ボーイフレンド(仮)版権小説「鷺坂くんは今日だけ寝てくれない」
●ボーイフレンド(仮):Amebaで現在運営されている無料のソーシャルゲーム。イベント等でカードを集めると甘いイベントシナリオを楽しむことができる。
●鷺坂柊(さぎさかしゅう):主人公と同級生だが違うクラス。モデルの仕事をしているが、モデルには興味がない。星を見るのが何よりも好きで、昼間でも屋上のベンチに寝転がり、昼には見えない星を想像したりしているちょっと不思議な美青年。時々、主人公と一緒にテントで星を見たりしている。星を見るのとモデルの仕事で、昼間は大抵眠そうにしている。
●草間咲(そうまさき):ボーイフレンド(仮)の主人公(女の子)。ふとしたことから鷺坂と仲良くなる。今は鷺坂と恋人関係。
足元が少しもぞもぞする。草間咲(そうまさき)の部屋で、少ししびれかけた咲の膝を枕代わりにしていた鷺坂柊(さぎさかしゅう)が、ようやく起き出したようだ。まだ寝ぼけているのか、愛情表現なのか、顔を腹に摺り寄せられる。
「……咲?」
「目が覚めたかな?」
それだけ言って、咲はスマートフォンに向き直る。最近はまっている「ボーイフレンド(仮)」イベントで、ナンパ神出現タイム残り2分。貯めたナンパ神はまだ3人。2分でなんとか5人ナンパ神貯めたい。咲はひたすら右手の親指で進みつつ、左の人差し指でバトルを飛ばす作業を繰り返していた。
鷺坂は、そんな咲をぼやっと眺めつつ、ゆっくりと目をこする。
「……咲、必死。どうした?」
「あ、鷺坂くん、ちょっと待ってて。もう少し寝てていいからあと2分、いえ、1分……、あ、また太郎……」
「太郎……?」
鷺坂はのっそりと身を起こして咲にぴたっとくっついて座り直し、咲の肩越しにぐぐっと顔を近づけた。
「ちょっと待って、いまいいところだから……」
「縄……?」
「あ、きた、ナンパ神」
画面が赤く光り、綱引きの綱のような太い縄を体に巻き付けるように持った赤髪の男が画面に表示される。咲はすぐにボタンを押す。
「無視して進む……いいの?」
「ここは無視の一手」
覗き込んでくる鷺坂をかわしつつ、咲の手元にようやくナンパ神が5人貯まった。あとは二時間以内に5人撃退しなければ。一息ついてスマートフォンを置いた咲の肩に、鷺坂が顔を摺り寄せてくる。ふわっとした細い髪の毛が頬に触れてくすぐったい。
休日だから、と咲の部屋で二人でゆっくり過ごす予定が、座った瞬間と言っても良いほど早く、鷺坂は寝てしまい、今まで起きてこなかった。どうやら昨日もモデルの仕事で遅かったらしい。少し休んで星を見に行こうとか言っていたが大丈夫だろうか、と咲は少し心配にもなるが、この寝ぼけ顔なら結構疲れは取れたのではないか。最近、鷺坂の寝ぼけ顔の区別がつくようになってきたかも、と咲は思う。
半分寝ている感じなのに体を摺り寄せてくる鷺坂を見ていると、毛並みの良い猫を相手にしているように思えてしまうことがある。
「もうしばらくは放っておいて大丈夫だから。もう少し寝ていてもいいよ?」
「もう十分寝た。あとは咲に抱きついていたい」
鷺坂はゆっくりと腕を伸ばして、咲の首にすがりつくように座りなおした。どう見てもまだ眠そうだ。しかも結構重い。細身に見える彼だが、こうして見ると細部が自分の体とは随分と違う。
「でも、後で起こしてあげるから。ほら、布団もあるし。私ももう少しゲームの続きをしたいし」
「ゲーム……?」
「うん。ボーイフレンドかっこ仮って、今はまってるやつ」
先は十数人の男子学生が並んだゲームのトップページを見せる。鷺坂と付き合いだしてから、こうしていつの間にか咲を枕に寝てしまう鷺坂をぼけっと待っていたり、彼のモデル撮影が終わるのを待っていたり、と何かと手持ち無沙汰な時間が増え、気が付けば空き時間に気軽にできるスマートフォンのゲームにすっかりはまっていた。
「ん……この白い人、生徒会長とちょっと似てる」
「え、似てるかなぁ?」
「咲……生徒会長とも遊びたい……?」
「いやいや、会長と遊ぶのはちょっと危なさそうな」
「危ないのかな……?」
「うん、危ない危ない」
