ふたりの絆(31)

幕引き

アカリとのことを、由加里に相談したヒカル。

「少し離れてみたらどうかな。」

由加里のアドバイスであった。

ヒカルは自分なりに考えていた。

自分も我侭な性格であることは自覚しているつもりだ。

アカリもどちらかというと、身勝手なほうである。

身勝手というより、今だに空気が読めないのである。

そんなアカリから見れば、ヒカルは都合のいい人でしかないのだろう。

それは今後も変わることはないだろう。

ヒカルはアカリに電話をした。

付き合ってちょうど1年に差し掛かるところだった。

「もしもしアカリ、元気かな。」

「うん、元気だよ。」

相変わらずの声であった。

「今どこに住んでるの?」

間違いなければ、大阪のはずだ。

ヒカルはあえて聞いてみた。

「大阪にいるよ。」

「許婚の人の家かい?」

アカリは一瞬、間をおいた。

「一緒に暮らしているよ。」

実はヒカルは、この許婚という男の人と会っていた。

男同士の約束で、他言はしないことにしてあった。

アカリの返答からすると、その人は男の約束を守ってくれたようだ。

男の人には悪いとは思うヒカルだが、アカリとは何でも隠さず話してきた仲だ。

「もうその人とは寝たのか?」

こんなことを聞く男は最低だと、若い女性なら怒るだろう。

「うん、経験したよ。」

アカリはこんな女性なのだ。

同じ屋根の下に同居するのだから、当たり前といえばそうなのだ。

どちらが悪い訳でもない。ただ、それでも何かを失くしてしまった感じがした。

ヒカルは、決めていた想いをアカリに話した。

「このままずるずる会うと、いつかアカリに手を出してしまう。」

その気持ちを怖いと伝えた。

「アカリが誰のものになろうとも、ずっと好きな気持ちは変わらないから。」

アカリは黙って聞いていた。

(アカリのおかげで知ったこと。アカリのおかげで本が書けたこと。)

アカリには、怒るよりも感謝することのほうが多いヒカルだった。

「ごめんなさい。そして、ありがとうヒカル。」

アカリは涙声で話した。

「永遠の別れじゃないから、縁があれば必ず会えるから。」

笑いながら話すヒカル。

その目にはにじむものがあったのだ。

「天国のホタルも言ってるよ。2人とも頭を冷やしなさいって。」

ヒカルは最後まで、アカリをたてたのだ。

「それじゃあ、これで・・・・・・。」

静かに携帯の電源を切った。

ヒカルとアカリの淡い恋は、一端幕を引いた。

                                            →「後悔」をお楽しみに。  1/26更新

                                            ホタル:まさかの展開になってしまいましたね・・・。
                                                アカリとヒカルの仲はこれからいったい
                                                どうなってしまうのか。
                                    -31-

ふたりの絆(31)

ふたりの絆(31)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-26

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND