~時の足跡~ 26章~28章

26章 ~別れ~


やっと辿りつけた居場所・・、だからもう迷わない、愛する人と生きて行くと誓い合って、今此処にいる・・、
未だ顔を見せないお兄ちゃん、忘れようと決めた日から、いつしか一年の時が過ぎた,

でも時々うちの心の中に入り込んでくるお兄ちゃんの面影、その度に苦しくて、ついうつむいてしまったら、ヒデさんは
「亜紀ちゃん?どうした~何か心配ごとか?」ってきかれてしまった・・、

「いえ何も!あっヒデさん?今度お休み取れたら、ヒデさんのお母さんの墓参りに行きたいんだけど・・」
って言うとヒデさんは
「あ~そうだな~?」って言いながらヒデさんは少し考えてた、すると「でもどうしたんだ~?急にそんな事・・」って聞かれて、

「ちょっとお母さんのこと思い出しちゃったら行きたいなって、でもヒデさん、気が進まないならいいのよ~、ごめん・・」って言うと

「いや~そんなことないよ、言われてみたらそうだな、行くか?」って言ってくれて「ありがと」って、ちょっとほっとしてた。

それから一週間が過ぎた頃に、ヒデさんから、
「亜紀ちゃん、行こうか~」そう言ってくれて、二人墓参りへと店を出た、
街の風景は今も変わらない、なのにうちには何処か違って見えてた、でもそれは今の自分が一人じゃないからなのかなって思う、

墓参りを終えた後にヒデさんが、
[亜紀ちゃん?今度はお兄さんに逢いに行って見ようか?向こうから来るようすもないし亜紀ちゃんもやっぱり気になってたろう?」
って言った、うちが気にしてた事ヒデさんは分かってた、ヒデさんには気づいてほしくなかったのに、もう触れたくなかった・・・、
どう返事していいのか迷ってしまったら、ヒデさんが

「俺、亜紀ちゃんが気にしてるの分かってたよ、亜紀ちゃんが俺に言ってくれないの、俺を気にしてくれるからだろ?なあ~俺じゃ駄目か?」
って言い出した、
「そんなつもりじゃ、ただあたしは今を壊したくないって・・、
お兄ちゃんの事、口にしたら、ヒデさんは気にしてくれるって分かるから、あたしの我がままだとしても、今を大事にしたかっただけよ、
それじゃ~だめなの?あたしはお兄ちゃんの事でまた立ち止りたくない、ヒデさんだから駄目だなんて思ったことなんてないよ」

もう自分が何を言っているのか分からなかった、ただ分かってほしかったヒデさんに嫌われるのは怖いから、今さらなのかもしれないでも・・、
するとヒデさんは、
「分かったよ、悪かったな、でもさ~もう俺に遠慮なんてするなよ、俺は何があったって亜紀ちゃんと一緒だからさ、
俺も亜紀ちゃん好きだ、だから大事にしたい、だから俺のことは心配しなくていいよ、お兄さんの事は、亜紀がその気になるまで
待つからさ、な?」って言われて、「・・ありがと」って言ってから、泣き顔が恥ずかしくて顔をそむけた・・。


お母さんの墓参りをすませてからの帰り道、店の前まで来たら、サチが待ってた
「あれサチどうしたの?何かあったの?」って聞くとサチは
「あ~カナ?好かった~久しぶり?わたし絵の仕事が決まったの、だからとりあえずカナに知らせたくて・・」ってうちの手を握った
するとヒデさんは、
「さっちゃん、久しぶりだな~?せっかく来たんだ、上がって行きなよ、な?」って言うと、サチは

「あ~うんありがと、それじゃ~そうさせて貰うね」って言って、皆で居間に腰を下ろした、するとサチは
「とりあえずそう言う事で、今みたいに遊びにこれなくなるしね?だからね~?今しかないと思って逢いたくて来ちゃったんだけど~
でも来たときは閉まってたから、逢わずに帰るようかなって迷ってたの、でも逢えてほんと好かった~?」

