~時の足跡~ 21章~25章

21章 ~お母さん~


吹き抜ける風は冬の終わりが近いと教えてくれているかのように、心地いい風が優しく頬を撫でて吹き抜けた・・。

顔も知らないどんなに記憶を辿っても留めようもないお母さんの温もりは、いくら望んでも恋しくても届かない、
僅かな記憶の中にでも残っていたらって何度も思い描いてた、でもそれはただの空想にしか過ぎないって、
時が教えてくれたから何時の日か思いは諦めに変わってた・・。

ヒデさんに見送られて、サチと二人、サチの実家へ向かった、向かう先はやっぱりうちの故郷にあるってことうちは忘れてた、
店を出る前、ヒデさんに言われた言葉の意味を今、うちは里を眼の前にして気がついた・・・、

(亜紀ちゃん?大丈夫か~?俺は今の亜紀ちゃんならって思ってるけどさ、けど気は強く持ちなよ・・)ってヒデさんは言ってた、
うちは今さらのように思い出したら、胸が苦しくて足が止まってた・・、するとサチが、
「カナ?どうしたの大丈夫?カナ?大丈夫わたしが付いてるから、ね?」そう言ってうちの手を握ってくれた、
そんなサチにこれ以上心配は、かけたくなかったから、
「ありがとう、大丈夫よ!行こう~サチ?」って言うとサチは「うんわかった・・」そう言って手を握り直して二人歩き出した。

うちはサチの家を思い出してた、サチの家はうちの家からは大分離れた場所だったように思う、そう思い巡らせてる内に、
サチの家の前に辿りついた、その時サチが、
「ちょっと待ってて?お母さん居るか見てくるから!」そう言って家の中へ入ってしまった、

うちは待っている間、サチの家を眺めた(気づかなかったけどサチの家ってこんなにおっきかったんだ~ちょっとびっくり・・)
小さい頃に来た記憶は二三度だけだったように思う、でもこんなにも大きな家だったなんて今さらのように驚いてた、
そんな時サチが家から出てきて
「カナ~?お母さんも逢いたいって言ってるの、来て~?」って言われて、うちは中へ入れてもらった。

家へ上がらせて貰って居間へ通うされると、サチのお母さんが
「あら?いらっしゃいカナちゃん?元気そうで好かったわ~驚いたでしょうごめんなさいね?私が貴方に逢いに行ってしまって、
それで来てくれたのでしょ~?」そう言いながらお茶の用意に手をかけてた、

「あっはい、あの~サチから、あたしのお母さんの幼馴染だって聞きました、でもあたしはお母さんの顔も居ない訳も知らなくて、
それであの~」ってうちは言葉に詰まってしまった、すると

「そう~?寂しい思いしてきたのね~?私は、幼馴染って言えるのかしらね、貴方のお母さん静さんは身体が弱くてね?でも気丈な人だったわ、
私も結婚してからは中々逢う事もなくなってしまったのよ~、でも二年経った頃だったかしらね?突然わたしの所へ貴方を抱いて尋ねて来たのよ?
その時は私も驚いて・・、あっでもあれから、逢わないまま、彼女亡くなってしまってたの、貴方にはサチとは仲良くしてもらっていたのに、私は今まで
貴方があの家の娘だなんて想いもしなくてね~でもお兄さんが家へカナちゃんの事で尋ねて来た時、初めて知ったのよ?ほんと驚いたわ~、
それで自分の目で確かめたくなって、だからつい足が向いてしまったの、ごめんなさいね?
こんなこと今さら話す事ではないのに、どうかしてたわ、ごめんなさい・・・」そう言ってうつむいてしまった、

(うちのお母さん「静」って言うんだ、お母さんの名前なんだよね・・)って内心呟いてた、お母さんのこと知りたい、もう居ない人だとしても・・、

「そんなことないです、あたし知りたいんです、だからあの・・教えて貰えませんかお母さんの事、お兄ちゃん達は何も教えてくれなくて、
何一つあたし、すみません、聞かせて貰えないですかお願いします?」って言うと、

「そうだったの~でも知ったらカナちゃん、悲しませる事になるかもしれないそれでも・・・、」

「はい、構いません、あたし知りたいんですお願いします」って頭をさげた、すると

「そう分かったわ、でももう何年も前の事だから詳しく覚えている訳じゃないのよ?
あの頃私は彼女が結婚したとばかり思ってたわ~貴方を抱いていたから、でも彼女は思いつめたように貴方を預けたいって頼みに来たのよ?それで
訳を聞いたら貴方は自分の連れ子だからって話してくれたの、それで今の家では育てられないからって言ってね?でもその時の私には
どうしようもなくてね~?それ以来、彼女とはそれっきりになってしまったの、それからは私も心残りで・・・、
だから、気になって彼女の家の近くまで行ってみたりもしてたのよ?
それで何度か行ききしてたら彼女が貴方を抱いてあの家で暮らしているのを見かけてたのよ、だからてっきり私は彼女が落ち着いてくれたとばかり
思ってしまったの、でもそれから一年程過ぎた頃だったかしら、亡くなったって聞いて、その事を知ったのは随分後の事だから詳しくは私も・・、
貴方のお母さんの事、もっと親身になってあげてたら・・、ずっと心苦しくてね~、許してねカナちゃん・・」言って眼がしらを押さえてた、

