サイキッカー辛過ぎワロタ
プロ目指して中学生の頃から物書きしてます!
どなたでも気軽に読んでいただけるとうれしいです!
この作品は、タイトル通り「どうせ誰も私の気持ちなんて…」ってって思う人たちに、この世界のどこかで自分みたいに悩んで闘ってる人たちがいるって事を知ってもらいたくて書きました。
少しでも多くの人に読んでいただけると幸いです。
プロローグ悩
プロローグ
俺は昔の夢を見ていた。
その過去は、俺の夢となって何度も降りかかる。
ただ、その日は妙に鮮明に景色や色がはっきりと見え、それはもしかして現実ではないかと思わせるような光景だった。
俺は夕日の差し込める学校の教室にいた。
規則正しく並んでいる机。それら所々の机上に点々と置かれている、赤や黒のランドセル。
そこがすぐに小学校の時の教室で、同時に俺はあの頃の夢を見ているのだと理解した。
そして意識だけの俺は、教壇の辺りから誰の干渉も受けることなく、ただ客観的にその光景を見渡していた。
この過去は忘れたくても忘れられない。
もううんざりだ。止めてくれ。
何度そう願っても、頭に染み付いて離れない。
そして今回も目の前に、あの日と同じ光景が広がっていた。
「もういい加減にしてくれ!」
小学五年生の時の俺だ。教室の隅で、クラスメイト10人に囲まれている。
ランドセルを取り上げられ、逃げ道も塞がれている。
俺はーーある日を境に虐められるようになった。
「お前また女子の着替え覗いただろ?いつも授業中とかも見てるんだろ?気持ち悪…」
男子の一人がそう言った。
勿論、目の前の幼い俺が言い返す。
「違う!俺はそんなことしてない!俺はそんなことーー」
「はぁ!?何言い訳してんの?まじお前みたいなのと一緒な教室嫌なんだけど」
「そんな…俺は、皆と同じに…」
「違えよ!お前みたいな気持ち悪い奴と一緒にするな!」
クラスメイトの一人がそれを言い放った。
やはり何度聴かされてもそれは絶望的なショックで、昔の俺は我を忘れるほど気が動転した。
「うるさい!俺が一体何をしたって言うんだよ!」
幼かった俺の叫び声が、教室内に響き渡った。
無我夢中で言い放った叫び。だがふと気が付くと、次の瞬間罪悪感と恐怖感が同時に襲ってくる。
囲んでいたクラスメイト半数がそれらを唖然と見つめ、残り半数は教室の向こうの方で痛みに耐えるように倒れていた。
まるで強い力で突き飛ばされたかのように。
「…ま、また…やってしまった…」
目の前のクラスメイトを突き飛ばしたいーー確かにそう思ったかもしれない。けれど、触れてさえいない。
でも…意思はあった。
…意思があっただけなのに。
遠くで、体あちこちを打ち付け痛み苦しむ表情。
そして俺の周りで、俺をまるで危険物を見るかのような視線。
クラスメイトの悲鳴が俺の胸に鋭く突き刺さり、全員が揃って放った台詞が、俺の精神を崩壊させた。
「〈化け物!〉」
俺は何度も同じ夢を見る。
そのトラウマはしつこく脳裏で再生され、その度に強く胸が締め付けられるようだった。
※
『サイコキネシス』・・・または『テレキネシス』とも呼ばれ、意思の力だけで物体を動かす能力のことである。
俺の家系は代々超能力者の家系で、俺――も例外ではなかった。
小学3年生の時の話だ。
下校している女の子に、背後から今にもバイクが衝突しようとしていた。
運転手がどこかを余所見していて、全く女の子に気が付いていない。
死が刻一刻と迫っている。そんな状況だった。
俺はそれを遠くからいち早く発見し、防ぎたいと思った。
だが声が届かず、勿論手も届かなかった。
そんな時俺は強く念じたのだ。
「バイク止まれ!」
だが次の瞬間、俺から出た目に見えない強い力のようなものが、早い速さで宙を舞い、バイクに激突したのだった。
バイクはすぐに隣の建物に激突した。
その日を境に、超能力の噂が学校中に流れ、周りから疎外感を浴びることとなる。
サイコキネシスは映画や漫画の中ではよく登場する。
特殊な能力なんかは、敵ってものがいればそれは役に立つだろうし、絶対不可欠なもの。
だがこの平凡で、毎日何もない日常の中でははたして必要だろうか。
遠くの物を取ろうとも、もし誤って力を強く使ってしまったら・・・おそらくその物を破壊しかねない。
あのときもそうだった。ただ病院に行く相手が、女の子から運転手に変わっただけだ。
