった。
「チュパチュパジュロロロレロレロ......」
「ぐぅっ...う、上手くなってるな......」
口と手と舌すべてを使って奉仕してくる悠香。最初はあんなに手つき悪かったのに、人一倍吸い込みが早いのだろうか。
あの時と比べて歯も全く当たらず、素直に気持ち良い。
「ほ、ほんとぉ?! 」
「あぁ......すごく気持ち良い」
「じゃあ、ジュルルル......んっ、このままイかせてあげるね」
そう言うと、カリのところを優先して、しごく速度を早める彼女。
「あぁ...そこヤバいっ......」
「ジュロロロォ......んっ......フフフ、そこに落ちてたエロ漫画で勉強したんだよ? 」
「あっお前勝手に......」
「レロレロ...エッチな教科書、ジュルルル...いっぱい持ってるから助かるな~」
「......」
特に隠しもしてなかったので、もう全てばれているんだろう
昨日も俺が帰るまでに部屋を漁っていたらしいので、ほぼ間違いない。
「氷里、学生服が好きなの? 」
悠香が口を離し、手で激しくシゴきながら、そう聞く。
「うっ......はい......」
「いや、そういう本とかゲームばかりだったから」
「わ、わざわざ制服に着替えてやってるのはその為か......? 」
「うん! 嬉しいでしょ? 」
それだけ言って、悠香は再び口で奉仕し始める。
「そ、そりゃあもう......」
「じゃあもっと気持ちよくしてあげるからね~? 」
そう言って、フェラしながらもう一方の手で玉をモミモミしてきた。
「はぁぁ......」
「こうすると精子がいっぱい出てくるって書いてあったよ」
実際どうなのかは分からないが、気持ち良いのは確かである。
「あっ、ヤバいっ、もうイキそう......」
俺のその言葉を聞いて、ラストスパートをかけ思い切りしごく悠香。
「んっ、いいよ、来て......」
我慢できなくなった俺は、俺は悠香の頭を掴み、自分で腰を振る。
「ちょっ、氷里っ?! 」
「氷里がいっぱい奉仕してくれるから、我慢できなくなったんだぞっ......!! 」
「んんんんっ!! はぁぁ......ジュバジュバ......あっ、ジュルルルロロ......んんっ!! 」
それに抵抗するように舌を動かしながら、口の中で俺のチンコを舐めてくれる悠香。
「もうっ......出すからなっ!口の中に出すぞっ!! 」
「うんっ......うんっ......ジュルルルロロロ......いっぱい出してぇ......!! 」
思い切り悠香の喉目掛けて腰を突き落とし、精一杯の精子をその中へ吐き出す。
「んっ......んんんんんんんんんんんんんっっ!!! 」
吐き出された精子を絶対にこぼさないようにと、悠香は俺の尻に腕を回して、自分の喉の奥で肉棒を押し付ける。
「んっ......ゴクッゴクッゴクッ......あぁ......んんんっ......ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ......んっ......」
一滴も零さないように、全部飲み干してしまう。
「はぁ......はぁ......なんだか変な味......」
「全部伸びやがって......無理しなくても良かったんだぞ? 」
「氷里の精子は......氷里が出してくれた愛情は全部私のものだもん、全部受け取らないとダメなの」
「あっ......」
そう言うと、俺のチンコに付いている精子を、綺麗に舐めとってくれる。
「そこっ......今敏感だから......ヤバいっ......! 」
「チュルチュル......ジュルルル......」
舐めながら、俺のそれを吸い取ってくれる悠香。
「はいっ、お掃除完了っ! 」
「はぁ......はぁ......」
息を整えながら、俺は満足感を味わっていた。


「じゃあ、ご飯早く食べよう。冷めちゃうよ」
「もう冷めてると思うけど......」
俺は、もう冷め切ってるであろう、テーブルの上に置いてある、悠香が作ってくれた二人分の朝ごはん。
俺はパンツを履いて、先に料理の前で座ってくれている悠香を待たせないように、ベッドを降りた。
「頂きます」
「食べたら、支度して早く行こ」
とても面倒見の良い彼女を見ながら、俺は目の前の悠香と母を照らしあわせた。
母とどこか似ている雰囲気が、彼女にはあった。
それを分かった上で、母は俺たちを残していったのかもしれない。
「美味しい、冷めてるけど」
「ほんとに? 結構自信あるんだ~この卵焼き」
「俺が食べたのはハンバーグなんだよな......」
「えっ?あっそれも自信あるんだ~アハハハ......」
悠香との幸せなひとときを噛み締めながら、俺はご飯を食べる。

