11代目市川海老蔵襲名披露公演

2004/7/12 『11代目市川海老蔵襲名披露公演』 大阪松竹座

昼の部

☆『松廼羽衣(まつのはごろも)』

天女=中村時蔵

漁師伯竜=河原崎権十郎

「天の羽衣」の伝説で有名なお話、舞台上手の松が描かれた背景に茶色の羽衣が掛かっているのが見えている。

天女の時蔵さんがとても綺麗!漁師から返してもらった羽衣を手に一旦引っ込み、出てきた時は髪をバラリと下げ茶色の羽衣を纏って天へ上っていくが

背景が雲に変り段々に上に上がって昇天していく様が 「なるほど歌舞伎だなぁ?!」と納得させる。

☆『平家女護島 俊寛』

俊寛僧都=片岡仁左衛門

丹波少将成経=片岡秀太郎

平判官康頼=中村翫雀

海女千鳥=中村時蔵

瀬尾太郎兼康=市川段四朗

丹左衛門尉基康=片岡我當

平家一門の全盛期、後白河院と俊寛は平家打倒の密議を重ねていたが密告により清盛に知れ後白河院は黒戸御所に、俊寛・成経・康頼ら3名は鬼界ヶ島へ流罪と成る。

3年の月日が流れていたが成経には島の海女で千鳥という恋人が出来、俊寛に引き合わせようとやってくる。喜んだ俊寛は夫婦の杯事を行おうとしていた折しも赦免の使者が乗った舟が現れる。

だが使者の瀬尾が読み上げた名前の中に俊寛の名前は無かった。清盛の怒りは大きく俊寛は島へ残すよう命じていたが、もう一人の使者丹左衛門尉が清盛の長男・重盛の計らいで俊寛も備前の国まで戻れる事を告げる。だが千鳥は船に乗せられないと瀬尾は拒み、おまけに俊寛の妻も清盛の命により殺された事を明かす。千鳥は鬼界ヶ島に鬼は居らず鬼は都に住んでいると嘆きながら死のうとするがそこへ俊寛が船から下りてきて妻を殺され都へ帰る希望を失った自分が島へ残るといい、瀬尾に替わりに千鳥を船に乗せて欲しいと頼むが瀬尾は聞き入れない。
業を煮やした俊寛は瀬尾を切り殺し千鳥を舟へ乗せ、やがて遠くへ去っていく舟を崖の上の上って手を振り何時までも見送る。

俊寛を演じる仁左衛門さんは流人という事もあって衣装は継ぎ接ぎの襤褸衣装、髪は後ろに束ね杖を頼りにヨロヨロと歩く。しかし慈悲に溢れた俊寛と怒り悲しむ俊寛、どちらも説得力があり、きりっとした顔立ち、体格も良いし気品もあり仁左様と呼ばれる人気はなるほどなぁ、と納得した。

船を見送る崖の上に植えてある松は本物でよろけた俊寛がすがるとボキッと音がしてホントに折れたよ。だが・・・話の中に出てくる「清盛」という言葉に敏感に反応し心が騒ぐ(笑) 「野望」の後遺症かな?イヤホンガイドによると歌舞伎の約束事、敵役は「赤っ面」とよばれる赤っぽいメーキャップをするのだそうだ。ここでは憎まれ役の瀬尾がしているが如何にも憎らしげに見える。

☆『市川海老蔵襲名披露口上』

女形姿の雀右衛門さんを中央に向かって左に新海老蔵さん、右に仁左衛門さん、そして両端に鴈治郎さん・菊五郎さんが控えその他時蔵さん・我當さんらお歴々がずらっと顔を揃え次々に最近の話題も盛り込みながらお祝いの言葉が述べられ、最後に新海老蔵さんが襲名の挨拶の後「吉例に習いひとつ睨んでご覧にいれまする」と見事な睨みをご披露、目鼻立ちがはっきりした顔だから「睨み」も映える。まだまだ若さが覗くけど頑張って欲しい。さぞかし団十郎さんもこの場に居て我が子を見守りたかっただろうに・・・。