お母さんのことなんて誰も教えてくれなくて、何時も一人だった、なぜうちにはって、それが辛くて気づいた時はもう考える事も辞めてた、
でも今、少しでもお母さんを感じられた気がした・・、
「あの~ありがとうございました、お母さんの為に苦しませて、それなのにあたしの為にまた心配して貰っててすみません、でもあたし、
おかげで少しだけお母さんの存在に触れた気がして嬉しいです、だから、あの~?自分を責めたりなんてしないでくださいね・・、
話してもらえて本当にあたし感謝してます、それからサチを友達にして貰えてあたし凄く感謝してます、あの、ありがとうございました、
あたし、上手く言えなくて、すみません」

想いを伝えたくて、でもなんて伝えていいのか分からなくて、ただ夢中で話してた、そしたら涙が溢れた、そんなうちにサチが、
「カナ?ありがと・・」そう言って涙を零した、するとサチのお母さんが、
「カナちゃん、ありがとう?そんなふうに思って貰えて嬉しいわ?ほんとありがと、カナちゃんは優しい子ね~?サチとはいつまでも仲良くしてね?
なにか困った事あったらいつでも来てちょうだい!いつでも力になるから、ね?」そう言って涙ぐんでた。

「はいありがとうございます、お邪魔しました」言ってうちは会釈して家を出た。

サチはうちの隣をうつむいたまま歩いてた、そんなサチがうちには何処か気まずくて思いきってサチの手を握った、でもサチは笑ってはくれなかった、
そんなサチに何も言葉が見つからない、うちは空を見上げて願った、このままサチの笑顔が消えてしまわないように・・・。

そしてヒデさんのいる街に辿りついた、街は夜のネオンが輝いて、そんな街を歩いて行くうちに、サチは少しだけ笑顔を見せてくれて、店に入った時、

「ヒデさんただいま~」ってうちが言うと、サチも「ただいま~」って言った、うちは驚きでサチを見るとサチは笑顔を返してくれて笑ってた・・、
ヒデさんが、厨房から、
「よう!おかえり~お腹空いてないか~?何か作るよ~?」って言ってくれたけど
うちはサチの顔を見て気持ちが通じたのか二人で頷き合ったら、同時に出た言葉が、不思議にも「手伝いま~す!」って言ってた、

どんな時でも分かりあえて、繋がっていける友達の手がうちは嬉しかった、ヒデさんは少し驚いてたけど
「お~嬉しいね~それじゃ~頼むよ?」って笑顔を見せた・・・。

その夜、客足も減って店じまいの支度を始めたらヒデさんが、
「今日はいつもよりお客さん多かったから、手伝ってくれて助かったよありがとな~!」って苦笑いしてた、
するとサチは
「多分お客さんが増えたのって私達が帰って来たからかもよ?」って言った、するとヒデさんが笑いだして

「そうかもな~それは言えるか~?」そう言いながらまた笑い出して、そしたらつられてうちも、そしてサチも笑い出してた。

うちがヒデさんに何て切り出そうか迷っていた時、サチが、
「あの~ヒデさん?話し聞いてもらえますか~?」って切り出した、するとヒデさんは
「分かった!」そう言って、椅子に腰かけるとサチに視線を向けて「お母さんには会えたのか~?」ってサチの顔を見た、
でもサチは何も答えてくれず少しの沈黙が流れてうちは、息がつまりそうで、サチに声をかけようとした時、サチは話し始めた、
サチの話しが終わるとヒデさんは、

「そっか~、多分さっちゃんのお母さん、ずうっと苦しんでたんだろうな!誰にも言えなくてさ~!でもさっちゃん?だからと言って君が
責任、感じる事ないんだよ?お母さんもそんな事望んでないと思うよ~亜紀ちゃんだってな?」そう言ってうちの顔を見た、

「サチ?あたし分かってたのサチが気にしてるって、でもね?お母さんに言った事、あたしのほんとの気持ちだから信じて?
あたしお母さんの温かさとか知らないし教えてもらってないから、だから知らない事で悩むの止めてた、でもねお母さんの存在が
本当にあったんだってサチのお母さんが教えてくれて、あたし捨てられてたわけじゃないって分かったらほんとに嬉しかったの、だからサチが、
ごめんあたし・・」
うちは言葉に詰まって話す事を止めた、その時サチがうちの顔を覗きこんで、

「ありがとねカナ?ヒデさんにも余計な心配させちゃったみたいでごめんなさい!だけどもう大丈夫だから、ほんとありがとう」
って言うとヒデさんは「そっか!それならいいんだ、好かった・・」って笑顔を見せた。

22章 ~帰郷~


春の訪れは、眠ってた草花を生きづかせて、春の香りを漂わせてた・・、歩く道の所々の片隅に風に吹かれて咲いてる草花に、
自分を重ね合わせて、何時の日かうちにも春の訪れが来てくれるようにってそっと願ってみた。

まだ誰も目覚めない朝、窓からさす朝焼けに、引き寄せられて隣で眠るサチを起こさないように、うちはそっと窓の外を眺めた。
窓から見えるあちこちに植えられた大樹は枝ばかりで寂しかったのに、いつの間にか緑の葉をつけだして色づきだしてた、
そんな街の景色に故郷のあの山の大木をうちは懐かしんだ、でもその中にお母さんの事が頭の中に入り込んできた・・・、

思い描けなかったお母さん、空白だったお母さんの存在・・、逢いたかった・・、お母さんの温もり感じたかった、でもそんな思いから気づいた、
うちがお兄ちゃん達に愛されていないと感じてたのは血の繋がっていなかったからだって・・、優しい言葉をかけてくれなかったのは、
うちが他人だからだってこと、今なら分かる・・、幾つもの想いが体中駆け巡って、息が詰まりそうになった時、うちは考える事を辞めた・・、