俺はこの能力のせいで・・・
1章 運命の少女
1章
俺――樋口颯斗の朝は早い。
あの悪夢のせいでもあるが、学校の登校前に決まって昼食の弁当を作っているのだ。その為の早起き。
スーパーの惣菜や冷凍食品は一切使わず、手間暇かけて作っていくうちに、今ではすっかり趣味の一つになっている。
「・・・よし、今日もいい出来だな。特に今回のロールキャベツ。味、香り、見た目、プロ顔負けの出来だな」
そんな事を独りで自惚れながら、俺は習慣にしているSNSの更新を始めた。
――今日本で話題となっている、累計利用者数1,2位を争うSNSサイトの名称だ。
俺もこのサイトをかなり頻繁に利用している。
弁当をきれいに整え、全体をスマートフォンを使ってハイアングルで撮影する。
そしていつも通り、コメントをつけてアップした。
6:35 ウィザード
おはようです。今朝は思い切ってロールキャベツを作ってみました。自信作です。
これが俺の日課だ。高校生なら決まって似たような事をする。
ちなみにウィザードという名前は、昔知り合いに決めてもらった名だ。ウィザードは主に男性の魔術師だとか魔法使いだとか、そんな意味。
超能力者のお前にピッタリでしょ。とか、そんな嫌味を言われた。
だが俺は魔法使いではない。魔法みたいに何でも便利に扱えるわけでもないし、全くの別物。
両親が幼い時に交通事故で亡くなったと聞かされている
『サイコキネシス』について聞いておきたかったのだけれど、言葉を交わした記憶もほんの数回程度しかなかった。
ただ一つ分かっていることは、樋口家は代々サイキッカーの家系で、俺はその中でも珍しい『サイコキネシス』の能力者だった。
珍しい能力だか何だか知らないが、嬉しくもなんともない。
この能力のせいで、俺は最悪の人生を送ることになるのだから。
そして俺のせいで、辛い過去を持つ人物がもう一人。
《おはよう》
頭の中に、今にも消えそうな少女の声が入ってきた。
そしてその声は、奥の寝室の方から送られているものだった。
「あぁ、おはよう莉奈。もう起きたのか?今日は早いな」
頭の中の声に、普通に話して返事を返す。
《いい匂いした。お腹空いた》
「なら布団から出て来いよ。今玉子焼いているから」
《目玉焼きがいい》
「はいはい分かったよ。布団片づけてこっち来いよ」
俺がそう言うと奥の寝室からドタドタと物音が聞こえ、ものの数秒で音が静まった。
莉奈のやつ・・・布団適当に片づけたな・・・
《終わったよ。朝ごはん食べる》
奥の部屋からひょいと顔を出した少女――は俺の4つ年下の妹だ。
普通なら中学校に通っているはずの13歳。
普通はこの年は中学校という義務教育を受けるはずなのだが、莉奈は学校には行っていない。
それの原因は全て俺にある。
兄である俺――樋口颯斗が小学校4年生の頃虐められていた。
『サイコキネシス』の噂が学校中に流れ、兄妹である莉奈も、周りから嫌悪感を感じるようになっていった。
だが莉奈は、何度も挫けず周りに話しかけていった。
そしてその度に拒絶された。
「話しかけてこないで!」
「化け物がうつる」
何度も何度も話しかけ、その度に拒絶。
誰も、莉奈に心を開く人物が現れなかった。
そして莉奈は話すことを止めた。
そんな時に目覚めた超能力が、皮肉にも『テレパシー』だった。
『テレパシー』とは、心の内容を言葉を使わずに、直接相手の頭に伝達させる超能力の一種だ。
話すことを止めた莉奈は、それ以来『テレパシー』を使ってコミュニケーションを行ってきた。
そんな過去もあって、莉奈と二人でここ金沢のとあるアパートに引っ越してきたというわけだ。
海と山が近く、自然豊かな金沢。
縁もゆかりもないこの金沢への引っ越しは思い切った行動だったが、新しい生活を夢見ての決断だった。
俺はなんとか『サイコキネシス』を隠して、市内の高校に転入出来たが、莉奈は視線恐怖症になり家から出なくなった。
だけどきっといつか莉奈に最高の友達が出来、外へ連れ出してくれる日が来るのを願っている。
「ほら莉奈、目玉焼き出来たぞ」
《ちゃんと半熟?》
「ちゃんと半熟にしたぞ。割ってみな」
莉奈は言われるままに、玉子を丁寧に箸で割る。
こぼれそうな玉子を、パクッと口に放り込んだ。
《トロトロ・・・おいしい》
