私立守宮高等学校演劇部
今日も校内を、首輪とリードで繋がれた僕を引いて、コスプレまがいの奇天烈なカッコをした水原が闊歩する。
衆人は、もう見慣れたらしく気にも留めない。
「これ、最後どーなるんだ?教えてくれよ」
「さっさと来るんダモ」
* *
1週間前。
「えー、みんなも朝から気になっているだろうが、今日から水原は、しばらく宇宙人になる」
と、HRで先生が言った。
当の水原は、ムスッとしたまま、教壇の横に立ってこちらを見据えていた。
パンダのような丸い耳と、赤いミニのワンピースに、ブーツを履いていた。よくわからないマントも付いている。
「よろしくダモ」
「ダーモフ星人だそうだ」
先生が補足する。
「ダーモフ4号惑星人ダモ、先生」
「そうか。まあ、そういうわけだ」
どういうわけだろう。
案の定、ざわつくクラスメイツ。
飛び交う推理は、以下の通りである。
うちの高校は運動部こそ冴えないが、文化系、殊演劇と合唱は全国大会を狙えるレベルであり、校長や教頭も、演劇部出身ときている。
「役作りだって」と、生徒A。
「今年は西高に負けられないって、去年の冬から校長言ってたし」と、生徒B。
「OBでアニメの脚本家に、オリジナル劇依頼したんだって」と、生徒C。
「へー」と、僕。
効果の程は解らないが、このような特例が、まかりとおる校風なのである。
水原は役になりきっているのか、羞恥心ゼロの風格で、いつも通り僕の隣に着席する。
とりあえず、朝の挨拶がわりに、
「なんか、面白そうな劇だな」
というと、
「地球人を奴隷にする為にやってきた、調教師の物語ダモ」
と目線を合わさず答えた。
「結構テーマ深そうだな」
そして、大型犬用のような首輪と、リードを取り出して、前者を僕の机の上に置いた。
「え?」
先生は、思い出したように、
「あ、そうそう、実際の奴隷役は別のクラスの演劇部員らしいから、これから毎日、うちのクラスの生徒に協力…って、ああ、松田か」
と、僕の机の首輪を見て言った。
「は?」
* *
「これ、最後どーなんだ?教えてくれよ」
「さっさと来るんダモ」
そんなわけで、今日も僕は、この微妙な痴態を校内にさらしている。
そこへ、隣のクラスの谷河が、
「なんだ松田、まだ脚本教えてもらってないの?」と言って、
「ラブコメにきまってんじゃん。オチは、奴隷なんてのは大嘘で、ただ好きな異性を確保…」
そこまで聞いた時、思い切りリードがひかれた。
「ほら!さっさと来い!ダモ!」
「えっ?ちょっ・・・」
私立守宮高等学校演劇部