そんな時、ふと気づいたらサチは、何時の間にか起きてスケッチを始めてた、
「あれ?サチ何時の間に起きてたの?ええ~?何書いてるの?」って聞いたらサチは「駄目だよ~見ないで!」だって・・。
うちは仕方なく見るのを辞めた・・、

サチは朝食を終えて帰える支度を済ませると、
「ヒデさん?長居してしまってすみません、色々お世話になりました・・」って頭をさげてた、ヒデさんは
「いや~、楽しかったよ、またいつでも遊びに来なよ、いつでも歓迎だからさ?・・」って言ったらサチは
「ありがとう」って言うと、うちを見て、
「カナ、またね?何かあったらわたしにも知らせてね?いつでも飛んで来るから、ね?」そう言って笑って見せた、
「ありがと!でもあたしは大丈夫、でも何も無くても逢いに来てね?ありがとサチ?」って言うとサチは、

「うんそうだね、そうする、もう居なくなったりしないと思うし、だって~ヒデさんが付いてるもんね?あっそうだ、忘れるところだった、ヒデさん、
はいこれ!」って手渡されたのはスケッチノートから切り離した一枚の紙、見ると今朝うちには見せてくれなかった絵、そこに書かれてたのは
うちの似顔絵、ヒデさんは驚いた顔で
「へえ~上手いな~?さっちゃん絵の才能あるよ?ありがとな?さっそく部屋に飾らせて貰うよ!」って言ったらサチは、
「早く気持ちが届く事願ってますね?ヒデさん!それじゃ!」そう言って帰って行った。
サチは気づいてた、ヒデさんの想いの先を、うちは少し胸が痛くなったけどサチの気持ちは嬉しくて胸の中に留めておくことにした・・・。


それからひと月が過ぎて、
お兄ちゃんに逢いに行く決心をヒデさんに伝えたくて、でも言い出せないまま、時間ばかりが過ぎて、ため息ばかりが増えてた・・、
そんな時ヒデさんが、
「亜紀ちゃん、ちょっといいかな~?」って言われて行ってみると、ヒデさんは、

「亜紀ちゃん?一緒にお兄さんに逢いに行ってみないか?俺なりに考えてみたんだけどそうする事が亜紀ちゃんにとって一番いい気がするんだ、
今の亜紀ちゃんなら俺は大丈夫だって思えるんだけど~、どうかな?」

ヒデさんが同じ事思っていたなんて驚きだった、でも、
「あたしは、一人でお兄ちゃんに逢いに行こうって思ってたんです、行けるか分からないけど、でももうあたしの為に迷惑かけられないから・・、
その事をヒデさんに話すつもりで・・」って言ったらヒデさんは

「そっか!なら一緒に行こう、なっ亜紀ちゃん、亜紀ちゃんが行く気になってくれてたなら、俺は願っても無いことだって思う、それに俺は
迷惑だなんて思ってないって言ったろ?だからそんなふうに思わないでくれよ、頼むからさ、」

「あっごめんなさい、あたしそんなつもりじゃ~?ありがとう」

いつも隣で見守ってくれるから、いつもその優しさで包んでくれるから、うちは今が好きになれた、本当は臆病で泣き虫で、だから
ずっと逃げてた、ヒデさんに出会ってなかったら、きっと今を好きになれなかったって思う、だから、今なら言えるよ、貴方への想い、
ヒデさんが大好きだって、そう気づいたから・・、(でも今はまだ言えないかな・・・)。



それからひと月が過ぎて・・・、少し店のお客も減ってきた昼下がり、ヒデさんが、
「亜紀ちゃん?明日から店閉めるからさ、そろそろ行こうと思ってるんだ、遅くなったけど亜紀ちゃんは大丈夫かな?」って聞かれた、

「はい、あたしは大丈夫です、でもほんとにいいんですか~お店?」って言うとヒデさんは、
「それは言いっこなし!ね?亜紀ちゃんが大丈夫なら俺は言う事なしだよ・・」そう言って笑ってた。
本当は大丈夫なんて嘘、でも心配させたくないからうちは言えなかった。



そして翌日、ヒデさんと一緒に故郷の町へ帰って来た、
そしてヒデさんと向かった先は、うちが育った家、街から少し離れた場所にある、
建ててから長いっていう、もう古びた一軒家、何軒か並ぶ家に比べたらうちの家は、目立って古い家、お兄ちゃん達と三人で暮らしてた。

(何年過ぎたのかな、うちがこの家を出てから・・)思い出の一つも、楽しかった記憶はこの家に残ってない、
それでもうちは此処で暮らしていたかった、お兄ちゃんに嫌われているとわかってても、だって此処はうちの育ってきた居場所だったから・・。

ヒデさんと二人、今うちは家の前にいる、行かなきゃって思う、でも足が思うように進まなくて立ち止ってしまったらヒデさんに、
「亜紀ちゃん、行こう?俺がいるから、な?」そう言ってうちの手を握り締めてくれた。

そして玄関の前まで来た時、突然、建兄ちゃんが戸を開けて出て来た、建兄ちゃんはうちの顔を見ると、
「何しに来た?お前今まで何処行ってたんだよ~?兄さんは留守だよ、さっさと家に帰れよ!」そう言って戸を閉めそうになった時
ヒデさんは、
「あっちょっと待って貰えますか?自分は彼女と一緒になろうと思いまして突然ですけど挨拶に来ました、少し話し聞いて貰っていいですか?」
って言った。

