宝くじに当たった男 第4章
この作品はワードからコピペしたものですが、ワードでは一字下げしているのですが
現在一部しか出来てりません。
何故か、一字下げがされていません。読みにくいでしょうが、そのままお読み下さい。
第四章 北の大地編
熱海で経験した松の木旅館の人々との触れ合いは大きな財産となった。
一旦、東京に戻ったアキラは、自分の為にもう一度旅に出ると恋人、浅田美代に告げた。美代は寂しそうな顔をしたがいつか再び逢うと約束していた。
愛車ランドクルーザーに乗って北海道に向けて旅立った。
季節は桜前線の北上中、ちょうど関東地方は満開の季節を迎えていた。
自宅マンションのある赤羽から、荒川を越えると埼玉県川口市に入る。
ここはキューポラのある街で、全国でも名の知れた鋳物工場だったが時代の流れか、今は当初の二割程度に鋳物工場も減って今は高層マンションが立ち並ぶ街に変貌している。
そこから国道百二十二号線に入ると、まもなく右側にワールドサッカーで準決勝が行われた、さいたまサッカースタジアムがある。
東北の入り口と言われる東北自動車道始点、川口ジャンクションが見えた。
ここから青森まで繋がっている。距離は七百キロ以上にものぼる。
昨年は東海道のんびり旅の予定だったが旅の途中で謎の女性と遭遇してしまう。とんだ珍道中になってしまったが。アキラは災難を避ける為か、どうか分らないが仙台まで高速道路で行くつもりでひたしら走る。東名高速と違って栃木の宇都宮あたりを過ぎれば穏やかなカーブとなり車がめっきりと減る為に走っていて気持ちが良い。春の季節、青葉も広がり気分は爽快であった。
栃木県那須を過ぎれば東北は福島県に入る。まさにみちのく一人旅である。まもなく郡山市この先で常磐自動車道と交差する右は、いわき市から始点の埼玉県三郷へと続き左は猪苗代湖を通り抜けて会津若松から、太平洋側を走る予定だ。
会津と言えば幕末に最後まで徳川幕府の為に戦った会津藩で知られる。
アキラは走りながら、そんな事を脳裏に浮かべて走り続ける車は二本松市から、その先に県庁所在地の福島市に入った。ちょうどこのあたりに有名な桜があると言うのでアキラは高速を降りた。
三春の春の名物・滝桜は国の天然記念物に指定されている巨大な紅しだれ桜で、その大きさは樹高十二メートル根周り十一メートルに及び、満開時には無数に咲いた小さな花は真紅の滝がほとばしるかのように見えることから、古来滝桜と呼ばれているそうだ。
若いアキラには、とんと花には興味はなかったが、しかしこれだけ見事だと、まさに感動ものであった。
少し夕方には早いが、せっかく降りたところで近くに東北ではかなり大きな温泉地、飯坂温泉に今日の宿を取る事にした。
松尾芭蕉が「奥の細道」で飯坂を訪れてから、約三百年が経ちそうだ。文学にも花にも疎いアキラだが、芭蕉は知っている七十件あまりの温泉ホテルと旅館がある飯坂温泉で賑わっている。
アキラは飯坂温泉入り口の、観光案内所で空いている宿を紹介してもらった関東、関西、九州とは同じ温泉地でも一味違う。アキラはフ~っと溜息をつく東北特有の、のどかさと哀愁が漂う。温泉場にひと時のやすらぎを感じた。
その温泉ホテルに今日の宿をとった。アキラは早速このホテル自慢の露天風呂に入った。自慢するだけのことはあった。露天風呂の周りは林に囲まれて、まるで山の奥地にポッカリと風呂があるような自然と調和して、その林から小鳥のさえずりが聞こえていた。
あの熱海にも沢山の露天風呂はあるが、なにせ街の中である。
このような自然と調和した露天風呂は作り出せなかった。なるほど……露天風呂かアキラは感じるものがあった。
松の木旅館に足りない物は、建物事態はどうにもならないが。露天風呂は松の木旅館にはなかった。しかし露天風呂なら他の旅館にもある。ありきたりの露天風呂では、大きなホテルに太刀打ち出来ない。
温泉地の売りは露店風呂がある事、またアピール出来る風呂なのか。ならば何所にもないような、露天風呂は出来ないものかと考えた。せっかくの自由きままの旅だ。こうなったら沢山の温泉地を見て回ればとアキラなりに閃いたのだった。
この飯坂温泉の良さ、各旅館を周ってみれば、もっと何か浮かぶかも知れない、もうアキラは旅館のことで頭がいっぱいだった。
翌日アキラは何事もなく? 出発した。そうそうと何かあっては、たまらないが東京に比べれば流石に福島あたりにくれば朝は寒かった。それでも今日は春の日差しを浴びて、車の中はヒーターを必要としなかった。
福島からは高速を使わずに国道四号線を北へ向かう。
この国道四号線は、起点は東京日本橋から青森まで東京、埼玉、千葉、一部茨城、栃木、福島、宮城、岩手、青森と続く。車は仙台が近づくにつれて渋滞し始めた。気のせいか皆のんびり走っているような、しかしトラックは違った。なにせ大型トラックは長距離便が多い。少しでも早く前に行きたいのだろう。
時々、片側二車線になると追い越し車線を大型エンジンの轟音を響かせ追い越して行く。
隣を走っている軽自動車は、その風圧でハンドル取られること、しばしばだ。
とくに高速道路では怖い、軽自動車は車体が軽いからフラフラとあおられる。
ランドクルーザーくらいの車体だと、ほとんど影響は受けないが。森の都、仙台市内に入った。仙台と言えば伊達政宗。
今は城跡しか残されてないが、伊達政宗の銅像は今も庶民を見守っている。
東北唯一の政令都市、仙台市内は道幅も広く最初から都市計画が出来ていた。
話は逸れるが、東京があんなに渋滞するのは訳があった。
あの徳川家康が築城した江戸城、まだ戦乱の世の中、町づくりよりも優先したのが、城を敵から守るために道はまっすぐ作らなかったと言われている。沢山の迷路を作り更には堀を作り、城下に武家屋敷を作り、その周りを囲むように町民の町が出来て行った訳であり、まさか今のように、自動車社会になると家康も読めなかったらしい。
北海道は明治維新の後、開拓されて今のように将棋版のように道が縦と横に走っている。札幌、旭川などは見事なまで街の基盤道路が出来ている。仙台の街を通り過ぎてアキラは松島に向かった。
松島は仙台でも、少し海岸寄り北へ数十キロのところにある観光地だ。
名の通り海岸には沢山の松の木が茂った島があり又カキの養殖も盛んに行われている。
