ヒヤシンス

ヒヤシンス

 あらゆる細胞が何処か遠くへ、いってしまうと感じる人は繊細な精神を持っている。一刻一刻と変化する身体の内面を私たちは、宇宙の彼方へ、放ってしまう。奇怪な闇を人はDNAだと、間違って信じている。苛々した猫はセントラルドグマを学ぶために流れに身を任せて、生物学という川を泳いで渡った。見るからに、悲しい表情をした私たちは、鏡を見ながら、深く頭を下げる。鏡の向こうの私たちは動かない。じっと、悲しげな顔でじっと立っている。もう一方の私たちは謝罪することを拒否していた。直ちに、私たちの謝罪がなければ、夢は終わるというのに。夢は潰える時、私たちの命もまた終わるのは絶対の法則である。無花果の実の柔らかさを、じっくりと楽しみながら、君はどこへ行こうというのか。遥かな無情の青空を鋭い目は意味をもたない。幸福の園はどこにあると叫び続けた私は、君と離れ紺碧の空へと誘われるように昇っていく。気をおけない友人たちを殺してでも、君は進むと言うならば、君の親友である私が立ちはだかろう。君の果てることない欲望は濁流となって人々の架け橋を押し流していく。方法は幾らでもあるように見えながら、実は、少ないということも知らなければならない。仲間たちと君を止めるために私は空高くに向かう。空にはきっと君たちの求めるものは何もない。けれど、私は空の色を真っ赤に染める役割だけを請負って高い位置に昇るのではない。住人たちは庭を求めて真空の試験官に不思議な技術で、植物を混入させる。誰もが、怒りと悲しみの二乗を足した感情に囚われているが、君は違った。爆発した火薬のようなくすぶった臭いを漂わせて、立っていた君の姿は虎のように雄々しい。だが、その姿は空高くから見下ろせば、単なる点に過ぎないことを知ってほしいと願う。異次元の猫は流体の極致となって、人にとっての水となる。人に入りこんだ猫は君を説得しようとする。30mの身長を持つ巨人たちはゼラニウムの花を所々に身につけて、北限の城壁を越えてやってくるだろう。そう、君の予言は成就される。時の踊り子として名高い私を失った時から君の破滅は決まっていた。それでも、私は君から離れずにはいられなかった。篤い信仰心はただ光との合一を求めたのだ。去るべき者は君たちだった。もはや、誰もが交代を留めることはできない。知っていることは、それだけ。私は天に作られた揺り籠に乗って、眠り続ける。いつまでも目覚めぬ世界を待ち続ける。君は既に命を失い、墓に入っていたとしても、私にはもう、断ち切れた縁をどうすることもできないのだ。5億回地球が回った時、ゆっくりと眠りから冷め始めた。私は君との楽しかった日々を夢に見た。白濁した海。龍鱗の木。獏の庭。あらゆる神話が一つになった生活に私たちはお互いに見とれていた。呪われた信仰を持つまでは誰であれ、絆を断絶することは不可能と堅く信じていた。ただ、今は思い出がただの残骸になってしまったのだ。未来に君はいない。さらに20億回地球が回った時、天空が下がり始め、地上と合体しようとした。私のもはや、実体を持たない足が地に交わった時、君が大地になったと私は悟った。君よ永遠なれ、私は天であり、君は地である。君と私は25億回の回転の後に再会したのだ。大地は泡に包まれ、上を見あげれば、同じように大地があるのみだった。囲まれた狭間で巨人たちは絶滅した。何もいなくなった世界で、一輪の花が咲く。ヒヤシンス。限りない白銀の花。

ヒヤシンス

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物語作家七夕ハル。 略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。 受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。 初代新世界文章協会会長。 世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。 twitter:tanabataharu4 ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」 URL:http://tanabataharu.net/wp/

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-07

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