めんどくさがりな建兄ちゃん、どんな事でも慎兄ちゃんに逆らう事はしなかった、慎兄ちゃんに比べたら、ぶっきら棒だけど、
それでも少しだけ優しさをくれたお兄ちゃん・・・。

何も言わず立ち尽くしたままのお兄ちゃん、でも少しの沈黙の後にお兄ちゃんは・・・

23章 ~時の足跡~


この街の風は、うちには何処か冷たく感じて、幾つもの時を経ても今も変わらない、
この街を吹きぬけていく風は、うちの心の中をも凍てつかせていくようで、閉じ込めてた記憶がうちの中で渦を巻いて掻き乱した・・・。

帰る事なんてもうないと心に決めていた故郷に、自分の存在の足跡が知りたくて、うちは帰って来た、
もう前を向いて歩きたいから・・・。

うちの育った家に、うちは帰ってきた、ヒデさんと二人、家の前に立った時、建兄ちゃんに逢えた、でも建兄ちゃんは・・・、
ヒデさんの言葉に少し考えてた、すると

「ああ~分かった、どうぞ?」そう言って家の中へ入れてくれて、ヒデさんと居間へ腰をおろした、
久しいこの家は、うちが居た頃からなにも変わってない、思わず見渡してしまったうちの育った家、でも今はうちの帰る居場所は
もう此処にはない、そう気づいたら、泣き出してしまいそうで思わず窓に目を逸らしてた、

少しの間、沈黙が流れて、黙ったまま坐り込んでたお兄ちゃんに、ヒデさんは、
「すみません、突然お邪魔して、あの~お兄さんから何か聞いてませんか?えっとカナさんが養女で入った家の事・・・、
カナさんは今うちで働いて貰ってますがその事で一度お兄さんが、うちへ来られたんですよ迎えに来たと言ってましたけど、
聞いてませんか?」って言った、

建兄ちゃんはなんだか驚いてた顔をして、
「兄は俺には何も、ただカナが入った家のおばさんが怒鳴り込んで来て、カナを隠してるならだしなさいとか言って大騒ぎされて、
その所為で近所に噂にされて、今うちはカナの所為で、迷惑してるんです、兄はその所為でろくに家にも帰ってこない始末なんですから」
そう言って建兄ちゃんは頭を抱え込んだ、

うちの所為でお兄ちゃんを苦しませてる、なにも言葉が見つからない、うちがあの家で耐えていれば、うちさえ我慢して居れば、
お兄ちゃん達が苦しまなくてよかった、うちさえ・・・、うちは此処へ何しに来たんだろ、って分からなくなった、
するとヒデさんは、
「そうでしたか、それは大変でしたね~、でもカナさんがあの家のご夫婦に何をされてたかそれはご存知ですか?」って聞くと

「聞いてませんよ?兄は何も話してくれないんだから、俺は見て聞いた事でしか知りません」って少しムキニなってた、
ヒデさんは
「そうですか、それじゃ~あの、カナさんの両親のことは知ってますよね?教えてもらえないですか?」って言うと
建兄ちゃんはまた驚いてた、
「知っちゃったんですか、俺達と兄弟じゃない事、いいですよ、でもカナ、お前は?・・まあ~いいさ、俺はどっちでもいいけど、
でも兄には俺が話したって言わないで下さいよ?」

そう言われてヒデさんは、頷いて見せた、うちも何も言えずに頷いた・・、するとめんどくさそうに、建兄ちゃんは、

「カナはお袋って言うか籍が入ってなかったようだから、静さんの連れ子で親父が連れて来たんだ自分の嫁さんにするとか言って、
だけど兄さんは嫌がってた、正直俺も嫌だったよ、生活も楽じゃなかったからな~、けど親父には逆らえなくて、
結局一緒に暮らし出したんだ、けど静さん、肺炎患ってさ~?亡くなったんだよ、その後、親父は半年くらいしてからかな~、静さんの遺骨持って
帰ってこなくなった、だから何処で何してるのかは知らない、けどもう此の世には居ないかもしれないけどな~、そんなんで俺と兄さんは、
食べて行くのに必死だったんだ、そんな時カナを養女に貰ったあのおばさんが何かと助けてくれてさ~、どんな知り合いなのか俺は知らないけどな、
そこまでですよ、俺の知っている事は、もういいですか~?俺もこれから用があるんで、すみませんけど!」

そう言うと建兄ちゃんは立ち上がって頭を下げたそして
「あ、あの、言いましたけど兄さんには話した事は内緒にお願いしますよ?カナも言うな?それじゃ」って奥の部屋へと入ってしまった
その後ヒデさんと、家の玄関を前に会釈をして、家を出た。

うちは何も言えなかった、お母さんのことも、お兄ちゃんがおばさんと呼んだ人、お母さんのことも
お兄ちゃん達にとってうちは厄介者でしかなかった、本当にそうだったんだって、此処にはうちの居場所はなかったこと、うちは知った、
もう分かってたはずなのに、何処かでうちはそんなこと無いって否定してたのかもしれない、でも今、思い知らされたように思う、
こんな形でしか知る事ができないなんてうちが生まれてきたのは間違いだったようにも思えた。
悲しいはずなのに、涙も出てこない、胸はこんなに苦しいのに・・・・。

