報い

悴む手を擦り合わせながら帰り道を歩く。白い息を手に吐きかけるが手はちっとも暖かくならない。それもすべて手袋を忘れた私が悪いのだが、体が冷えるせいか尿が近い。辺りを見回しコンビニを探すが見当たらない。「そりゃあこんな人気のない道にコンビニなんてあるわけないか。」近道しようと裏路地に入ったのが間違いだ。慣れない事をするべきではない。しばらく歩いていると薄暗い道にひときわ輝く店があった。あれはコンビニではないか。まさかこんなところにもあるとは、恐るべしコンビニ。私は早速店に入りトイレへ直行する。
「そうだ、ついでだし、晩飯も買っていくか。」
トイレの中で独り呟く。弁当コーナーを見てみるが品揃えはかなり悪い。まあ、そうか、こんなコンビニほとんど人なんて来ないだろうし。私はチキンカツ弁当を持ちレジへ赴くと年齢は私と同じくらいの賞味期限の過ぎたギャルといったところの店員が立っていた。そういえば私が入店した時、いらっしゃいませを言われてないではないか。よくクビにならないものだと私はどこか関心した。店員は
「弁当あっためますか? 」
とだるそうに言った。私が肯定すると店員は弁当を投げるように電子レンジの中へ放り込んだ。さすがの私もそれには顔を歪ませる。学生時代の私なら人に物を言うなど出来なかっただろう。しかし、今なら言える。
「すいません、さっきから態度悪くないですか?」間も無く、店員は私を睨みつけるが私は決して怯まない。店員は
「そうですか? いつもこんなんっすよ」
と長い茶髪をいじりながら言う。どうしてクビにならないのかが本気で気になってきた。
「あの、そんな態度でクビにならないんですか?というか指導とかもないんですか? 」
私は意を決して言った。
「ああ、クソうざい店長によく説教とかされるんすけど店長もいろいろ悪い事やってるみたいだし、そんな奴の言うことなんて聞きたくないじゃないすか。」
この店にまともなのはいないのだろうか。そのまま終わっても良かったのだが好奇心を抑える事が出来なかった。
「その悪い事ってどんな事なんですか? 」
「それが、ヤクとか割とマジなやつってぽいんすよ。」
想像を超えた悪党の存在に聞いた本人が思わずたじろぐ。少しの間、沈黙が続き、その間を繋ぐようにレンジのピーという音が店中に浸透する。店員が弁当を袋に入れ、レシートを渡す際、裏に何かを書いてから私に渡す。見たところメールアドレスのようだが、これは何か聞こうとした瞬間に店員は口を開いた。
「実は、あたし、店長に狙われてると思うんすよ。だから、あたしあいつに一泡吹かせてやりたいと思ってるわけよ。そんで、あんたにも協力して欲しいんだ。頼むよ。」
想定外の言葉に戸惑う。
「ええと、それはなんで俺に? 」
私が真っ先に思った率直な気持ちだ。
「え?別に理由なんてないけどさ。あんたなら信用できるってなぜか思ったんだよ。」
よくもまあ、初対面の人間にましてや異性にメアドなど教えるものだな。最近のギャルってのはこんななのだろうか? とても最近のとは言えない風貌だがな。私は
「はあ…そうですか…」
などと誤魔化し店を後にした。私は彼女を知っている。今、卒業アルバムを見て確信した。顔を見た時点で、もしかしてあいつか? という疑念は抱いていたものの確信には至らなかった。別に私の学生生活など9割はいじめにあっており青春の「せ」の字もない学生生活を過ごした私なのでその場で言うような事はしなかったが。そこで、私は一つの計画を思いつき、そのメアドにメールを送った。
「俺はお前の計画に乗る事にした。都合の良い日を教えてくれ。場所を指定してくれればそこで今後の作戦会議をする。」
苦しんだ人がいるなら苦しめた人もいる。そんな人は当然の報いを受けるべきだ。