松島駅の近くに瑞巌寺があるが、伊達政宗の墓を掘り出して沢山の刀や兜など納められた棺が出た時の資料館もある。アキラは、そんな松島の景色を眺めながら国道四十五線を走る。
まもなく北上川が見えて来た。しばらくの間、左に北上川を見ながら気仙沼市に入り、しばらく走ると太平洋が見えて来た。陸前高田、大船度、釜石と岩手県の港町を通り過ぎて行く。やがて宮古市に入った。この先に名所、浄土ケ浜がある。アキラは今夜この地で宿をとることに決めた。
この辺は陸中海岸でも景色が良く、海水浴場でも有名だ。その海水浴の期間も、九州の方に比べたら半分の日数に満たない。それだけ東北地方は夏が短いと言うことだ。
アキラは浄土ケ浜の浜辺に近い旅館に泊まった。
いくら観光地と言えまだ四月、観光客の姿もまばらだ。夜になるとかなり冷え込んで来た。
夕食を済ませて寒いが海岸の砂浜で、静かなさざなみの音を聞いていた。
すると誰か夜中の七時過ぎだと言うのに、海の中に入って行くのが見えた。まさか潜って魚でも捕りに来たのだろうか? それにして私服のようにみえたが、アキラは黙って見ていた。
どうも様子がおかしい、まさか? アキラは海岸に走ったが人の姿が見えない。
暗闇をアキラは必死になって探した。見えるのは白い波と黒い海の色だけ。
良く見ると波とは違う白い物が見えた。アキラは海の中に入っていった。
必死に探し、目の前によせる波に浮き上がった人の姿があった。
アキラは手を伸ばして襟を掴んで引き寄せた。そのまま岸に向かって戻った。
この季節の海の気温では、凍えて死んでしまうかも知れない。幸い旅館はすぐ近くだ。アキラは男を背中におぶって走った。旅館のフロントにビショ濡れのままアキラは入って来て叫んだ。
「どうしたんですか!」
旅館の従業員が、ただならぬ様子に驚く。
「この男が海に身投げしようとしたんだ。早く暖めてやってくれ!」
「ハッハイ分りました」
その従業員が何人か呼びに行った。仲居さんや、女将さんらしい人が手際よく、その男を連れていった。
それから二時間が過ぎてアキラの泊まっている部屋に電話が入った。招かれた部屋には、白衣を着た男女と女将が座っていた。それは医者と看護士だった。幸いに救出が早かったので大した事はなかった。
その自殺志願者は? 布団から身体をゆっくり起こした。
「どうも……」と軽く頭を下げて下を向いた。
助けられた男は特に悪い所はなく、少し海水を飲み過ぎたのと寒い海に入って寒気がする程度で、病院に連れて行く程のこともなかった。いったいこの若者は何故、海に入って行かなければ、ならなかったのか。
まだ二十四~五歳の男だった。アキラより少し若い感じだ。
女将が言った「この方ですよ。貴方を助けてくれた人は」
アキラは、その男に近づくやいなや、おもいっきりホッペをぶっ叩いた。
「なっ! なにすんですか」男は悲鳴をあげた。
女将や医者達も驚いて必死に止めた。しかしアキラは興奮していた。
その興奮した顔はゴリラのように怖かった。
「あのなぁ何があったか知らんけど、命を捨てるほどのことか!」
迫力のあるアキラの大声と気迫に、周りの人は凍りついた。
「まぁ無事で何よりだ。しかし皆に迷惑かけたことは確かだがな」
医師の話だと、もう薬も必要がないとのことだ。ただ心のケアは必要だ。
医者は女将とアキラに説明して帰って行った。
「女将さん、この男を俺に預けて下さい、お願いします」
何を思ったのかアキラは その男に何を話しようと言うのか。
「えっええ……お客さんが助けてくれたから、お任せしますが」
正直、旅館としては迷惑な事だった。泊り客でもない人を人道的立場で医者を呼び解放してあげた。その後まで面倒みる必要はない。アキラの申し出にホッとしている事だろう。そんな訳でアキラはその男を自分の部屋に連れて行った。その男は、蛇に睨まれた蛙のように大人しく着いて行った。
「アンタ! 名前はなんて言うんだ。事情はどうあれ、なんで死ななきゃならないんだ。言ってみな! 場合によっちゃ相談に乗ってやるぜ」
どうやら、アキラのお節介が、またまた始まったようだ。
「どっどうも……」
しかし男は、なかなか話そうとしない。しびれを切らしたアキラは
「おまえ! 人の話を聞いてんのかぁ!」
再びアキラ怒鳴りだした、アキラは煮え切らない男に腹をたてた。
「すっすいません。おっ俺 山崎恭介っていいます」
「そうか山崎恭介か、でっなんで死のうなんて思ったんだ」
それから山崎は、少しずつ話始めた。どうやら失恋が原因らしい。
「ケッ情けない奴だなぁ、今時の男は振られたくらいで自殺するかぁ! いまじゃ女だって、そんなこと考えないぜ。しっかりしろよ」
男は、また黙ってしまった。ひょっとしてこの男は、かなり純情じゃないか。
アキラからみれば信じられないことだった、確かにアキラは今、浅田美代と言う彼女はいるが、しかし思いつめる程に熱くなっている訳でもなく。
いや、と言うよりもまだ其処までの付き合いじゃないのかも知れない。
「でっおまえ、どっから来たんだ。この地元の人じゃないみたいだが」
「ハァ北海道なんです。俺、騙されたんですよ。それで金まで取られて」
どうやら山崎は、その彼女と出合ったのは良かったのだが数ヶ月前に、その女の方から近づいて来たらしいのだ。
何度かのデートを重ねているうちに、山崎は彼女のアパートに行った日。
山崎は彼女の部屋で一緒に、ベッドを共にしていた時のことだった。
突然彼女のアパートの部屋に、けたたましくドアを叩く音がした。
彼女は仕方なくドアを開けると、二人の男がズカズカと入ってきて、いきなり山崎を殴りつけた。
「おめぇ俺の女になんてことしてくれたアー」と。
再び二人の男に殴りつけられ、あげくに金を脅しとられたらしい。
ひとつの救いとして、その彼女は山崎とは本気だったらしいが定かではない。
相手はつまり元彼と言う奴だ。その元彼は街のチンピラで金になることは、なんでもするワルらしい。金は盗られ彼女とは無理やり別れさせられたそうだ。
どうもみても、山崎恭介という男は気が弱いらしい。
それで失望して死ぬ気になったと言う。アキラから見ればまったく情けない男に思えた。そう言う人間もいると言う事をアキラは知らなかった。
(そりゃあそうだアキラ! そんなゴリラみたいな男ばかりじゃないぞ)
アキラは、もう二十七歳になっていた。山崎は二十五歳だと言う。
つまり二歳年上のお兄様だってわけだ.