そんなうちの顔を覗き込んできたヒデさんが、
「亜紀ちゃん?また山に、登りに行こっか?これからさ、な?そうしよう~!」そう言ってうちの手を握り締めて歩き出した、

ヒデさんは一度来た事のある道を辿りながら山の奥へとうちの手を握り締めながら何も言わず登りだして、大木の生い茂る場所へ
辿りついた時、ヒデさんは、

「亜紀ちゃん、登ろうか?競争だ、今度は負けないからな?さあ~行こう~な?」って言いながらヒデさんはうちの背中を押して誘ってた、
うちは頷くしかなくて、誘われるまま二人で木の頂上を目指して登りだして、息を切らしながら辿りついた、

木の上から町を眺めたら、そしたらうちは涙が溢れた、拭っても拭っても涙は溢れて止まらない、そんなうちにヒデさんは何も言わずうちを抱きよせて
涙を拭いてくれた、ヒデさんの優しさが、うちにはなによりも嬉しくてまた涙が零れてた、
その時ヒデさんは、
「亜紀ちゃん苦しいだろ~?泣いていいよ、な?」って言ってくれた、その言葉にうちはまた溢れだした涙を押さえきれなくなってヒデさんにすがって
また泣いた。

それからしばらくの間二人町の景色を眺めた、そんな時ヒデさんが、
「俺さ~今、あの店開いてるだろ~?けど、最初の頃は俺は嫌いだったんだ、小さい時からいつも一人、家に取り残されてたからな~、
その時は思ってたよ店なんか潰れたらいいってな、けど親父が死んで、それでも必死で店守ってるお袋見てたらさ~、そんなこと思えなくなってな、
それからは必死になって店、立ち上げてたよ、けどお袋が倒れて、また一人取り残されてた?正直俺一人やっていけるのかなって思ってたよ、
けどそれでもお袋の顔見るとそれも出来なくてな~、もう限界だって思ってたんだ、だからもう、正直店閉めようかなってさ・・・、
でもさ~今はやってきて良かったって思ってるんだ・・、そう思えたのって亜紀ちゃんに出会ったからなんだよ・・、
俺の支えになってくれてたのって亜紀ちゃんなんだよ?俺、本気で好きだよ亜紀ちゃんの事、だからさ~亜紀ちゃんを一人にはしない、
どんなことあってもな・・・」そう言って抱きしめた、

ヒデさんのその優しさにうちはいつも癒されてる、うちだけがひとりじゃないって教えてた、こんなうちでも好きだって言ってくれる、
その想いに応えたいって思う、でもどう応えていいのかまだ見つからなくて、言葉で言い尽くせない「ありがとう」を言ってしまったら、
うちの気持ちの半分も伝わらない気がして、こみ上げた想いを押し籠めたら、何も言えないまま、また涙が零れた。



それから山を降りてヒデさんと旅館へと戻る道の途中でうちは、お母さんを見た、迷った、逃げたいのにそれをしたらいけない気がした、
でも足がすくんでしまいそうで、ヒデさんの腕にしがみ付いて、
「ヒデさん?お母さん・・」って言いかけたらヒデさんは、
「亜紀ちゃん気にすることないよ、帰ろう~、声かけて来たら俺が話すから、大丈夫だ、な?・・」そう言って通り過ぎた、
そしたらお母さんは気づかずに通り過ぎてしまった。
「な?言ったろ?気にしなくていいんだよ、いつでも会えるからさ?今日はとりあえず休もう、な?」って言われて旅館へと戻った。

24章 ~時の終着駅~


窓から漏れた朝の陽ざしに眼が覚めて、ヒデさんを探すと窓の外を眺めてた、するとうちに気づいたヒデさんが、
「ああ~おはよう!起したかなごめんな・・・」って言われて、

「あっごめんなさい、あたし寝てしまったみたいで・・・」って言うとヒデさんは
「いいんだよ、疲れてたんだからさ、な~亜紀ちゃん?帰りたいか~?」って聞いた、急に聞かれて戸惑っているとヒデさんは、
「あ~いきなりごめん、ちょっと気になってさ・・」って言った、

今のうちにはこのまま居ても無意味な気がして「あたしは、帰りたい・・」って言ったら、
ヒデさんは、
「そっか、分かった、そうだなそれじゃ帰ろう~?な~亜紀ちゃん?」って言われて「ごめんなさい」って言ったら、ヒデさんは
「なにも謝る事ないんだよ、いいんだよ?帰ろう、な?」そう言って笑って見せた

帰りの電車の窓から、うちは遠ざかって行く故郷の街を見送りながら、眺めた・・、
通り過ぎてく街から遠くに見えた裏山に立ち並ぶ大木は、生い茂る緑の葉が色鮮やかで誇らしげに見えた、あの高見からいつも
街のすべてを見守り続けているような気がして、もしかしたらうちの過ごした時の記憶も全部呑み込んでいるのかもって思えた、

いつの日か故郷に笑って帰る日が来るのかな、でもそうなってほしいってうちは思う、
帰る家も、家族も無いって分かった今も、それでもうちが育った街だからそうなれたらって見えない道のりの先に願いを込めた・・。


店に帰り着いた時、街は小雨が降り始めてヒデさんは、空を眺めながら、
「なんだかさ~嫌な事はこの雨が流してくれたらいいなって、なんかそう思っちゃうんだけど、こんな事思うのって俺変かな~?」
って言って苦笑いしてた、
「あたしも、そうあって欲しいって思う、だから変だなんて思わない・・」って言ったらヒデさんは「そっか~」
ってそれだけ言って空見上げながら笑ってた。

