ウォール・イン・ゲーム
序章-嫌な夢-
やめて…行かないで…
また、あの夢を見た。いつも誰かの悲鳴とともにいつも現実の世界へと戻される。何か昔のことで知っているようで知らないふわふわとした夢。この夢を見ると本当の私は今の私なのか不安になる。こうしている間も私の何気ない一日は始まる。
「…え…。」
動かなければと、目を開けるとなぜか私は布団の上ではなく生暖かく湿ったアスファルトの道路に横たわっていた。硬い地面に寝ていたからかすごく体が重い。
とりあえず動いてみる…カチャ
ふと自分を見てみると寝る前に着たパジャマではなく、ゲームで見るような黒の戦闘スーツのようなものを着ていた。腰には幼馴染のあいつが好きそうなごついサバイバルナイフ、右手にはライフルみたいなものが握られている。
もう頭の中がプチパニックだ…ピピッ
左手のほうから音がした。腕にはスマホのような画面がついていた。中ではよくわからないメイド服の女の子がお辞儀をしていた。「…?…」色々なことが起こりすぎてどう反応していいかすらわからない。苛立ちすら覚えてくる。もう半泣きだ…見渡しても誰も人はいない。
「‛‛ウォール・イン・ゲーム’’へようこそ!ここは選ばれた者だけが戦闘を許される場所!殺されないように気を付けてね!私はあなたの助手アランと申します!この世界に関して何かございましたらいつでもおっしゃってください!」
なんかもう色々ありすぎて落ち着いてきた。私殺されちゃうかもしれないんだ…死んじゃうかもしれないんだ…別にいっか。私は誰からも必要とされていない、悲しんでくれる人もいないし。いいんだもう、別に…
さっき、あった出来事を思い出して本当に死にたくなる。
「おい。」カチッ。とても低い男の人の声。振り向かなくても考えなくてもすぐに分かった。いざ、殺されると分かると恐怖心がぐっとこみ上げてきた。冷汗が私の手をにじませた。
「お前いいところにいるな。今俺にはポイントが足りなくてな、悪いが俺のために犠牲になってくれや。」
あ、もうここで私死ぬんだ…パァン!!…すごい音と同時に視界が真っ赤に染まる。…ベチョ…ゆっくりと右へ視線を移す。そこには男が頭から血を流し自分の作った血だまりの中で目、口を開けたまま絶命していた。
「ひぃ!?」撃たれたのは私ではなかった。わけがわからなかった。さっきまで私は間違いなく殺される側だったのに。
「よ!大丈夫か??」そこにはオレンジのゴーグルをかけた同い年くらいの少年が立っていた。どうしようもなくあいつに似ている。だってあいつは行方不明なはず。頭の中のデータ処理が追い付かなくて頭がぐるぐるする。どうしようもなく頭が痛い。…怖い…誰か助けて…
誰かが私に話しかけているけど聞こえない。息が苦しい。そのうちに視界がどんどん狭くぼやけていって私は気を失った。
六ヶ月前
〜六ヶ月前〜
「おい、大変だ。コンがいなくなったって。」
ちょうど夏休みの長さに飽き飽きしてきた高1の8月中旬頃、そんな嘘と願いたいような事を言いながら汗だくのお父さんがノックもせずに私の部屋に入ってきた。コンとは小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。いわゆる幼馴染というやつだ。元々体の弱いコンは家にいることが多かった。家が隣なので私はよく遊びに行っていた。コンという呼び名だって私が呼び始めたのだ。そこからみんながそう呼び始めた。コンはいつもどんな時も優しくしてくれた。ちょっとやんちゃでお調子者なコン。私はそんなコンが好きだった。そんなコンがいなくなるなんて…。この前だって、体調を崩したばっかりだったのに…。もしかしたら、どこかで倒れてるかもしれない。ふと、そんな嫌なイメージが頭をよぎる。色々なこと考えているうちになぜかわからないけれど、もし、自分のせいだったらどうしようと、不安になる。どうしよう、どうしよう、と考えてるうちに、あの一言がついに口から出てしまった。
「…私のせいだったら、どうしよう……」
「またコンに何かふきこんだのか!!」お父さんが怒鳴った。
お父さんが怖くて、目に涙がうかんでしまう。
昔、私は毎日のようにコンの家に遊びに行っていた。あまり外遊びに行ったことの無いコンにお母さんと公園にいったのを話したことがあった。幼かった私にとって小さな公園にあったブランコがすごく楽かったことをこと細かくそして何回も何回も話したのだった。コンがどんな想いで聞いているのかも考えないで。どうしても乗りたかったコンはおばさんに行きたいと言ったが当然返事はだめ。何日かしてコンはおばさんのいないうちに家を抜け出し、そして、車にはねられた。幸い足の骨折だけで済んだが、私は親にとても怒られ、そして小さかった私にむかって私のせいだということを連呼したのだった。しばらくしてコンの足は治り親同士のギクシャクも直ったが私の心には人と話すことへのトラウマだけが残った。そんな私を親はそのうち治ると放っておいたが私が誰かと話をすることができるようにはならなかった。
私が小学生の高学年になりかけた頃、珍しくコンが私の家に来た。コンが私の家に遊びに来たのは久しぶりだった。コンは、沢山私に色んな話をしてくれた。何日も何日もコンは来てくれた。コンのおかげで親とコンとは普通に会話ができるようになった。そんなことがあったからまた、そんなことになるんじゃないかと不安になった。中学生になってからはコンと会う機会が少なくなった。だから余計になぜコンがいなくなったしまったのかわからない。
「私じゃない。」そう言いたい。でも私じゃないと言い切れない。頭がぐるぐるしてきて喉の奥がギュッとしまる。声が出ない…。その場から消えたかった。私は部屋に走った。そしてベットの上でずっと泣いた。いつまで泣いていたかわからないけれど、いつの間にか寝てしまっていた。
その日から私は、毎日のようにあの嫌な夢を見るようになっていた。中学生のくらいの時からたまに見ていた夢。大きな壁の中で逃げ惑う夢。仲間と逃げているのに最後には結局一人。一人になると聞こえてくる。あの声。
「やめて…行かないで…」
知っているようで思い出せないモヤモヤする…いつもモヤモヤする。
そして私は今日も眠りにつく。
再会
すごく心地がいい。温かくて柔らかくて、目を開けたくない。思わず寝返りをうってしまう。フニ…
…ん?