☆『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』

与三郎=市川海老蔵

お富=尾上菊之助

蝙蝠安=片岡市蔵

黒塀に見越しの松が有る家はお妾さんが住む家と決まっているのだそうだ(笑)有名な歌にもあるお富・与三郎と源氏店(げんやだな)の場面も出てくるお話。

与三郎は江戸の大店・伊豆屋の若旦那だが養子である。だが与五郎という実子が出来た為彼に店を相続させようと考えて放蕩息子を演じている。そんな時赤間減左衛門の妾であるお富と出会い
互いに一目ぼれ。2人は深い中になるがその事を左衛門に知られ与三郎は体中を斬られて海へ投げ込まれ、それを聞いたお富も身投げするが和泉屋の大番頭多左衛門に助けられ囲われる事になるが2人の関係は清いままだった。そんな折蝙蝠安というならず者が傷だらけの男を伴って小遣いをせびりにやってきた。お金を貰った安は帰ろうとするが今度は傷だらけの男が上がりこみ

「この家の物は全て俺のものだ」と啖呵を切って頬かむりを取ると与三郎だった。そこへ多左衛門が帰ってきて与三郎に小判を渡しこの金で堅気になって改めてお富を迎えに来るようにと諭す。

2人が帰った後店から迎えのものが来て出て行く時に多左衛門は後で見るようにとお守りを渡すがそれはお富の「臍の緒」が入っていて多左衛門がお富の実の兄であった事がわかる。

お富さんを演じる菊之助さんがとっても綺麗!! 歌舞伎の女形はもしかしたら本物の女性より女らしくて美しいのかもしれない、と思った。玉三郎さんも綺麗だもんね(笑)
海老蔵さんは若々しい与三郎だった。

続いて夜の部の観劇・・・、此処からは友人と一緒。

夜の部

☆『沓手鳥孤城落月(ほととぎすこじょうのらくげつ)』

淀の方=中村鴈次郎

秀頼=中村時蔵

氏家内膳=我當

大住与左衛門=友右衛門

これは大阪城が落城する時の淀殿と秀頼のお話。大阪城は落城寸前の折徳川方の回し者として大阪城へ入り込んでいた大住与左衛門は千姫を城外へ逃す。徳川方の兵士と果敢に戦った裸武者も壮絶な戦死を遂げる。だがこの武者さん階段を転げ落ちて死ぬのだが激しい殺陣の後遺症で息が荒いのが収まらない。 死人になっても何時までも大きな息をしていた(笑) この前観た柳瀬ジーザスが息をしていなかったのを、つい思い出してしまった(^^ゞ

千姫が城外へ逃げた事を知った淀君は怒りの余り千姫の打掛を刀で刺そうとしている。鉄砲が打ち込まれ糒倉に避難している淀殿は少々気が変になっていて、あられもない事を喋り始めあろう事か氏家に色目を使う始末。そんな母の姿をこれ以上晒すに忍びないと秀頼は淀殿を殺そうとするが氏家に止められる。共に死ぬか徳川に降伏するかで迷う秀頼。

鴈次郎さんの気が狂った淀君は鬼気迫るものが有ったが、顔はぽっちゃり二重顎・・・(@_@;)  鴈次郎さん、もう少し痩せようよ?!(笑) 体の管理も修行の内だと思うしましてや人間国宝となられたのだから見た目でもその名に恥じない芸を見せてほしい。

☆『勧進帳』

義経=中村鴈次郎

弁慶=市川海老蔵

富樫=片岡仁左衛門

兄頼朝に追われた義経は山伏の姿に身を変えた5人衆を従え平泉へ逃れる途中の安宅関で関守の富樫の詮議を受ける。

弁慶は東大寺再興の為の勧進の旅だと申し開きをするが、それなら勧進帳を見せろと富樫に言われ咄嗟に巻物を取り出し勧進の趣旨を朗々と読み上げる。それでも富樫は納得せず何故佛徒の身で兜巾(ときん)を着けているかと聞きただすと、弁慶は山伏の兜巾や篠懸(すずかけ)は武士の甲冑と同じものであり手に持つ杖は釈迦の金剛杖であるとすらすらと答える。