そう話してるサチは、逢えたこと、ほんとに喜んでるようで、うちはそれだけでも嬉しかった、でももうこんなにも早く逢えなくなるの日が
来たんだなって、突然で少し戸惑った、
「でもほんと久しぶりだね?でもサチ、念願叶って良かったじゃない?おめでとう?逢えなくなるのは寂しいけどでもサチの夢に近づけたんだもん
嬉いよ!頑張ってねサチ」って言うと、サチは「うん、ありがと・」って言いながら少し寂しそうに見えた
いつかこんな日が来るって分かっていたはずなのにでもやっぱりうちも寂しい・・。

そんな時ヒデさんが、
「それじゃ~、さっちゃんの為にごちそう作るか~、な亜紀ちゃん?」って唐突に聞かれて返事に困ってうちは、つい「はい!」って言ったら、
二人に思いっきり笑われてしまって、恥ずかしくなって「笑っちゃダメ~」って叫んでしまった、そしたらなんだか
自分でも可笑しくなって皆で顔を見合わせたら笑い出してた。

その夜は三人、ヒデさんの手料理でサチの為に祝った、サチは
「ありがと?こんなにしてもらうと、わたしなんだか行くの辛いな~カナ?逢えなくなっても手紙書くから返事忘れないでよ?
ヒデさん?カナの事よろしくね?それからわたしの為にありがと!」そう言って泣いてた、そんなサチに、うちまで堪えてた涙が零れた
するとヒデさんが、
「なんだよ~泣いたらせっかくの祝いが湿っぽくなるだろ~?ほら笑ってくれよ、な?」そう言いながら困った顔してた。
するとサチは、
「ごめんヒデさん?そうだよね、せっかくのヒデさんの気持ちふいにしちゃうねごめん!あっそうだ、お母さんから聞いて驚いたんだけど、
カナ~?入院してたカナのお父さん、亡くなったんだってね~?」って言った、

うそ・・だって二か月前見舞いに行った時、まだ元気で少しだったけど笑顔も見せてくれてたのに・・・、
「サチ?それほんと?あたし知らない、それって何時の話し?」って聞いたら、サチは、

「ええ~ひと月になると思う、わたしのお母さん、お通夜に出たって言ってたから、えっでもそれってカナ知らなかったの?あっごめん・・・」
って少し困惑してた・・、
「サチが謝る事ないよ、教えてくれてありがと、それよりサチは何時から行くの?すぐ行っちゃうの?」って聞いたら、サチは
「来週からよ?今日今のところ片づけてから来たのだからカナに逢えなかったらどうしようかって、でも好かった逢えたし、ヒデさんにもね!」
って言ったらヒデさんは
「そっ?嬉しい事、言ってくれるな~さっちゃん、それじゃ~最後になるなら今日はさっちゃん、俺家にお泊まり決りだな?な亜紀ちゃん?」
って笑顔を見せた、そんなっヒデさんの気遣いが嬉しくて
「そうね、サチ?っ今日はお泊り決りね?」ってサチに笑って見せたら、サチは、

「しょうがない泊まってあげよう~!」だって、でもそんなサチは目に一杯涙溜めてグウサイン出して笑った。

いつまでも一緒に、ずっと手をつないでいられるって、うちは思ってる、サチがくれた優しさも、つないだ手の温かさも、うちにはかけがえのない宝物だから、
サチと過ごした日々はうちの一生の思い出、だから離れていても、サチはうちにとって一番の「親友」・・。

サチのお泊りが決まるとヒデさんは、
「なあ~さっちゃんがよければだけど、どうかな~あの山、登りに行かないか~?当分行けなくなるしさ・・、思い出に、駄目かな?・・」

うちは驚いた、どうしてそんなこと・・・、サチは、
「えっヒデさんからそんなこと言うなんて珍しいよね~?わたしは嬉しいけど、何かあったの~?カナ?」ってうちの顔を覗き込んできた、

「ええっあたし?ヒデさんどうしたの?」って訊き返してしまったらヒデさんは
「な、なんだよ~そんなに珍しい事か~?二人にとっても思い出の場所だからいいかと思っただけだよ~」って苦笑いしてた、
するとサチは「ええ~本当~?ヒデさんが行きたかっただけだったりしない?」そう言ってサチはヒデさんをからかうように楽しんでた、

少しそんな光景がつい楽しく思えて見てたら、ヒデさん、
「確かに俺も行きたいと思ってたけどさ~さっちゃん勘弁してよ~亜紀ちゃん助けてくれよ~?」ってうちの顔見て苦笑いしながら訴えてた、

