2つの世界

2つの世界

パラレルワールドの存在を信じたことはあるだろうか。例えば、私は今日の朝、ごはんを食べるか、パンを食べるか迷った結果パンを食べることにした。もちろん、朝、ごはんを食べようが、パンを食べようが未来に何か変化をもたらすわけではない。しかし、ごはんを食べた世界線も必ず存在している。証拠など、どこにも無いが私はそう確信している。たまに、なんでも無い風景を見て、この風景を前に見たことがあるような錯覚に陥ったことは無いだろうか。私が思うにこの現象は別の世界線の自分が何らかの影響で同期してしまった時に起きるものではないかと予想している。とまあ、私はこんな妄想が大好きで学生時代もこんな事ばかり考えていた。おかげで友達のいなかった学生生活も退屈しなかったので、この趣味を悪く思った事は一度もない。ただ、少なくとも、こんな趣味さえなければ、今、私がこうして暗闇の中で体も動かずただ命が尽きるのを待つだけの状況になる事は無かっただろう。1時間ほど前、私は図書館へ行き本を借りた。そのまますぐに帰れば良かったもものの、その本の内容について、あれやこれやと妄想している内に1時間近く経過し、急いで家へ帰ろうと自転車をこいでいると突然、車が歩道に乗り出してき、今に至る。ぶつかった瞬間の記憶はなく、気づくとこの暗闇の中にいた。音も聞こえず、体に感覚はなく、まるで宙に浮いているようであった。おそらく、外の私は今頃、全身を紅く染めで救急車運ばれている、といったところだろうか。そろそろ、私の体も限界のようだ。薄れゆく意識の中、私は友達のいる世界に、家で本を読んでいる世界に思いをはせる。


友達からのメールの着信音で目がさめる。何か長い夢を見ていたような…手には読みかけの本がある。どうやら本を読んでいる途中で寝落ちしてしまったようだ。普段ならこんな事絶対にありえないが、間違いなく、このテレビから流れているオルゴール風の音楽のせいだろう。まるで人を寝かせるために生まれてきたような音色ではないか。それはそうと、友達からのメールを見るとどうやら明日、同級生で集まりバーベキューパーティをするらしい。それならもっと早く言ってくれればいいものを、そう思いながら私は財布を手に取り、ホームセンターへ出発した。テレビは自然に切り替わり、誰もいなくなった部屋に無機質なアナウンサーの声が響く。「速報です。ただいま、○○県○○市にて乗用車が暴走し歩道に乗り上げ多数の死傷者が出ている模様です。それでは現場から中継…」

2つの世界

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1000文字ほどです

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-04

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