九字の真言について問われると本当なら語る事の出来ない内容だが疑いを晴らす為なら仕方がないと、その奥義を説明するとようやく富樫も疑いを解き関所の通過を認める。ところが門兵の中の一人が強力の姿をしているものは義経に違いないと進言したので詮議すると富樫がいう。弁慶は義経を金剛杖で打ち据えて罵るが富樫は尚も疑いを解かない。5人衆はもうこれまでと刀に手を掛けるが弁慶は押し留め強力を預けるから気の住むまで詮議をするか自分の手で打ち殺そうかと詰め寄ると富樫は強力は義経に違いないと察したが主君を思う弁慶の必死の姿に打たれ通過を認める。

この演目が今日の目玉だな! 新海老蔵さん、大変な熱演!それに富樫の仁左衛門さんが朗々とした声で素晴らしい!義経鴈次郎さんはやはりもう少し細くないと哀れが感じられない。

☆弁天娘女男白波(べんてんむすめめおのしらなみ)』

お浪・弁天小僧=尾上菊五郎

四十八・南郷力丸=市川段四郎

玉島逸当・日本駄右衛門=片岡仁左衛門

忠信利平=海老蔵

赤星十三郎=尾上菊之助

浜松屋幸兵衛=尾上松助

第一場

四十八を伴った武家娘のお浪が呉服屋浜松屋で品物を選んでいたが懐に鹿の子の半襟を入れる。そこを見咎めた店のもが倅の宗之助が止めるのも聞かず2人に乱暴をするが娘の懐から出てきた半襟は他所の店の符牒が付いていた。しかもお浪は額に傷を負っていた。四十八は娘は二階堂信濃守の家臣・早瀬主水の娘だと言い万引きの汚名を着せられては屋敷へ帰るわけには行かないと言う。浜松屋の主人・幸兵衛は詫びの印に10両の金を包んで渡そうとするが四十八は100両の金を要求する。仕方なく幸兵衛は100両の金を差し出し、受け取った2人が帰ろうとしたとき玉島逸当が現れて自分も二階堂に仕える者だが家臣に早瀬主水という人物はいないし、娘の二の腕に刺青があるのを見つけて男であることを見破る。そこで娘は片肌脱いで刺青をみせ弁天小僧菊之助だと啖呵を斬る。

幸兵衛は両者を斬ると言う逸当を宥め20両の金を渡して2人を帰す。

第二場

実は玉島逸当も幸兵衛を安心させた上で盗みに入る計画をしていた盗人の親分で日本駄右衛門と名乗る。舞台は桜が満開の土手に一人ずつ名乗りを上げながら白波五人男の勢揃い、華やかな舞台の幕が降りた。

歌舞伎観劇はこれが2度目、歌舞伎に関してはまだまだ素人だけど、普段良く観るお芝居のリアルさとは程遠く、歌舞伎とはまさに様式美、何より形が大事!と認識した。朝11時から夜9時前まで・・・、ぶっ続けに観た割には不思議に疲れを感じなかった。芝居は殆どが有名な物語ばかりだし、台詞も一言一言わかり易くはっきりとしているし、なによりお囃子の三味線と鼓の音が心に沁みて癒される感じがした。演目ごとに20分から30分の休憩がありその休憩時間に売店でお弁当を買って座席で食べる。歌舞伎公演らしい華やかなお弁当が何種類も揃えて有って選ぶのも楽しい!

客席も舞台が始まってもホンノ少し明かりが落ちるだけで真っ暗にはならない。襲名披露公演だけあって御茶屋の女将さんらしき人達の晴れ着姿があちこちに見え一層華やかな感じがした。

歌舞伎は肝心な所で役者さんの見得と型がきっちり決まるとスコンと心に何かが落ち、見得が決まった瞬間に間髪を要れず掛け声が飛ぶと心がわぁーっと沸き立つ、不思議な感覚を味わった(笑)

長時間の観劇だったけど何故かゆったりとした時間が流れていて癒しの空間でも有ったようだ。今回はイヤホンガイドを借りたがこれが大正解だった。場面にあわせ専門用語の解説やその時の演技者の気持ちなど、台詞に被らないよう気配りのされた説明は素人の私にとってはとても嬉しいアドバイザーだった。

11代目市川海老蔵襲名披露公演

11代目市川海老蔵襲名披露公演

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-16

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