電光掲示板
誰も見ちゃいない
街一番のビルには電光掲示板があって、それには日々のニュースや天気が流れている。この下はよく待ち合わせ場所に使われていた。
「じゃあ、電光掲示板の下で」といえば、この辺のやつは大体ここだと分かる。
「あ、どうも。待ちました?」
赤いマフラーに茶色のコートと白いサーキュラーを履いた子が、僕に声をかけてきた。黒いニーソックルの絶妙なラインに、思わず目を背けてしまった。
「人違いです」
そう言うと、慌てた様子で頭を下げて女の子は走って行った。こういうことも多々ある。
「今の子誰?」
後ろから鋭い声がした。振り向くと案の定、恵が立っていた。
「待ち合わせの人を間違った子だよ。別に怪しい子じゃない」
そう言ったところでやっと彼女の顔が緩くなった。
「そっか。まぁ、光のことだから、そんなことはないだろなとは思ったけどさ」
「そもそも待ち合わせしといて、他の女の子も呼ぶか?そんなわけないだろ?」
「ははっ。確かに」全身黒で身を包んだ恵が長いブロンドヘアーを揺らしながら笑った。
「じゃ、行きますか」
片方の手袋をお互いに外して手を繋いだ。手袋に暖められていた手は一瞬だけ冬の温度を感じたが、恵の手がそれを忘れさせた。
今日も電光掲示板は街を映す。
人の世を飄々と垂れ流す。
電光掲示板
普段から小説を書いているアプリの、「戯詩」という項目からです。