「そうかそうか。喜んでもらえて良かったよ」
《お兄ちゃん。もう『サイコキネシス』使って料理とかしないの?》
莉奈はふと寂しそうな顔をした。
俺は小学校低学年の頃から、よく超能力を使って料理の手伝いをしたりしていた。
『サイコキネシス』を使えば、怪我や火傷をする危険がないし、母さんが褒めてくれる。
それが何より嬉しかった。
だが、俺たちを苦しめたこの能力。
あの虐め以来、俺は極力『サイコキネシス』を使わないようにしていた。
「別にいいだろ。こんな能力、無くたって何も不自由がないんだ。料理だってなんだって」
しばらく能力を使ってはいないけれど、おそらく大人1人持ち上げるのが精一杯で、30秒も持ち上げ続ける事は不可能といった所だろう。
使わなければ衰えていく。
それでも構わない。
「それより食べ終わったらちゃんと食器片づけとけよ。それと、家でアニメばっか観てないでたまには体動かしたりしろよ」
《私は忙しい。アニメ溜まってるから》
「俺だってテレビやドラマ観たりするぞ。けどな、世の中のアニメ、ゲームファンには悪いが、アニメやゲームが溜まってるだの忙しいだの、そういうのよくないと思うぞ。アニメは義務なのか?」
《お兄ちゃん分かってない。アニメは日本の文化。象徴》
「・・・まぁ、日本のアニメは世界に誇れるものではあるし、あながち間違ってはいないけれど」
《アニメを馬鹿にする。それは日本を馬鹿にする事。お兄ちゃん日本の敵》
「待て待て待て!こんなくだらない事で国と戦う気はねぇよ!つかお前!アニメの事になると口数増えるの止めろ!頭の中ガンガンうるさいんだよ!」
こいつ、一日中ほとんどパジャマ姿の引き籠り――樋口莉奈は、何度も言うが俺の妹である。
アニメオタクで中二病末期である。
《特に今熱いアニメ。それは『魔法少女マジシャンガール』。絶対お勧め》
「うるせぇよ。お勧め聞いてねぇよ。それになんで『超能力者』が『魔法使い』のアニメなんか観てるんだよ。観てて楽しいのか?」
《『魔法使い』違う。『魔法少女』》
「うるせぇな!どっちでもいいんだよ!魔女でも魔法少女でも!毒林檎食うか食わせるかだろ!・・・あ、あれは魔法少女じゃなかったか」
どこかで聞いた話が混乱してしまった。
《マジシャンガールは強くて可愛い。先週ようやくマジシャンヴィーナスと和解して、中ボス魔王デスマスを倒したの》
「だから聞いてねぇって!マジシャンヴィーナスって誰だ!?中ボスで魔王とか、その先物語ちゃんと続いていくのか不安だわ!っていうか!相手が当然のようにアニメ観てると思って語りだすの止めてくれ!ついていけねぇよ!」
ハアハア・・・
朝から無言の妹に何度も突っ込み続け、俺の声だけが部屋中に響き渡ったその光景は、さも虚しく恥ずかしい光景であることに、本人の俺はまだ気づいてなかった。
まったく。これ以上莉奈に時間を浪費するのは止めよう。
貴重な朝の時間だ。出発まであと少し。
俺はコーヒーでも淹れようと、やかんに水を入れコンロに火を灯した。
お湯が沸けるまでの間、Avnasの更新を始める。
少しの時間でも気軽に楽しめる暇つぶし。
これが世間でいう携帯依存症というものなのだろう。
そんな事を考えながら、Avnasのページを開く。
Avnasは日本の様々な人が利用しているSNS。
そんな利用者の中で、特に気に入ったユーザーをフレンド登録をすることができる。その名の通り、ネット上の友達の事だ。
相手の素顔や本名を知る事はないが、ネット上でただ雑談を交わすだけの仲であり、気軽に登録し合っているというわけだ。
ネット友達ばっかりで現実友達を作らないのかと一度莉奈に心配された事もあったりしたのだが、友達は作るものではない。出来るものだ。が、俺の痛々しい持論だ。
そんな俺のAvnasフレンドである『ナイト』が、近況を呟いていた事を思い出した。
22:06 ナイト
今姉の手伝い中。重い荷物なんかを持たされたりしていると、体中筋肉痛とかで大変だな。超能力なんかが本当に存在すればいいのに。
その文面はまるで、俺に対しての皮肉のようだった。
勿論ナイトは俺がサイキッカーだということは知らないし、ましてや本名や素顔も知らない。
そんな互いに何も知らない相手だから、俺は何を思う事もなく、コメントを返すのだった。
7;21 ウィザード~ナイト
