余韻
瞳を閉じて、心をからに、ただ、窓むこうに鳴る、ぜんまい式自動機器、
営みを含めたすべての交流に耳を傾ける。
瞑想という内なる海に神秘の潮の鳴りが響き、神は万物のスタートの合図。
最初の一巻きは行われ
一斉にすべては動き始める。独りでに歩み続けるあの愛ある玩具、
彼には人も動物も命も、己の人生もすべてがそのように感じれるのだった。
寒波の到来するこの寒空の下、彼は彼の憂鬱の家屋の床に座すなり
瞑想し、五感を研ぎ澄ませる。時は宵を過ぎた頃、次第、次第に時計はめまぐるしくも
逆巻くも進むも戯れに遊び始め定まりを持たなくなったゆく・・・
空調の流れる激しい轟音や、自動車の走り去る音、車輪と車道の嘲笑音は響き、童たちの囀り
風の鳴る音、犬の遠吠え、どこかの家屋で子を叱責する母、泣き叫ぶ童、
換気扇の回転論、運命論、あらゆる音の集合体、ぜんまい式自動器具は
愛ある絵空事のように、夢のように頭上を流れ去り、
すべての営みが、純水へと一滴の淡い水彩絵具を垂らしたかのよう
色は清さにむつみあう、それが彼には一つの聖歌となって聴こえてくる
数多の音は調和した一つのうねり(皆は私、私は皆、私の心は共通したすべて)
彼はどんな芸術作品よりもそれを美しく感じ、この途方もない歌を太古の知識を内含したその命を彼は拙い右の手で不器用に掬いあげようとした
その度に彼は行為に失敗を感じる。
それは程遠く、感ずるところの方角よりずっとずっと遠くに着陸するのだった
描こうにも描けぬ絶望感、終始、それは彼を苛ませ、
頼りないその背にのしかかる
ただ、今もなお、蝶の羽が彼の頬を掠めるようにその余韻は彼の肌に残ってはいる。
余韻