そんなやり取りがうちには昔を思い出させて懐かしく思えた・・・
「サチ~行こう?あの山に、サチにあの山スケッチしてほしいなって、ね?ヒデさん、意外と木に登るの早いのよ?今度は三人で登ろうよ?」
って言うとサチは
「うん、ここはヒデさんの気持ちも汲んで行こうか~?ね~ヒデさん?」って言われてヒデさんは頭をかきながら
「さっちゃんには敵わないな~?でも好かった、それじゃ~決りだな・・」って苦笑いしてた・・。そんなやり取りで決った山登り・・・、

でもヒデさんどうして行きたくなったんだろ、なぜかうちにはどこかに不安が残ってた、でもサチと登りに行けるのはうちにとって
嬉しいことだから考えるのは辞めにした・・。



翌朝、空は雲が広がって青空が見え隠れしてたけど、心地いい風が気持ちよくてうちは空を見上げてみた、
うちの中にある曇りがいつも見え隠れしてるのを空は見透かしているそんなふうにも見えて、空に願ってみた、
この空といっしょに晴れてほしいなって・・。

27章 ~おもいで~


繋いだ手はすぐにだって離れてしまうってことうちは知ってた、それでも繋いでいたいって思う・・、
いつまでも繋いでいられたらいいのに、繋いでた手の温もりと、繋がってた心の絆は今もこの先もずっと繋がっているって
うちはそう信じてる、だから忘れない手の温もりもうちにくれた優しさも、ずっとうちの中にあるから・・。

サチとヒデさんと故郷にある山へ歩き出した、抜け道を通り過ぎて山道に来た時、サチはうちの手を握り絞めて
「カナ!走ろうか?ヒデさん~あの先の木まで競争ね~?行こうカナ?」そう言って走り出した、
置いてかれたヒデさんは、
「お~いちょっと待ってくれよ~?置いてけぼりは酷いだろう~」そう言って息を切らして文句を言いながらも走って来た、

サチは昔とちっとも変ってない(そういえばアンちゃんにもこんな意地悪してたっけ)ふいに思い出したらなんだか楽しくて、
変わらないままのサチがうちには嬉しかった。

サチは目指した木に辿りつくとヒデさんに向かって叫んだ「ヒデさん~!がんばれ~!もう少しだよ~!」そう言って遊んでた、

ヒデさんは息を切らしながら辿りつくと、
「参った、参りました!・・さっちゃん置いてけぼりはないだろう~敵わないなさっちゃんには・・」
そう言いながらも、どこか楽しそうなヒデさん、サチは笑いながら、
「それじゃヒデさん、背中押してあげよう~ね?カナ!」言われて「そうだね、ヒデさんほら行くよ~!せ=の!」って掛け声かけて、
サチと二人、ヒデさんの背中を押して大木の並ぶ場所へ辿りついた・・。

大木が立ち並ぶそこは森の中、三人で木の幹に腰を下ろした、
そして木の頂上では風が枝木を揺らしてざわめいて、枝の隙間から陽の光がきらきら輝いて、湿った空気は少し冷たさを感じながらも、
うちには心地よく思えて、生い茂った木の頂上を見上げて深呼吸してみた、
そんな時ヒデさんが、
「亜紀ちゃん来て良かったろ?」って言った、うちは驚いて「ヒデさん、どうして?・・」って聞いたらヒデさんは

「亜紀ちゃんが苦しい時も辛い時悲しい時も此処は亜紀ちゃんが来てた場所だろう?ここはその唯一の場所・・、な?」そう言って笑って見せた、
ヒデさんは、うちを思ってここへ来たんだ、それなのにうちは何も気づかずにいたんだヒデさんの想いに・・・、

「ほんと、来て好かったありがとう?いつもあたしはヒデさんに助けられてるね?あたしはヒデさんに何もしてあげられてないのに、
すごく幸せ者だよねあたし!、もったいないくらい!」って言ったらヒデさんは、

「そんなことないさ!俺だって助けられてるんだよ?亜紀ちゃんにさ~気づいてないだけだよ亜紀ちゃんは!俺のほうが幸せものだよ、
亜紀ちゃんが居るからな・・」そう言って笑ってた、

