メビウスの輪

秋桜空

 絵にかいたような赤い夕焼け、緑の森。山道を走る少年。その瞳には感情が見えない。走ることが義務であるかと主張するように。

 一時間前。登山道を登る男子生徒と女子生徒が確認できた。楽しそうに談笑している。すると、突然ゴンと音がして二人に赤い液体が降りかかり、目の前に人が転げ落ちてきた。服がかなりこすれており、破けたところから出血していることから、高いところから落下したことが予想できた。慌ててリュックサックから携帯電話を取り出すが、案の定というか圏外である。混乱した二人に、移動するという知恵は与えられなかった。この役立たず、と怒鳴り、それを足で踏み潰した。
「誰か、誰かいませんか?」
声だけが空しく響く。

 五分前。彼らの少し前を登っていた男性が二人。
「気をつけろよ、苔が付いている所は滑りやすいからな」
「分かった」
一人が苔の生えた岩に乗り、木を掴もうとした。その時、掴むのが遅れ、足が滑り、勢いよく顔を岩にぶつけた。そのままずるずると滑り落ち、体が完全に離れたとき、谷底への落下が始まった。誰にも止められない。

 三分前。自由研究のため山に来た小学生。小分けにされた水槽には、様々な種類の苔が入っていた。とれた場所で苔の違いを調べるようだ。しかし、彼は何かに転び、中身を全て岩の上にぶちまけてしまった。試料は取り直すしかない。しばらくすると叫び声が聞こえた。岩のところに戻ってくると、何やら大騒ぎになっている。気が付くと、水槽を投げ捨て、走り出していた。

 一分前。さらに上を登っていた登山者。この人は、知らぬうちに小石を蹴っていた。その石は崖を落ち、数段下で止まった。すぐ後に、その石に転んで小学生が岩に苔をぶちまけるなど、その人が知るはずもない。

メビウスの輪

メビウスの輪

【初出:コンクール落選】 毒にも薬にもならぬ作品です。血が苦手な方は注意したほうがいいかもしれません。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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