宮島狂言

2004/10/9 『宮島狂言』 広島郵便貯金ホール

厳島神社の能舞台で狂言が見られると楽しみにしていたのだが台風16号によって大きな被害を受けそれが不可能となり会場を普通の劇場に変更して行われた。

夜の宮島で明かりに照らされた海に浮かぶ能舞台・・・、そこで行われる幻想的であろう狂言を見ることが出来なかったのはとても残念だった。公演後のパーティーで萬斎さんが言われるには前回の公演では1日目は雨にたたられ、2日目は近くの海で貸し切り船のカラオケの大音響が聞こえ来た、と笑いながら話され、そういう意味では今日の舞台は集中できたそうだ。確かにそうかもしれないがやはり宮島で見たかったなぁ?(笑) 萬斎さんの宮島狂言は今回が3回目だそうで隔年に行っているので次は再来年になるが多分来るだろうとの事、広島県人として一度は厳島神社の能舞台での公演は観たいものだと思っている。郵便貯金ホールの広い舞台上には屋根はないものの松ノ木が描かれた立派な能舞台が設えてあった。

「二人袴」

婿(むこ聟)=野村萬斎

親=野村万之介

舅=石田幸雄

太郎冠者=月崎晴夫

後見=時田幸洋

今日は婿入りの日、だが婿が一人で行くのは心細いと父親に付いてきて貰うことにする。

この時花道から出て来た萬斎さんがとても無邪気で可愛らしい婿殿・・・、その表情も幼さが見えオレンジ色の大きな横縞模様の着物を着て花道から現れたときは女みたい!と思った(笑)役者さんてこんなに化けられるなんてスゴイ!

その背中に背負っているのが始めは帯のお太鼓かと思ったら袴を巻くって背負っていたのだ。舅の家を訪れる時は礼儀だからと父親はその袴を解いて婿に履かせてやるのだが、これが長袴で履きつけない婿は裾が上手く捌けなくて角を廻る時は飛び跳ねるようにして身体の向きを変えて廻る(笑) 萬斎さんはとても初々しい所作でこれを演じ笑いを誘っていた。

舅は準備万端整えて待っている所へ婿が現れる。だが太郎冠者に父親がついて来ているのを見られていて是非どうぞ、といわれ婿は父親を迎えに行くが父親は袴を履いてきていない。そこで婿が着ている袴を父親が履き替えて舅の家を訪れるが、今度は婿はと?問われ又履き替えて・・・。このやり取りの後ついにご一緒にどうぞ!と言われてしまう。さぁ?困った! 父親は一計を案じその袴を二つに引き裂いて二人とも前側だけにつける、・・・これで良し!(笑) ようやく二人揃って舅の前でご挨拶が出来た。さて・・・酒が振舞われ目出度いのだから舞いましょうという事になり婿は舅に後ろを見せないよう苦労しながら舞うが・・・、アッと指差し舅がそちらを見ている間にくるくるっと廻る(笑) この舞の場面が笑いどころ。最後は太郎冠者に二人とも袴が前だけだと見破られアッハッハッハ・・・、と全員が大笑いで和やかに終わる。

「靱猿(うつぼざる)」

大名=野村萬斎

猿曳=野村万作

太郎冠者=高野和憲

小猿=野村裕基

後見=深田博治

じつはこの狂言を観ようと思ったきっかけは、テレビで見た「小さな狂言師」で裕基くんの余りにも可愛らしく健気な姿に心惹かれてフアンになってしまったことだった。生の裕基クンが観られる! TSSから『宮島狂言』の案内が来た時即座に申し込んだ。当時はまだ3歳だった裕基くんも、今までにかなりの公演数をこなしてきているから随分と頼もしくなっていることだろう、期待しながら開演を待った。今日の配役はテレビで見たのとは逆になっていて猿曳を万作さん、大名を萬斎さんが務められる。

最初に大名と太郎冠者が登場し語りがあるが、この部分は何回聞いても何を言っているのかさっぱり判らない(爆) その語りの間に猿曳の「さぁ?さぁ?ゆけ ゆけ 」の台詞に続いて小猿が腰に綱をつけ「キャ?キャ?キャ?・・・」と言いながら四つん這いになって花道から登場、途端に盛んな拍手が起きたぁ―(笑) やっぱり観客の大部分は裕基くんがお目当てと見た・・・(^^ゞ   大名が靱(うつぼ=槍を入れる壷の事)に猿の皮を貼りたいと太郎冠者に話している所へ現れた小猿をみて「中々毛並みの良い猿じゃなぁ?」  小猿は嫌な奴!と言わんばかりに「キャ?キャ?キャ?」 と大名を引掻く。そこで大名は猿曳に太郎冠者を通して遠まわしに頼みごとを聞いてくれるよう誓わせる。

