ふたりの絆(30)

男同士の約束

アカリには許婚がいることを知ったヒカル。

(許婚には勝てないだろうな。自分が諦めれば済むことなんだな。)

そう思い込もうとする。

しかし、ヒカルの心は折れてはいなかった。

(この世に絶対というものは無いはずだ。アカリも必ずその男と結婚するかどうかも判らない。)

一縷の希望を持つ。

(相手の男は、どんな人なのだろう。)

ヒカルは無性に、その男に会いたくなってきた。

(余計なことはするなよ。)

誰でも思うはずだ。ヒカル自信もそれはよく判っていた。

ただ自分の気持ちが治まらない。

アカリからは、大阪の男だとは聞いている。

後は、名前と住所さえ判れば会いに行くことが出来る。

ヒカルはアカリの母親に電話を入れた。

「結婚されたらお祝いを贈りたいので、名前と住所を教えてください。」

アカリの母親は何の疑いも無く教えてくれた。この場を借りて謝罪します。

「嘘をついたこと、お詫びいたします。」

大阪の許婚の名前と住所が判った。

2月の休日、ヒカルは行動に移した。

夜中に岐阜を出て、大阪の男の家に朝早く着く予定だ。

ヒカルが男の家の近くまで来たのがAM7時ごろだった。

駐車場には、男の物と思える車が一台置いてある。

ヒカルは近くの空き地に車を止めて、徒歩で男の家に近づいた。

表札を見ると、教えてもらったとおりの『田中』と書いてある。

どうやら1人住まいのようだ。

ヒカルは一度車に戻り、男が出てくるのを待った。

AM8時、玄関から男が出てきた。

車に乗り込むとどこかに向かうようだ。

ヒカルは後を付けた。まるでTVドラマのようだった。

男は近くのカフェに入った。もちろん、ヒカルも後を追って入った。

男は、一番奥の席に着くと新聞を読み出した。

ヒカルは意を決して男に近づいた。

「すいません、田中さんですか。」

男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静になった。

「私は田中ですが、お宅は?」

「ヒカルといいます。実はアカリさんのことで。」

アカリの名前を聞いたとたん男の表情が変わった。

「君がヒカル君か。アカリのメールによく出てきた名前だから、覚えていたんだ。」

「アカリにも、いい友達がいるんだなと関心していたよ。」

これも運命のいたずらなのでしょう。

そこからの話しは、とても和やかに出来た。

ヒカルは田中さんに頭を下げた。

「アカリのこと、宜しくお願いします。」

男は笑っていた。

ヒカルはここでもう一度、頭を下げて頼んだのである。

「今日のことは、死ぬまで他言しないで貰いたい。」

果たしてアカリが、この男の人と結婚してもこの先どうなるかは誰にも予測はつかないのだ。

それでも、現時点では有力候補には違いない。

「判った、約束しよう。」

そう答えてくれたのだ。

「縁があれば、またお会いしましょう。」

そう言って別れた2人である。

ヒカルのしたことは、間違っていたのかもしれない。

それでも、胸の奥のモヤモヤが一つ消えたのは事実であった。

                                    →「幕引き」をお楽しみに。  1/23更新

                                    ホタル:ヒカルの勇気ある行動ですね。
                                        アカリの許婚に会いに行くことを決心するって
                                        とても心の中で葛藤があったと思います。

                                  -30-

ふたりの絆(30)

ふたりの絆(30)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-01-23

CC BY-NC-ND
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