傍に居るだけでいい、いつも見守っててくれるから、もう大木は要らないのかも、ヒデさんが居てくれるから・・、
うちが「ありがと・・・」って言ったら、ヒデさんはうちの肩を引き寄せて「それは俺のセリフだよ」って空を見上げてた、

そんな時、木の上からサチの呼ぶ声がして見上げると、いつの間にかサチは木の頂上に居た・・、
「カナ~ヒデさん~おいでよ~気持ちいいよ~」って叫んでた、するとヒデさんは「さっちゃんにはついていけないよな~俺は・・」
そう言って頭をかいて苦笑いしてた。
「サチ~今行くからね~ヒデさん行こう?」って言うとヒデさんは「そうだな行くか?亜紀、競争だぞ?」そう言ってうちの手を握った、

ヒデさんと二人、木の頂上まで一気に登ってサチの居る場所に辿りついたら、サチは
「やっと来たね?ねえ~見て~?綺麗だよ、ほら~この風景をね?一緒に見たくて呼んだの?」そう言ってサチは視線を変えて教えてた、

見えた景色は太陽が傾きかけて映し出した町の風景は、何処にでも在りそうな景色かもしれないけど大木の頂上からみた町の風景は
うちには特別なものに思えた、サチは景色を眺めながら、
「ヒデさん、カナ?ありがとう?わたしの最高の想いでになったよ、ほんとにありがと!」そう言いながらぽろぽろ涙零してた、
言葉にしたら泣いてしまいそうだったからうちはサチと手を繋いだ、そしたらヒデさんが繋いだ手の上に自分の手を載せて、

「さっちゃん?これが最後じゃないよ?何処に行っても一人じゃない、みんな繋がってるんだからさ~こうやってな?また此処に来ような?
一緒に、な~?さっちゃん?」ってヒデさんは繋いだ手を軽く叩きながら笑顔を見せてくれた、

サチは涙を拭いながら頷いて「ありがと・・・」って呟いた、

それから少し探索しながら森の中を歩き回って、そしてサチは自分の実家へと帰って行った、
帰り間際にサチがくれた絵は、うちとヒデさんが木の幹で並んで座ってた時の絵・・、その裏に「いつまでも幸せに・・・」って書いてあって
うちは堪えてきた涙が、今になって溢れた。

帰る頃には陽もすっかり落ちて、頬にあたる風が冷たくて、ヒデさんの腕を抱きしめたらそしたらヒデさんが、うちが握ってた腕を
うちの肩に回して抱き寄せて温めてくれた。


そして駅の前まで来た時うちは改札から出てくるお兄ちゃんを見つけて、「あっお兄ちゃん~・・」って言ったらヒデさんは、
「ああ~そうみたいだ・・」って言いとお兄ちゃんの処へと歩き出してた、するとヒデさんは、

「あの、こんばんわ~?お久しぶりです、お元気そうですね?良かった~・・」そう言って声をかけた、

お兄ちゃんは少し驚いた顔して一緒にいるうちを見てからヒデさんに「貴方・・、どうして此処に?」
そう聞かれてヒデさんは、
「いえね~?そちらのお宅に伺ったら御留守だったので今帰ろうとしてたところなんですよ、でも逢えてよかった、どうしてもお話がしたくて、
どうでしょお時間、取れませんか?」

って言うとお兄ちゃんは少し戸惑いながら、
「ああ、いいでしょう、それじゃ家へ行きますか?」って言って歩き出した、家に辿りついた時は、家の灯りは消えて、建兄ちゃんの姿はなかった、

ヒデさんと二人、居間へ通されて一緒に腰を下ろした、でもお兄ちゃんは、黙ったままうつむいてた、
随分逢ってなかったように思う、しばらくぶりのお兄ちゃんを見ると何処か悪いのかと思わせるほど、やつれたように見えた、
でもそんなお兄ちゃんがうちには何処か怖くて、うちは震えだした手を握り締めた、そんなうちの手をヒデさんはそっと握り締めて
お兄ちゃんに視線を向けると、
「実はあれから、お兄さんの来られるのをお待ちしてたんですが中々来られないようなので、カナさんのお父さんにお許しを貰って一緒になりました、
それでお兄さんにご報告をと思いまして、ご理解貰えますか?」って言った、