此処でチョッと余談の話し・・・、私は狂言舞台を観るのは今日が初めてなのだが、この太郎冠者が二人の間を言付けを持って行ったり来たり、同じ台詞を繰り返して伝えるので内容はとても判り易いのだが、どうもまどろかしいんだなぁ?これが(笑)  『二人袴』もそうだったから狂言とは、こういううやり方が普通なのだろうか? それとも一つ、狂言独特の言い回し(言葉使い)が有ってプログラムにもその演目で使われる言葉を「語句解説」として載せているが実際に聞いていると確かに判らない言葉は有るけど、全体として物語の行方が判らなくなると言うことは無い。普通のストレートプレイの舞台ではたった一言の台詞を聞き逃したが為に肝心のテーマがぼやけてしまう事を考えると、狂言は何故か余裕を持って楽しめる舞台、という気がした。

この猿曳きと大名の駆け引きの間中、小猿の裕基くんは舞台下手の前方に座って頭を掻いたりお尻を掻いたりでんぐり返しをしたり、と休む暇もなく演技をしている(笑)ついに大名は猿の皮が欲しいと言うが猿曳は「ご冗談でしょう、猿は生きて居ります」と取り合わない。怒った大名は大雁股(先が股になっている大きな矢)を構えて、猿曳共々殺してでも皮を取ると言う。

仕方なく猿曳は矢で射てば皮に傷が付くので一打ちで命を取るやり方があるからと小猿を呼び寄せ言い聞かせる。猿曳きの前に座って顔を見上げる小猿の無邪気な姿がとても可愛い! あそこのお大名が皮をくれと仰るので仕方なく命を取るがくれぐれも恨んでくれるなよ、と言いながら手に持った鞭を一打ちすると小猿はその鞭を持って舟の炉を漕ぐ仕草をする。それを見て猿曳きはワァーッと泣き出してしまう。幼い時から飼い育て芸を仕込んできたのだが、鞭を打つと舟を漕ぐ稽古をするのだと思っている、こんな可愛い小猿の命を奪う事は出来ませ?ん・・・と大泣き、大名も猿曳きが小猿に言い聞かせているのを立ち聞きしていてこれまた貰い泣きをし、小猿の命を助けようと言う。大名と太郎冠者の前できゃーきゃーきゃーと鳴きながら礼をする小猿、そして命を助けてもらったお礼に舞を舞わせましょう、と猿曳きは小猿の身支度をする。頭に赤いリボンの付いた笠をかぶり、鈴の付いた赤いチャンチャンコを着せてもらい猿曳きにくるっと向きを変えられると、此処からが小猿の、そしてこの舞台のクライマックス・・・(笑) 転がったり大名から貰った扇子を胸の前に構えて飛んだり月を見たり・・・次々と可愛い仕草で踊る小猿に大名も吊られて共に踊りだす。扇子をやろう・・・、小太刀ををやろう・・・、ついには着ている着物もやろうと大感激の大名と向かい合い、大名の顔を見上げてションボリ・ショボリといわれている舞を踊る小猿の裕基くんがとても可愛い?っ!!次第にテンポが早くなり最後に御幣をもって転がる仕草を最後に猿曳きの背中におぶさるとそのまま静かに退場して行く。裕基クン、良くやったよ?! 素晴らしかったよ?!大拍手が起きた(笑)

狂言ではカーテンコールは全く無くて出演者が袖に引っ込むとそれで終り、でも舞台の余韻が残りとてもすっきりしていて良いなぁ、と思う。

最初の出から最後まで45分間の上演中、小猿の衣装を頭からすっぽりと被り猿のお面を付け、とても息苦しいだろうと思うが本当に良く頑張った!あの可愛い裕基くんの素顔は見る事は出来なかったが大満足の舞台だった。

終演後ホテルに場所を移してパーティが行われた。今回の興行はJTBが企画したものらしい。参加者は全国から集まっていてそれぞれに華やかなパーティ用の服を着た人も多数いた。

立食パーティが30分ほどあってその後に萬斎さんが一人で現れた。萬斎さんへの質問コーナーが有り大名を演じてどうですか?というのに答えて、「猿曳きなら裕基君が、これはサボってるな!(笑)

と思えば引き綱をチョイチョイと引っ張るのだが大名は並んで演じていて横目でチラチラと見るだけだから苛々する時もありますねぇ?」 と笑って仰ったが、父親の顔でしたねぇ(笑)そんなご心配は全くご無用!裕基君は一人立ちして立派に演じられていましたよ。前日の8日が5歳の誕生日だったそうで皆さんに祝ってもらったとか、その場でも張り切って居たそうな・・・(笑)

裕基君も今は言われるままに演じているけれど何時かは自分の立場に迷う時がくるだろう、だがそれも良いと思っている。父(万作)もそうだったし、自分も色んな分野に触れてみた。それが狂言の演技に深みを与えていると思う、と言われた。伝統芸能の世界は世襲であり選択の余地が無い分自我に目覚めた時反発する時期が来るだろうけど、裕基君ならそれを乗り越え立派な狂言師に育つ事だろう。お父さんの芝居が気になるし、小猿のションボリの踊りが好きだと言う裕基君の今後の活躍を期待したい。

絶対又観に来るからね!そうエールを送った今回の狂言の舞台でした。

宮島狂言

宮島狂言

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-16

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