ゲームかアニメの観すぎだって
※
同時刻。紫陽花公園。
大きな池がいくつか存在するこの公園は、まるで江戸時代にでもタイムスリップしてしまったかのような造りになっており、とても半日では周りきれないほどの広さだ。
春には桜が咲き誇り、秋には紅葉が公園を覆う。
そんな金沢の風物詩とも呼べる紫陽花公園も、平日の早朝は森閑としていた。
紫陽花公園には大きな池がいくつか存在するのだが、一番南に位置する池。そこには周りが木に覆われていて、地元の人間でさえ池の存在を知らないものがほとんどという場所。
そんな人気のない池を、最適な場として利用している少女がいた。
髪長青髪で制服姿の少女は、周りに人気のない事を確認する。
人がいては出来ない事。それをしようとまず、少女は大きく息を吸い込もうとした。
その時、制服のポケットに入っていたスマートフォンの音が鳴った。
誰かからのメールなら後に回すのだが、この音はある条件の時鳴るよう設定しており、その条件とは少女にとって最優先事項だった。
「きたきた」
少女は嬉しそうにスマートフォンを開く。
そして笑顔で文字を打ち込み、用を済ますとまたスマートフォンを片づけた。
「流石ね。彼がいると元気が出る」
『彼』、そう呼ぶことしかできない相手。
「彼は私に優しくしてくれる。私の話を聞いてくれる」
少女は、彼と呼ぶ相手に特別な感情を抱いていた。
「彼は元気かなぁ・・・」
そう言うと少女は、もう一度スマートフォンを取り出した。
画面を開くと、先程も見ていたあるページが開いてあった。
「彼・・・私は彼の顔も名前も知らないけれど、いつかきっと逢えたら絶対ありがとうを言いたいの。今日も私の話し相手を宜しくね」
少女はそう呟きながら、登校までの時間、日課のある事をするのだった。
※
「じゃあ俺はそろそろ行くけど、ちゃんと戸締りしろよ」
支度を整え、鞄を持ち上げそう言った。
今家を出れば、のんびり歩いても余裕で学校につく。それどころか今日の予習もできるだろう。
《わかった。いってらっしゃい》
莉奈の声が頭に入ってきた。
俺は一度莉奈の方に視線を移すが、そこにはアイスを口にくわえ、ソファーに横になって寛ぎ、着ているパジャマのボタンを全開にしている妹の姿がそこにはあった。
おそらくシャワーを浴びようとしたのだが、アイスを発見しそのまま怠けに負けたというところか。
「これが兄を見送る態度かよ」
《重力が強くて》
「それ言ったらいろいろと終わりな気がするぞ。ちょっとは体動かしたらどうなんだよ」
《私は忙しい。私はこれから――》
「わかったわかった!もういいから!しつこいから!」
こいつの相手をしていたら日が暮れてしまう。また魔法少女の件が始まるところだったじゃねぇか。危ない危ない。
俺は玄関のドアを開けた。
外は雲一つない晴天で、まるで闇がこの世界の何処にも存在しない。そう思えるような朝だ。
そんな外を清々しく歩くため、大きな一歩を踏み出すのだった。
するとその時、とても聴き慣れた声が頭に入ってきた。
《お兄ちゃん待って》
莉奈の声。
俺はピクリと足を止め、怠け者の妹の方へ振り返る。
「なんだ?どうした?お前の分の弁当の事だったら冷蔵庫にちゃんと入ってるから、レンジで温めて食うんだぞ。それとも他に俺に何かあるのか?」
俺がそう言うと莉奈はゆっくり起き上がり、ある物を俺に差し出した。
《これ、よろしく》
莉奈が手渡してきたそれ。それはとても見覚えのある袋だった。
次の瞬間、俺は全力疾走で駆け抜けていた。
学校のある反対の方向へ走る。
途中何度か同級生とすれ違い、「今の樋口じゃね?」とか言われたりしたが、言葉を交わす余裕がない。
俺は構わず走る。
何故先程まで家でコーヒーを嗜んでいた俺が、今こんな行動をとっているのか・・・俺自身も理解に苦しむ。
全ては莉奈から手渡された袋がきっかけだった。
家で独りぼっちの莉奈のため、俺はよくレンタルビデオ店に行き、アニメのDVDを借りてきたりする。
店員にも顔を覚えられ、どのDVDが店の何処に置いてあるのかもよくわかる程。言わば常連という奴だ。
だが、そんな事はどうでもいい。
普段は学校の放課後なんかに借りたり返したりするのだから。
くそっ!莉奈の奴!なんで朝にお願いしてくるんだよ!しかも返却期限今日の朝までじゃねぇか!