するとお兄ちゃんはうちの顔を見て、
「親父さんに逢ったのか?何時だ・・」そう言ってうちを睨んだ、うちが応える前にヒデさんは、
「二か月前ですよ、知り合いから入院してると聞いたもので、一緒に行かせて貰いました・・」

「親父さんは亡くなったんですよ、ひと月前にね?まあその話はいいでしょ、カナの事はもうわたしには関係ない事ですから好きになさって
結構ですよ、奥さんの方も諦めている様ですから、話と言うのはそれだけですか?わたしの方からはこれ以上、話す事ありませんから・・・」
そう言うと顔を背けてまたうつむいてた、

するとヒデさんは、
「お兄さん?カナさんのお母さんの事はご存知ですよね~?ぜひ聞かせてもらえたらと思うんですが、教えてもらえませんか~?」
って言った、でもお兄ちゃんは黙ったままで、うちはそんなお兄ちゃんの沈黙が息苦しくて嫌だった、

どれくらい時間が流れたのか分からないけど、お兄ちゃんは、
「どこまで知っているのか知りませんが、母親は死にましたよ、もう昔の事です、今さら何が知りたいと言うんですか?」って声を荒げた、
するとヒデさんは
「分かりました、なら話しを変えて率直に聞きますが、お父さんから、奥さんいえ、お母さんとお兄さんは仲がいいとおっしゃってました、
こそこそ逢っているとも、貴方がたは、カナさんを引き戻そうとしながら、どういう事なんでしょうか・・」って聞いた、

またお兄ちゃんが黙ってしまった、するとお兄ちゃんは苦笑いして、
「あの人にも困ったものだ~どう取られるかは自由ですけど、言いますが、母親が死んで、親父が逃げてその後に親父の知り合いだとかで
何かと面倒見てくれてたので借りがあったんです・・、」って言ったらヒデさんは「それは、お金ですか?」って言った、

するとお兄ちゃんは
「そんな事はもういいでしょ?誤解される様なことはありませよ、それだけです、もういいでしょ?わたしも疲れてるのでこれで帰って貰えませんか?」
って声を荒げて言うと顔を背けてた、するとヒデさんは

「ああ、お疲れの処すみません、ありがとうございました、ではこれで・・・」そう言うとヒデさんはうちの顔を見て「帰ろう」って言った、
お兄ちゃんはうちを見る事無く黙ったままでうちに見向きもしない・・・、

もうお兄ちゃんにうちの存在は無いって言われているようで、苦しくて、遣り切れない想いがこみ上げてきて、うちはその場から動けなかった、
涙が零れて、うちは自分が、また泣いてるんだって気づいた、そしたら・・、

「お兄ちゃん?今まで育ててくれてありがとう、今まであたしの為に苦労をかけて本当にごめんなさい・・・、
嫌われてるの分かっててもあたしにとってお兄ちゃん達は他にはいないから、でも妹でもなかったあたしにお兄ちゃんって呼ばせてくれてありがとう~?
さようならお兄ちゃん?・・・」

うちはもうお兄ちゃんの顔を見る事が出来なくなって、振り向けないまま家を出た、
今まで記憶の中にあったお兄ちゃんへの想いはうちの中で紙きれのように剥がれ落ちて、うちは涙を拭うことを忘れた・・。

28章 ~時の記憶~


時を経ても届かないうちの想いは・・・、
追いかけても追いかけても届かないお兄ちゃんの手を、いつかきっとうちの手を握り締めてくれると信じてた、ずっと・・・、
向けてほしかったお兄ちゃんの優しく微笑んだ笑顔・・・、微笑んでほしくて甘えることもうちは止めてた・・、

でももう優しく微笑んでくれることは、もう叶わない、分かってたことなのに、寂しいよ、辛いよ、悲しいよ・・・、
血の繋がりがこんなにも人の心まで隔ててしまうなんてうちは知らなかった

お兄ちゃんの家を出てからの帰りの道をうちは涙も拭えないまま歩いた、お兄ちゃんの言葉に応えが見えた訳じゃない、
うちの心が晴れた訳じゃないのに、もうこれ以上聞くだけの勇気がうちには持てなかっただけ、
ただうちは何処かで諦めてしまってただけなのかもしれない・・。

