自動販売機
日曜の午後
1月末日の日曜。先週まで続いた寒波の影響で降り積もった道路の雪も溶けた。あの雪だったら家に引きこもっていてもなんのわだかまりもいだかなかったのに今日はどこにだって出掛けられる。しかし頭で考えるだけで行動にはうつさない。何もしないことへの免罪符を無くしたようでバツの悪い気持ちといつものようにただ休日を無駄にしていることへの焦り。'いつものこと'だ。そう思いながら昼下がりの液晶テレビから流れる国営放送のスポーツ中継を眺めていた。昨日から仕事は休みだ。休みと言っても予定などなくただ消化するだけである。明日からまた一週間営業先に媚びへつらうのかと思うと少し憂鬱になった。そんな気持ちを誤魔化そうと寝床から出てアパートの外に止めてある過走行の軽自動車へ向かった。予定も趣味もないので行く宛もない。ただ一番近い自動販売機に向かった。缶コーヒーの甘さで一息つきたい。仕事を終えてそう思うのが普通であるが今は退屈と戦っていた私もそうであると思うと合点がいった。決まっていつもの山の名前が書いてある缶コーヒーを買おうとした。昨日からのみぞれ混じりの雪でボタンも濡れている。冬なので虫やカエルはいないだけましだが、お釣りの受け取り皿は水たまりだ。色あせた黒の二つ折り財布はこんな時に限って五百円玉しかなかった。
少しばかりの駐車スペースに車を止めて買ったばかりの缶コーヒーを飲んだ。冬であっても冷たいほうを選んだ。それほど寒くないからだ。そういえば気象庁は暖冬と言ってた。缶コーヒーを飲んで大人らしくひとつ大きく息をはいてみると感慨にふけているようでなにも頭には浮かんでいない。こうやって大人ぶっているただそれだけであった。こうしている間、国道沿いの田舎道の自動販売機には誰一人来なかった。1時間ほど居座っていたのか鈍色の曇り空の色が暗くなってきた気がした。時刻は6時を迎えようとしていたが、外にいるだけ家の中より気分が大きくて'いつもの'気持ちはなかった。飲み終えた缶を赤い箱に捨てて少しばかりの駐車スペースから車を発進させた。行く宛を考えることすらなく一息終えたので帰るほかなかった。こうして私は'外に出た日曜'を終えて明日からの憂鬱に備えることにした。アパートの何部屋かには明かりがもうついていた。
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