そんなヒデさんが急に思いだしたように慌てだして、
「亜紀ちゃん?雨、雨だよ、参ったな~、亜紀ちゃん?急いで帰ろう~な?行こう~?」そう言ってうちの手を取ると、
早足になって歩きだしてた、今さっきまであんなに落ち着いて空見上げてたのに、そんなヒデさんの後ろ姿を追いかけながら、何だか
可笑しくて帰り道を笑いを堪えながら歩いてた、

何とか大ぶりにならない内に店の前まで辿り着いた時、ヒデさんは、
「好かった~、ひと安心だな・・」って言ってため息を漏らしてた、その一言にうちはずっと堪えてた笑いが、もう耐えきれずに笑いだした、

するとヒデさん、
「お~い、亜紀ちゃん?なに笑ってるんだ~?俺なんか可笑しなこと言ったのか~?」って聞かれて、
ヒデさんの顔を見たら、余計に可笑しくなってお腹を抱えてしまった、そんなうちにつられたのかヒデさんも笑いだしてた、でもその時・・、

二人の笑いを打ち消すかのように、空から視界を遮るまでの大粒の雨が勢いよく降り出して雨音だけが響いた・・、そんな雨音に
ヒデさんと顔を見合せたら、笑いも何処か遠退いてた、そしたらヒデさんが、
「これでほんとに洗い流せたらいいな?」そう言って空を見上げて苦笑いしてた・・。



帰ってきた日からお兄ちゃんの来てくれるのを待ち続けて、何時の間にかひと月が過ぎた・・・、
陽も沈み少し客足が減りだした夕暮に、突然サチが店に顔を見せた、
「こんにちわ~久しぶりカナ?ヒデさん?また来ちゃいました?」そう言ってサチは手を振った、

「サチいらっしゃい~今日はお休み?」って言ったらヒデさんが「お、さっちゃんいらっしゃい~」って出迎えてた、サチは、
「実を言うと此処に来たのはね~?カナにってお母さんから手紙預かって来たの、あれからお母さんカナのこと気になってたみたいで、
色々やってたみたいなの、とりあえず読んでくれる?はい手紙!」そう言って手渡された手紙、うちは言われるままに手紙を読んだ・・・、
 
 「カナさんお元気でお過ごしでしょうか、あれからお変わりありませんか、
 私もあれから色々思うところがあってサチから貴方のこと色々聞かせて貰いました、
 聞けば貴方が養女に出されたと聞きました、勝手なことだとは思ったのですが、 貴方の手助けになればと少し確かめて観ました、
それで少しわかった事がありましたので、一日も早くお知らせしたくて筆を取りました、
 貴方の義父にあたるお父様が、胸を患って入院されたと聞きます、それから貴方のお母さん静さんの眠るお墓を見つけました、
 機会があれば一度来られて見舞ってあげられたらいいかと思います、
 サチに届けてもらわなくても好かったのですが、こうした方が貴方とサチとの会うきっかけになれればと思いましたので
 サチに預けました、喜んでもらえるとなによりです、いつまでもサチのお友達でいてやってください、
 また家へも遊びにいらしてくださいね、貴方の幸せを祈っています、いつまでもお元気でお身体お大事になさってください・・。」

お父さんが入院だなんてうちには驚きだった、あのお父さんがって思うと少し信じられないに気もしてる、
ただお母さんのお墓に、気持ちが、揺れたら涙が溢れた・・、言葉にできなくて、無言のまま、サチに手渡したら、サチは、

「え~カナ、わたしが読んでもいいの?」って聞かれてうちは頷いて見せるとサチは読み始めてた。
読み終えるとサチは、
「カナ良かったじゃないの~?お母さんカナの事、気にしてるみたいだったから、そっか~そいうことだったのね~?カナ会って来たら?」
そう言ってサチは、「ヒデさん、これ?・・・」って手渡した、ヒデさんは言われるままに受け取って手紙を読んだ、そして読み終えると、

「亜紀ちゃん?お袋さんに逢いに行こうか?それに親父さんにも、な?」そう言ってヒデさんは、まだ店を閉める時間でもないのに
臨時休業の札を店の前に立てかけた、
「あの~ヒデさん?まだ閉店の時間には早いでしょ?」って言うとヒデさんは、

「いいんだよ!行くなら早い方がいい、な~?さっちゃんもそう思うだろ~?」って言った、するとサチは、
「そうね、ヒデさんのせっかくの気持ち、わたしは素直に受けたらいいと思うわよ、ね~カナ?」って言われて何も言えなくなった、
するとヒデさんは、
「ところでさっちゃん、今日はゆっくりしていけるのか~?よかったら泊まって行きなよ、な?」って言うとサチは
「え~いいんですか~?このまま帰ろうって思ってたけどお邪魔じゃないですか~?」って、からかうようにヒデさんの顔を覗き込んだ、

サチの何気ない言葉にヒデさんは、
「な何、さっちゃん、可笑しなこと聞かないでくれよな~?遠慮なく泊まってくれていいんだからな?せっかく来てくれたんだからさ~な?
そうしなよ・・」
そう言いながらもヒデさんは照れくさそうに頭を搔いて苦笑いしてた。
そんなヒデさんの言葉にサチはにこにこしながら「ありがと、ヒデさん?それじゃお言葉に甘えてお邪魔させて貰いますね?」
っていいながら、何処か笑顔になってるサチに、ヒデさんは、困った顔しながらも頷いて見せてた。

