バレンタインは君でいい

バレンタインも忘れてしまうような忙しさの副長に銀さんは……。 100hit記念

…なんだこの気を失うような書類の量は。


…死ねってか、死ねってのか!?



真選組副長、土方十四郎。ただ今屯所の自室にて机にうなだれている。彼の目の前にあるのは、三つに分かれている紙の山。しかも、どれも締切が近く早急に仕上げなければならないものばかりだった。

この間攘夷浪士の捕物をした際、想定外の規模で爆発が起きた。幸い怪我人は出なかったが、修理が思ったよりかかってしまい、プラス沖田のバズーカ破壊の腕が鳴ってしまった為、始末書の量がとんでもなく増えてしまったのだ。

「こりゃ暫く寝れそうにねェな」

土方はライターの火をつけ、煙草を咥えた。











2月13日深夜、万事屋一同は少しでかい依頼をこなして来た事もあり、懐に余裕が出来たためソフトクリームが作れるバイキングに行った。食べすぎた神楽を、銀時が背負いながら店を出る。

「いや~美味しかったですね!」

「やっぱ働いた後はたらふく食わねェとな」

「うっ……た、食べすぎて吐きそ…」

そんな家族みたいな会話をしながら、帰路へ向かって歩いていると、ふと銀時は空を見上げた。


「月、綺麗だな」


その言葉につられて、同じく空を見上げる神楽と新八。誰も何も言わず、ただ夜空を見つめる。真っ暗な空に幾つもある星、自分たちを照らし出す月。美しいなんて、そんな言葉じゃ飾れない姿にフッと、銀時は笑みを浮かべた。


「悪ィ、新八。神楽連れて帰ってくれ。寄るとこ思い出した」


言うが早いか、神楽を背中から降ろすと新八に預けた。神楽は相変わらず顔色が悪そうだ。


「えっ?どこ行くんですか?」


「男はそんなヤボな事聞いちゃいけねェな、新八っつぁん」


背中を向け、今来た道を歩きだした銀時はヒラリと片手で新八に手を振った。


「まったく…」


困った顔をしながらも、新八は銀時を見送った。










土方の部屋の障子がガラリと開いた。部屋に篭っていた煙草の煙が一気に外に流れ出る。いきなり障子が開いたことに驚きながら、そこに立っている人に声をかける。


「あ?総悟か。なんだこんな時間に」


「なんだじゃねェでさ。あんな煙たまって、一酸化炭素中毒にでもなりてェんで?」


ふは、と笑った土方は座布団を投げつけ沖田の座るところを確保してやる。
部屋に入った沖田は部屋を見渡した。


「ホンットに何もねェですね。書類しかねェ」


投げつけられた座布団を土方の傍に持っていき隣に座ると、チラリと一瞥するだけで何も言わないまま、煙草を咥え書類を眺める。サラサラと書き物を始めると暫くして、また違う書類に目を通し始めた。


「ま、土方さん。俺が言いてェのは適度に休めってことでさ。んじゃ、忙しそうなんで俺はこれで。…お客さんも来たみたいだし」


スタスタと部屋を出ていってしまった沖田の背中を見ながら、土方は眉をひそめた。


「いや、なんの脈略で『ま、土方さん』って言ったんだよあいつなんかその前に言ってたか…?聞いて無かったわ。え、てかあいつ最後客きてるって言ってたよな?」


現在午前1時。明らかにおかしい客だ。いや、もはや迷惑な奴だ。最後の言葉が気になりつつも、再び書類に目を向けたその時。背後に何かを感じ、振り返った。


「うわっ…!」


その瞬間目の前に広がる白い着流し。厚い胸板。甘い匂い。顔を見ずとも、誰だか分かった。この抱きしめ方、この力加減…



「おどかせんなよ…銀時」



「へっ、仕事で多忙な恋人に会いに来てやったんだろうが。有り難く思え」



そこにいたのは土方の恋人、坂田銀時だった。先ほど新八たちと別れてこっちに来たのは土方に会うためだった。


「せっかく来てくれて悪ィんだが……」


土方は口ごもりながら、今は相手に出来ないと伝えたがっているとわかりながら意地悪な質問を銀時はしてみた。


「ね、十四郎。今日何の日か知ってる?」


今日…?

部屋にある日めくりを見てみると、まだめくって無かった筈だったのだが、沖田がさっき部屋を出る際に剥がして行ったらしい。


「2月14日……?」

「おう。何の日?」

「……ば、バレンタインか」

「ご名答」


ニヤリと銀時が笑ったのを、土方は見逃さなかった。そして誤魔化すように、目を書類に向けた。



「た、度々悪ィ。準備してなかった……」



甘いものに目がない銀時が、バレンタインを楽しみにしているのは知っていた。しかし、ココ最近ずっと仕事詰めだったためそんな行事ですら忘れてしまっていた。


「いいよ、別に。だって目の前に美味しそうなものがあるもん」


部屋にそんなものは置いていないんだが、と再び銀時の方を振り返った時__



「……ん……っ」



不意に唇に感触を感じた。



「さて…ハッピーバレンタイン、十四郎」





この後は土方がはちゃめちゃに食べられた事は言うまでもないだろう。






甘い。


甘すぎる。


俺なんで日めくりまでめくっちまったんでィ


どんだけお膳立てしてんでィ!!






こちらもこちらで、沖田の葛藤も置いておこう。




~fin~

バレンタインは君でいい

総悟めっちゃ、イイヤツになってない?ちょ、ドS星の皇子……

バレンタインは君でいい

バレンタインはやっぱり恋人と……。銀土

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-15

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