「おまえなぁ、だからって死ぬことはないだろうよ。しっかりしろや!」
「はぁ……でも俺生きていても、何を生き甲斐にすれば良いのか」
「あのなぁお前いくつなんだ。莫大な借金でもあるのか? 年寄りみたいな 事を言ってんじゃないよ。俺だって なぁリストラされても何とかやっているんだ。これからだって何度もチャンスがあるじゃないか俺みたいになぁ、人生そうは捨てたもんじゃないだぜ」
アキラ得意の説教が始まった。有馬温泉では年上の旅館経営者まで説教するくらいだから、二つ年下の若造はアキラからみればもう幼稚園なみの扱いだ。
その怖い顔と体格を見とたら、殆どの人がビビルだろう。
「そっそれだけでなく借金があるんですよ。あいつ等にサラ金まで連れて行かれて慰謝料と云われ百万ばかり無理やり借りる羽目になって、その内にサラ金の取立てにあって、払いえなくなり逃げて来たんです」
「……なるほどそうか、なら少しはお前の苦労もわかるなぁ。借金させてまでも取り捲るとはあくどい奴等だな。でもお前はチャンスにめぐり合えたんだ。ツキがあったんだよ」
「へ? どうして俺にツキがあるんですか」
「わかんねぇか! 俺と会ったことに運があるって言ってんだよ」
「はぁ……そりゃあ助けてくれた命の恩人だから」
「そうだ。命を助けたんだ。だったらその命を俺の物だ」
「へ? 命をくれってと言っても俺をどうにかするってんですか」
山崎はまた一難去って一難と思った。どうみても善人には見えないアキラだ。
肝臓でも売って金に変えろ、なんて言われたらと怖くなった。
「お前、なに怯えてるいのかぁヒャッハハ勘違いすんな。俺に任せておけば万事解決してやるって言ってるんだよ。俺みたいな善人はそうは居ないぜ。安心しろ」
自分で言う、善人とか人好しなんてのに限って、悪人が多いものだけど。
山崎恭介からみれば、とても善人に見える訳がないのだ。
それを信用しろ、善人だって言われても信用できる方がおかしいのだが。しかし山崎はもう一度は、命を捨てて拾われた身だ。命あずけます。と、どっかの歌のセリフみたいに覚悟した。
翌日アキラは旅館に、昨日の治療費と山崎の宿代を払って山崎恭介を乗せて
三陸海岸を走る。旅館では人助けは当たり前。治療費は良いと言われたが自分が連れて来た男だから責任は俺にあると払ったのだ。
三陸海岸とは陸奥、陸中、陸前と合わせて三陸と言う。その陸中海岸は岩手県から青森県八戸市まで続く。
「どうだい、この海の景色を見てみろ、いい眺めじゃないか。もっともおまえは、北海道だから見慣れているかも知れんがな。俺には最高だぜ」
「いいえ俺は旭川で以外と海とは離れていて、余り海を見ることがないんです。 あの~~まだ名前を伺ってなかったんですが」
山崎恭介は恐る恐る、アキラに聞いた。年は二歳しか違わないと言えど。
山崎は百七十センチと平凡で痩せ型。大人と子供ほど体格が違う。
アキラが本格的に格闘技を始めたとしたら多分、一流の選手になっていたかも知れない。山崎が逆立ちしても敵う相手ではない。子供扱いされても仕方ない。
「あれ言ってなかったっけ? 俺は山城旭、東京から来た。現在は武者修行中で決して無職じゃないから勘違いするなよ」
(はてアキラから始めて聞いた。武者修行? 調子いい男だなぁ)
どうやらアキラは無職とか、リストラなる言葉は嫌いなようだ。
「はぁ~武者修行ですか……何んの武者修行なんですか」
「あのなぁ、そんな細かい事はいいんだ。人生は修行なんだ」
と、勝手な理屈を付けてアキラは三陸海岸をひたしら走るのだった。
車はやがて岩手県久慈市に入った。この辺はウニが旨い。
久慈市と云えばドラマ、あまちゃんで有名になった場所だ。
だが、この物語は現在よりも十年ほど前の話で東北大震災以前である。
そして此処には潜水の訓練所もある。つまり日本で唯一の潜水夫の訓練所だ。
岩手県最後の町、種市町を越えると青森県階上町に入る。
海岸には沢山の昆布が干してある、この辺は昆布漁が盛んな町だ。
そこから海岸添えを走ると、洒落たレストランが見えたのでそこで休憩をとる事にした。
「あー疲れたぁ。どうだい、ここはいい眺めだなぁ。なんか、あんまり車も人もいないけ、東北らしい雰囲気だなぁ。空気はいいし、のどかでいいなぁ」
アキラは誰となく言ってみた。都会にはない人の生きる場所。本来はこういう所ではないのかと、時間に左右されず束縛されず。人間は自然と調和して、生きるのが一番なのだが。
二人はレストランに入った。一階には炉端があり、炭火で魚を焼いて食べられるようになっている。店主は初老で、なにか都会的な雰囲気が漂っている。
二階はなんとダンスホールになっていた。端にグランドピアノが置いてある。
そして海側の方には、テーブルが並べられていて食事が出来る。
なるほど、多分ここの主人はダンス教室も兼ねているのだろう。
だから年の割には姿勢がピンとしている。ダンスとはこんなに姿勢を良くするのかとアキラは感心した。
「あの~山城さん。いいですね此処、いい店だなぁこんな店をやって見たかったのになぁ……」
山崎はなにか感じるものがあったらしい。
「えっお前。いや、いつもお前じゃ可哀想だな。恭介でいいか」
「はっはい、俺もその方がいいです。俺は山城さんでいいのかなぁ」
「なぁに気を使うことないよ。アキラでいいよ。アキラで」
「ところでさぁお前、じゃなかった恭介。なんか店でもやる夢あったのか」
「高校卒業してからホテルで、コックになろうと働いていたんだけど去年リストラされて、それからバイトで繋いで、そしてやっと彼女が出来たと思ったら怖い兄さんが現れて、もうついてないすっよ」
アキラはギョっとなった。リストラだって自分と同じゃないか。
結構不幸な人間も沢山いるんだなぁ、同じリストラ組だ。助けてやらなければアキラはそう思った。相変わらずアキラのお節介というか人が良いのか?
しかし山崎恭介はアキラが冗談とも、つかない事を言っていたが本当にアキラと言う、運に巡りあったのかも知れない。
いままでアキラと関わって、不幸になった人間はいたのか? いや一人も居ない。ただアキラに無謀にも戦いを挑んだ者は別だ。
まぁ悪い奴らは、アキラに痛めつけられて不幸になったかもしれないが、それはそれで自業自得と言うものだろう。
果たして今回は恭介の運命はいかに、早くもアキラに運命は掛かっている。
二人のテーブルの前に、料理が並べられた。
ニシンの丸焼きだ。脂がのっていて東京では、お目にかかる事がない料理だ。
それにピザだ。これがまた豪勢だ。ウニ、アワビ、ホタテが乗っている。
こんな豪勢なピザは食べた事がない。スープはちょっと高いが、この地方の名物でイチゴ煮という代物だそうだ。
イチゴだから苺を煮たものじゃなく、ウニとあわびを使ったスープみたいなものだ。まぁ地方に行くと結構、珍しい食べ物に出会える楽しみもある。
すっかり食に堪能した二人は、国道四十五線を八戸と向う。
ここは最近、東北新幹線が盛岡-八戸間に開通したばかりだ。
ここで、ちょっと余談だが八戸市とあるが、ここは南部地方とも言う。
昔、南部藩、津軽藩があった。南部藩は岩手から青森にかけてあった。
処がこの南部藩と津軽藩は昔から仲が悪い。それは現在でもその名残がある。
青森県を真横に通る国道はないし鉄道もない。鉄道は八戸からなら一旦青森駅に行き、弘前に行くしかない不便な県である。
そこで地名も一戸に始まって九戸まである。二戸市、三戸郡と言った具合だ。
そして八戸市内は一日町、三日町、八日町、二十三日町と日付の付いた地名が沢山ある。
ランドクルーザーは八戸港に着いた。苫小牧行きの出航は夜の十時だ。
出航までまだ時間があるので、アキラと恭介は近くの居酒屋で飲んだ。
普通ならビールとゆきたいが、ここはやはり地酒が一番だ。
「アキラさん。アキラさんは時々、旅をするんですか」
恭介は疑問に思っていることを訪ねた。自分より二つしか違わない年なのに
旅のことや地方のことが詳しくて、なによりも世の中の仕組みに詳しい。
とても二十七歳の青年とは思えない自分と、この人は違うなぁと感じた。
年が十歳くらい違う感じの大人に見える。
知らぬまにアキラは大人になったのだろうか?
