花 〜追想〜
閉鎖された屋上から見る景色はまた格別でした。
現在時刻は午前9時20分。つまり皆さんは1時限目の真っ最中。誰もここに来るはずありません。
フェンスの向こうに広がるのは、運動部の汗が染み込んだグラウンド。隅っこには慌てん坊の梅、桜。青春のきらきらした何かがぎゅっと詰まってる感じがする景色で
「反吐がでます」
おっと、口に出してしまいました。 落ち着いて落ち着いて。
私は今、この輝かしい少年少女の聖地に大輪の花を飾ってみようと思います。
綺麗に咲いてくれるでしょうか。皆さん、喜んでくれるでしょうか。
私自らの目で確かめられないことだけが心残りです。が、まあ、それもそれで。
腕時計をみる。9時30分。
「もう、さよならですね。
「それでは、
私は、一つ、嘘をつく。この大嫌いな世界に、その住民に。私の大好きだった親友に。呪いの言葉を。
「I'll be back.
そうして、17歳の冬と春の境。
私はフェンスから身を乗り出して、
「咲くといいな
思いっきり勢いをつけて、
「綺麗な花
花の種をばら撒いた。
スミレ草。
私の大好きだった友人と同じ名前の花。
1年前の今日、この時間、ここから飛び降りた少女と同じ名前の花。
「大好きだよ。すみれ」
咲くといいな。綺麗な花。
それは、冬と春の境。
私がアメリカに発つ日の朝だった。
花 〜追想〜