レイ・アークライト 第2話 「3つの爆弾」

 椅子に座ったレイ博士は、机に広げられた3つの物体の前で、腕を組んでいる。その物体は、どれも手のひらサイズの、黒いボールだった。
「なんですか、これ?」
 背後からアンナがひょっこりと出てきて、ボールを手に取ると、様々な角度から眺めていった。レイ博士は、そんなアンナを横目に見ながら、こう答える。
「爆弾さ」
「ば、ば、ば、爆弾ですって!?」
 アンナはあわててボールを床に落としそうになったが、なんとか体制を整えて、胸をなでおろした。
「ああ。それも、この辺り一帯をみんな消し飛ばすほどのね」
 レイ博士がそう付け加えると、アンナはさげすむような目を向ける。
「……あの、もしかして、馬鹿にしてます? こんな小さな爆弾に、そこまでの威力があるわけないじゃないですか。いくらわたしが子供だからって、そんな
話、信じませんよ」
「フフフ……せっかくだから、この爆弾の恐ろしさがどれほどのものなのか、教えてあげるよ」
 そうしてレイ博士は、3つの爆弾について、こんな話を始めるのだった。
「まずは、1つ目の爆弾『オクニガドカーン』だ。起爆させると大規模な爆発が発生して、1つの国が跡形もなく滅びる。次に、2つ目の爆弾『セカイノハン
ブンバースト』だ。こいつは、もっとすごいぞ。起爆させると、なんと世界の半分を滅ぼすほどの衝撃破が発生し、世界の約半分が滅びてしまう。そして極め
つけが、3つ目の爆弾『チキュウコナゴナーン』だ。起爆させてしまったらもはや最後、物質と反物質の対消滅により発生したガンマ線が全世界の生物を焼き
つくし(中略)やがて地球が爆発して粉々になるのだ」
「なんだか、どれも2秒で考えたようなネーミングセンスですね」
 レイ博士の話を聞いても、アンナは相変わらず、たかをくくっているようだった。
「やれやれ……ぼくがこれだけ力説しても、きみはまだ、この爆弾のすごさを理解できないのか。……よし、それじゃあ、手っ取り早くわからせるために、
『どこかその辺の適当な国』を『オクニガドカーン』で爆発させてこよう」
 しびれを切らしたレイ博士は、そう言って部屋から出ていこうとする。
「はいはい、やれるもんならどうぞ。どうなってもわたしは知りませんから……って、え? ちょっと待ってください」
 彼はときどき、常識では考えられないような行動をする人物だ。もしも仮に、爆弾の力が本当だとして、それを証明するために、爆弾を使って見知らぬ国を
消し飛ばしてしまったら、爆弾の力を信じなかった自分のせいになるのでは……? そこまで考えたアンナは、急に手のひらを返して、
「ストーップ! そんなしょうもない理由で、『どこかその辺の適当な国』を爆発させに行くなんて、絶対に駄目ですよ! 信じますから、やめてください!
 馬鹿にしてすみませんでした!」
 と、全速力で止めにかかった。
「わかればいいんだよ、わかれば」
 その様子を見たレイ博士は、さも満足そうにうなずくのだった。
 
 そんなくだらないやり取りが終わったころ、玄関のチャイムが鳴った。
「お客さんかな? ちょっと出てきます」
 アンナが出迎えると、そこには分厚いコートを着こんだ男が立っていた。
「どなたですか?」
 すると男は、強面でこう答える。
「俺は『赤い国』の者だ。邪魔するぞ」
「え? ちょ、ちょっと待ってください!」
 男はそのまま、なかば強引に押しかけながら、入ってきた。やがてレイ博士のもとへ行くなり、こう尋ねる。
「レイ博士。依頼のものは、できているんだろうな?」
「ああ。この通り、完成したよ」
 レイ博士は、男に『オクニガドカーン』を渡した。男はそれを手に取ると、しばらく見つめてから、
「おい……こんなちっこいボールに、本当に『国を1つ滅ぼす』ほどの力があるのか?」
「もちろんさ」
 にらみつける男を前に、レイ博士は、すました顔で答えた。
「ふん、いいだろう。もしも、まがい物だったときは、そのときの話だ。じゃあな」
 男はそう言い残すと、不気味な笑みを浮かべながら、帰っていった。
 
