いつだって


時は攘夷戦争。


沢山の天人や裏切り者の死体が、
男の周りに転がっている。

銀色の髪。

癖のある毛先。

白い羽織は赤く染まり、血塗られた刀は刀身が曲がって、最早鞘に収まる状態ではない。



曇天の空を見上げると、何故かぶわっと気持ちが溢れて。ただ何も言わず天を仰ぐ。




…あぁ、まただ。

俺はどこまで、いつまで、どれくらいまで、人を、天人を殺めればこの感情から切り離されるんだろう。
何をしたら、気持ちが楽になるのだろう。



陣営に帰って手を清める。
しかし、血の臭いが取れる事はない。
ずっと、ずっと自分を責めてくる。

斬りたくなけりゃ、斬らなきゃいい。

そんなごもっともな事が通じるような世の中ではない。ンな事ァ知ってる。

だからこそ俺は足掻いていたのかもしれない。



『ゃ……よ…… や!……万事屋!』

身体が揺さぶられる感覚と、名前を呼ばれた声で俺の脳が反応した。閉じていた瞳をうっすら開けると、そこには愛しの野郎、十四郎が俺を揺さぶっている。

……力強いから。
俺寝てただけだから、死んでないから。


『…ったく、てめェはこんな路地裏で何してンだっての』

どうやら俺は、久しぶりに暖まった懐に気を良くし飲みに行った帰り、酔ってそのまま寝ちまっていたらしい。なんて情けないんだ。十四郎が見つけてくれなかったら、風邪引いてた所が、何が起こっていたか、今思うとヒヤヒヤした。

『ビックリさせんな。銀髪天パ野郎が寝腐ってるなって思ってたらまさかのお前だったから見なかったことに出来なかった』

『そうか、起こしてくれてありがとさん』

辺りを見渡し寝ていた時間は短い事を確認するが身体が寒くて動けない。そして何より、ものすごく心が寂しい。ものすごく胸が締め付けられる。ものすごく…怖い。さっき見ていたものが夢だと分かると、自然と涙が溢れて来た。

『…どした』

そう聞く十四郎の顔は何故か同じものを悩んでいるかのような顔をしている。

『夢、みたんだ。昔の』

思い出したくもない、あの忌々しい記憶たちを何故夢で見たのかよく分からない。が、時々そういうことがある。そうすると、起きた時大抵涙を流しているのだ。

『そうか』


それだけ言うと、大した深追いもせず十四郎は黙って俺の話を聞いてくれた。


『斬っても斬っても斬っても斬っても、戦いは一向に終わらない。何十人という仲間に裏切られ、何人の仲間が死に、挙句先生まで死んじまった。俺ァ結局、何も守れなかったんだ。守ったのは自分の命だけ。白夜叉の名前が聞いて呆れるぜ。強い?どこが強いってんだ…。昔の夢を見て泣いちまう野郎のくせに……。ただ自分だけが生き延びた、卑怯者のくせに……』



何百人という仲間が目の前で死んでいった。自分が守りきってやれなかった命が無残に散っていく。


俺は生きていていいのだろうか。


たまにふと、そう思う時がある。




俺はもう、自分の何が強いのか全く分からなくなっちまっていた。


すると、
ふいに十四郎が口を開いた。


『白夜叉、ねェ。俺ァその名前が大嫌ェだ。なぁ、万事屋。今のお前の名前はなんだ?銀時、坂田銀時だろ?お前は生きなきゃならねェんだ。今まで死んでいった仲間達の分まで、今まで踏んできた屍の数まで。それを支える為に、チャイナ娘やメガネ。俺が、いるんだろ?お前は1人じゃねェんだよ。だから2度と、生きていていいのかなんて思うなよ。』


そう言い放つ十四郎の目は少し怖かったけど、潤んでいるのに気付いた俺はまた後悔した。

…そうだ、俺にはあいつらが。そしてこいつがいるんだ。そんな事にも気づかなかったなんてな。

『十四郎』

『あ?』

ふは、何その素っ気ない返事。

でもよ、

バッと、十四郎を勢いよく抱きしめた。


『ちょッ……銀ッ…?』



俺本当、お前が好きだわ。
好きとかそういうレベルじゃない。
愛してるなんかの言葉じゃ足りない。

一生ついてこいよ、十四郎。

俺1人じゃ抱えきれねェ屍と怨念の数だ。

お前の肩にも仕方ねェから乗せてやるよ。


-fin-

いつだって

いつだって

何となく寂しくなってしまった銀時を、優しく支える土方。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-29

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