そして今朝は俺が日直の当番で、朝早くに職員室に行かないといけない日じゃなかったか?ハハハ・・・笑えてきた。
俺はDVDの入った袋を握りしめ、足を急がせる。
「まずい。本当に遅刻する。こうなったら近道だ」
走っていた住宅地から一変して、植物が生え茂る公園の中へと進路を変えた。
紫陽花公園。人気の少ないこの公園を行くだけで時間がかなり短縮される。
何時しかこの公園を散歩してきた時に、偶然発見した近道だ。
「くそ~このDVDさえなければ、もっと景色を堪能したいのに・・・それをただ通り過ぎるだけなんて」
流石に疲れを感じ、呼吸を正そうと一度だけ立ち止まった。
すると俺は今まで気づかなかった、声のようなものが聞こえている事に気が付いた。
「なんだ・・・声・・・?いや、歌か?」
綺麗な女性の声。まるで誘い込まれるような、夢中にさせるような歌。
俺はこんなにも聞き心地の良い歌声は今まで聴いたことがなかった。
「いったい・・・どこから・・・?」
耳を澄ますと、それは今まで行き止まりだと思っていた茂みの奥から聴こえてくるものだった。
「この奥に人が?この奥に人が入れる所があるなんて・・・いったいどんな人が」
俺はすっかり夢中になっていた。
無意識の内に体が声の方へと進み、気が付けば茂みに手を伸ばしていた。
待て待て。
こんな事をしている場合か。俺には時間がない。
頭ではそう思っている反面、これを逃すともう二度と巡り合えないのではないかと自分の中で葛藤した。
だが次第に歌声を聴いていくにつれて、遅刻の事などどうでもいいと思えるような衝動に駆られ、『遅刻』という単語が頭から消えるまでそんなに時間が掛からなかった。
俺は茂みをそっと覗き込んだ。
次の瞬間、時間を忘れてしまうような光景がそこにはあった。
大きな池を前に、美少女が一人、美声で歌い上げている。
水色の長髪。小さくまとまった顔立ち。年は俺と同じ高校生くらいか。
そんな美少女を思わせる相手に、俺は完全に目を奪われていた。
とても・・・楽しそうに歌っているなぁ。
こんな人気の何もない場所で、まるでこっそり歌っていて・・・どうしてだろう。せっかくの綺麗な歌なのに・・・
そんな事を考え覗いていると、手に持っていた袋が手から滑り落ちた。
そうだった。俺はこいつを返しに行く途中だった。
歌は名残惜しいが、仕方ない。
俺はその場を後にするのだった。
5分後。
俺はなんとかレンタルビデオ店にたどり着き、袋を返却し、店を出た所だった。
すると朝だというのに、店から少し離れた所で何故か野次馬が出来ていた。
「何か事故でもあったのか?」
別に気になるわけではないが、もし知り合いとかが巻き込まれているかもと思い、野次馬を掻き分け確認に行った。
そこには車が電柱に激突し、乗っていたであろう黒いスーツ姿の男女二人が、野次馬の中心で口論していた。
「エイトまたか!?お前に運転させるとすぐどこかにぶつけるんだよ!お前は本当に超絶馬鹿だな!」
「フィフスが暇だからって、運転中の私とトランプなんかしようっていうからでしょ!?どうすんのよ・・・もう保険下りないよ!」
黒いスーツもそうだが、大声で喧嘩しているせいで野次馬は集まっていく一方だった。
話の内容からして、頭がいかれた奴らに違いない。
「最近変わった奴が多いな。俺も人の事言えないけど・・・」
俺はそんな事を呟きながら、その場を後にした。
俺はどうせ遅刻だと思い、コンビニも立ち寄って学校に向かっていた。
そして俺は思い止まったかのように、ある場所の前で立ち止まる。
あの少女のいた――紫陽花公園の例の茂みの傍だ。
もうあの歌声が聴こえない。流石に帰ってしまったのだろうか。
何処の誰かわからない・・・もう二度と会うことはないだろう。
そのまま立ち去ろうと振り返った。
その時、池のあった辺りから銃声のような音が響き渡った。
「なんだ!?今の音・・・!」
俺は急いで茂みの中を覗き込んだ。
「なんで今撃ったの!?人が来たらどうするの!?」
黒いスーツ姿の、見覚えのある女がもう一人に怒鳴っていた。
「わ、わかってるよ!でも大丈夫だって。ここは滅多に人が来ないんだ。俺に超絶まかせとけ!」
同じく黒いスーツ姿の男が、拳銃を片手に言い返していた。
間違いない。先程事故を起こしていた二人だ。
そして問題なのは・・・
「こいつら・・・なにやってんだ・・・!?」
男の拳銃の先・・・そこにはもう一度会いたいと願っていた、あの美声の少女が座らされていた。
少女が二人に言い返す。
「なんなのよあんたたち!私を誘拐しても何も価値がないわよ!」
どうやら誘拐現場らしい。
頭の悪そうな二人だが、先程の銃声からしておそらくあの拳銃は本物。
どういう状況かは解らないが、少女のピンチであることは理解した。なんとかしないと・・・!
・・・一丁だけでありますように
「あ、あの・・・」
俺は初めて茂みを超え、姿を現した。
すぐに拳銃を持っていた男が、銃口を此方に向ける。
「誰だお前!?超絶殺されたいのか!?」
・・・超絶って、なんだ?口癖なのか?