気がつくと隣でヒデさんがうちの手を握ってた、
「亜紀ちゃんこれで好かったのかな~俺は亜紀ちゃんの気持ちに言葉が見つからないんだ、たださ~、俺が亜紀ちゃんを
苦しませてるのかもしれないって思えてきて、だから、ごめんな?・・」って言った、

「そんなことない、ヒデさんが居てくれたからお兄ちゃんと話しができたの、だからヒデさんが謝る事なんて何も無いの、ごめんね?
またヒデさんに心配させちゃったねあたしは・・、でもこれで良かったのかもしれんないよね?
あたしお兄ちゃんと逢って分かった、お兄ちゃんの中にあたしは存在していなかったんだなって・・、
あたしね~?小さい頃からこんなふうにお兄ちゃんと手を繋いで貰ったことも、お兄ちゃんがあたしに笑顔見せてくれた事も、
記憶にないの、何処かへ連れてってくれた事も無かった、おねだりしたら本気で殴られて、それが嫌で・・、でもあたしにとっては・・、
でももう割り切らなきゃいけないよね?それにあたしにはヒデさんが居てくれる、だからもう何も望まなくてもヒデさんと
居られたらそれだけでいい・・、ありがと」
って言ったら涙が止まらなくて、またうちは泣いてた・・・、

ヒデさんは、
「それは俺も同じだよ、亜紀がいてくれるだけでいい、ありがと?亜紀~?でもいつかきっとお兄さん笑って繋いでくれると思うよ?
俺はそう信じるよ!そうじゃなきゃ亜紀を育てたりしなかったさ、そう思うんだ、でも今は俺が繋いでいくよ亜紀の手・・ずっとな」
って言った
「ありがと~・・」うちもこの繋いだ手は離したくない・・・.



幾つもの季節が通り過ぎて、いつの間にかこの街にも冬の訪れに、大粒の雪が降らせて見渡す街の景色を白一色に染めた・・・、

そんな日の夕暮れ、いつもと変わらない店の切り盛りにうちは追われてた、
そんな時店の厨房に入ったらうちはこみ上げるものに絶えきれなくて「ごめんねちょっと・・・」って言って厨房を離れた、
そしたらヒデさんは「亜紀ちゃん?・・・」って驚いてたけど、いいよって言われて居間へ入った

その後うちは動けなくなってた、なぜかわからず不安で居たら、店を閉めてうちの傍に来たヒデさんはうちの顔を覗きこんで、
「亜紀~?明日病院へ行こう、な?」そう言ってうちのおでこに手を当てた。

翌日うちはヒデさんに連れられて病院へ、でもそこは・・・・、
病院を出た後、ヒデさんは、
「亜紀ちゃんやったな~?好かった、好かった、俺たちの子だよ亜紀ちゃん!ありがと・・」そう言ってヒデさんはうちを抱きしめた
「好かった」そう繰り返して・・・、
うちはヒデさんの子を身ごもったたんだって知った、でも嬉しさを実感するよりも先に、ヒデさんのはしゃいでる姿を見てたら、
嬉しさより何だか可笑しくて堪えきれず笑い出してた、
するとヒデさんは
「なんだよ~?何か可笑しいか~?俺は嬉しいから喜んでるのにさ~亜紀は嬉しくないのか~?」って言って少し拗ねてた、

「そんなことないけど、だってヒデさんのはしゃいでるの見てたら、何だか可笑しくて?」って言いながらまた思い出して噴き出してた、

うちの笑う顔みて、今まで拗ねた顔してたヒデさんが、
「亜紀の笑った顔見るの久しぶりだな?亜紀の辛さは俺も辛い、だからやっと笑顔見れて嬉しいよ、これから生まれてくる子供の為にも
俺、頑張るからさ?亜紀ちゃん乗り越えてくれ俺支えてくから、な?」

気づかなかった、知らず知らずうちは笑うこと忘れてたのかな、ヒデさんは分かっててうちのこと受け止めてくれてた・・、
「ごめんね?あたし気づかなかった、でももう大丈夫だから、心配掛けてごめんなさい・・」って言ったら、ヒデさんは、

「いや、いいんだよ亜紀の気持ち分かるから気にしなくていいよ、な?でもほんと嬉しいよ、俺たちの子だ、俺たち二人のさ?
俺たちに家族が増えるんだなって思ったら嬉しくてさ~亜紀に似て可愛いだろうな~」