そんなふたりに押し切られたうちは、明日行く事に決った・・。


そして翌朝、サチはうちの顔を覗きこんで
「カナ、お母さんと一杯話ししてきてね?また来る、それじゃ」そう言って帰っていった、

うちにはできなかったことだって思う・・、お母さんの存在を知っただけだったのに形になる事なんて思ってもいなかった・・、
それだけにサチのお母さんからの手紙は、うちには奇跡のようにも思えた(ありがとう、本当にありがとう・・)
うちは心に何度も呟いて今の幸せ噛みしめた。

サチを見送ってからうちはヒデさんと故郷の街へ帰りついて、それから書いてあった地図を頼りにお母さんのお墓の場所を探して歩いた、
そしてやっと見つけて辿り着いたのは、街から遠く離れた所に建つ古いお寺・・・、お母さんのお墓を探して数少ない墓石が並ぶ中に
やっと見つけたお母さんのお墓・・、小さく建てられてた墓石は、何処か寂しくて誰も来てくれた様子も無くて枯れ葉にうもれてた・・、

お母さんは、ずうっと一人、此処でさみしい思いしていたように思う・・・、
荒れたままになってたお母さんのお墓の前でうちは、「おかあさん・・・」って言葉にしたら涙が溢れた・・、
そしたら言葉にできなくなった・・、顔も名前も知らず・・・、お母さんが居た事の存在さえ、うちは知ることもなくて育って来た・・、
諦めてたお母さんへの思いが、今叶って巡り逢えた・・、(お母さん、ただいま!)って言ったら、また涙が零れて、

ヒデさんはそんなうちの肩を抱きしめて、うちの横に坐りお墓の周りに散った枯れ葉を掃いながら持ってきた花を差して手を合わせた・・、
うちは墓石に水をかけて手を合わせた・・、
(お母さん?カナです・・、貴方の娘のカナです、寂しい思いしてたでしょう、ごめんなさい遅くなって、でももう一人ぼっちじゃないよ、
いつでも会いに来るから、ね、お母さん?逢えて好かった・・)涙が溢れた、そんなうちの肩をヒデさんはそっと抱きしめてくれた。

ヒデさんは何も言わなかった、でもうちにはそれがヒデさんの優しさだってこと知ってる・・、だからこうしてお母さんに逢えたって事も・・。


それから二人、お寺を出て、その足でお父さんが入院してる病院へ向かった、
病院に近ずくにつれて胸が苦しくなるのを感じてた、でもヒデさんには気づかれたくなくて重くなってく足で必死に歩いた・・、
その時ヒデさんが
「亜紀ちゃん、心配ないよ?大丈夫だからな?」そう言って手を握り締めてくれた、
そんなヒデさんの手は温かくてうちは少しだけ勇気を貰ったような気がして、(うちにはヒデさんが居てくれる)そう自分に言い聞かせた。

25章 ~告白~


春の日差しは温かくてうちの気持ちまで穏やかにしてくれた・・・、
通る道のあちこちに、所せましと生えた草木の葉は、春の香りを漂わせて心地よい風が吹いた。

ヒデさんに勇気づけられながら辿り着いたお父さんが入院している病院・・、お父さんの病室は、三階の個室だった、
うちは震える手を必死に抑えながらも、病室を前にしたら動けずに立ち止ってしまってた、するとヒデさんが
「大丈夫だ・・」ってうちの手を握ってくれて、うちは思いきって扉を叩いた、

すると病室の奥から声が聞こえてきて、うちは扉を開けて中へと入った、そして病室の奥へ行って見るとお父さんは、片方の腕に点滴を
うたれて、横になってた身体を起こした、するとお父さんが
「だれ?」そう言って、うちを見ると、戸惑いを隠せないのかお父さんは、
「お、お前、ど何処に行ってたんだ!まったく~、もういい帰って来んでもいい・・・」そう言うとまた横になってしまった、
その時、うちはお父さんに今まで抱いてた怖さを忘れた・・、

うちが知ってるお父さんは、此処には居なかった、何処か不安げで寂しげなお父さん、そんなお父さんを見ていたら、不安だったうちを
何処かへ追いやって今まで抱いてきた怖さから解放してくれたように思えた、

「お父さん?身体の具合はどうですか?」って聞くとお父さんは、うちの顔を見て、

「お前、家に帰って来たのか~?お前にだけには言っとくが、わたしはもう長くはもたんよ、だが母さんには言うな、母さんはわたしが
死ぬことを望んでるからな、お前の兄さんとは何か知らんがこそこそ逢ってるようだし、お前は知ってたのか?」って聞かれて、

うちは驚きのあまりに言葉が出なくて首を横に振って見せた、するとお父さんは、
「そうか、まあいい、所でその人は誰だい?」そう聞かれて、言いだそうとしてらヒデさんが、

「あの言い遅れました、初めまして自分はカナさんとお付き合いさせて貰ってますヒデといいますが、カナさんと結婚することになったので
お父さんにご報告兼ねて・・・」って言い出した、するとお父さんは驚いた顔して、

「何、カナと結婚?そうか、まあ好きにするといいさ、わたしはもうこんなだからな・・」そう言ってそっぽを向いてしまった・・
するとまた思い出したかのようにうちの顔を見て
「お前の籍はまだうちの籍には入ってはおらんよ、だからお前の好きにしたらいい、見舞いありがと~もういいから、帰りなさい・・」
そう言ってまたそっぽ向いて横になってしまった。

