隣人 最終話
隆乃介があと一週間でこの学校を去ると知った希美子は、「自分は信頼されてない」と思い込んで隆乃介を避けてしまっていた。
クラスでも隆乃介が退職することが発表され、皆が周知の事実となっても、
希美子はずっと避け続けていた。
メールも、電話も、登校途中、すべてにおいて隆乃介をシャットアウトしていた。
私が…もう少し大人だったら…もっと早く話してくれたのかな…私が子供だから…。
いかにさくらこに「ソウルメイト」と言われても、信じられない気持ち、自分が無力すぎること、それでも隆乃介を思う気持ち…。
いろんな気持ちが錯綜していてなんだかわからなくなっていた。
退職を明日に控えた帰り道。希美子を見かけた隆乃介。
意を決して隆乃介が希美子を引き留めた。
希美子はやはり避けようとしたが、
「待ってくれっ!!」
手を取られ、希美子は隆乃介の手のぬくもりに引き留められた。
その表情は今にも泣きそうな希美子の顔だった。
「ごめん…前もって言えばよかったんだ……でも今の幸せな気持ちとか、そっちのほうが勝ってしまってた……だから」
「もう……いいんです…」
希美子が口を開いた。
「私がいけないんです…ちゃんと話を聞こうとしなかったから……私なんてまだまだ子供です…ソウルメイトとか言われても…
やっぱり隆乃介さんにはもっとふさわしい人がいるんじゃないかって……」
「そんな…そんなことないっ!そんなことないよ…今夜、俺の家に来れるか?」
「え、でも……」
「ちゃんと話をしよう、これからのことも、全部。」
思いがけず、頷いてしまった希美子。
「待ってるから…俺、ずっと待ってるから…。」
その日の夜、ほとんどの家庭では夕ご飯を食べているであろう午後7時。希美子は隆乃介の家にいた。
希美子は隆乃介から退職の話、それに至る経緯、全てを聞いて、ようやく落ち着いた。
「でも…引っ越すとかってことはないんですよね?」
「うん…しばらく引っ越すつもりはないから安心してほしい。」
「良かったぁ……。」
ふっと笑みがこぼれる希美子。
「良かった、やっと笑ってくれた。」
「会える頻度は今より減るけど…ちゃんと会えるように努力する。電話もする。だから…」
「嫌いになんて……なれませんよ……私、隆乃介さんを……」
「好きで、いてくれる?」
「はいっ……愛してます……。」
愛してる……そんなことを言われたのは初めてだった隆乃介。
一気に顔が熱くなった。
「希美子が高校卒業するまで我慢しようと…思ってたけど……」
不意に隆乃介の顔が希美子に近づいた。
そして。
隆乃介は希美子の唇にキスをした。
「…!!」
「ごめん…でも俺も愛してる…その気持ちは変わらないから……。」
「隆乃介さん…。」
二人はハグをした。
「私……やりたいこと、見つけました…」
「やりたいこと?」
こくりと希美子は頷いて、
「作家になります。その勉強をしたいんです…。」
「そっか…なれるよ、希美子なら。」
しばらく抱き合ったまま、隆乃介が口を開いた。
「希美子……」
「はい…」
「希美子が20歳になったら……結婚、しよ?」
「えっ…」
「今は何も準備できてないけど、俺…幸せにするから……」
その言葉に希美子は嬉しそうに
「はい…私でよければ……喜んで……。」
それから3年後。
二人は結婚し、幸せな生活を送っていた。
それはまた、別の物語で語るとしよう。
隣人 最終話