Regret

何故?何故こうなったんだ?
俺は自分に問い掛ける

何故、あいつが死ななければならない?

…あいつは昔からこうだった。いつも必ず最後に貧乏くじを引くんだ
…そう、いつもいつもこうやって

あいつはもう戻らない…俺は?何故生きている?
本来ならば、俺が死ぬはずだった……そういう戦いだった筈だ
あいつには、この限定戦争に志願する理由があったと言うのか?ならば、それは何だったんだ?

答えは…もう聞こえない……



俺とあいつは、下層階級の人間の住むスラム街に生まれた
だが、俺達はそんな事を一度も気にした事はなかった…それは今でも変わっていないが…
俺とあいつが、初めて出会ったのはいつだったか……
ただ、出会ったその瞬間に、俺達は親友になった事だけは、今でもはっきりと覚えている

俺達にとって、スラム街はいい遊び場だった

俺達二人は、毎日のようにスラム街を駆け回り、いろいろな事をやった
人並みに、二人で追いかけっこだってやったし、色々な悪戯だってやった
けれども、いつも必ずあいつが貧乏くじを引いてつかまっちまって、俺はいつもあいつを助け出して…
何度も何度も大人たちに怒られて、それでも懲りずに悪戯を続けて…また、何処かで二人追いかけっこをして…

俺達には何もなかった。綺麗な服も、豪華な食事も、贅沢な玩具も
でも、毎日が充実していたし、はじめっからそんなものを知らなかったから、別に何とも思ってはいなかった
それでも俺の両親は、”俺のため”に、俺にマシな生活をさせたいと思っていたようだ
俺の親父は、俺があいつと知り合ってから3年後に、限定戦争へと志願していった

それから暫くして、親父が家に帰ってくると、俺の周囲の環境は一変した
俺達はスラム街から去り、大きな新しい家に住むようになったからだ

俺は、綺麗な服や、豪華な食事や、贅沢な玩具を手に入れたが、それ以上に大切なものを失った…両親の勝手な都合で…

やがて、OMGが始まり、その戦いで親父が死ぬと、お袋は毎日を何かに怯えて暮らすようになった
俺はそんなお袋の姿を見続けるのが嫌で、まだ、少年と呼べる年であったにもかかわらず、限定戦争へと身を投じた
だが、本当は、偽りだらけの贅沢な生活から逃げ出したかったのかもしれない

それから数年が過ぎ、お袋が死んだことを知ったのは、お袋の死から3ヶ月過ぎた後の事だった

全てが終わった…俺が戦いに身を投じる理由など何もないはずだった
俺はその時、既にそれなりの階級を得、これから先の生活を保障されたも同然だったからだ

だが、俺は戦場に舞い戻った
自分でも理由は分からなかった

そして、火星における、木星継承戦争の勃発。俺は、すぐに火星へと飛んだ

そこで俺は、あいつと再会する事となる

あいつは、俺の受け持つ事になった小隊に、補充要員として配属されてきた
その再会から暫くは、俺があいつと1対1で会う事はなかった
何故だかは自分でも分からなかった事だが、俺はなんとなく居心地が悪くて、無意識のうちにあいつ避けてしまっていたようだ
考えてみれば、俺があいつを避ける理由など、全く無い筈だった

一度、そう思ってしまえれば、俺達二人が元の関係に戻るのは、さほど難しい事ではなかった

俺は、一度だけあいつに尋ねた事がある
何故、ここにお前がいるのか…と

あいつは、何も言わなかった

俺は、心の奥ではあいつがここにいる事を、あまり良くは思っていなかったようだ
幾度か、契約を切るように説得した……そのために必要な物も、俺が用意するから、と言ってまで…
だが、あいつは戦場に残った

そして、今目の前で物言わぬ塊へと成り下がってしまった……名も無き一兵士として

俺自身、何が起こったのか未だにはっきりとは理解出来ていない
ただ、敗北した俺達の小隊を逃がす為に、俺がしんがりを勤めた
そして…俺が死ぬはずだった……あいつが、俺の命令を無視して戻ってこなければ

気が付けば、あいつは死んでいて……
そして、俺は?何故生きている?何故、俺が生き延びている?

理由は簡単だ…俺は利用したんだ…あいつの死によって生まれた、敵の隙を…
だから、俺は生き延びた

目の前に横たわる、あいつのVRを殴りつけてみても、そこからは何も返って来ない

あいつは、死んだのだから







あれから、どれくらいの時を重ねたのだろう
後悔すら、遥か彼方に置き去りにしてきてしまった俺には、今だけが全てだった

俺は、あの後悔の後でも戦場にいた

何故?
何故、俺は戦っている?
友人を失い、戦う理由を持っていない俺が、何故?

ずっと以前に、何処かで読んだか、聞いたかした一節が頭をよぎる

戦場に身を置くものなんて、心を病んでいる者に過ぎない
戦場から生きて帰ったものは、再び戦場を求める
例え、どれだけの名声を得ようとも、戦いの生むスリルを味わう為に…

その通りなのだろうと思う
俺はこれからも戦場を駆け巡るだろう……幾多もの後悔を繰り返しながら、死という名の終焉が訪れる瞬間まで



                                 ~完~

Regret

バーチャロンという作品は、非常に設定の全貌が掴み難い作品であると思っています
その作品の、膨大な設定資料から自分の妄想を形にしたのがこの短編になりますが
自分の中では、今のところこの作品が色々な意味で一番良く書けている作品という認識

実は、これと対になる作品も以前にHPで公開していたのですが、現状では残念ながら掲載見送りという方向で
なんらかの反響があれば、あちらも公開するかもしれませんが、かなり不出来な作品なので悩みどころだったりします

Regret

電脳戦機バーチャロンフォース二次創作短編その1 限定戦争に飛び込まざるを得なくなった一兵士の物語を綴った短編小説

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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