この想い、誰の為に
すき、好き、大好き。
ナノニ、ドウシテワカッテクレナイノ?
ぽたっ、ぽたっと水の落ちる音がする。辺りは真っ暗だ。辺りは、というと語弊がある。この部屋だけが、牢屋のような造りになっていて真っ暗なのだ。
そこには、1人の男と女がいた。鎖で縛られ、身動きが取れずに、所謂、監禁されているのが男。それを見て恍惚とした表情で楽しんでいるのが女。
「ねぇ、なんで?私、こんなに好きなんだよ?」
そう言って男に問いかけた女はとても不思議そうに聞いた。
「お前のそれは好きじゃねぇよ。ただの自己満足。」
監禁されているにも関わらず、冷たい態度と口調で男は返した。
………よくわかんない。
女はまるで本当に分からないというように首を傾げた。
よく見ると、男はボロボロで、血が滲んでいた。ここまでされてもあの態度だ。沢山、殴られ蹴られたのだろう。それでも、この男は女に屈するどころか、ケンカ腰だ。
「違うよ?ちゃんと好きだよ?だから、私だけ見てもらえるように2人だけの世界にしたんたんじゃない。」
それがそもそも間違ってんだよ、バカ女とは口に出さず、その代わりに小さくため息をついた。
「そんなことして何になる?」
「どういうこと?」
「監禁して、2人だけの世界にして、好きだという男をボロ雑巾みたいに痛めつけて、何が好きなんだ?」
女は少し不満そうな顔をして、それは君が暴れるからじゃーん。躾だよ躾。と、さも当然のように言った。
「そうか。お前は好きな男が自分の思い通りに行かなかったら躾と称して暴力を振るうんだな。」
男が言ったことが気に食わなかったのか顔を歪める。
「私はこんなに好きなんだよ?それを分からない君が悪いの。」
ふふっと笑う顔は歪んだ笑顔だった。それを見た男は、呆れたような少し悲しそうな顔をした後に、真っ直ぐな瞳で女に言った。
「可哀想だな、おまえ。」
ピキッと女の顔と雰囲気が変わった。それは決して男にとっては良いものではなかった。また殴れ蹴られ、何をされるか分からない暴力が始まる予感がした。けれど、男は真っ直ぐと女を見据え怖がってなどいなかった。
「どうして?どうして、こんなにすきなのに!!!分かってくれないの!!?」
そうやってヒステリックに叫ぶと、男を睨む。思い通りに行かないことに苛立っているんだろう。
「どうして、どうして!!!どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!!!!」
「じゃぁ、なんで上手く行かないと思う?」
「そんなの全部貴方のせいじゃない!!!貴方が私の言う通りに………」
男は静かに女を見た。それは先ほどの呆れた表情でも憐れみの顔でもない。静かに男は怒りを表した。ゾッとするような一瞬背筋が凍るような雰囲気に女はそれ以上に声が出なかった。ここにきて、初めて女は男が怖いと思った。
「そうやって他人のせいにして自分は全然悪くないか。」
それだけいうと、口調が変わる。
「なに、寝ぼけたこと言ってんだ。甘えるなよ。俺のせい?違うだろ。全部、おまえ自身が行った行動のせいだろ。お前は俺が好きなんかじゃない。ただ遊べるオモチャを見つけて喜んでるだけのガキだ。」
女は言葉が出ずに、ただ俯向くしかなかった。どんなに叫んでも痛めつけても、認めたくないだけで、本当にその通りだったからだ。でも、どうして良いかも分からなかった。女はこれ以外の人との接し方を知らないのだ。
ふらふらとした足取りで男の前にいくと、黙って鎖をといた。
「目障り。早く出て行って。」
なんとも自己中心的な言い方ではあるが、またそれ以外の言葉も自分の中になかった。
鎖をとかれ、自由になった男は血を拭うと、女の手を握った。
「え、?」
ぐいっと男は女の体を引っ張った。
「何をしてる。お前も一緒にいくに決まってるだろ。」
意味が分からない。仮にもさっきまで自分を傷つけていた女だ。トラウマになって逃げることやそのまま捨てておくことがあっても、まさか一緒に行くなんてことが有り得るはずがない。
「貴方、なにを、かんがえ、て、」
驚きすぎて上手く言葉が紡げずにいると、男は平然と答えた。
「これ以外の方法を知らなかったから、監禁なんて馬鹿げたマネしたんだろ。だったら、他を知ったらいい。」
「他を、?」
「怯えなくても、光は怖くない。分かったらこんなジメジメした所、早く出るぞ。」
そう言って、もう一度、女の体を引っ張ると、眩しいほどの光の方へと一歩、女は踏み出した。
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「…………り!…瑠璃(るり)!」
ぼぅとしていて、友達の声で現実に引き戻された。
随分、昔の夢を思い出していた。
「え?ごめん、ぼーっとしてた。」
「もー!!!ちゃんと聞いてよー!!!」
「あはは、ごめんごめん。で、なんだっ………」
ふわりと香りがした。懐かしい香りで今でも思い出すと泣き出しそうになる香り。
友達の話を無視したまま、緩慢にすれ違った男を見るために後ろを振り返った。そこには、雑多な人混みがあるだけで、何もなかった。しかし、女は少しだけ泣き出しそうな、けれども綺麗な笑みを浮かべると小さな声で言った。そして、友達と楽しそうに人混みの中へと消えた。
「…………ありがと。」
まるで、それは聞こえているかのように、雑多な人混みの中で誰か笑った気がした。
この想い、誰の為に
怖くないよ、大丈夫。まだ立ち上がれる。何度だってやり直せる。なんて。本当の恋はどんなものなんでしょうか。
もし本当の恋が出来るなら楽しみです。