ENDLESS MYTH第3話ープロローグ3
プロローグ3
おおよそ人の作ったものではないであろう、死者や動物からそのまま抜き取ったかに思われる、生々しく濡れ光る骨で構築された長テーブル。その長さもまた人間が作るそれとは、明白に長さが異なり、長すぎるほど長かった。
テーブルには無数の影が左右につき、その周囲にも数多くの、大小様々な影がひしめいていた。
上座にはレザージャケットを羽織った男から、レザーパンツのを穿いた細長い脚をテーブルに乗せ、態度が良いとは言えない様子を、全員へ押し付けていた。
影の分だけ声があり、その声はあまりにも雑音になっていた。
レザーの男の横には、黒い着流しに、白い墨を流したような着物を着用した老人が、すっくと立ってテーブルにつく面々の顔を見据え、手にある腰までの木製杖で、黒曜石の床を突き叩き、静粛を促した。
「これだけの顔ぶれが集まるのは、第一次コルトキア星間大戦以来ですな。そくさいでなにより」
老人の声色は枯れたススキの葉が擦れるような音であるも、眼光は豹の如く鋭く、狼のように牙が鋭いように見えた。
「老体よ。挨拶は良い。話を先に進めよ」
その場に轟く雷鳴の如き声色が、場の空気を震わせた。
老人が天を仰ぐと、輝壁のようなものが全天を覆っている。
「見事な鱗、応龍殿ですな。大戦のおりはご苦労でございました」
それが無限に連なる鱗の群れの1枚に過ぎないことを、この場で初めて見知ったものは、それから想像だにする巨体を考えるに、絶句した。
「四霊に数えられる応龍を招くとは、【ぬらりひょん】、これはただ事ではなかろうな」
最前列、ぬらりひょんなる老人の横に座る、緑色の頭が動にそのままへばり付き、四肢が雲のように複数存在する異形の者が尋ねた。
「はるばるエルセリア星区からのお越し、痛み入りまする、ベシリアンの代表、ギン・ベム殿」
と言うなり、ぬらりひょんは集結した妖怪世界の住人と各銀河、宇宙域から集結した知的種族の代表を見回した。
人間の上半身のでありながら、下半身は毛羽だった針のような羽毛で覆われた4足歩行を持つケンタウロス。
長テーブルの末席のさらに奥、巨大な触手をうねらせ、奥に落ちくぼんだ、闇から凝視する数メートルはある目玉をぬらりひょん老人に向けるクラーケン。
ライオンの如き頭部と蛇のような尾、コウモリのような巨大な翼を羽ばたかせ、唸り声を発するキマイラ。
中には花嫁衣装を身につけた、美しい女性も居るが、その周囲には腐敗臭が漂い、顔色は明白に人間の血の気を失った鉛色をしている。ルサールカという妖怪であった。
それら混じり合い、妖怪じみた様子をうかがわせるのは、各銀河や別宇宙からこの場に集結した知的生命体たちだ。
人の形はしているが、そのサイズ感が明らかに人間のサイズ感ではない、巨人の如き巨体を誇る種族が長いすの後ろに、ガシャドクロと並んで立っていた。
その前には人の形すらない、ゼリー状の物体が生命体と辛うじて認識可能な範囲で呼吸をしていた。
またその横には肌色の、一見すると巨大な鳥の雛のような頭をしているが、そういったかわいげは微塵もない、中空に浮く肉の塊のような生命体が存在していた。
上座に態度を悪くして座る、『ロゼッタ・エジムンド』はこうした連中を前に、半分呆れた笑みを首の端に浮かべるのだった。
自分がこいつ等のボスであることは、紛れもない真実であり、この連中の後ろに広がる幾兆、幾京の命が自らの手に握られているのだと考えるだけで、改めて己が立たされた場所が、壮絶な山脈の真上なのだと自覚せざるおえなかった。
「各妖怪代表ならびに各宇宙の種族を代表に集まっていただいなのは他でもない。【レイキ】との戦いはますます悪化を極めているのは各位も存じていると思うが、ここにきて“救世主”の覚醒が間近となっていることをお伝えするためである」
瞬間、人間とは異なる音でざわめきが空間にどよめいた。
「救世主の覚醒はいつであるか」
天から今度は応龍とは異なった声色が空気を震わせた。
鱗の前に光の輝きが室内を照らす。これまで闇に覆われていたから室内が見えなかったが、複数のねじれた柱が骨のテーブルを囲んでいる、広間となっていた。
鳥の形をした光、天空の光こそは四霊の1つに数えられる鳳凰であった。
「いつかはまだ分からない。だが俺たちがやることは1つ。奴らには奴らの世界でのやることがある。俺たちは俺たちがやるべきことをただ、やるだけだ。四霊なら分かるだろ」
ロゼッタは口悪く鳳凰を見上げた。
「レイキの軍勢、青の軍、黒の軍、黄色の軍はすでに500兆もの宇宙を崩壊させている。手立てはあるのか?」
筋肉質の身体を甲冑で覆い、長い髪の毛から2つ突きだした角が顕著にうかがえる酒呑童子が、ロゼッタ、ぬらりひょんを交互にみやる。
すでに彼らの敵レイキはここに居並ぶ種族、妖怪の代表たちを圧倒していた。
「救世主なんぞに興味はねぇが、すべての鍵を握るのは、皮肉にもあいつだ。俺たちは救世主がこの世界に来るまでの、壁ってわけだ。やるしかねぇのさ、肉の一片になろうともな」
唯一の人間たるロゼッタの覇気は、まるで魔王を前にしたような印象をその場にいる全員に与えたのだった。
ENDLESS MYTH第3話ープロローグ4へ続く
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