テラノヴァー

9/15  『TERRA NOVA』 テラノヴァー  文学座アトリエ公演

作=テッド・タリー

演出=高橋正徳

出演

スコット=今井朋彦

ウイルソン=大滝寛

オーツ=古川悦史

エヴァンズ=横田栄司

バワーズ=助川嘉隆

アムンゼン=菅生隆之

キャスリーン=高橋礼恵

長い間行きたいと願っていた文学座アトリエでの観劇がやっと叶った今回の公演、期待に胸膨らませながら中央線(総武線)信濃駅へ降り立った。

各駅停車の電車しか止まらない駅だと知って、なんとなく下町の街並みを想像していたのだが、駅から見た風景は明るく広々とした近代的な街だった!

新しいビルが立ち並び道路も広く緑も豊かな景色の向こうには新宿副都心の高層ビル群が見えている。友人と待ち合わせ駅ビルでランチを済ませてアトリエへ向かった。

駅を右に曲がり広い道を歩く事5分・・・、すると歩道の端に立つ電柱に『←文学座』の看板を発見!おぉ?此処がアトリエかぁ?!(笑)

左へ折れるとすぐ見えてきたのは旅館だった建物を買い取ったという2階建ての普通の民家とその隣に立つ高い建物が待望のアトリエ・・・、私は明治の建物かと思ったが昭和初期のものだそうだ。

当時としてはかなりモダンな建物だったろう。旅館の雰囲気を残している玄関の角の所に山の分かれ道などで見かけるような木製の案内板が立てて有って、右側には映画放送部・演出部・第二稽古場・・・、左側には事務所・アトリエ・舞台部・・・、などと矢印の板で示してある。此処が文学座の本拠地なんだ?!とチョッと感激。文学座は勿論内野さんが所属している劇団だけど、私がこの名前を知ったのはもう随分昔の事だ。文学座が分裂し仲谷昇さん、岸田今日子さん他かなりの人が袂を分かち劇団雲を設立した、と記憶している。当時演劇なんて殆ど関心の無かった私の記憶に残るくらいだから世間を騒がしたニュースだったに違いない。主だったメンバーが抜けてしまい文学座は存亡の危機に立たされたが、座に残った杉村春子さんが頑張って屋台骨を支え文学座を守られた。外部出演を多く取り入れ出演料を劇団に入れながら皆で支えあいましょうと提案し、率先して映画などに多く出演されたと聞いたことが有る。劇団にとって神様のような存在だった杉村春子さんは、歯切れの良い台詞、襟を抜きキッリッと着付けた着物姿がとても粋なチャキチャキの江戸っ子のように見える方だったが実は広島の出身だよ(笑) おそらく当時の姿そのままであろうアトリエの前に立った時、此処を守り抜いた杉村さんの事を想い出して感慨深いものがあった。

・・と、少々前置きが長くなりました(笑)

アトリエの中に入ると円形の舞台が見え、その回りを三方から客席が囲むようになっている。その雰囲気はベニサンピットに似た感じがした。

「テラノヴァ」とは南極探検隊を乗せた船の名前である。イギリスの南極探検隊スコット達5名の隊員たちが酷寒の地南極で全員が亡くなるまでの戦いの物語だがこれは実話だそうだ。

スコット隊が徒歩で南極点を目指していた同じ時期ノルウエーの探検家アムンゼンは犬ぞりを使って南極点を目指していた。実際には決して出逢う事は無かっただろうアムンゼンがだがこの舞台では度々現れてスコットに様々なアドバイスをする。このアムンゼンはスコットの揺れる心の迷いを形にしたものとして登場しているようだ。スコット隊は重い荷物を載せた橇を引くのに悪戦苦闘している、そんな中エヴァンズが遅れ始めたと報告が来る。足を怪我をしたのだがその傷が悪化しているらしい。氷点下の南極での傷はやがて腐って壊疽をおこし命をも危うくする。そんなエヴァンズにオーツは苛立ちを隠さない。大丈夫だと言い張るエヴァンスを庇いながら何とか南極点に到達した時、そこには犬の足跡があり既にノルウエーの国旗が立てられていた。だが隊員達はその旗をイギリスの旗に立て替えて全員で記念写真を撮った。此処で1幕が終わるのだが誰も居なくなった舞台上に、その時撮られた実際の写真が映し出されていた。これ近くで見たかったな!

南極点からまた折り返して帰らねばならない。エヴァンスの病状は益々悪化し彼をどうするかで意見が分かれる。連れて歩けばそれだけ時間が遅れ他の者まで危なくなる。だが彼を殺せるか?アムンゼンの言葉に迷うスコットだったがやがてエヴァンスはスコットの腕の中で息を引き取る。災難は続き今度はオーツも怪我をするが仲間の苦悩を知るオーツは自らテントを飛び出し南極の雪の中へ走り去っていった。しかし残った隊員達も後もう僅かで無事に帰れる所まで来ていたのについに力尽き全員が南極の雪の中に埋もれてしまい、再びテラノヴァー号に乗る事は無かった! 舞台の最後はスコットが一人日記をつけている場面で終わる。

この作品はスコットの日記を基に書かれていて、極限状態のスコットの精神を現すように過去の回想や幻想が物語の中で錯綜する。妻キャスリンは出会いの場から息子ピーターの誕生まで幸せだった頃を思い出し、今腕の中に居るエヴァンスにオーバーラップする。、死を前にして見た幻想は全員揃って南極点到達を祝福されているパーティー、そして節目節目で現れるアムンゼンの言葉はスコットの心の中の葛藤として・・・。隊長として助からないと判断した時、傷ついた部下を切り捨てていればもしかして残った者は助かっていたかもしれない。だがスコットにはそれが出来なかった。そして全員が死亡という悲惨な結末を迎える。スゴク重いテーマだった。

スコットを演じた今井朋彦さんの舞台は「ニュルンベルク裁判」が始めてだったが、派手な演技は無いがスゴク説得力のある方、というのが第一印象だったが、今日のスコットも又同じ印象受けた。

舞台上では静かではあるがすごいオーラが出ている感じがする。

なんとこの舞台を演出した高橋さんが私の前の席に座っていらしたのだが、と?っても若い方で髪は短くてまるで大学生みたい・・・、聞けばおんとし26歳だそうで・・・びっくりしたなぁ?!

アトリエでは終演後すぐに私服に着替えた俳優さんたちが現れるのが慣習のようで、それぞれのフアンの方達と和やかに語り合っている姿があった。

アトリエ公演っていつもこんな雰囲気なんだ!良いなぁ?!  私も支持会へ入ろうかな?・・・瞬間心が動いた(笑)

テラノヴァー

テラノヴァー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted