帰り道

帰り道

人は皆、何かを楽しみに生きている。それは人によってそれぞれで、ゲームであったり、ゴルフであったり、スキーであったりする。では私は何を楽しみに生きているのか。それは「帰り道」である。その帰り道はある時は海辺だったり、山道であったりする。今日は繁華街のようだ。夜遅いにもかかわらず街は昼と大差ない喧騒に包まれており、眩しいネオンの光もいつもと違った美しさがある。こんな時間がいつまでも続けばいいのに‥しかし、そんな願いも叶わず家に到着してしまう。その頃になると辺りの輪郭がぼやけ始め、世界は音を立てることなく静かに崩れてゆく。鉄のゆりかごで眠る赤子が起きる時間だ。私はこの時が悲しくてたまらない。ありふれた日常に秘められた美しさを私は知っている。現実味のない化け物に追いかけられたり、殺し屋の弾丸を避けることなど、とっくの昔に飽きてしまった。世界は次第に闇に溶けていき、そして体も溶けていく。次の世界に私は存在するだろうか。また美しい日常を見ることは出来るであろうか。夢の世界の住人の願いは誰の耳にも届くことなく儚く消えた。

アナウンスの音声で目が醒める。
「次は田原駅〜田原駅〜お出口は右側」
今日もぐっすりと眠ってしまった。最近寝不足気味だからだろうか。私は改札を抜け駐輪場に停めてある自転車にまたがる。今日の晩御飯はコンビニでいいかな。そんな事を呟きながら代わり映えしない道を進んでいき竹箒が逆さまに刺さったような並木道を抜ける。毎日何一つとして変わらないこの道。ふと建設途中のコンビニが目に入る。こんな何でもない道にもほんの少しの変化は訪れるものなのだな。冬の風が首筋を撫で、私は自転車に強く力を込めて踏み出した。

帰り道

帰り道

短いです。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-17

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