トライアングル
──いつも無遠慮なその右手が
彼女の細い肩に触れようとして
一瞬ためらい
その後諦めたように
空を掴んだ
「ちょっと、このバングル付けてみて」
彼女の手をとり、付けてみる
「こっちは、昔買った500円のバングル。で、こっちが貰い物だけど5万円のバングル」
「えっ!やだ、返すよっ!」
彼女は慌てたようにバングルを手首から外した
「こんなに高価なもの壊しちゃったりしたらどうすんの!?」
「ね。価値のあるものって簡単には触れられないよね」
──だけど、触れてみたくて手を伸ばすんだ
けど、やっぱり
壊れるのが怖くて触れることができない
大切だから
──じゃあ、私は壊れてもいい安物?
「おい」
後ろから君は私の肩を叩く
「いい加減、それ返せ」
「はいはい、壊しちゃう前に返しますよ」
「もう一個も」
君は500円のバングルに手を伸ばす
「いいじゃん、どうせ安いんだし」
「駄目。それ、いつもつけてるやつだから。ないと落ち着かないし、俺が困る」
──そう言って
伸びてきたその右手は
やっぱり私の肩を
無遠慮に掴んだ
トライアングル