水滴と夜霧の夢
虚
いつもそこにあるのに、手には掴めない。
音は聞こえるのに、それは見えない。
見ようとすれば、後ろに。振り向けば、そのまた後ろに。
歩き疲れた先のゴールは、期待が作り出した幻覚だった。まだ道は続く。上る道もある。下る道もある。摩天楼は未だ見えず、灯台下暗しと、今日も帆を張る。
作り上げた自分の船は、まるで泥舟。いつ沈むかも分からない船を、ボロボロになった板切で漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。ひたすらに漕ぐ。板切はいつの間にか、人という名の海で手放した。それでも手で、船を漕いだ。地道に進む船。沈む。徐々に沈む。時間はあとどれぐらい持つんだ。そもそも時間などあるのか。それさえも、何者かが作り出した幻覚か。
ぽちゃん、ぽちょんと、水滴が体に落ちる。強くなっていく雨。ぼやける視界の先には、真っ黒く塗りつぶされた君がいた。ふぅーっと、息を吐いて夜霧を散らす。君の足元に辿り着いた途端に、泥の船は沈んでいった。
ふと、秒針が時を刻む音がした。
目を開ける。
見慣れた天井が、そこにはあった。
水滴と夜霧の夢