トナカイ
高熱が出てから一週間が過ぎた。医者に行っても、原因不明。県内の大きな病院にも行ったが、結果は同じ。おさまる気配のない高熱にも慣れてきた。氷をむさぼりながら、布団にもぐりこんでいる。たまに調子の良い時などは、テレビを見たりして笑う。そのうちに、高熱の状態が、普段通りになってしまう。体は、ふらふらするが、歩けないほどではない。父母もそれならば、と学校に行く許可を出す。原因不明と言ってしまえば、ミステリアスだが、悪くいえば、ずる休みとも受け止められかねない。登校すると、親友の三太が声をかけてくる。ずいぶん赤い鼻だな。デリカシーのないやつだ。学校に出てきたからには、治ったように扱われる。しんどいのは、最初の2,3日だけ。すぐに学校生活にも慣れて、校庭でサッカーをするまでになる。でも、相変わらず熱は、続く。熱には、父母が心配していたような伝染力はなかったのだ。誰も周りで、熱を出した人はいない。そんな、ある日の放課後、長くて固い髪を角のように生やした同級生がやってきて、手を差し出す。手には、四角のメモがのっている。不思議そうな顔をすると、同級生は紙を押し付けるようにして、逃げていく。奇妙だ。周りの生徒が、こちらを見ている。何となく恥ずかしい気持ちだ。ラブレターと思ったのだろうか?とりあえず、ポケットに入れてから家に帰る。家に着くと、毎日体温を計る。体温計の音がなかなか鳴らない。今日も熱は、高いだろう。ふと、制服を洗濯物に出す時に、ひらりと落ちた紙を拾い上げる。そういえば、まだ中身を見てなかった。同級生の顔を思い浮かべると、たぶん今流行りのいたずらだと思う。でも、見てしまうのが若者だ。紫色のメモには、こうあった。『真っ赤なお鼻のトナカイさんが、サンタさんのソリを引っ張るのに疲れて、人間になってしまいました』なんだ?これ?その時、電話が鳴る。親友の三太からだ。『おい、そろそろ。いいだろう?もうすぐ12月だぞ』そうか。大事な使命を忘れていた。働く時が来たのだ。次の日、雪が降り、親友が、家にやってきた。『今年も、頼むぜ、相棒』三太に丈夫な紐でくくられて、這いつくばる。父母も一緒になって、這いつくばる。さあ!!ホワイトクリスマスだ!!
トナカイ