COLORS

 テレビや映画に影響されるのはよくない。
 でも、ルームメイトのアンドロイド-マコは、毎日ひと通りの家事を終えると、テレビならCM、ゲームなら説明書の隅々まで丹念に味わい、その虜となっている。
「うーん、新婚さんを放映するって、いい発想だと思います。長寿番組には普遍的な趣がありますよね」
 と、もう一端のテレビウォッチャー気取りだ。
 四角い画面では、双方向番組『COLORS』が始まっていた。
 マコのお気に入りの一つだ。

*   *

『みなさん、ご参加ありがとうございました!』
『みなさんが、選んだからー!』
 今日もまた、1つ決まった。
 可愛らしいアイドルが、参加集計をキャッキャとはしゃぎ伝える。 
「私は青ですねー。絶対青です」
 マコが、リモコンを握りしめて言う。
「その番組、面白い?私は前の前の番組のほうが好きだったけど」
 私などそっちのけで、マコはかぶりついている。
「『川西探検隊シリーズ』ですね。あれもサイコーでした。惜しい事故でした」
 鼻から謎の息を出すマコ。よくできたアンドロイドだ。
「マコさあ」
「はい?」
「学校とか行きたい?高校は無理だけど、大学は私、バイトすれば受講費だけで行けるし。あ、そのまえに合格したらだけど」
「ほ、ほんとですか!」
「んー、ご、合格したらだよ…?隣についてくるだけだけ」
「行きたいです!見たいです!」
 すごく嬉しいようだ。予想外の反応である。
「はい!頑張ってください!お勉強の邪魔なら、テレビ消しましょうか?」
「はは‥いいよ、日曜だし」
 番組内のアイドルは、結果が出るまでの繋ぎのトークを繰り広げている。
『やー、今日の議題は熱かったね!参加人数もスゴイ数だったね!』
『うん!でもやっぱ政治問題はみんなの関心ごとだもんね!』
『では結果発表!』
 結果が出たようだ。
『「絶対あったほうがいい」と「あったほうがいい」が90%です!』
『おおーーーーーーーっ!』
 半円テーブルに対峙するゲスト識者の表情が交錯する。
『あくまで、参加視聴者さんの個人的な感想でーす!』
『皆さんが選んだカラー!では、次のテーマ!』
 このテンポの良さが、人気の秘密でもあるらしい。
 マコは、くるりと私に向き直り、
「純ちゃん、参加しませんか?簡単です。双方向番組だそうです。このリモコンの4色のボタンで参加するんです。人じゃないとボタン押しても集計にはいらないんです。私は、参加できないんです。くやしいなあ」
 彼女は頬を膨らませながら、チャンネルを私に差し出す。
 4色のボタン。
 父に聞いたら、昔はどうでもいいゲームに参加して、プレゼントを当てることくらいにしか使われてなかったそうだ。
 この番組は、流行も世論も左右する、テレビ離れ阻止の革命とまで大げさに評価されている。
 マコは次のテーマと、論客の舌戦に目を光らせていた。
「さっきのテーマ、何だったの?」
「死刑制度です」
 マコの選択した「青」はどの意見だったのか、私は知ろうとしなかった。

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-29

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