なにも望んでなんていない、愛する人とこれから生まれてくる子と一緒に生きていけるのなら、時の中なにもえられるものがなくても、
うちは幸せだって思う、ヒデさんが居てくれるから・・・、だからうちは前を向いていける・・・。


店の近くまで来た時、店の前から人影が見えた、ふと見るとうちは眼を疑いたくなるような錯覚を覚えてた(お兄ちゃん・・・)、
「ヒデさん?お兄ちゃんが・・・」って言うと、ヒデさんは

「ああ~そうみたいだ、亜紀、大丈夫か?心配いらないから亜紀は店に入ってな、身体に障るからさ、な?」
でもうちは動けなかった、するとお兄ちゃんが声をかけてきた、

「カナ、今日は話しがあって来たんだ、いいかな?」って言った、するとヒデさんは「とりあえず中へ入りましょう~ね?亜紀・・・、どうぞ」
そう言って店の中へ、それから居間で腰を下ろすと、お兄ちゃんは

「今日はカナ?お前に全てを話すつもりで来たんだ、お前知りたがってただろ?もう俺も疲れたから、教えるよ、お前のお袋・・・
親父が連れてきたんだお前を抱いてな?だからお前は俺たちとは血の繋がりはない、それから親父は自分の嫁にと言いながら正式な嫁には
しなかったよ、だから、俺たちのお袋じゃないんだ、それでこのことは建には話してない事だが俺は、好きだったんだよお前のお袋、静さんの事
俺は、今思えば俺も若かったと思う、親父と静さんの間に恋慕してた、それで静さんを俺は苦しめてたんだ、だから静さんが死んだのは、
俺が殺したようなものだ、お前の義母、お母さんは、親父といい仲だったんだよ、
俺が知ってるなんて親父は知らないだろうけどな、あのお母さんは、お前が静さんの連れ子だって事知らないんだよ、
だからお前が親父の娘だと今でも思ってるよ、お前を引き取ってもいいと言ってきたのは、親父に未練があったんだって俺は理解した、
だからお前を・・・、親父は、静さんが死んでから抜け殻になってそこにあのお母さんだから逃げ出して帰らなくなったよ・・・。
俺が何でお前に今さらこんな事、話す気になったかは・・・・、それは・・・」って言って言葉を詰まらせてた、

お兄ちゃんは、ずっと苦しんできたんだって思う、だけどなぜお兄ちゃんが、今になって・・、
しばらくの沈黙の後にお兄ちゃんは、
「お前のあの言葉が、俺の中に残ったからだ、それと自分の気持ちにも気づいたからな・・、お前にありがとうって言われるとは思ってなかったよ
正直、驚いた・・、今まで妹だって思ってなかったんだよお前の事、思えなかったのかもしれないがな・・、今まで俺はお前が居るせいで静さんの
死を早めたって思ってきたんだよ、だからお前を・・・、
けどもう~俺も疲れた、だから今は、俺の正直な気持ちいいにきた・・、幸せになってくれカナ、静さんの分もな、
俺に言えるのはそれだけだ、それじゃ俺は帰るよ、突然お邪魔して申し訳なかった、失礼します」

そう言うとお兄ちゃんは立ちあがって会釈した、するとヒデさんが
「あっあの俺達に子供ができたんです、生まれたらぜひ、逢いに来てやって貰えますか?カナと待ってますから・・」

そう言うとお兄ちゃんは、
「カナの事宜しくお願いします、お幸せに、それじゃこれで・・」それだけ言って帰って行った、

お兄ちゃんが幸せになれって言ってくれた、夢じゃない、もう届く事はないって思っていたうちの想いは、少しだけ届いてくれた気がした、
孤独でしかなかったうちの時の記憶は少しだけ色をつけて、届かないと諦めていたお兄ちゃんの手を繋ぎかけているように思う、

まだ遠いのかもしれない、それでも何時の日か血の繋がりも超えて・・、うちはお兄ちゃんの手に届くと信じたい・・・。

~時の足跡~ 26章~28章

~時の足跡~ 26章~28章

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 26章 ~別れ~
  2. 27章 ~おもいで~
  3. 28章 ~時の記憶~