第15話 協力者 雅尾さくらこ


数日たったある土曜日。
隆乃介と希美子は、マンションの駐車場にいた。

「車で行くんですか?」
「うん、さくらこの家はここから若干遠いからね。」


さ、さくらこぉ?
なんで呼び捨てなの?
隆乃介さんは誰でも下の名前で呼ぶのかしら…。


ちょっと嫉妬する希美子。
でも目的はどうあれ、二人きりで出かける、初めてのドライブだ。
そんなちっぽけな嫉妬心より、嬉しい気持ちのほうが勝ってしまっていた。


雅尾さくらこ。
隆乃介の大学時代の友人であり、今回の夢でのリンクの件、ペンダントの謎を解明するための協力者だ。
隆乃介の話によれば大変ルーズな性格でスイッチが入らない限り、全く動かない「ダメ女」とのことで…。


正直、希美子には隆乃介との関係性が「友人」止まりなのかが気になってしょうがないが、その思いは一生懸命とどめていた。


希美子と隆乃介が住んでるのは神奈川県。
雅尾さくらこが住んでいるのは東京の一等地である。

確かに距離があるため、隆乃介が車を出すことになったのだ。



車で移動すること1時間、ようやくさくらこの家に到着した。


戸惑いすらなく、ずんずん家の門をくぐり呼び鈴を鳴らす隆乃介。


ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。


「りゅ、隆乃介さん……そんなに鳴らさなくても……。」
「さくらこは三回くらい鳴らさないと出てこないんだ。大学時代からそうだったし…というか、一回や二回じゃ気付かないから…。」


どんだけルーズ…と希美子は思ってしまった…よほどの、いわゆるガリ勉タイプの人が出てくるのかと思った。



「はぃはぃはーい。おぉ、隆乃介ー、おっひさー。」


左手を挙げて隆乃介にあいさつする、さくらこが登場した。
ロングヘアにパーマをかけ、メイクもばっちりないわゆる「インテリ美人」と言われる印象に、希美子は驚いた。


いけない、すごい失礼なこと考えてた…固定観念っていけないわ…。


希美子は一人、反省する。


「あなたが希美子ちゃんね。初めましてー雅尾さくらこでっす。よろすくー。」
「あ、は、初めまして…私は…」
「あいさつは後で。とにかく上がって上がってー。」

かなり強引で軽い…この人が本当に大学を首席で卒業したんだろうか?
と希美子は一抹の不安がよぎってしまった。


はっ、いけないいけない。そういうのがいけないんだってっ!!

希美子はまた一人反省しながら、さくらこの家へ上がらせてもらった。


さくらこの家は都内の一等地の借家。
と言いつつも貧乏臭いイメージはなく、レトロな雰囲気でおしゃれな佇まい。


「どうぞー。毒は入ってないから安心して飲んでねん。」
「お前…相変わらずだな……。」

隆乃介が呆れながら、差し出された紅茶を飲む。
希美子もそれに習って紅茶を一口。

「これ…ベルガモットですね、とってもおいしいです。」
「ハーブ詳しいの?若いのによく知ってるのねー。」
「いやぁ…そんなさくらこさんも十分若いですから…。」


なぁんて世間話に花が咲く女子二人に軽く取り残された隆乃介。

軽く咳払いをし、
「さくらこ、本題本題。希美子もっ。」
「あぁ、そうだったね、ごめんごめん。また今度この話しよう、希美子ちゃん。」
「あ、はいっ。」


隆乃介はさくらこにすべてを話した。
隆乃介と希美子の夢がリンクしていること、それが隆乃介の過去に実際あった出来事、
ペンダントの謎……そして今二人が恋仲になっていることすべてを。


「なっるほっどねー……こいつぁ難しいっ。でも恋人同士ってそれって大丈夫なの?」
さくらこの興味はそっちに行ってしまったらしい。

「ぶっちゃけ、どこまでいったのかな~?希美子ちゃん♪」

隆乃介が顔を赤らめながら大きく咳払いをすると、さくらこも我に返った。

「それも今度ゆっくり聞くとして……夢がリンクするってのは実際よくある話なんよ。
ただ同じ夢を別個で見るのは多いんだけど、リンクし合って二人して同タイミングで今現在あるかのように夢を見るというのは前例がない…」


さくらこはリビングにあるノートパソコンを使って、手慣れた手つきで解析を始めた。

「うん、前例はないね。そうするっとぉ…夢で隆乃介が希美子ちゃんに何かメッセージを残したかったんじゃないかな?」
「俺が?」
「うん、今となっては二人が両想いでくっついてるからそこは解決してると思うけど。」
「まず、隆乃介の夢は、もう一度あの女の子…希美子ちゃんに会いたいという想いが無意識に働いて、それが希美子ちゃんの夢と繋がった、と考えるのが自然でしょう。」

さくらこはさらに続けて、
「次に希美子ちゃんの場合は、本当に幼いころの思い出だから断片的にしか出てこなかったんだと思う。そうじゃなかった?」

さくらこはズバリ言い当てた。
隆乃介から過去の話を聞くまではどうして断片的にしか出てこないんだろうと、それが疑問で仕方がなかった。

「そ、その通りです……。」
「んで、その謎の…てか、形見のペンダントのことだけど…こればかりは何とも言えないから一回希美子ちゃんの部屋に隠しカメラを仕掛けるよ?いいよね?」
「え、…。」
「眠りの浅いときに取った正常な行動なのか、病的に起こってる異常行動なのか、話を聞いただけじゃわからないから。」


さくらこの話によれば、ペンダントを部屋の中に隠して無理やり夢を見させ、その行動をカメラに取るといいうものだった。

「……わかりました……ちょっとカメラってのに抵抗はありますけど、やります。」
「希美子……。」
「おしっ決まりっ!つうわけでさっそく希美子ちゃんちへレッツゴーしよっ!」


さくらこに押される形で、さくらこを伴って希美子の家へ向かうこととなった。

第15話 協力者 雅尾さくらこ

第15話 協力者 雅尾さくらこ

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  • 青年向け
更新日
登録日
2012-05-01

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