ENDLESS MYTH第3話ープロローグ2
プロローグ2
骨に食い込むように皮膚に張り付く甲冑を鳴らし、1人の男が駆けだしてくる。石畳の階段を駆け上り、踊り場でぴたりと脚を止め、片膝を突き、手の長槍をガラスの透明な踊り場へ置き、黒塗りの兜を下げ、自らの主へと報告を、口囃子しかしながら滑舌に注意しながら、明瞭に状況だけを報告した。
「物見より報告。救世主、未だ生存とのことにござります!」
それだけを言い終えると、男は甲冑を鳴らしながら、踵を返し、背中の旗印をなびかせながら階段を駆け下りていく。
旗印には黄色い生地に黒で複数の銭が描かれ『永楽銭通』とあった。
黄金の髑髏を半分に切り、濁り避けを注ぎ、一気に飲み干す男は、西洋と東洋の甲冑の特性を併せ持った甲冑姿で報告を頷き1つで頷き、自らの天井に張り巡らされた階段を見上げていた。
つまり酒で喉を鳴らす彼の天井を重力とは関係なく、物見は真逆に主へ報告を上げたのであった。
続き、さらにもう1人の男が石畳の階段を駆け上がり、今度は光の板のような踊り場で脚を止め、拳と掌を重ね合わせ一礼する。
「救世主、イヴェトゥデーションと接触とのことにございます」
別の主へ報告した男は再びさっきの甲冑姿の男と同様、踵を返すなり背中の旗を翻して階段を駆け下りていく。そこには『魏』の一文字がたなびいていた。
鉄の板を革紐で結んだ甲冑を着て、顎のすらりと伸びだ髭をしごき、もう1人の主は頷いた。
「救世主は生きていられると思うか、『ソワ』よ」
顔の頬を覆うように頭から黄金の王冠を被る男は、総髪の男を見やる。
髑髏の杯を中空に放り投げると、そこにまるで何かの見えない台があるかの如く、髑髏の杯は中空で浮遊して停止した。
「『ソヴィ』うぬはどう思う? 救世主が我らが大望の一翼となろうか?」
と、これに答えたのは壺のような大きな樽から酒を飲む、腹の出た大男であった。見た目の剛胆さと相違ない口ぶりで豪快に笑い声を1つあげてから、言う。
「小童が未だ覚醒しておらぬのであれば、話にならぬ。戦略とはその者がいかに我が知略の内に入るかによって変わるもの。覚醒しておらぬのであれば、大望に組み込むわけにもいくまい。それに、救世主はこれより長き戦に入るのであろうから、我らの攻略に組み込むわけにもゆくまい」
デールをまとい、白髪交じりの顎髭に酒の滴をつける男。
「『ソラ』の意見に一理あろう。戦力にならぬ者を数にいれることに、意味などあるまい。あくまで戦況全域に眼を配らなければ、将としてはつとまらぬ」
そういった男は冕冠から垂れるすだれのような紐の間から、ソワとソヴィを見据える。衣服は甲冑ではないが黄金で龍と孔雀が刺繍されていた。
さらに1人が口を挟む。
「様子を見てはどうかね。『ソマ』の言い分はもっともだが、我らの最大の武器となる矛先が研ぎ澄まされるのを待つのもまた、一興ではないかね?」
そういった男は黒い巻き髪、身体には彫刻を模したような革の鎧を身につけていた。
「そのような悠長なことを言っている場合かね! 事態は切迫しているのですぞ!」
憤慨した様子の男は小柄ながら端正な顔立ちをしており、頭には独特の二角帽子が大きく広がり、黒い軍服と白いズボン。その上から赤いマントを身体に巻き付けている。
小男はもう一度、言い動を見やった。
「『ソユ』殿の意見も最もである。しかしながら我らに猶予が残されているとは思われないが」
各時代から抜け出てきたような格好の男たちは、渋い顔をする。
と、そこへ不可思議な者が現れた。赤い光の鉄球を中心に2つの光の筋が荒らせんを描くように回転している細長い、物体である。
「報告いたします」
と、その物体はなんと言葉を彼らに語りかけたのである。
「救世主、上級デーモンの襲撃を受けたもよう」
報告をするとその物体はその場から瞬間的に消滅した。まるでなにもその場に無かったかのように。
ソワは再び髑髏の杯を手にする。というよりも杯自らが彼の手へ移動するなり、泉の如く濁り酒がわき上がってきた。
それを一口に飲み干すと、ソワは立ち上がり、深紅のマントを翻した。
「他の者にも意見を求めねばな。この『多次元界』、予の意見、うぬ等の意見だけでは動かぬ世界故になぁ」
これには他の王たちも頷く。
そしてそれぞれの玉座からそれぞれの居場所へと戻っていったのだった。
ENDLESS MYTH第3話ープロローグ3へ続く
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