誰しも人間は年を重ねるうちに成長するものだ。アキラも成長したのだろうか
「まぁな、旅はいろんなことを教えてくれるよ。また人との出会えもな、恭介と逢ったのだって旅をしてなかったら無いことだ」
「そうすっね! 俺もそんな旅がしてみたい。いやそんな余裕はないけど」
「なあに、今度は出来るよ。まぁその前に問題を片付けるから心配するな」
「はぁそうなると嬉しいんですけど、今はアキラさんだけが頼りですよ」
「またぁ、お前も調子いいんだから、まぁ元気だせや」
「ハイそんな気持にさせてくれのもアキラさんのお蔭です」
山崎恭介はアキラに最大の賛辞を贈ってアキラを心地良くさせていた。
そしてフェリーの腹の中に車は次々と入って行った。
このフェリーは六二三七トン、二十ノットで走る。
大型トラックや乗用車を百二十台も積める。その他に一般の乗客も乗る一般的な乗用車で八戸-苫小牧間で二万九百~二万六千五百円だ。
これには二等席一人分付きの料金となる。
特等で九千九百九十円、二等寝台で六千円といったところだ。
暗闇の中を船太平洋へと出る、もう寝るしかない朝の六時三十分には苫小牧港に到着するのだから。
苫小牧の空は真っ青だった。春の日差しが眩しいほどに地上にふりそそぐ。
カーフェリーが吐き出された車は北海道各地にそれぞれ散って行く。
アキラ達もフェリーを降りて一般道を夕張方面に向った。
国道二七四号線を進む、夕張川がジグサグに町を横切っていた。
夕張といえば炭鉱の町だった。そんな夕張を舞台にした映画「幸福の黄色いハンカチ」高倉健、武田鉄也、桃井かおりが三人の珍中が北海道の自然と良さを、かもしだしている素晴らしい映画がある。
今は、炭鉱のイメージよりも夕張メロンの方が有名になっている。
アキラの愛車ランドクルーザーは石狩樹海ロードを日勝峠へと差し掛かり、その頂上付近から見る眺めは北海道の大自然の中だ。
「なぁ恭介、この辺は遊びにくるのかい。あっちこっち雪が残ってるぜ」
「この辺はあんまり来ないすっね。雪に覆われて夏は熊の楽園になって観光道路以外は、あんまり住めない所ですからね」
北海道を訪れる観光客と、そこで暮らす人々には、やはり厳しい自然なのかも知れない。あと一時間少々で富良野に入る。
富良野平野は広い、そして北海道の中心にありヘソとも言われる。
それにあやかりヘソ祭りと言うのがある。
富良野はラベンダーが有名である。写真家が富良野の美しさに惚れ込み富良野に住み着いた。そしてその写真が沢山、雑誌に紹介されて一気に観光地へと発展した。
それと同時、テレビドラマ「北の国から」二十数間に及ぶ壮大なドラマで沢山の人が富良野を知り、自然の美しさ人間の生きる葛藤の物語。
おそらく沢山の人が感動して涙を流したことであろう。
アキラも壮大な広さと丘の美しさに思わず顔がほころんだ。
富良野から国道二三七号線を進む、富良野と言っても富良野市、中富良野町、上富良野町とある。その先に美瑛町があり此処はパッチワークの丘として有名な畑がパッチワークのように色鮮やかに、夏は農作物の花などが咲き乱れ、百万ドル夜景があるなら、これは百万ドルの丘と言うべき素晴らしい景色だ。
美瑛を過ぎると右側に旭川空港が見えてきた。まもなく北海道第二の都市、旭川市は流石に都会だ。最北の最大の都だ。
「恭介、旭川に入ったぞ。でっ何処へ向って行けばいいんだ」
「あーそのまま旭川の駅を過ぎて近文町と言う所があるんです。左に石狩川が流れていて、”ちかふみ”って駅の近くです」
車はゆっくりと進行して行くと、ちかふみ駅があった。
「その道を左に行ってください。あっ、そのアパートです」
そのアパートは二階建てだった。少し古いがリフォームされていた。
近くの空き地に車を停めて、二人はアパートの部屋に入っていった。
六畳二間とキッチンにトイレだ。
「あれっオイ風呂は何処だい?」
アキラは長い運転に疲れてシャワーを浴びたかったのだが。
「あっすいません。風呂は付いてないんです。近くの銭湯はありますが」
「あっそっか、じゃあしゃあないか」アキラは調子が狂った。
アキラも一頃は貧乏生活の安アパートだった。わがままは言えない。
今は高級マンションに住む身分だが、なにひとつ苦労した訳じゃない。
ただ幸運に恵まれただけの事。その運を本物にする為の旅だった。
「じゃ俺どこかサウナで行ってくるから恭介はどうする」
「俺ここで一休みしたら友達の所へ連絡とってみます。サウナは駅の少し先にありますから、ゆっくり行って来てください」
「よし、わかった。じゃあちょくら行ってくる」
アキラは知らない街を歩くのも、悪くないとサウナを探しながら街へ出た。
長旅の疲れを取るために、アキラはサウナに入った、
アキラがサウナに入って行くと、周りの人間がチラチラとアキラを見る。
いつもの事だから慣れてはいるが、あまり気持がいいものじゃない。
どうせ、こんな風に思っているだろう。
『なんだ! このデカイのはまるでゴリラじゃないか』
そんな声が聞こえて来そうな気がする。
それでアキラが、チラッと見た方の奴を向くと慌てて視線を逸らす。
なんと言ってもプロレスラーよりもデカイから仕方がない。
サウナから上がりビールを飲んだ。ツマミは生イカの焼いた奴だ。
流石は北海道だ。旭川みたいな海のない街でも新鮮な物を食べられる。
アキラは山崎恭介のアパートに帰った。
夕方だと言うのに恭介は電気も付けず部屋の隅でひっそりしていた。
「アレ~~何してんだぁ? なんだいそんな隅でなんかあったのか?」
「あっあの~~友達に電話して聞いたら奴ら俺をまた探してるって」
「ほうーそれは良かったじゃないか」
「なっ何がいいですか! またきっと金をゆする気なんですよ」
「だからさぁ探し手間が省けたって事よ良かったなぁ」
「じょ冗談じゃないですっよ。もう顔も見たくないっすよ」
「何度も言ってるだろうが、お前はツイてるって」
アキラの言っていることを恭介は、からかわれていると思った。
「アキラさん。からかうの止めてくださいよ」
「からかってないよ。本当は明日にしょうと思ったけど行くぞ!」
「どっ何処に行くんですか」
「決まってんだろう。そのチンピラの所だよ。案内しろや」
またまた始まったアキラのストレス解消方なのか、こりゃあ見ものだ。
「でっ奴らは何処にいるんだ。知ってんだろう」
「たっ多分、陸上自衛隊の駐屯地の近くだと思うんですけど。でも、あいつ等はきっとヤクザかも知れませんよ」
「けっヤクザが怖くて金を取り返せるかぁ飛び道具持ってなきゃあ大丈夫だ。もっともな、わっさかと居る時には飛び込まないから」
怖がる恭介を車に乗せてチンピラのいる所へと向かった。
「恭介、おまえ奴等をおびき出して来い」
「ひ~おっ俺がですか! 嫌ですよ」
「本当に、おめえは度胸がないんだなぁ、しっかりしろやい」
(そりゃあアキラ、みんな自分と同じだと思ってんじゃないの)
そうなのだ。アキラは興奮してくると、物事を自分本位に考えるのだ。
「大丈夫、恭介。死ぬ前に助けてやるから安心しろ」
「アッアキラさん本当もう脅かさないで下さいよ」
「おーそうだな。じゃ命に代えてもお前を守るってえのはどうだ」
(こりゃあ、やっぱり恭介をからかっている)
アキラは楽しそうに、その連中の所へ向うのだった。
目的の場所が見えて来た。しかしどう見てもヤクザの事務所には見えない。
良く見ると五~六人の人相の悪そうな奴が居たが。
「恭介、あの中にお前を強請った奴はいるのか?」
その恭介はアキラの後ろから青ざめた顔で、そ~~と覗いたが。
「……いやっ居ません。確かに、ここに間違いないのですが」
それから三十分くらい経った頃、事務所所から一人の女が出て来た。
「あれ? 良子じゃないか、なんであいつ、こんな所に居るんだろう」
「よし彼女から聞いてみよう。彼女が事務所から離れたら声を掛けろ」
良子が事務所から出て角を曲がった所で、二人はその後を追った。
どうやら近くの駐車場に停めてある車に乗り込む所だった。
恭介は走って、その車の前に立ちはだかったが、それに気付いて驚いたように、車を急発進させて逃げるように遠ざかった。
「なるほど恭介やっぱり、おまえは騙されたようだな」
恭介は信じられない表情で良子の走る去る車を呆然として眺めていた。
それはアキラの言ったことが間違いない事を物語っている。
「恭介もう気持を切り替えろ。どうだ目が覚めただろう」
恭介の表情は悲しく、そして憎悪の目が煮えたぎっているように見えた。
「お願いします。アキラさん俺なんでもします。言って下さい」
気の弱そうな恭介も余りにも残酷な仕打ちに闘志に火が付いた。
「まぁな恭介、俺に任せろ。奴等め許せん! 見ていろよ」
アキラも恭介の心情を考えると腹が立って来た。
恭介の心を弄び、あげくに大金まで盗られなおも取ろうとする
その非情なやり方にアキラは我慢が出来なかった。
今のアキラの気持は、その仲間の連中に今すぐ報復してやりたかった。
しかしアキラも大人になった? 状況判断出きるようになったのだ。
「よし! しゃあない。ひとまず腹ごしらいをしてからにしょう。
二人はその事務所が見える前のラーメン屋に入った。
しかし恭介は飯が喉を通らない。それでもラーメンのスープを啜った。
アキラは違った。ラーメンにギョウザにビールを頼んだ。
それを恭介は見て『この人の心臓はどうなっているんだろう』と思った。
丁度、食べ終わった頃だった。
「あっ奴です。あいつと連れの奴と他に二人」
「ほう~奴等も気が利くじゃないか食べ終わった頃に現われるなんてよ」
アキラは作戦を絞ったが、さてそその作戦とは?
