相合い傘

 放課後になった。教科書とノートをそれなりに鞄に詰めそれなりに机に残し、沙代は教室を出る。階段の前まで歩くと、一人の女生徒が階下に流れていく生徒たちの中を掻き分けるようにして沙代の前にやってきた。
「帰る?」
「ん」
 沙代は頷いた。二人で階段を下りて靴を履き替える。
 さて、どうしたものか。沙代は心の中で呟いた。
「雨だね」
「んー」
 昼休みの終わる頃から振り出した雨は、最初に比べて少し勢いを増したように見える。帰るまでには止んでもらいたかったものだが。
 タイミングの悪いことに、沙代は今日傘を持っていなかった。先日いつも鞄に入れてある折り畳み傘を壊してしまったのだが、それを忘れて何も持たずに登校してきたからだ。
「朝実」
「なぁに?」
「傘忘れた」
「あらら」
 自分の傘を開きながら朝実は変な笑顔を作った。
「…………」
 すげえ変なデザインだ。でも二人入るぶんには十分な大きさだ。
 沙代は朝実の視線を流しながら傘を注視する。
「沙代ちゃん」
「なにさ」
 朝実は自分の傘と沙代を交互に見た。笑みを浮かべて楽しそうな仕草をする。
「なにさ」
「入る?」
「ん」
 朝実が空けたスペースに、ひょいとお邪魔する。傘からはみ出して濡れないように気をつけながら、二人は雨の中を歩く。
 隣で朝実が鼻唄を歌っている。すげえ変なメロディだ。楽しそうに鳴らす鼻唄が雨音に混じる。
 少しわかる。それなりに楽しい。
 沙代は自分の家の前に着くまで、朝実の鼻唄を黙って聞いていた。
「また明日ね。一緒に傘買いに行こうね」
「ん。朝実も新しいの買いなよ、それ変だから」
「えー、変じゃないよ」
「あとさっきの鼻唄も変だった」
「変じゃないよー」
 そうしてから二人はまたね、と手を振った。沙代は家に入ると階段を上り、自室に入って雨水がついた窓から外を覗いた。変な傘と見知った背中は家の前の道の少し向こうにいる。
 背中が振り返った。多分、沙代の方を見てるのだろう。試しに手を振ってみると、振り返してくれているのが見えた。嬉しくなって口元が綻んだ。

相合い傘

相合い傘

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-26

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