選ばれたテーブル

「は?なにこのガチャ、知らないカードが出たんだけど」
握りしめたスマートフォンへ向かって、誰にともなくつぶやいたのが始まりだった。目の前の画面に映し出されているのは、【カレーパン】の画像。私が遊んでいたのは、モンスターを集めてパズルを解くことでステージをクリアしていくタイプのソーシャルゲームだ。当然ガチャというシステムで出てくるのはモンスターであり、カレーパンなど出るはずがない。
ゲームの運営会社へ問い合わせようと画面上で親指をさまよわせたのだが、カレーパンはまるで湯気がこちらへ立ち上ってくるかのごとく、揚げたてアツアツに描かれていた。

ピンポーン。玄関のチャイムが鳴る。
ガチャでカレーパンが出た日の夜、届けられたのは、カレーパン。おかしい。送り元の名前を確かめると、どうやら、私が先ほどやっていたゲームの運営会社の関連企業らしかった。新手のサービスだったのだろうか。
結論から言うと、私はそのカレーパンに手を付けたのだった。初めは、お年寄りに送りつけられる規格外のカニの例を聞いたことがあるし、と真っ当に怪しがって遠ざけていたのだが、カレーパンはカニほど高価でもないし、とついには自分を納得させて食べてしまったのだった。

私を止めるものはなかった。震える指で「10連ガチャ」のボタンをタップする。3000円を支払って、10種類以上の飲食物が出てくるのだ。本来ならば新しいモンスターや卵が出てくるガチャなのだが、私のスマートフォンには飲食物の画像が表示され、その画像通りの飲食物が私のいるところへ届けられるのだ。私は特別なのだ。運営会社が私に特別なテーブルを用意してくれたに違いない。

水2Lペットボトルの6本セット、大量のしらたき、有名ハンバーガーチェーンの揚げたてのフライドポテト、ホテルのバイキングで出てくるような小さなケーキのセット、串に刺さった大量の揚げもの、ボックスタイプのアイスクリーム。どれも私のために選ばれたようなメニューだ。そんなメニューを私はひたすらガチャから受け取り続けた。
ガチャを回していると、まれに本来のターゲットであるモンスターの画像が現れる。そのときは口汚く手元のスマートフォンを罵った。強いカードのエサにもならないモンスターを出すな、と。

食べ物を口に入れ、歯で噛みくだき、のどの奥へ押し込んで胃に収める。今の私はそれを繰り返すだけの生活となっている。味は、わからない。食べている最中は、何を食べているのかに意識が向くことはない。食べて食べて食べて食べて、吐く。太ってしまうから、吐く。私は醜いから、吐く。
食料はガチャでいくらでも手に入る。食料の多さ少なさはガチャが決めてくれるのだ。ガチャの結果として届く食料を食べてしまう私は、悪くない。悪くないと思ってしまう私は醜いから、吐く。

壊れて食べ物が出るようになったガチャ。これは私なのだ。私の手に残ったのは、支払が滞り止められてしまったクレジットカードと、食べ物の残骸の山。
ピンポーン。玄関のチャイムが鳴る。

選ばれたテーブル

選ばれたテーブル

時空モノガタリのコンテスト第102回「ギャンブル」に投稿したSSです。私のやったことのあるギャンブルがソーシャルゲームだけだったので、そのときの記憶を増幅させて書きました。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-16

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