「恭介、少し怖いかも知れないが見せ金を出して『これで勘弁してください』 そう言って油断させて、こっちの角まで連れ出せるか」
アキラはそれでも、単純な知恵を絞ったつもりだが果たしてどうなる事やら。
恭介も怒りに火が付いていた。俺だって男だ。いざとなったら。
そんな恭介は恐怖よりも怒りの方が勝っていた。
にっくき奴等にアキラの力を借りて報復出来るのだ。
もしもこのまま逃げ隠れしていたら奴等の奴隷にされかねない。
きっとその事は生涯に渡り屈辱として心に刻まれるだろう。
恭介は素早くその男の後を追っかけた。そして角を曲がったとき
「あっ! すっんません。あの~~~」
「あん? おうお前か。自分から出てくるとはいい度胸だヘッヘヘ」
恭介は一万円札を、数枚取り出して言った。
「あのうもうこれでカンベンしてくれませんか」
「おう、やけに素直じゃないか・あぁなんじゃ! このはした金はよ。舐めんじゃねえぜい。痛い目に合わせねぇと分かんねぇらしいな」
その男は恭介の出した金を取上げて、なお恭介の胸ぐらを締め上げた。
そこに颯爽と大男がニヤニヤと笑いながら出現した。
「オイッ! そこで何やってんだぁ~~恐喝か? こりゃあ犯罪だぁ」
後ろから太い声が聞こえて、その男は振り返った。
もう夕刻で周りは薄くらい時間だ。しかしデカイ。まるでゴリラか? プロレスラー顔負けの巨人だった。
その男はギョッとなった、それでも「なっなんだオメェ~~」と意気込んだ。
「この野郎が俺様をオメェだと! 親の教育がなってないなぁオイ」
その男の身長は百七十そこそこだ。その頭上二十八センチからの太い声に男はヒビッたが虚勢を張った。
「おっお前にゃあ関係ねぇだろうが」
「アン? 俺様にお前と! 初対面の人間に対して失礼な奴だなぁ」
これもアキラ特有の威嚇なのだ。その体格と面構えで勝負は決まっていた。
決してアキラが悪人の面と言うわけじゃないが
普段は紳士でいい男なのだが。たぶん?
怒った時のアキラは怖い。そして時々理性を失うともう野獣になる。
まだ今は相手をオチョクル程度だが怒らせない方が、その男の身の為だと思うのだが。
「まぁ、いい今日のところは勘弁してやる」
と言って男はその場を立ち去ろうとしたが、その後ろから長い手がムンズと襟を掴みグイッとアキラの方に引き寄せた。
「なっなにをしやがる! 放せ」
「なにを? じゃねえだろうが恐喝して逃げようってんのかオイ」
「恭介こいつに幾ら盗られたんだ言ってみろ」
「ひゃ百万と他に色々と」
「おらっ! 盗られた本人がそう言ってるんだ。どうだ! この野郎が」
「おっ俺は知らない!」
アキラの怒りが爆発した。この場に及んで知らないとは許せない
その男の顔をゴリラのような手でパシッと平手打ちを浴びせた。
それほど力を入れてないが男は殴られた勢いでアスファルトに転がった。
アキラが本気でコブシで殴ったら死ぬかもしれない程の破壊力なのだ。
男はさすがに戦意を失った。アキラが近づいてくると手で、待ったとかけて腰を引き怯えた表情を見せた。
それを見ていた山崎恭介が勇気を振り絞って男に言った。
「おっ俺の金返せよ!」
「そんなのもうねえよ。あの金は上納金で組に預けてあるんだ。」
組と聞いて恭介はビビッた。だがアキラは違った。
「なに! 組だとどこの組だ。幼稚園のひよこ組かぁ組員ってツラかよ。俺を素人だと思って舐めてるじゃあねえだろうな、おめぇ組員ってガラにゃ見えないぜ。なんならその組に案内しろ!」
男の顔が青ざめた。どうやらハッタリかも知れない。
アキラは今まで沢山のヤクザと交流がある。とてもこの男はヤクザには見えない。せいぜい悪グループの仲間の一人だろう。
「 処でさっき車で出かけた女は何処へ行ったんだ?」
「……」男は黙ったままだ。
アキラはムカッとなって、その男の尻を太い足で思いっきり蹴り上げた。
「いっ痛てぇ! なっなにしやがる」
「野郎まだ偉そうな口を聞きやがる。敬語を使え敬語を!」
今度はその男を引きずり起こして往復ビンタを食らわせた。
「ヒーー」男は悲鳴をあげた。
「お前は態度がデカイんだよ。敬語はどうした?」
なおもアキラはその顔を叩こうとした。今度は完全に参ったようだ。
「かっ勘弁して下さい。もう殴らないで下さい」
「そうだ。そう素直な口を聞けばいいんだよ。でっ名前は」
また口をつぐんだ男にアキラは男の顔に強烈な平手打ちを浴びせた。
男の顔の付近から血が飛び散った。
「ヒ~~いっ言います! 言います。吉野啓太です」
「職業は何だ。まさか組員なんて言うんじゃないだろうな」
「バーテンダーです」
「そうかチンピラがやりそうな仕事だな吉野、おめぇの仲間との関係は?」
「むっ昔の暴走族仲間です」
「暴走族だぁ、おめぇいくつなんだぁ」
「ハッハイ二十六です」
「二十六にもなって、まだやってんのか。まぁ此処ではなんだ。ちょっと来い」
「来いって? 何処に連れて行くんですか」
「心配すんなって北朝鮮だ。今なぁ日本人を募集してるんだってよ」
「そっそんな。じょ冗談でしょ」
「まぁいいから来い!」
アキラは子供の肩を抱くように吉野をガツチリと押さえつけて車に向う。車に乗せると目隠しをした。
目隠しされると余計に恐怖に襲われるのだ。運転は恭介に任せた。
目隠しする事によって恭介のアパートの場所を知られなくて済むからだ。
この男は災難だった。恭介がとんでもない男を連れて来たからだ。
まさに体格はプロレスラー顔負けの体格に空手の道場にも通った男だ。
並みの相手では勝てる訳がない。それに怖いもの知らずのゴリラ男?
