後悔したいの?

*出逢い


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「何かいいこと無いかな」


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そんな言葉が口癖の私は、平凡な平凡過ぎる毎日を過ごしていた。

仕事に行って、疲れて帰って、また仕事。

‘‘年の割にしっかり者だね”
とよく言われる。


だから任される仕事も多いし、責任も重い。


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「今日で23なんだけどなぁ…」


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仕事に追われて、生活に追われて人生に追われて。

彼氏も居なくて、1人誕生日。

今日ぐらい23歳ぽい事をしたい。

そうだ、私には最近スリルが足りないのか。

というわけで真夜中に知らない道をぶらぶらと歩く。
そして入ったのは隅の方にある落ち着きのありそうなBAR。


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「……ゲ。」

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でも入ってみると全くの別。 ガンガンな音楽は勿論、若い人達がわんさかいる。

………ここは流石に私には若すぎる。

気付かれないようにお店を出ようすると
誰かに腕を掴まれた。


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『来たばっかりなのに帰るの?』

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振り返ずとも分かる、この甘い声。

一瞬で溶けそうになった。

でも振り返る勇気はない。

帰るんだ。ここは私には合わない。

BARで1人寂しく飲むんだ。


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「ごめんなさい。ここは私には若すぎるから…」

『……来て。』

「え !? ちょっ…」

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強引に連れていかけるお店の中。

たくさんの人混みをスルリスルリと抜けていく彼。

後ろ姿からして意外に小柄で髪の毛は暗めの茶色。

あれ、もっとチャラ男かと思った。



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『はい、到着』

「…え ? 」

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気付けばさっきの騒がしさが一切なく、
いかにも表の店構えに似合うBARの空間。

なに、このお店。通り抜け?

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『気に入った?』

「え !? あ、はぁ… 」

『反応、薄(笑)』


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すいませんね !! 可愛くない反応で !!

隣の彼がお酒を頼んだので、私も頼む。

初めてじゃないけど、久しぶりな感覚と
見知らぬ少しタイプな彼が隣に居るから緊張する。

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『んで? いくつ? 』


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フランクに彼が切り出した。


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「……23です。今日で」

『誕生日か。おめでと。』

「ありがとうございます…」

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普通もっと、驚くと思った。

誕生日に1人で居る、寂しい女として思われると思った。


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『初めて来たよね?ここ』

「通りすがりでお酒飲みたくて」

『ストレス溜まってるんだ』


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私、まだ23だよ?
なんでこんなに責任を負わなくちゃいけないのか。
まだまだ遊びたいよ?
しっかり者、って誰が決めたの?
甘えちゃダメなの?

言いたくても言えない気持ちが持ってるグラスを握る力に加わる。


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『愚痴、聞きますよ。』


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クスリと笑う隣の彼。

私のグラスと自分のグラスをコツン、と当てて音を鳴らす。



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『だって、俺とまだ一緒にいたいでしょう?』


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こいつは、ホストか。 と思ったけど
雰囲気に酔い、そこは素直にうなづいた。


これが彼と出逢った初めての夜。

後悔したいの?

後悔したいの?

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-02-03

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