トライアングル

──いつも無遠慮なその右手が

彼女の細い肩に触れようとして


一瞬ためらい

その後諦めたように



空を掴んだ




「ちょっと、このバングル付けてみて」

彼女の手をとり、付けてみる

「こっちは、昔買った500円のバングル。で、こっちが貰い物だけど5万円のバングル」


「えっ!やだ、返すよっ!」

彼女は慌てたようにバングルを手首から外した


「こんなに高価なもの壊しちゃったりしたらどうすんの!?」


「ね。価値のあるものって簡単には触れられないよね」


──だけど、触れてみたくて手を伸ばすんだ


けど、やっぱり

壊れるのが怖くて触れることができない



大切だから


──じゃあ、私は壊れてもいい安物?


「おい」

後ろから君は私の肩を叩く

「いい加減、それ返せ」

「はいはい、壊しちゃう前に返しますよ」

「もう一個も」


君は500円のバングルに手を伸ばす


「いいじゃん、どうせ安いんだし」

「駄目。それ、いつもつけてるやつだから。ないと落ち着かないし、俺が困る」


──そう言って


伸びてきたその右手は


やっぱり私の肩を

無遠慮に掴んだ

トライアングル

トライアングル

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-24

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