 それから間もなく、ふたたび玄関のチャイムが鳴った。
「あれ? 今度は誰だろう?」
 アンナが出迎えると、そこには軍服を着た男が立っていた。
「どなたですか?」
 すると男は、ひょうきんな顔でこう答える。
「オレは『青い国』の者さ。レイ博士に依頼した発明品を受け取りにきたんだぜ。お嬢ちゃん、入らせてもらうよ」
「……は、はい。どうぞ」
 男はそのまま、ぶっきらぼうな歩みで、入ってきた。やがてレイ博士のもとへ行くなり、こう尋ねる。
「ヘイ! 依頼のものはできてるかい?」
「ああ。この通り、完成したよ」
 レイ博士は、男に『セカイノハンブンバースト』を渡した。男はそれを手に取ると、しばらく見つめてから、
「ワッツ? これがあんたの発明した超強力な爆弾だって? ハハハ、つまらないジョークを言うね。オレたちは『赤い国』のやつらが作ったという『国一つ
滅ぼす』ほどの爆弾に対抗するために、さらに強力な『世界の半分を滅ぼす』爆弾の発明を依頼したんだぜ? こんなちんけなボールなんかに、本当に『世界
の半分を滅ぼす』ほどの力があるのかい?」
「もちろんさ」
 あおりたてる男を前に、レイ博士は、すました顔で答えた。
「ヒュー、クールだね。あんたのその肝に免じて、今回は特別に信じてやるぜ! じゃあな、ベイビー!」
 男はそう言い残すと、高笑いしながら、帰っていった。
 
 それからしばらくして、またもや玄関のチャイムが鳴った。
「今日はずいぶんと、来客の多い日ですね」
 アンナが出迎えると、そこにはスーツを着た男が立っていた。
「どなたですか?」
 すると男は、仏頂面でこう答える。
「わたしは『白い国』の者です。レイ博士に大事な要件があるのですが、入らせてもらってもよろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
 男はそのまま、とてもかしこまった様子で、入ってきた。やがてレイ博士のもとへ行くなり、こう尋ねる。
「こんにちは。レイ博士、依頼のものはできましたか?」
「ああ。この通り、完成したよ」
 レイ博士は、男に『チキュウコナゴナーン』を渡した。男はそれを手に取ると、しばらく見つめてから、
「ふむ、失礼ですが……私は『青い国』が作っているという『世界の半分を滅ぼす』ほどの爆弾に対抗するため、さらに強力な『地球を滅ぼす』爆弾の発明
を、あなたに依頼しました。しかし、これほどの小さなボールに、本当に『世界を滅ぼす』ほどの力があるものなのでしょうか?」
「もちろんさ」
 不審がる男を前に、レイ博士はすました顔で答えた。
「……わかりました。それでは、ごきげんよう」
 男はそう言い残すと、黙然としたまま、帰っていった。
 
 3つの爆弾が3人の手に渡り、一段落したあと……。
「ちょっと、レイ博士! どうしてあんな、わけのわからない人たちに、爆弾を渡したんですか!? あの様子だと、今に戦争が始まってもおかしくないです
よ! それに、わたしたちの命だって、いつどうなることか……」
 アンナが必死になって、レイ博士に訴えると、
「さっき渡したものは、みんなただのガラクタさ」
 当の本人はさらりと、とんでもないことを言ってのけた。
「…………は?」
 目が点になったアンナをほうっておきながら、続けてこう言う。
「彼らは、敵国を脅すことが目的だから、最初から爆弾なんて使うつもりはないんだよ。ただ単に脅すだけなら、こけおどしで十分なのさ」

レイ・アークライト 第2話 「3つの爆弾」

レイ・アークライト 第2話 「3つの爆弾」

レイ博士は、アークライト発明所にやってきた3人の男に、 あらかじめ依頼を受けていた爆弾を渡す。 その爆弾は一見、ただのガラクタにしか見えないが……。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-09

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