世界が滅亡する日
胡散臭い予言者の声は公共の電波を通り、TVのスピーカーから私の耳に入る。
「今日の昼、世界は滅亡するでしょう」
今は午前11時なので少なくとも6時間以内には世界が滅亡することになるが。予言ブームはノストラダムスを頂点に年々勢いは衰えていき最近では「またか」という意見がほとんどで、もはや恒例行事と化しつつある。私はそんな雑音を消し、仕事へ向かう。車を運転していると突然携帯電話が鳴り出した。ちらと覗いてみると珍しく父からの電話であった。何か大事な用に違いないと車を脇に止め、通話ボタンを押すと今まで聞いたことのない震えて弱々しい父の声が聞こえてきた。この時点で何か最悪の事態が起きたことに嫌でも気づかされる。こういう場合あらかじめ最悪の事態を想像しておけばその後、事実を聞かされた時、多少負担が軽くなることはこれまでの人生で実証済みだ。父の会社が倒産したか? あるいは祖父母のどちらかが死んだのか?父は震えながらもどこか力強い声で言った。「母さんが死んだ」予想外だ。つい昨日まであんなに元気だったではないか。その後父は明日葬式をやるという旨だけを伝え電話を切った。私はそのことを会社に伝えてから車を実家へ向かわせた。時計は午後1時を指している。私は車を運転しながら考えた。もし母が死ぬその瞬間に隕石が降って世界が滅亡したとしても母にとっては何も変わらないのではないだろうか、人が死ぬとき、その人にとっての世界は滅び、人が地に生を受けた時、世界もまた誕生する、そう考えるとあの予言者の言っていたこともあながち間違いではないかもしれない、もっと言えばノストラダムスの予言も当たっていたと言えよう。大きなブレーキ音に私はハッとして前を見るが、気づいた時にはもう遅かった。目の前に突然現れたトラックに日は遮られ車内が薄暗くなる。轟音と衝撃とともに世界は滅亡した。
世界が滅亡する日