やがて恭介のアジト(アパートの部屋)に三人は入った。
その男は目隠しを外されたがっ、いきなりバシッーと頬をぶたれた。
驚いた男は恐怖におののいた。アキラは心得て居た。
相手に恐怖心を煽らせて心理を打ち砕く強烈な一発だった。
暫くアキラは何も言わなかった。恭介も黙ってアキラを見て居た。
アキラは考えていた。吉野の仲間から金を取り返し作戦を練っていた。
「ところで吉野! 恭介から盗った金は返して貰えるだろうなぁ。あぁー」
「……」吉野は黙っていた。
「オイッ! 聞こえてんのかぁ言っとくけど返さなきゃ警察に引き渡しぞ」
「あっあの、いま金がないんです」
「なに! 金がない。どいう事だ。無くても返して貰うぜ。分ってるな。お前達がやった同じ形でな! サラ金で借りて返して貰うまでだ」
吉野は顔が真っ青だ。多分このゴリラはどんなことしても奪い返すつもりだと。
「それと吉野、お前の仲間から取り立てるか多少怪我人が出るがなフフッ」
アキラは不敵に笑った。その薄気味悪いアキラの顔は不気味だった。
もう吉野に残された道は命が助かればそれでいいと思ったに違いない。
しかし更に続く吉野への尋問しつこい?
「あのなぁ、あの彼女の名前は?」
「まっ松木ルイです」
それを聞いた恭介は驚いた。
「ゲッ良子じゃなかったのか? 良くも嘘を許せない」
それはショックだった。
恭介は完全に最初から騙されたのだ。アキラは気にも留めなかった。
「でっ吉野お前との関係はなんだ?」
「昔の暴走族のダチで」
アキラは、それから吉野から仲間のこと、その関係、収入源を追及した。
もう本当に警察顔負けの尋問だった。
頼もしい味方を得たと思った。山崎恭介は改めてアキラの怖さを知った。
もう時間は夜中の十一時を過ぎていた。
このまま三人で朝まで寝る訳に行かない。どちらも安心して寝ていられないだろうから。アキラは行動を開始した。吉野達の住家を強襲するつもりだ。
そこには吉野の遊び仲間が借りている古屋の一軒家であった。
其処には多いとき七~八人が泊まっているらしい。ルイは別にアパートを借りて居るそうだが、その仲間達はそれぞれ仕事を持っているとか。
いずれも、まともな仕事じゃない。犯罪スレスレかそれ以上だった。
吉野はバーテンダーで、まだまともな職業だった。
「よし恭介、吉野を目隠しさせろ。吉野のアジトに挨拶に行くぞ」
アキラの愛車ランドクルーザーは真夜中の市内の道を走っていた。
十分程走ったら住宅地から外れて暗闇が多くなってきた。
そこは少し林になって、すぐ側に石狩川が流れていた。
アキラに取って絶好の場所だ。民家もなく少しぐらい騒いでも大丈夫だ。
見えて来た。確かに古い家が一軒家ポツンとある。
ランドクルーサーは七十メートル手前に停車させた。
吉野の目隠しを外した。代わりに猿口輪をして両手を後ろ手に縛る。
これで大きな声を出すことは無いはずだ。
「オイ! いつも何人くらい寝泊まりしてるんだ。指を立てろ」
吉野は五本の指を立てて頷いた。果たしてそうなのか?
もう時間は深夜の一時をまわっていた。まさに夜襲とはこのことだ。
相手は五~六人こっちは、恭介は充てにならないからアキラ一人だ。
いくらアキラでも彼等とて素人じゃない。ましてやナイフくらい用意して居ると思うが。いやそれ以上の道具があるかも知れないのだ。
しかしアキラは怖いもの知らず。その時はその時すべて運命と思っている。
アキラは死ぬのは怖いと思ってない。怖いのは死ぬまでの過程だ。
つまり病気や大怪我、苦しみながら死ぬのは嫌らしいのだが。
どうせ死ぬなら心臓を一発で刺されるか打たれた方が良いと。
怖いことを知らない人間こそ、どんな状況に追い込まれても冷静に対応出きるのだ。つまり状況判断が出来て、どうすれば勝てるか見極める事が出来るアキラだ。
ゴリラのニックネームは伊達じゃない興奮した時のアキラは野獣なのだ。
アキラは銀行強盗と戦った時は人質を取られ冷静さを失ったが、今はそれを反省し状況判断が出来るようになった。ひょんな事で一緒に旅をする事になったヤクザの親分の元妻を襲ったヤクザの手下も軽く蹴散らし救った。
何度も修羅場を潜って来たアキラは度胸も喧嘩の仕方も分っている。
恭介には車のエンジンを掛けさせたまま、いざとなったらその場所に車ごと突っ込んでアキラを乗せて逃げる段取りだ。
「ようし吉野、案内しろ。下手なマネすんじゃないぜ。分ったな」
吉野は頷いた。遠くに見える薄明かりの街頭を手がかりに石狩川の土手を歩き始めた。暗闇に川の流れる音が聞こえてくる。
古家の玄関が見える。二階建ての窓から光が射していた。
彼等には、いまやっと夜が始まったばかりかも知れない。
たぶん彼等の睡眠時は朝型の方が合っているだろう。つまり夜型人間だ。
それを考えると夜襲とは言えないかも。
こうなったら正面から堂々と行ってみるか。アキラは考えた。
「吉野ところでリーダーは誰だ。お前か?」
吉野は首を横に振った。しかしそれを鵜呑みにするほどアキラはお人好しじゃない。相手が相手だ。信用出来る訳がない。
アキラは暗闇の中をデカイ体を沈めて古家の灯りを頼りに向った。
その頃、古家の中ではマージャンの真っ最中だった。
「オイ 広田。松枝の兄貴なんて言っていたんだ」
「うん、それが今週中に三百万円用意しろって言ってたが」
「しかし、そんな金とてもじゃないけど無理だぜ」
「兄貴は最近きついこと言うよなぁ」
そんな話をしながらマージャンをしていた。その時だ。
裏手のガラス戸がガッチャ~ンと割れる音がした。
驚いた四人と、うたた寝していた二人が一斉に音のする方を見た。
ヌオ~~~と大きな熊が? いやそれはアキラだった。
何が起きたのかと立ち上がった時にはアキラがマージャン台を足で蹴倒して二人の男の頭を押さえつけていた。
慌てた残り四人は本当に熊が出たと思ったのだ。当然だ、此処は北海道だ。
街の中には現れることはないが、ここは街外れだ。絶対に熊が出ない保障はないのだ。
その熊に似た? アキラの巨体が真夜中に大きな音がして
部屋の中にデカイ大男が入ってくれば、まして真夜中だ。熊だと思うだろう。
しかし、それは熊ではなく人間だった。アキラ得意技の二人の頭をぶつける。
