姉と私
病室で起こる小さな攻防を書いていきます。
「ポッキーゲーム」
「ポッキーゲム?」
「うん、ポッキーゲーム」
私の言葉に姉さんが頭上にクエスチョンマークを浮かべながら手にもったポッキーを剣のように構える。
「いざ尋常に勝負! ……って言っても私ベッドから動けないけ、あっ!」
……やばい、可愛すぎて鼻血でそう。 まぁ病院だから鼻血出してもすぐ治療してもらえるけど。
姉がこちらに向かって突き出すように構えていたポッキーをあーんと口に含み指付近まで一気に食べきる。
「あぁ、私のポッキー……」
私の口の中に消えたポッキーを目に涙を浮かべつつがっくりと肩を落とす姉に少しの罪悪感とそれを遥かに上回る『萌え』を覚える。
「ポッキーゲームっていうのはね」
新しくポッキーを取り出しそれの端を口に咥え姉の口元に顔を近づける。
「ふぇっ! ちょ、ちょっとどうしたの?!」
長いまつげ、小さい鼻、真っ赤に染まっているがきめ細やかで綺麗な肌、そしてわたわたと混乱を紡ぐ唇。
姉に対して特殊な感情を持つ私じゃなくてもドキドキする繊麗された顔つき。
「ん」
「ん、じゃなくて! 何、私どうすればいいの?!」
仕方なく顔を離し口に咥えていたポッキーをそのまま咀嚼する。
「ポッキーゲームっていうのはポッキーをお互いが両側から食べていくゲームの事」
「え、えぇ……それって勝敗はどうやってつけるの?」
「さきにポッキーを折るか口を離したほうが負け」
「お、お互い負けを認めなかった場合は……?」
「その時はキスするんじゃない?」
むしろそれが目的だけど、なんて言えるわけもなく姉を焚き付けるべく仕上げの一言をつきつける。
「もし姉さんが勝ったらこの前姉さんがほしいって言ってたカシミヤ毛糸の詰め合わせ買ってきてあげる」
「ほ、ほんとっ! やる!」
やったぜ、心のなかでガッツポーズを取る。
姉がやる気になったところで再びポッキーを口に咥え顔を近づけもう片方を咥えさせる。
「……」
「~~!!」
姉の顔がみるみるうちに赤く染まっていくのを真正面10cmの距離から高揚感とともに眺める。
このまま眺めていたい衝動もあるがその先に進まないと目的を達成できないので姉の肩に手を置きスタートを合図する。
一口食べるごとに近づいていく姉の顔、対して近づくごとに赤さを増し動けなくなる姉。
ポッキーの長さが半分あたりになったあたりでとうとう姉が目をつぶった。
……可愛い。
姉の鼻息が唇に吹きかかり肩に置いた手がプルプルと震える姉の緊張を伝えてくる。
「…………はぁ」
まだ少しだけ残ってるポッキーから口を離しため息をつく。
「……あれ?」
姉はと言えばなんで私がポッキーから口を離したのかわからないといった顔をしている、まさにキョトン、といった具合だ。
「もう時間だから帰るね、明日ここ来る前に毛糸買ってくるから楽しみにしてて」
「え、あ、うん、ありがと……」
はぁ、存外チキンなのは私の方かもなぁ……。 などと頭のなかで考えながら荷物をまとめ立ち上がる。
「じゃあね」
「うん、また……きゃっ」
口端にチョコが付いているのが見えたのでそれを指で拭き取り指をぺろりと舐める。
「あ……ちょ、ちょっと!」
「ふぅ」
姉の静止を無視して病室を後にする。
病室を出るとき姉の顔を見るとゲームをやっている時と同じくらいに顔が真っ赤になっていた。
「今回は私の負けだけど次は勝つから」
そう背中越しに姉に宣戦布告し私は病室を後にした。
姉と私
バレンタインデーが近いのでチョコにまつわる妄想でしたがいかがだったでしょうか。