悪親善子

悪親善子

子供はどこまでも善くあるべきか?

 一人の子供が海岸に立っている。強い風が吹いている。
「何をしているんだい?」一人の大人が声をかける。麦わら帽子をかぶった農夫だ。手は、土を長年いじってきた独特の形をしている。今日は、息子の結婚式の日取りを決めに、車で故郷から、この街に出てきた帰りだ。そんな時、海岸に佇む子供が気になって、思わず車をとめ、近くまで歩いてきたというわけだ。「君は、男かい?女かい?」丁寧な口調で大人は聞く。きっと、そこには子供を育ててきた親ならではの子供に対する気持ちが表れてのことだろう。だが、子供は、薄気味悪く唇を曲げただけ。大人は、ため息をつく。きっと、家出だろう。警察に連絡しようと思ったが、運悪く携帯電話の電池が切れているのを思い出す。「おい。君。そろそろ、ここは暗くなる危ないから、家に帰りなさい」子供は、ようやく迷惑そうな口調で言った。「おじさんの目的は何だい?」「目的?君が心配なだけさ」大人と子供の視線は、交差点でぶつかる。最初に、目を逸らしたのは、大人だった。子供は、また無理やり笑顔を作るように、ぎこちなく笑う。「私の両親は、どうしようもない人間だったよ。もちろん、私にだって、両親に認めてもらいたい気持ちはあった。でもね、子供という理由で、私の気持ちは、踏みにじられていった。ただ、普通に生きて、誰かが認めてくれることなんて、あるのかな?」大人は、ゆっくりと首を降る。「私の息子の話をしてあげよう。小さい頃は、それは悪ガキだったさ。でもね、今は、立派に仕事もして、結婚も決まったよ。だから、君も諦めるなよ。認めてもらえるさ」子供の目は、そこで遠い地平線に向けられた。「おじさん。おじさんは、私が人殺しでも、両親は認めてくれると思う?」大人は、びっくりしたが、子供の言うことだ。真に受ける必要はないと、鼻で笑った。「おいおい、テレビのニュースでも見たのかい?そんなこと実際には、ないから安心しなよ。君は、立派な大人になれるさ」大人は、子供の心の危機にまるで無関心だ。もし、この時、子供の目が、大人の目とあっていたら、さっきのようにあっていたら、大人は、違った感想を持っただろう。「さぁさぁ、君の両親も心配してるぞ」「もう。いないよ」「どこかに出かけたのかい?」「この世にはいない」「どういうことだい?」「私が殺したの」「また、冗談を言って、言っていいことと悪いことの区別もつかないのか。やっぱり警察に保護してもらおう」大人は、子供の手を引っ張っていく。その間、子供は、無言だ。
 ようやく、口を開いたのは、車の前だった。「おじさん。人間って死んだら、どうなるの?」「天国に行くんだよ」「父さんと母さんは、きっと地獄だね」「また、そんなこと言って、君は、本当に悪い子だな」「何人も死体を埋めたんだ。寒い冬だったよ。何度も何度も死体を埋めたんだ。母さんたちに命令されてね。母さんたちは、悪い人殺しだった。だから、私が殺したよ。おじさん。それでいいんだよね?」
「君は、少しおかしいぞ。そんな大人は、いないよ」子供は、哀しそうに笑う。「そうなんだ。誰も信じてくれなかった。だから、私がやるしかなかったんだ。ごめんなさい。父さん。ごめんなさい。母さん」子供の涙の落ちる音は、エンジン音でかき消されてしまった。

悪親善子

物語作家七夕ハル。
 略歴:地獄一丁目小学校卒業。爆裂男塾中学校卒業。シーザー高校卒業。アルハンブラ大学卒業。

 受賞歴:第1億2千万回虻ちゃん文学賞準入選。第1回バルタザール物語賞大賞。

 初代新世界文章協会会長。

 世界を哲学する。私の世界はどれほど傷つこうとも、大樹となるだろう。ユグドラシルに似ている。黄昏に全て燃え尽くされようとも、私は進み続ける。かつての物語作家のように。私の考えは、やがて闇に至る。それでも、光は天から降ってくるだろう。

 twitter:tanabataharu4

ホームページ「物語作家七夕ハル 救いの物語」
 URL:http://tanabataharu.net/wp/

悪親善子

一人の子供が海岸に立っている。強い風が吹いている。 「何をしているんだい?」一人の大人が声をかける。麦わら帽子をかぶった農夫だ。手は、土を長年いじってきた独特の形をしている。今日は、息子の結婚式の日取りを決めに、車で故郷から、この街に出てきた帰りだ。そんな時、海岸に佇む子供が気になって、思わず車をとめ、近くまで歩いてきたというわけだ。「君は、男かい?女かい?」丁寧な口調で大人は聞く。きっと、そこには子供を育ててきた親ならではの子供に対する気持ちが表れてのことだろう。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-29

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