「すいません・・・ちょっと道に迷ってしまいまして・・・そしたら偶然音が聞こえてきたものですから・・・」
俺はあくまで通りすがりを装った。
「ほら!だからむやみに撃っちゃダメだって言ったじゃない!」
「し、仕方ないだろ。試し打ちしないと」
「そんなのちゃんとサイレンサーつけてしてよ!」
俺が予想した通り、こいつらはすぐ言い争いをする。
そして女はただ怒っているところを見ると、おそらく武器の類を持ち合わせていない。
そう確信すると、咄嗟に行動に移す。
刹那。
俺は喧嘩で男の注意が俺からずれた事を確認し、すぐに男に駆け寄った。
そして男がこちらに気づくより前に、右手を男の顔面にかざすのだった。
そして次の瞬間、俺は『サイコキネシス』を使い、見えない念の力で男を向こう側に吹き飛ばした。
男は宙を舞い、池にめがけて飛んでいった。
「よし!久々だが上手く使えた!」
何年かぶりに全力で能力を使った。
もう少し力の衰えがあるのだと思っていたのだが、まずまずといったところだった。
男の仲間である女は、当然それを見て驚いていた。
「フィフス!なんで!?何今の!?」
戦闘力のない女を相手にしたくない。
まずやることは――
青い髪の少女を逃がすこと。
「大丈夫か?」
少女の所へ駆け寄ってそう言った。
「あなた・・・一体何者・・・?」
「そんな話はいいから逃げるぞ!歩けるか?」
少女は頷き、立ち上がった。
「逃がすもんか!」
黒スーツの女が、ある物をこちらに向かって投げ込んだ。
俺は一瞬構えたが、それを見てすぐに動揺した。
「なんだこれ・・・?水筒・・・!?」
小学生が持ち歩いていそうな、蓋の空いた水筒。
中から水がこぼれながら宙を舞い、水だけが俺たち二人に降り掛かった。
「冷たっ!なんだよこれ!ただの水じゃねぇか!どういうつもりだよ!」
俺は流石に頭が濡れてカチンときた。
だが、所詮ただの水。何の害もない。
そう思い、ここから逃げようと隣いるはずの少女の方に視線を移した。
「しまった!水に当たるなんて!」
少女はそう言いながら――
少女は――魚の鰭のようになっていた下半身を、ピチピチと水面をはじいていたのだ。
俺は勿論目を疑った。
漫画などで出てくる、人魚の容姿のそのままだ。
「なんだこれ!?人魚!?」
当然驚いた。
架空の存在でしかないと思っていた人魚が、まさかこんな形で・・・しかもこの少女がそうだったとは。
何の冗談だ・・・?
「やった成功よ!みたかマーメイド!もうお前は逃げられない!」
黒スーツの女が嬉しそうにそう言った。
こいつら、一人の少女を狙ったというより、最初から人魚だと知って狙っていたのか。
池に落ちた男がずぶ濡れの格好で復活していた。
「お前よくもやったな!俺たちをマフィアだと知って刃向ってきたのか!?超絶馬鹿野郎だな!」
マフィア・・・これもまた映画などでよく聞くワードだ。
くそっ!なにがいったいどうなってんだよ!
俺はまず、マーメイドである少女を肩に抱え込んだ。
「ちょっと!私なんて見捨てて逃げてよ!この二人はこれでもマフィアの幹部。あなただって殺されちゃう!」
少女はすぐにそう言った。この期に及んで人の心配なんかするなよな。
黒スーツの男が余裕そうな笑みを浮かべた。
「おいおい。妙な正義感もって、女の前で良い格好するのは結構だが、それで死んだら元も子もないぜ。そのマーメイドをこちらに引き渡せば、命だけは約束してやる」
男は銃を取り出してそう言った。
全く・・・人魚といい拳銃を持ったマフィアといい・・・なんなんだよ一体。
「ハハハ・・・映画のロケ地か何かかここは?まあ、こんなもので撃たれたら死ぬだろ
な・・・普通なら」
俺はボソッと呟いた。
「あ?何か言ったか?」
「なぁお前ら。マフィアか何か知らないけれど、こんな女の子襲うの止めろよ。嫌がってるだろ」
黒スーツの女が答える。
「残念だけどそれは無理。うちのボスが、どうしてもマーメイド生け捕りにしてこいってね。だから何としてもフィフスと私は、任務を完全遂行する」
フィフスっていうのは、どうやら隣にいる仲間の男のコードネームらしい。すると差し詰め、事故って喧嘩していた時に男が呼んでいた名前・・・エイトだったか?
「『GodJack』!これが俺たちのマフィアの名前さぁ。聞いたことあるだろ?『GodJack』っていや、これから世界で名を挙げる最強マフィアだ!超絶強い!」
「知らねぇよ!つうかこれからかよ!」
こいつら・・・本当にすごいマフィアなのか?今も俺たちをそっちのけで喧嘩している。
「なんでフィフスはすぐ名前ばらしちゃうの!?マフィアって自慢したいの解らなくもないけど!」
え?マフィアって自慢したいものなの?
「しょうがないだろ?あの超絶頭悪そうな高校生が、超絶教えて欲しそうな顔してこっち見てんだから」
そんな顔してねぇよ!こいつらすっげぇ腹立つんですけど!
とりあえず今思ったことは、こいつらから逃げる事は案外簡単なんじゃないのかという事だ。
「おい。逃げるぞ。今の内だ」
俺は肩に抱えていた少女にそう言った。
それを聴こえたのか、フィフスが喧嘩を中断してこちらに銃を向き直す。
「だから逃がすかって言ってるだろ!そこから動くと、どうなることになるか解ってんのか!?」
一つ困ったことがある。
俺の『サイコキネシス』は今まで腕に念を送り、腕をアンテナ替わりにして力を放つ方法。
だが今は人魚の少女を抱えていて、両手が塞がっている。
そんな時、俺は昨日の晩に莉奈が観ていたアニメの一部を思い出した。
そのアニメの敵キャラなのだが、目の前になにやら気の塊のような物を作り、それを相手にぶつけるといった技。
あれは一体どうすればできるんだ?