何が危ないのか分からないが、西園寺生徒会長を思い出すと、ついそんな形容詞が出てきてしまった。悪い人ではないと思うけれど、女子の間でエロスエロスと言われているのを聞くとね、と咲は少し心の中で謝る。
そうしているうちに数分経った。ナンパ神、処理しておかないと二時間過ぎそうだ、と咲は時計をちらっと見る。前回のイベントも、こうして鷺坂を待っていた時間に貯めておいたナンパ神を逃してしまい、連勝ストップさせてしまったのだ。今度こそ。
「咲……? 忙しい……?」
時計とスマートフォンに気を取られていたことを敏感に察知したのか、鷺坂がさらに身を摺り寄せてくる。意外と甘えん坊な彼の目の前で、スマートフォンを触るわけにもいかない。
「ちょっと忙しいかな。ちょっとだけ待ってくれない? 寝てていいから」
「もう俺眠くない」
「うそうそ、絶対眠いでしょ」
顔が眠いと言っているのに。
「眠くない。俺、もう咲を一人にさせない。寝るなら咲に抱きついて寝る」
「ちょっと、鷺坂くん、このまま倒れこまないで、それは重いって」
「大丈夫。俺重くない」
「わかったから、一緒に寝よ、その前に、少しだけゲームの続きさせて。5分でいいから」
「急ぐ?」
「急ぐ話ではないけど……」
「じゃぁ、咲からキスしてくれたらおとなしく待つ」
「え?」
半ば先を押し倒していた鷺坂はすっと体勢を戻し、カーペットの上にちょこんと正座する。普段はあまり見ない姿勢だ。なんか妙な感じになってきた、と思いつつも、咲もつい向き合って座りなおしてしまう。
なんとなく沈黙が流れる。
「……まだ? 俺、わくわくしている」
「心の準備が!」
キスってどうやってしていただろうか。咲は向き合ったままいろいろ思い出そうとするが、されたことはあっても自分からしたことはないと思う。鷺坂が再び、まだ、というように首を横に傾げる。
「俺、無茶なこと言ってる? 俺は咲にキスされたいだけ。咲は俺と……したくない?」
「そんなことないよ……でも……」
……この天然王子が。
咲は恐る恐る膝で鷺坂のほうににじり寄った。すぐにお互いの膝がくっついてそれ以上進めなくなる。
「今日は俺、我慢する。待ってる」
咲は観念して正座のままでゆっくりと腰を上げ、両手をそっと鷺坂の肩にかけた。咲が見下ろす格好になり、顔を上げた鷺坂の期待を込めた瞳に見つめられると、心臓がばくばくいい始めたのが分かる。手には薄いシャツ越しに鷺坂のわずかな筋肉の動きと少しの熱が伝わって来る。
おとなしく座ったままの鷺坂の顔に思い切って近づき、髪の上から額に唇を触れさせてみた。
「これで……いい?」
「咲はこれでいい? 俺が咲のおでこにしかキスしなくても?」
「えぇと……」
まだ鷺坂の肩にかけたままだった咲の左手首をすっととり、鷺坂は咲の手の甲にすっと唇をつける。
「ここがいい、俺」
「やっぱり、唇?」
「ん、唇」
額だけでも精一杯だったのに。もう少しだけ顔を近づけようとしたが、高さが難しい。普段どうやってキスされていたのだろう。いつも気が付けば軽くキスされていた気がするが、実は鷺坂もキスの前にはこうしてかなり気を使っていたのだろうか。
間近で、期待を込めて見つめられていると、動くものも動けない。何か言いたげに動く薄桃色の唇は、触れると柔らかく、気持ちよく、熱いことを知ってしまった今でも、自分から触れてほしいと言われると、酷く遠く思えてしまう。
「俺の顔、そんなに見つめられると穴が開く」
「え、そんな」
思わず引いた腰をぐっと掴まれる。不安定な膝立ちのままの姿勢は思わず倒れこみそうになるが、意外と強い腕と胸板で支えられた体は、二人の距離をゼロセンチメートルに縮めただけだった。
片手で腰を押さえられ、無防備な太ももをもう片方の手が滑る。咲が文句を言う暇も無く、下から入った手はスカートの存在を全く気にせず、すぐに咲の足の付け根までたどり着く。薄い布越しの突然の刺激に腰が落ちそうになるが、咲の体をしっかりと支えている片腕は、離れることを許さないかのようにさらに力を強めた。
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