――プルルルルル

カバンの中に入れっぱなしだった携帯が、着信音を立てて存在を主張する。
「あ、電話だ......誰からだろう? 」
「ん~? 」
「すまん、ちょっと電話するな」
「は~い」
なんだか柔らかい、フワフワした笑顔を作りながらそう言う悠香。
昨日のセックスのせいだろうが、まるで人が変わったかのような彼女の姿に、俺は少し困惑する。
昨日すっかり充電を忘れて、赤色に点滅する携帯を取り出し、着信元を確認する。
母親からだ。
「もしもし母さん? 」
「おはよ~、昨日はどうだった? 」
「おかげさまで」
「お盛んだった? 」
「うん、まぁ......」
ちょっと言葉を濁しながら、俺は答えた。
「そう。良かった~不安だったのよ~私がいなくてもちゃんとできてるか」
なんだか懐かしいような感触を、電話口から聞いているような気分だった。
「馬鹿にするな」
「ふーん、じゃあしばらく帰ってこなくても、良さそうね」
「母さんは今どこにいるんだ? 」
「ネットカフェ」
「はぁ?! 」
「なぁ~んつって~! 嘘よ、実家に帰ってるわ」
「びっくりさせないでくれ......」
「どこに行くかも伝えずに、勝手にどっか行っちゃうのは、さすがに悪かったかな」
「反省してくれ」
「まぁ、おかげでそっちは楽しめたんじゃない? 」
「えっそれは......」
「フフフ、まぁあの子は私と似てるところがあるからねぇ~、アンタを放っておけないところとか」
「確かにわかるな」
「私があの子と同じくらいの歳だったら、絶対同じようなことになるもん」
「母さんみたいな人が彼女とか、考えたくないけどな」
「でも今彼女でしょ? 」
「悠香と母さんは似てるけど違うから」
「はいはい、じゃあ切るから。今日も学校でしょ? 」
「あぁ、ご飯も悠香に作ってもらったし、俺のことは心配しなくてよさそう」
「あら!アンタ自分のこと俺って言うようになったのね! 」
「母さんに言われてから意識するようにしたんだよ」
「懐かしいなぁ~昔のアンタを思い出すよ」
「悠香と同じこと言ってるな、やっぱ似てるわ」
「でしょ~? 」
悠香が何やら寂しそうにこちらを見ているので、俺は悠香と喋りたくて、早々に電話を切りたくなる。
「じゃあそろそろ切るわ」
「あぁ、もしかして二人でご飯食べてたところの邪魔しちゃったかな? 」
察しの良さは相変わらずだった。
「そうだよ、じゃあ切るから」
「分かった分かった、じゃあ最後に」
「ん? 」
「この、幸せもの!! 」

――プチッ

「あっ......」
瞬間、母との通信が途絶えた。
(幸せものか......)
幸せもの。
少し前までは信じられなかった、その言葉。
きっかけは、いつも近くで笑っていたのに。
「お母さんから? 」
「あ、あぁ」
母に聞いた話だと、俺の実の父親は俺たちを置いて逃げたんだ、と聞く。
母は、息子である俺に対して、昔の自分みたいになって欲しくないと、そう思っていたんじゃないだろうか。
だから、今まで言えなかった皮肉として、幸せものなんて言ったのかもしれない。
「だと思った~、なんて? 」
今目の前にいるその幸せの鍵を見ながら、俺は気づかせてくれた母親に感謝する。

――「一生離すな、だって」

「......そっか! 」
「あぁ」
「じゃあ私も、一生逃がさないからね? 」
いつの間にか隣に移動していた悠香がそう言う。
「絶対逃げないように、厳重に捕まえておいてくれ」
「言われなくとも!! 」
その言葉を聞き、悠香は俺の腕を強く掴みながら、満面の笑みで叫ぶ。
「じゃあ、今度は友達も作らないといけないね! 」
「......えっ? 」
「あっ、恋人は作っちゃダメだよっ! 」
「と、友達......」
「氷里聞いてるぅ? 」


俺は彼女と一緒にいることで、更生されていくのかもしれない。
俺にとって悠香は、もうただの幼なじみではなく、生きる希望そのものだった。
「早く支度して、遅刻しちゃうよ......!」
「あ、あぁ......」
俺は悠香にそう言われて、制服に着替える。
「服はそこに置いてあるからね? 」
「お前は俺の母さんか何かか」
「母さんでもあるし、彼女でもある、かな」
「変わった彼女を持っちゃったな」
「私も、面倒な彼氏を持っちゃったな~」
笑いながらそう言う悠香。
俺は世界一の幸せものなのかもしれない。
彼女の笑顔を見てると、本気でそう思ってしまう。
だから、俺もこのままでは、いけない。
俺は、今なら、それに気づくことができた。


「悠香」
「......何? 」
「いつか、お前を守れるくらい立派になるからな」
俺のその言葉に、少し驚いたような表情を見せるが、すぐにいつもの笑顔を見せて、答える。


――「約束、ね!」

放っておけないっ!!

放っておけないっ!!

主人公 "高槻 氷里" は、年齢(二十歳)イコール彼女いない歴の童貞でオタクという、何かと残念な称号を持っていた。 彼女どころか、友達もできていないことに不安を抱いていた高槻は、自分のことを「ツッキー」と呼ぶ、 唯一の心を許す親友である幼なじみの"天奈 悠香"のことが、最近気になっていて...?

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日
2016-02-18

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