うちは何て言葉をかけていいかわからず、ただ思うままを口にした、
「お父さん、ありがとう~、また来ます、身体大事にしてくださいね?それじゃ~帰ります」って言ってうちはそのまま病室を出た、
自分の言った言葉に、自分で驚いてた、でもお父さんが初めてうちに(見舞いありがと・・)って言ったありがとうってその言葉で
それだけで、うちは嬉しかった・・。

その帰り道を歩き出したら、ヒデさんが、
「亜紀ちゃん、来て好かったな~?俺、少し嘘、言っちゃったけどさ~、でも俺の本心だから、そうしたいって思ってたことだから、嘘じゃないよ?
だからさ?」
そう言うと突然うちの前に立ってうちの顔を見るなり「亜紀ちゃん!好きだよ?俺と結婚しょう?」って言った・・、

うちは返事に困って言い出せずに居るとヒデさんは苦笑いしながら、
「ごめん、困らせようだな?つい亜紀ちゃんの気持ち聞きたくなっただけだ、悪い!こんな時に俺、どうかしてるな~ごめんな?気にしなくていいよ?
悪かったな?・・」そう言うと前に向き直って歩きだした、苦しかった何も言えずに居る自分が・・・

「ヒデさん?あたしも好きですヒデさんのこと、本気で好きだから・・・」
言ってしまったら、うちは顔を上げられなかった、悲しくも無いのに涙が後から後から零れてもう止められなくなってた
(どうして涙が出るの・・・)でもうちはまだ素直にヒデさんの胸に飛び込めなかった、今はまだ・・・・。
するとヒデさんは、
「亜紀ちゃん・・・」そう言って抱きつくと「ありがと・・・」って言って微笑んでた、
でも何か気まずくて返す言葉がなかった、それから帰り道をうちはヒデさんの後ろを歩いてた、するとヒデさんは

「亜紀ちゃん?亜紀ちゃんの気持ち聞けて俺、嬉しいよありがとな?けど今は俺の胸に閉まっとくな?今はまださ、無理に聞いちゃって悪かったな、
さあ~帰ろうか我が家へさ・・」って言ってまた歩き出した、

何となくヒデさんはうちの好きな気持ちを無理してるって取ったように思えた、ちょっと寂しい気はしたけどでもうちの気持に嘘はない、だから
今はそれもいいのかもしれないって思う・・。

店に帰り着くと、街の明かりも数少なくなって空の星だけが輝いてた、暗闇でも明るく照らしてくれる星が綺麗でつい見惚れてたら、
ヒデさんは、うちの背中から抱きついて来て、
「亜紀ちゃんは俺が幸せにするよ、お母さんの分までな?星綺麗だな、亜紀ちゃんもさ?さて家に入ろうか?何時までもここに居ると
風邪ひちゃうからな・・」

その夜うちはすぐには寝つけなくて、窓から見える星空見てたら、お父さんのことを思い出した
ずっと逢うのが怖くて、ずっとお父さんから逃げてきた、でも変わってしまったように思う、はじめてお父さんにありがとって言われて・・・、
はっきり言われなかったけど、でもヒデさんとのこと許してくれてた、時が変えてくれたのかもしれない、でももしかしたら病気の所為で
気が弱くなってたのかもしれない、でも今は、素直に嬉しいって思える・・、
ただお兄ちゃんのことはうちには解らない事ばかりで頭から離れない(今どうしているのかな~)逢いたいな、お兄ちゃんに・・・。


それから半年が過ぎて、いつしかうちは、気になってたはずのお兄ちゃんの事、忘れてた。
そんな時ヒデさんに、
「そう言えば、もうあれから半年も経つけどお兄さん来ないよな~?亜紀ちゃん、気になってるんじゃないのか~?」って言われて、
少し驚いたけど、
「あたしも来てくれると思ってたんだけど、でもよく分からない、あたしの知らない事、多すぎて、気にしてないとは言わないけど、
でも今はそれでもいいのかなって思ってるの、あたしね~自信はないけど少しずつでも受け入れなきゃいけないなってそう思えるようになったの、
ほんと自信は無いけどね?でもね?今のあたしは一人じゃないって気づいたの、でもそう思えるのって、ヒデさんのお陰よね?ヒデさんが居てくれた
からだよね、きっとあたし独りじゃ逃げるだけだったなって、だからあたし、ヒデさんには凄く感謝してるの、ありがとうヒデさん?
ずっと一緒に、あっ何言ってるのあたし、あ~、あの、ごめんなさい・・」
つい言ってしまった事にうちは顔があげられなくなった、するとヒデさんはうちの前に来ると椅子に腰かけて・・、

「何だよ?謝ること無いよ、亜紀ちゃんの支えになれたなら俺は嬉しいさ、ありがとな?だから俺も、亜紀ちゃんの気持ち、もう仕舞ったままにしない、
いいよな?亜紀ちゃん好きだよ、だから俺は亜紀ちゃんの傍にいたい、俺の傍にずっといてほしい、亜紀ちゃん愛してる・・結婚しよう?・・」

少し驚きもしたけど、でももう想いを素直に伝えたい、もう自分の気持ちに、応え見つけたから・・、ヒデさんが大好きだから、
だからこれからもずっと一緒にいたいから「はい・・」って言った、そしたらヒデさん「ありがと~」っておでこにキスして抱きしめた・・。



あたしの居場所、やっと辿りついたあたしの終着駅に・・。

~時の足跡~ 21章~25章

~時の足跡~ 21章~25章

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-05-02

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 21章 ~お母さん~
  2. 22章 ~帰郷~
  3. 23章 ~時の足跡~
  4. 24章 ~時の終着駅~
  5. 25章 ~告白~