あっと言う間に、その二人は目から火花が出た。
鈍い音と共に二人は半分、失神状態で床に崩れ落ちた。
熊が出たと一瞬思ったが、それは人間だった。
それは百九十五センチもある大男が真夜中に乱入したのである。
この男達は人を脅しのは得意だが脅かされるのは初めての経験だった。
アッと思った時には二人が床に崩れていた。
次の瞬間には、もう一人がアキラの張り手を食らって吹っ飛んだ。
後ずさりする三人に、アキラは仁王立ちとなってギロリと睨む。
やっと我に返った三人は隠し持っていた刃物を手にした。
「ほう?いい度胸だ。やってみろよ!!」
刃物を取り出したアキラは恐れるどころか尚も挑発する。
三人は刃物を持ったことで、優位に立ったと思ったのか ニヤッと笑う。
しかしアキラはその体格に似合わず素早かった。
場慣れしたアキラは冷静だった。目の前にあるマージャン台を一気に持ち上げて放り投げるかと思ったら意外に? アキラは頭が良かった。
そのちゃぶ台を前に押して三人をそのまま押し込んだ。
それも一気に三人を壁に向って押し込むとバキッ ドスッ三人は壁に強かに打ちつけられた。次にアキラは一度マージャン台を持ち上げ次の瞬間には三人の頭の上へ投げつけた。なんと云う怪力、まさに人間離れしたゴリラのようだ。
三人は脳震盪を起こし刃物が手から離れて床にカラ~ンと毀れた。
更に興奮した晃は身人の顔を足でけりつけた。
三人は鼻から血が噴出し目が虚ろだ。ほとんど失神状態になっていた。
アキラは周りに目を配ったが六人の男が大の字にのびて静かになった。
アキラは家の中を探したが六人だけだった。時間に一分以下だった。
まさに秒殺とはこの事を言うのだろう。
やっと一人の男が頭を振って起きようとしいた所へアキラは近づいた。
両手でその男の襟首を掴むと一気に高くあげた。
高く上げて手を離したドッスンと、強かに腰を打ちつけたのか腰を抑えて呻き声を上げた。
「オイ! ここのリーダーは誰だ?」
男はゴリラにも似た凶悪な男に恐れおののいて顔を横に振った。
とっ言うことは此処にリーダー格は居ないと言うことになるが。
「じゃ何処にいるんだ? あ~~!!」
アキラは胸こそ叩かなかったがゴリラの如く吠えた。その咆哮は真夜中の石狩川のへと響いた。きっと周りに誰かいるとしたら、熊の咆哮と勘違いして逃げただろう。
その男の煮え切らない態度にアキラは頬を引っ叩く。
バッシーと乾いた音が部屋の中へ響く、その音で二人が我に返った。
しかし朦朧としている。先ほど最初に頭をぶつけた奴等だ。
吉野が先程五本の指を立てたのに六人いたことに怒ったのかアキラ。
いきなり入って来、ゴチンとやられたから何がなんだか分らぬ間に失神したのだ。それでも目の前に檻から逃げ出したのか? ゴリラが動き廻ってるのかと思った。だんだん視点が合ってきて良く見るとゴリラじゃなく巨人がいた。
「いきなり悪かったなぁ。でっお前達のリーダーは何処だ」
「リーダーって言うより兄貴は居るけど」
「そいつの名前は?」
「そっそんな事いったら、ただじゃ済まないよ」
「じゃ何か? 俺がそうですかって黙っていると思うのか」
二人は返事に困って何も言わない。
「俺は短気で有名なんだ。お前達に腕を叩き折ってやろうか」
とっ言ったかと思うと一人の腕を取って思いきっり捻りったらボキッと鈍い音がした。その男はギャア~~と悲鳴をあげた。
本当に腕を折ってしまった。驚いたもう一人の男は慌てて言った。
「言います! 言います!」
「最初から素直に言いばいいんだよ! でっ名前は」
「松枝さんと言います」
「そいつは何処にいるんだ。案内しろ!!」
「案内しろって言われても、こんな夜中だとまだ……」
「じゃあ何か? 睡眠の邪魔しないように朝行って、おはよう御座いますと、言いえば相手の気分を害しないって言うのか?」
古家に居た六人は完全にアキラ一人に制圧されて今は歯向かう気持は完全に失せていたのだった。 恐るべし山城旭。
アキラは古家の窓を開けて大声で叫んだ。勝利の雄叫びのようだ。
「オ~~~イ恭介! 車もって来い」
アキラの遠吠えが真夜中の夜空に響きわたる。
まもなく恭介がライトを照らして古家の方に向って来た。
その恭介は来いと言われて心配だった。
いくらアキラと言えど悪のかたまりが大勢いる本当に勝てるのか心配だった。
しかし表に出て来たのはアキラ一人だった。
「あっアキラさん生きている? 大丈夫ですか」
「生きてるとはなんだ! 心配するなら奴等の方だろう。多分生きてる筈だが」
「えっ? それってどういう事です」
恭介は車を降りて古家に入って行った。マージャン台がひっくり返りマージャンパイや物が散乱している。そして……
その部屋の六人は鼻から血を出す者、傷みに堪えて唸っている。
まるで羆にでも襲われたような、いや、やっぱりゴリラか。
恭介は六人の男とゴリラ? いやいやアキラを見比べた。
なんて男なんだ。この人は味方で良かったと改めて恭介は思った。
「オイ恭介、座席の後ろに縛っている男を連れて来いよ」
そうだ。もう一人居たんだ、忘れちゃいけない
吉野は車から出され古家の中に入って見た光景は? 少しは期待していた仲間が無残な格好でノビていた。
吉野はガックリと肩を落とした。奴は人間じゃないと。
そうだ殆んど野生のゴリラだ、但し檻に入らなくてよいゴリラなのだ。
これでは熊もアキラと遭遇したら(寝たふり)するだろうなぁ。
しかししかし、とどまる処を知らないアキラは真夜中だと言うのに次の目的達成に向けて次のターゲットへと動き始めた。
確か恭介のアパートに着いてからサウナに行っただけで休んでもいない。
兄貴分の名前を白状した北野と言う男と吉野をランドクルーザーに乗せてアキラは後ろに乗り恭介が運転して、真夜中のドライブとなった。
アキラだけは何故か鼻歌を歌っている。しかし捕虜? の二人は地獄だ。
そしてこれから、その地獄を見るであろうか 松枝の兄貴の運命は?
その松枝の兄貴のマンションに向っているのだ。
「お前達はボロ屋で兄貴はマンションか。それでいいのかぁ」
「……」
捕虜の二人は沈黙が続く。
「オイ!! 聞こえてんのか~~問いかけたら返事しろ」
と、言い終わらない内に大きな手が二人の頭に落ちた。ゴチン!
「ヒィ~~」二人はまた震いあがった。
どうも今日のアキラは理性が無くなっている(いや元々持ち合わせてないかも)
松枝の住むマンションは繁華街から少し外れてはいるが一等地には違いない。一人でいい思いしやがって。
アキラはマンションを目の前にして呟いた。
きっとアキラは安い長屋のようなアパートに入っていた頃を追い出したのか。
今のアキラの生活は、さて置き弟分を苛めて自分はヌクヌクとは許せない。
マンションの入り口は幸いなことにオートロック式ではなかった。
その点、東京のアキラのマンションはオートロック式だった。
アキラは心の中で勝ったとニヤリと微笑んだ。
「よし乗り込むぞ! 吉野だったな。案内してもらうぜ」
もう一人の男は吉野に代わって後部座席に縛られた。
「よし恭介、行ってくるぞ。ちゃんと留守を預かっていろよ」
そう声を掛けてアキラは松枝の部屋へと向った。
真夜中だけに他のマンションの住民に出会ったら困るのだ。
こんな真夜中にデカイ男がウロウロしていたら一一〇番通報されるかも。
松枝の住む部屋は七〇七号室だと聞いて吉野を小突きながら向った。
「うーん困ったな。奴はこんな夜中だと警戒するかもなぁ。そうだ吉野、お前さぁ女の声を使って呼び出せ」
「そ、そんな女の声なんて出せねぇすっよ」
「いいんだよ。風邪引いたことにして適当な女の名前を使えばいいから」
「しかし……」
「ナニ? 出来ないだと! あぁ~~」
アキラの一喝に怯えた吉野は仕方なく女声を使う事にした。
世間では怖がられるお兄さん。その吉野が恥辱の女声を使う羽目になって七〇七号室のブザーを押した。一回、二回、三回。返事が返って来ない。
アキラが吉野に、もっとブザーを鳴らせと目配りをした。
四回目で声が聞こえた。
「誰だ? こんな夜中に。あぁ!!」
いかにも人を、ひびらせる迫力のある声がインターホンから聞こえて来た。
アキラはドアの横に隠れて吉野に、また目配りをした。
それは女声を出せと言う合図でもあったが果たして上手く行くのか。
「夜分申し訳ありません京子です。大変なことが起きて」
「京子? ……はてそんな女が居たっけ?」
「まぁ松枝さん私を覚えていてくれなかったのですか」
それから数秒してドアロックがガシャと音がして外れた。
松枝は女だと思って気を緩めたのかドアチェーンまで外してドアを開けた。
次の瞬間だった。吉野もろとも松枝の前に突き倒した。
煽りを喰って松枝は吉野の下敷きになった。
これが女だったら我慢も出来ようが女声を出した吉野では、さぞ気色が悪かった事だろう。
それ以上に松枝が驚いたのはマンションに熊かゴリラが現れたと思った。
しかしワルの兄貴分だけあって身のこなしが早かった。
吉野を跳ね除けて奥の部屋に逃げ込んだ。
ベッドの上には女が居たが女が驚いてキンキリ声の悲鳴をあげてベッドの後ろに隠れた。
入れ替わりに、なんと松枝は日本刀を手に持っているではないか。
いくらアキラとは言え、まともに踏み込めない。
しかし吉野の首を大きな手で鷲づかみして放さない。
かと言って吉野を、また松枝に放り投げたら怪我をさせかねない
いくら相手がワルとは言えそこまではアキラも出来なかった。
流石のアキラも下手に手をだせない、優位に立った松枝はニヤリと笑う
ジワリジワリと松枝がアキラとの間合いを詰めてくる。
アキラは一歩二歩下がる。その部屋の出口まで下がった。
その次の瞬間だった。アキラは床に敷いてある絨毯の端を渾身の力で引いた。
火事場のなんとかじゃないがアキラの怪力は凄まじかった。
絨毯に載っている家具をもろとも曳いたのだった
松枝は日本刀を持ったまま転倒してしまった。
チャンスと見たアキラは大きくジャンプして、そのまま松枝の上に膝から着地。プロレスの技で言えばニードロップだ。
そして松枝の持っている日本刀を握っている手を押さえた。
力なら負けない。松枝の日本刀をなんなく奪い取った。
その日本刀の柄の部分で松枝の頭をゴツンと打った。
次には膝で両腕を押さえつけて、両手で顔を交互に平手打ち。
それを往復五~六回続けた。松枝は失神寸前で意識朦朧となった。
吉野はと言うと部屋の隅で、ただ怯えていた。
兄貴とは長い付き合いだが負けたのを一度も見た事がなかっただけに信じられない気持ちだ。
なんと松枝の女はその吉野に、しがみついているではないか。
「お前は松枝って言うんだな? 夜中に騒がして悪いなぁ」
悪いなんてもんじゃなかった。普通なら犯罪だぁ。いや普通じゃなくても犯罪だ。
「それでな、お前が俺の知り合いから取り上げた金を返して貰いに来たんだが」
「……なんの事だ? 人の家に勝手に上がり込んで警察を呼ぶぞ」
「なに警察? 良く言うぜ。警察が聞いてあきれるぜ。お前がやってる事は何なんだ? お前の手下が吐いたんだよ。ないなんて言わせないぜ! それとも、このまま警察に付き合ってもらうが良く考えな」
アキラの体格を見ただけで、とても勝てる相手じゃない覚った。
警察に行ったら、どうみても自分の方に分が悪いと判断した松枝だった。
「よし分かった。だが俺の舎弟が金を取ったって証拠があるのか」
「証拠? 偉そうに、そこに居る吉野に聞いてみな」
松枝は吉野を見た。女は慌てて吉野から離れた。
吉野は申し訳なそうに小さく松枝に頭を下げた。
松枝は苦々しく吉野を見たが今更どうしょうもない。
「なんなら、まだ証人は居るぜ。北野って奴も車に預かっている。それでも足りなきぁ、あの古家に五人ほど転がっているが。フッフフ」
「まさか。あいつ等まで片付けたって言うのか?」
松枝は信じられない顔でアキラを見てから吉野を見た。吉野は小さくコクリと頷いた。
なんて男なんだろう。恐ろしい男を敵に廻したものだと松枝は思った。
「俺はヤクザの知り合いは沢山居るが、奴等はまだ仁義は心得ていたぜ。まぁ金さえ返してくれれば互いに忘れようぜ。どうだ?」
「……分った。舎弟の責任は俺がとる。それで幾らなんだ」
「二百万だが、そして俺も恭介を助ける為に北海道まで来る羽目になった。慰謝料に多少色を付けて貰わないなと。恭介は絶望して自殺を図ったんだから、その辺も汲んで貰わないと」
「よし、俺も男だ。舎弟の不始末として五百万でどうだ」
「ほう、そうかい分ってくれりゃいいぜ。四百万で結構だ。その代わり俺の舎弟分に今後手を出するなよ。俺も全て忘れてやる」
各して商談? は成立した。松枝はそれでも金庫から五百万を出したがアキラは律儀にも百万は返した。松枝もニヤリと笑って頭を下げた。
「洒落たことするじゃないか、松枝さんよ。こんな形じゃなくもっと前に会いたかったぜ」
「そうだな。百万を返し処が気に入ったぜ。また縁があったら一杯付き合ってくれ。フッフフ」
互いに男気を見せて和解した。
「いや奥さんかい? こんな夜中に申し訳ない事をした。アンタの旦那は男気があるぜ。悪かったな、松枝さんよ。アンタ男だぜ。アコギな事しなきゃぁな」
そんな洒落たセリフを残して松枝のマンションを後にした。
もちろん吉野と北野はアキラから開放された。
そして山崎恭介には今後一切関わらないと約束させた。
これにて山崎恭介の悪の呪縛はすべて取り除かれたのだ
それもたった一人の男によって、なんと凄い男なんだろうと恭介は思った。
恭介は心に決めた。この人に着いて行こうと。
恭介は無理矢理サラ金から借りされた金も全て返済したが、それでもたっぷりと残った。その金で恭介はアキラにお礼したいと旭川の美味しい店を何件も廻ってアキラも料理を堪能したのだ。
それからアキラは一ヶ月間、道内一人旅をしてから恭介の元へ戻り恭介はアキラに一緒に連れて行ってくれと頼み込みアキラは承諾した。
今回の収穫は山崎恭介一人? 一路、二人は苫小牧から東京行きのフェリーへ乗った。
北の大地編 終り
宝くじに当たった男 第4章
本作品は第7章が最終話の予定です。