気なんてそんなもの集め方なんて知らないし、両目に意識を集中させればなんとか物を持ち上げることはできるのだが、小石一つ持ち上げる事の出来ない微弱な力。
当然先程のように、人一人持ち上げて池に叩き落とす事は到底不可能。
どうすれば・・・
「お願い!私なんか置いて逃げて!あなた一人だけなら逃げ切れるかもしれない!」
「うるせぇ!耳元で騒ぐな!あんたは自分が助かる方法だけ考えろ!」
考えろ・・・考えるんだ・・・
相手はたったの二人だ。きっと方法があるはずだ。
「どうした?降参するのか?」
フィフスが銃を構えながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「落ち着いて!あなたが今どうしたら利口か、考えればすぐわかるのよ!」
この人魚はさっきから俺の心配しかしない。頼むから黙っててほしいものだった。
「落ち着いてるよ!ちゃんと考えてるだろ!まずは深呼吸でもして――」
俺はそこまで言った所で、ふと思いついた。
あったのだ。最善策が。
「・・・どうしたの・・・!?」
「・・・いや、いっぱいあったな。とてつもなく軽い物が。いっぱいな」
「任せとけ。助けてやるよ」
そう言って俺は両目に意識を集中させ、ある物を一点に集め始めた。
「あるじゃないか。俺たちの身の回りにある、全く重さを感じない物が」
少女はよく解らない顔をしていたが、無理もない。
『サイコキネシス』の説明をしたって、また昔みたいに気味悪がられるだけ。
だけどやっぱり、気味悪がられようとも罵られようとも――
一人くらい救いたい。
「さぁぶっつけ本番だけどやってやる!弾はいくらでもあるからな!なんたって、空気はどれだけ使っても無くならないからな!」
俺は空気をできるだけ目前で圧縮させていった。
空気が振動し、流石にマフィアの二人にも緊張感を感じ始めていた。
「お、おいエイト。これって超絶やばいんじゃないのか・・・!?」
「フィフス・・・私嫌な予感がするよ」
えっと、確かこの技を放った時、莉奈の奴なんて言ったか・・・
そうだ。魔法少女なんとかってやつが、友達に正体がばれる事を恐れていたが、その友達の危機の時、友達の目の前で躊躇なく技を使って助けたという。
その技は確か――
『サイコショット』
俺は圧縮した空気を、マフィア二人にめがけて発射した。
目に見えない圧縮空気がフィフスとエイトに命中し、二人同時に宙に撃ち上がった。
人魚の少女は当然この光景に驚倒していたのだが、俺は構わず振り返り、この場から逃げるように走り去る。
マフィア二人が激しく池に叩き付けられるように落ち、巨大な水しぶきの音を響かせていたことは言うまでもない。
「ちょ、ちょっとなんなのよあなた!今の一体なんなのよ!」
当然くるだろうと思っていた質問。
「はぁ?なにってそりゃ・・・『サイコキネシス』だよ」
「さ、さいき・・・何・・・?」
「だから!超能力だよ!」
「超能力って・・・!?そんな、映画とかアニメとかの・・・!?」
「マーメイドがそれを言うか?俺からしてもお前は何者だって話だ」
「そうよ!私はマーメイドよ!あなたはそれを気持ち悪がらないの!?」
「だからお前がそれを言うか!?お前が今乗っかってる相手も、周りから見たら変な奴なんだぞ!?」
「あ、あなたは今助けてくれたじゃない!私の・・・お、恩人じゃない!」
・・・恩人・・・かぁ・・・
生まれて初めて言われた一言。
まさかこの俺が、その一言を言ってもらえる日が来るなんて・・・
俺は戸惑いながらも懸命に走った。マーメイドを担いだまま。
この公園から出たら――マーメイドを通行人に見られる訳にはいかない。
かといってこの公園内を逃げ回るのも危ない。
俺はどこか隠れられそうな場所を探していた。
そうして走っているうちに、俺はいつの間にか巨大な行き止まりに差し掛かっていた。
「くそっ!まるで迷路だな!」
引き返さなければ。
俺は少女を抱えたまま、後ろを振り返った。
するとそこには、全身水浸しの黒スーツを身に纏った、今一番会いたくない二人が道を阻んでいた。
「よくもやってくれたな・・・!超絶許さねぇ!」
「もう頭痛い・・・絶対明日朝起きたら風邪ひいてるよ・・・」
マフィアの二人、フィフスとエイトだった。
「くそっ!もう追いつかれた。だったらもう一度サイコキネシスで・・・!」
俺はもう一度目前に意識を集中させ、空気を集めようとした。
その時、俺は激しい目眩に襲われた。
体制を崩し、腰が抜け落ちた。
一緒に崩れ落ちたマーメイドの少女は、何が何だか解らないでいる。
「ど、どうしたの!?すごい鼻血だよ!?」
