ハロウィンー悪夢ー
――完全犯罪ってなんだろう。
答えの出た問いを、もう一度考える。
自らが引き金を引いた上で、バレないことか?
いや、本人が勝手に自爆してくれたら、それこそ完全犯罪なのでは……。
そもそも、事故とか偶然の惨劇みたいなものは、犯罪と呼べるのだろうか……。
答えは出ていた。
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あのね、これは魔法の石なんだよ。
この石を握り締めてお願いをすれば、必ず叶うんだ。
「おかあさんのびょうきも、なおる?」
もちろん。
ただ、この石は使う人を選ぶ。
ある試験に合格しなければ、願い事は叶わないよ。
「あるしけんって?」
それはね……。
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商店街の歩道を高校生くらいの少女が誰かを探している。
どうされたんですか?
「妹を探しているんです。7歳くらいの女の子を見かけませんでした?」
僕は商店街の大通りを行列になって歩いている子どもたちを指さして、あの中にはいないのか尋ねた。
「いるはずなのに、いないんです。あの子、パレードに参加する予定だったのに……」
辛そうな少女。泣き出しそうだ。
僕はその子の特徴を訊いた。
「背はこのくらいで、大きな帽子をかぶっていて……魔女の仮装を……箒を持ってて……」
だんたん取り乱しつつある少女。
僕は感情を押し殺して、平静を装って……
ああ、その子なら見ましたよ。
「本当ですか!どこで!?」
学校のほうに行ってました。
僕は商店街の先にある小学校を、まっすぐ指差した。
「ありがとうございます!」
言うやいなや、少女は走り去った。
僕はそれを黙って見ていた。
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少女はその光景を前に固まっていた。
そりゃそうだ。
僕は息を吸って腹に貯める。そうでもしてないと、この感情が漏れ出しそうになる。
だって、少女の求めるその子、その女の子……
投身自殺したんだもの。
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その試験は魔女力を試すんだ。
「まじょりょくって?」
魔法を使う力。これがないと、石は君を選んでくれないよ。
「わたしは、なにをすればいいの?」
飛ぶんだ。箒に跨って、高い所から飛ぶんだ。
魔女力があれば飛べるはず。
成功すれば、この石は君のものだ。
「わかった!ありがと、おじさん!」
頑張ってね。
「うん!」
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「いやぁああぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
少女の叫び声が響いた。
堪えきれなくなった僕は、背を向けた。
肩が震える。込みあげてくる……笑み。
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ただの事故、偶然の惨劇。
彼女たちの父親、僕の勤める会社の社長。
あの重大な事業が成功したのは僕のお蔭なのに、僕に利益をくれなかった。
ただの事故、偶然の惨劇。
Trick or treat .
お菓子をくれなかったから悪戯したんだ。
完
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ハロウィンー悪夢ー