枕がすごく柔らかい。うっすらと目を開けるとやっぱりそうだ!
「わー!!ごめんなさい!!」
「あ、起きたか。」よかった。私が膝枕をしてくれていたのは、女の人だった。
「なんだ、コンのほうがよかったか?」枕さんがにやにやしながら言った。
そうだ、コン。私を助けてくれた人がコンにものすごく似ていたことを思い出す。
「よ!久しぶりだな」
と、運転席の方から声がした。私は確かめたい気持ちでいっぱいになった。そして、前の席にそっと乗り出しおそるおそる運転手の顔を覗き込んだ。それは、見たことのある顔。ずっと見たかった顔。ずっと大好きでいつもいつも私がそば見ていた、誰よりも一番近くで見ていた顔。
「…コ…ン…?」
あぁ、ずっと声に出したかった名前。着ている服は全然違うけれど、絶対にコンだ。喉の奥がギュッとしまる感じがする。涙のせいで視界がぼやける。誰にも見れないように涙をぬぐう。
「そーだよ、ずっと遊べなくてごめんな。」
私は首を横に振る。コンに会えた、コンが生きていた。私にはそれだけで十分だった。
「感動の再会のところ悪いが、今はそれどころじゃなさそうだぞ。」
「ピピピ、残り半径6mです。」アランが突然喋った。
ズドドドド!!!
コンが急ブレーキを踏んだ。
「…くそ…なんだよ…」
さっきまでニコニコしていたコンが外を見てにらんでいる。
いなくなる前はそんなことをいうような人じゃなかったのに、私の知らない間にコンは変わってしまったのかもしれない。
「すぐ帰ってくる。ちょっと待っててな。」
コンは私にやさしく声をかけた。
そして、コンは飛び出ていった。
一歩ずつ前へと
怖くて怖くて私はただ車の中で震えている事しかできなかった。
「ただいま」
自分を抱きしめながらただ下をながら待っていると、何があったか想像したくないくらい血まみれになり、血なまぐさい二人が帰ってきた。
「シャワー、私先に入っていい?」
と,いつもと変わらないというように枕さんが奥の方へと消えていった。
「怖かったの?大丈夫だよ、ちょっと奥に色々置いてくるね」
コンも奥の方へと消えていった。
また一人になる…風のようにやってきて、すーっと二人は見えないところに行ってしまった。
しばらくすると、枕さんがシャワーから帰ってきた。
コンと枕さんが話す声が聞こえコンがシャワーへ行ったようだった。
「さてと、コンがシャワー浴びている間にこの世界のこと教えてあげる」
枕さんはドカッと車に備え付けられている硬めのソファーに座った。
さっきと違いタンクトップに短パン姿では私よりはるかに女性的な体つきが目立ち、同じ女の子だからと思っても、どこに目をやっていいか分からなかった。
そんな中、向かい側のソファーに控えめに座った私はふと疑問に思った。
「この車、広いね…」
この車の中は、前にテレビで見たキャンピングカーの内装とは大きくかけ離れたものだった。
今座っているソファー、奥には2つのベット、シャワー、トイレ、キッチン…と、普通の家にあるような物がすべて整っている。
少なくとも私の知っている車とは大きくかけ離れていた。
「確かに私の昔住んでいた世界にはこんな車、無かったなー…でも、すっごく住みやすいのよ?」
誇らしげに言ってくる枕さんの意味が分からなかった。
ここいじってみてと、言われるがまま私は手首についたアランのいる画面の右上をタッチした。
すると、私の写真、生年月日、名前などが事細かに記された画面がでてきた。
「このpointっていうのがこの世界でのお金の代わりなの。手に入れる方法は色々あるんだけど、このお金で武器を買ったりするの。
この車だってそれで改造したのよ?私たちの頑張った証みたいな感じ。色んな物の値段は、そーね…トマト1つで60point、リンゴ1つで150point、ハンドガン1丁で15000pointって感じかな」
よく見ると私の画面には326480pointと書かれていた。
「これって…」
私はこの場所に来てまだ何もしていないのにこんなに貯まっているのは、なぜだろう。
「あら?ずいぶん貯まってるじゃない!前にも来たことあるの?」
そう聞かれた瞬間、目の前がまた揺れて、暗闇へと吸い込まれていった。
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…だ…リー…リーダー!!!
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