気が付くと少女の言う通り、大量の鼻血が噴出していた。
「くそっ!限界かよ・・・!」
「限界って・・・そんなに消耗するものなの・・・!?」
今思えばそうだ。俺は今まで自分の超能力を毛嫌いして、普段全くと言っていいほど力を使わないでいたのだ。
使える頻度がいつの間にかかなり減ってしまう程、衰えていたのだ。
・・・それでいいと思っていた。
だけれど、今だけは・・・
今だけは・・・
「ラッキー今なら超絶チャンスじゃん」
フィフスが余裕そうな笑みを浮かべた。
当然だろう。俺がこの有様なのだから。
いざというときは奴らにしがみついてでも、この人魚の少女を逃がすつもりでいたのだ。
そんな時、少女が立ち上がって一言ささやいた。
「ごめん。ちょっと耳閉じてて」
「お前・・・いつの間に足が」
少女がニコっとほほ笑むのを見ると、一瞬それを見惚れたのだが、先程の言葉を思い出し、急いで耳を塞ぐことにした。
「・・・ありがとうね。今度は私があなたを助ける番」
少女は小さい声でそう言った。
だが耳を手で塞いでいた俺には、何を言っているのか聞くことができず、ただ少女は笑っている。何が何だか解らなかったが、俺はただ黙って言われるがままに耳を塞ぎ続けた。
そして少女は、走って向かってくるマフィアの二人に対し、驚きの行動に出たのであった。
マーメイドの歌。
少女は笑顔で歌い始める。
その光景は、池で独り熱唱している時と同じ。俺が池を覗いていた光景のそのままだった。
俺はそれに魅了され、つい歌がたまらなく聴きたくなり、耳を開こうと思った。
そんな時、変化が現れる。
マフィア二人の動きが止まったのだ。
最初歌に聞き入ってしまったのかと思ったのだが――確かに聞き入ってはいたようだが。
まるで意識を吸い寄せられたかのような、二人から精気と呼ばれるものが全く感じられなかった。
そして何故か、その二人はそのまま真っ直ぐ俺たちから離れる様に、この場から去っていったのだ。
「な、何がどうなって・・・」
何が何だか解らないまま事が終わり、少女が歌うのを終えた事を確認し、恐る恐る耳を解放させる。
「今のは一体・・・?」
「これがね。マーメイドの歌の能力よ」
「歌の能力?それって・・・?」
「今みたいにさ・・・私たちマーメイドの歌は、特殊な音波を発してるみたいでね。相手を思うように動かしたりできるの」
「そんな能力がね・・・でもおかげで助かったよ。どっちが助けてたのか分かったもんじゃないな」
情けなくなった。
俺は余計な事をしてしまったのではないのかと。
そう思っていると、少女がにこっと笑顔を覗き込ませてきた。
「ありがとう」
「え?ありがとう?」
「そ。ありがとう。ひ弱なサイキッカー君。見ず知らずの人魚を助けてくれて」
「ひ弱で悪かったな」
「でも助けてくれた・・・ありがとう」
「・・・俺はただ通り過ぎただけだし」
急に照れくさくなってかそんな事を言う俺。ずっと覗いてましたなんて言えない。
「ううん。それでもありがとう。嬉しかった。ねぇ、あなた名前はなんて言うの?」
「俺は樋口颯斗。お前は?」
「私は水玉アクア。本名は・・・アクア・リーフコーラルって言うんだけど・・・」
何故か本名を濁して言った理由は、なんとなくだが解った気がする。
俺と同じか・・・
「そっか・・・またどこかで会えるといいな。」
俺は何故かそう言った。
人魚が珍しいだとか、彼女が美少女だからだとか、そうことではなく、ただ純粋にゆっくりお話しがしたかったのかもしれない。
もしかしたら、似たような悩みを抱えこんだ仲間なのかもしれないのだから。
するとアクアは満面の笑顔で言葉を返した。
「絶対またどこかでね。」
そう言ってアクアは、最後まで笑顔で去って行った。
「・・・ありがとうかぁ。久しぶりにサイコキネシスを人前で使ったけれど・・・誰かにお礼を言われたことなんて、今まで無かった初めての事だったなぁ」
俺は少し嬉しくなって、その辺に落ちていた空き缶を、サイコキネシスを使って持ち上げようとする。
ちょっと浮いたところで、鼻血が噴き出した。
ドサッ
俺はそのまま背中から倒れこむ。
暖かい日差しの中、今まで抱えていた不安などが抜け落ちていくような感覚だった。
「案外、俺の抱えてる悩みなんて、実は大した悩みじゃない・・・のかもな」
サイキッカー辛過ぎワロタ
ご愛読ありがとうございました!
中学生の時友達からきっかけを貰って、ずっと書き続けてきました。
その日から、アニメや映画を見る度あっちの世界のお仕事がしたくてがんばって来ました。
これからも応援よろしくお願いいたします。