GEARS第二話
基本的に人間が気絶、失神する時は脳が関わってくる。パンチを喰らい、頭が揺れ、脳震盪をおこす。首の血管が圧迫され、脳に酸素が行き渡らなくなり、酸素不足で脳が機能を止める。
何か精神的なショックを受けてそのまま失神。などなど。
今、俺が受けている拷問は恐らく世界で一番丁寧だ。丁寧な拷問ほど地獄なものは無い。ここ4、5日の間、俺が気を失ったことはない。何度殴られても脳は揺れない。何度首を絞められても必ずギリ手前で止められる。精神的なショック…に関しては俺の心の問題だが。
この拷問の監督をしているのはあのメガネ美人巨乳の本条ちゃんだ。俺を蹴り一発で的確に失神させるほどなのでタダ者ではないと思っていたが、度を超えている。多分精神的にこいつはおかしい。俺を痛めつけている間”笑わなかったことがない”のだ。完全にキチ… おっと、ご主人のお帰りだ。
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やたら重いドアを開けると”彼”が座っている。両手足は椅子に固定されていて、せっかくの白くて綺麗な部屋を汚い体液で汚す ただの害虫。
私としてはさっさと始末したいところだが、仕方ない。近藤がそれを許さない。「引き出せるだけの情報を引き出せ!」とのこと。ムカつく。じゃあこの”綺麗で汚い部屋”にきて自分でやりやがれっての。いちいち命令口調なのが腹が立つ。まあ、いい。まあいい。
他にもこれより最悪なクソみたいな命令はあった。今回は楽な方だ。区内での仕事だし、合法的に人を痛めつけられる。良い点があるだけまだマシだ。
さて、今日はどうしてくれようか…と色々器具を選んでいると彼が口を開く。
「こんにちは、本条さん。」
今日はまだ、機嫌が良いのでそれに応える。
「こんにちは、名無しさん。ご機嫌いかがです?」
「久しぶりにまともな会話ができたと思ったら失礼ですね。僕の名前を忘れましたか?僕は桜井ですよ。桜井誠。」
私は少しイラついたので彼に顔を近づけて、迫力を出しながら言う。
「そーいう態度が取れるということは貴方、かなり余裕なんですね。どうします?レベル上げます?」
話しているとついテンションが上がってしまいつい彼の髪をつかんで叫ぶ。
「私はまだお前の本当の名前さえ知らないんだ!くそ!そんな減らず口を叩けるなら名前ぐらい言いうのは簡単だろうが!この西の蛆虫が!」
少し間をおいて、息を整えたあとに髪を掴まれたままの彼の間抜けな顔に気がついて手を離す。
「前から思ってたけどお前精神的にヤバイだろ。一回医者行っとけよ。」
「黙れ!もういい今からお前を殺す。近藤の言うことなんか知らない!もう決めた!今日殺す!」
ホルスターから拳銃を抜こうとしたが何もなかった。車に置いてきていた,
「くそ!」
私は椅子に崩れ落ちた。
「まあ、落ち着けよ。今完全に立場逆転してるからな。お前拷問官だろ? 平静さが大事だよ。」
「うるさい。」
今日はとびきりキツくしてやると思ってペンチに手をかけたとき部屋の外で
叫び声がした。
自称桜井と共にドアを見つめる。
しばらくお互いに硬直したあと自称桜井が口を開いた。
「なんかあったか…?」
「…ちょっと見てくるからそこで待ってなさい。すぐに昨日の続きを味あわせてやる。」
「動けねぇんだけど。」
無視をして、回れ右して私はドアノブに手をかけた。
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部屋に入ってきたご主人は挨拶にキレてなんだかわめいている。後でいい精神科を勧めてやろう。
しかしー
俺も流石に体力的に限界だ。ケツも痛い。
『中止だ。』
頭の中であのセリフが蘇る。
『本作戦は中止だ、それと君に退局命令がでている。』
くそ、ついでみたいに言いやがって。
いったいどういう事なのか、何度考えてもわけがわからない。なぜ俺が退局させられなきゃならない。俺は学園を愛してた。あの学園のためだと思ってきたから今まで人を殺したり、騙したり、建物を吹っ飛ばしたりしてきても平気だったのに。しかしまあ、俺が退局なのは事実なんだろう。その証拠に通信途絶から3日も立っているのに助けどころか向こうからの連絡も来ない。没収されたプリペイド携帯はあれ以来着信していないそうだ。
「まあ、落ち着けよ。今完全に立場逆転してるからな。お前拷問官だろ? 平静さが大事だよ。」
あまりに暴走気味な本条を落ち着ける。その時、本条の後ろ、ドアの後ろの方から叫び声が聞こえた。俺と本条は二人ともそのまま固まり、少ししてから本条が様子を見に部屋を出た。
その直後、ドアの向こうからの二発の銃声が聞こえた。
GEARS第二話