駅
列車が走る。
ガタンゴトン、ガタンゴトン...
人もまばらな列車の中、窓の外は夜。通り過ぎる家々の明かり。
目を瞑る。
ガタンゴトン...
列車が空を飛ぶ。
トンネルを抜けると線路はない。山の山頂近くに空いた穴から列車が出てくる。
星空を走る。雲を抜けて...
停車するのは、雲の上駅、星の川駅、虹の駅...
虹の駅を過ぎると、誰も話さなくなる。
思い出駅で降りた者は、皆思い出の影を追う。
思い出の中で、たとえ影であっても幸福になれるものは、戻ることはない。
影でしかないことに気づいた者は、再び列車に乗り込む。
最後に辿り着くのは、虚無の駅。
錆びれた駅のホームだけが、空中に浮かんでいる。
ひとり、ふたりと列車から降りてゆく。そして、振り返ることなく灰色の雲の中へ吸い込まれるように消えてゆく。
乗り込む者はいない。
降りた者が戻ることもない。
乗客がひとりもいなくなった列車は、しばらくすると元来た道へと引き返し走り去ってゆく。
駅