啜る世界
コーヒーを一口
コーヒーを一口。広がる苦味に顔をしかめていれば、今ある現実が、シュガーと共にかき混ぜられて甘くなることはないのだろうか。などど、他愛もない想像をしてみて、もしかしたらと願いを込めて窓の外を見る。
何の変哲もない世界が広がっていて、その世界を、何の変哲もない僕が見ている。
何の変哲もない僕と世界。苦いコーヒーが隔ててくれるものはない。それこそシュガーでもいれないと。
また一口啜って。それでも世界が変わっていなければ。
「待っててくれたんだ。もう5時間になるのよ。呆れて何も言えないわ」
現れた彼女。世界が甘くなった瞬間。
僕はコーヒーを啜る。口の中に広がった味は、今いる現実と同じ味だった。
啜る世界