翌日、携帯を見ると彼女からの返信があった。
「マジですか! じゃあ今日、田原町のストバっていうカフェで待ち合わせしましょう(^o^)」
これは助かる、今日は休みだし、田原町も近所だ。
店に入り、彼女を探そうとしたが探すまでもなかった。一際目立つ服を着ている以外は昨日と変わらない。わざとらしい化粧に無駄に長いまつげ、間違いなく彼女だ。私が席に着くと、彼女は間髪入れずに「いやあ、まさか乗ってくれるなんて思ってませんでしたよ。これまでの奴らはみんな音沙汰なしでしたからね。」
どうして店で敬語を使わず今使うのかは理解不能だが、
「俺は悪いやつが大嫌いなんだ。人を不幸にしたやつが、何の報いも受けずにいけしゃあしゃあと生きてるのは胸糞悪いからな。」
私が彼女の計画に乗ったのにこれ以外の理由はない。
「取り敢えず、お前の持ってる情報を教えてくれ。」
「実は、店長、あのコンビニの裏口を使って、ヤク売ってるっぽいんですよね。」
なるほど、どうりであんな所のコンビニが潰れない訳だ。そうなるとあのコンビニはカモフラージュという事になる。しかし、
「それが分かってるなら自分で通報すりゃあいい話じゃないか? 」
「いや、通報したことがバレたら仲間とかに襲われそうじゃないですかぁ」ということはもしかすると、
「つまり、俺に代わりに通報させて自分の安全を守りながら、身の回りの脅威を取り除きたいという事か?」
もし、そうだとすると話は簡単だし、楽に解決できるので良いが。
「せいかい! 」やはりそうか。
「よし分かった、俺が代わりに通報しよう。ただ、1つだけ条件がある。」よおし、このまま、計画通りにいってくれよ。
「え? 条件? 」
「そうだ、俺が代わりに通報したら、俺の家の掃除をしろ! 」完璧だ。
「え? 掃除ですか。別に良いですけど、でも男の人の家に行くっていうのはちょっと‥」
年甲斐もなく顔を赤らめながら言う。何の躊躇もなくメアドを渡しておいて、家に行くのは嫌だとはこれいかに。しかし、俺にはとっておきの秘策がある。これを言われれば彼女も家に来るに違いない。
「安心しろ! 俺は2次元にしか興味がない。家に入った瞬間に気づくだろう。」
さあ、どうだ。彼女はあからさまに引きながらも「あ、まあ、それなら‥うん」と納得したようだ。これで俺のカオス極まりない部屋は俺の暗い過去とともに消え去るだろう。そうと決まったならさっさと事を済まさなければ。私はおもむろに携帯を掴み、
「もしもし、田原町○○-○で違法薬物を売ってる人がいるんですが‥はい‥はい分かりました。」
彼女は驚いた様子でこちらを見ている。
「あんた、行動速いね。ちょっと引くレベルだよ。」
当たり前だろうが、掃除がかかってるんだぞ!
「通報したぞ! 早いところ家に来てもらおう。さあ、早く! 」
彼女は、
「あんた言ってることが変態じみてるよ」などとブツブツ呟きながらも家に来てもらえそうだ。

ドアを開けた瞬間、彼女の引く声が聞こえたような気がした。壁中に張り巡らされたアニメのポスター、大量のフィギュアに散らかった部屋。
「あたし、これ、掃除するんですか? 」顔を濁らせながら言った。
「そうですね。でも条件ですからね。拒否権無いですからね。」
彼女はため息をつきながら渋々部屋に入っていく。
「この床に散らばってるのは全部捨てて良いんですか? 」私はカバンを探りながら答える。
「そうですね。全部捨てちゃって下さい。」彼女は面倒臭そうにゴミを拾い始める。
「はあ、汚いなぁ。どうしたらこうなるかなぁ。」
一方、私は探し物が見つかり、彼女の方へ向かう。
人を不幸にしたやつが、何の報いも受けずにいけしゃあしゃあと生きてるのは胸糞悪いからな。悪は当然の報いを受けるべきだ。
私は彼女の首にロープをかけ、力を入れる。しばらくすると私の目の前には1つの暖かい肉の塊があった。人の青春を人生を人格をぶち壊し、生き地獄を味あわせたのだから。これは報いだ。だが、私は今1人の人間を殺した。これは社会の法に規範に背く行為であり、よって私も報いを受けなければならないことは明確だ。私は1人と1つの居る部屋を後にして、玄関を開ける。

報い

報い

2、3分で読めると思います。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-06

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